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2時間目①

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コリーヌは初回の閨の授業から一週間後、丁度同じ時刻にモローニ伯爵のタウンハウスに向かうべく辻馬車に乗っていた。
今日行う授業内容を記した紙の束をもう一度見直しながらも、ついつい前回モローニ伯爵にされたキスと胸への愛撫の事を思い出してしまう。
その度にドキドキしてしまって、コリーヌは1人で悶える。
亡き夫との穏やかな愛と違って、ハーバートへの想いはきっと初恋の残りみたいなものだと思っていた。だけど、彼にキスされてからは少しおかしい。こんな風に悶々と考え込んだり思い出したりと心がザワザワと騒いでしまう。

あのキスは…

もう!きっと揶揄ったのね!
コリーヌは小さい頃にモローニ伯爵邸で彼と実の兄に落とし穴に落とされるイタズラをされた事を思い出した。
ある日のイタズラは手が込んでいて、膝まで埋まる小さな落とし穴の底には3匹のカエルが仕掛けられていた。
ゲコっと泣き声がして、冷たいヤツらのぬめった体がペタペタと脚を這い上る感触がした。
コリーヌはカエルが大嫌いだったから、本当に泣いてしまったのだ。
兄とハーヴィーは沢山笑ったけど、結局、泣いた私を慰めて真摯に謝ってくれたのはハーヴィーだった。泣いていてあんまり覚えていないけど。

昔はモローニ伯爵邸の庭で沢山遊んだ。年上の兄達と、私とハーバートの妹のクロエと共に彼らを追いかけて…
庭園の色とりどりの花と、遊戯と可愛いイタズラ、子供だった無邪気な頃の彼の美しい思い出…

「はぁ…」
彼に心を乱されている。
この1週間、何度もハーバートの事を考えたり、昔の記憶を思い出したりと、夫が亡くなってから止まっていた感情が動きっぱなしだった。
もういい大人なのに…
少女の頃、ハーバートに恋していた気持ちが鮮やかなまま戻ってきたようだった。
お互いもう違う人生を歩んでいた。
また交流を持つようになって、こんな気持ちになるなんて…
彼は伯爵で大きな商会も運営しているやり手のお金持ち。かたや私は元男爵夫人といっても、夫が亡くなって跡継ぎの子供もいないから今や平民なのよ。こんな気持ちは持たない方が良い。彼が私に向ける気持ちは『妹』とか『庇護対象』なのだろうから…

コリーヌは唇に手を当ててから、彼への気持ちを振り切るように頭を振った。


「今日の授業は性交渉の入門、自慰とオーラルセックス等についてです。」
コリーヌはモローニ伯爵家のタウンハウスの談話室にて、資料を渡しながら口を開いた。
だが、資料を渡す相手はやはり2人だった。
懸念した通り、渡す資料を余分に持って来てて良かった…
ハーバート・モローニ伯爵は今日も息子のチャールズと共に授業に参加していた。
今日も高級な重厚感のある暗灰色のスーツに、濃紺のウエストコートと濃い茶色の革靴の出立ちで、整った容姿の彼はマネキン人形の様だ。
スラリとした足を談話室のソファで組んで、資料を興味深げにパラパラと読んでいる。

正直、凄くやりにくい。
やっぱり、性教育なんてデリケートな事を子供に教えるというだけでも緊張しているのに、更に憧れていた彼が父親として、息子と一緒に授業を聞くなんて…

ため息を漏らしそうになるのを堪えて、コリーヌは言葉を続けた。
「では、性交渉の準備段階である。『自慰』から説明します。まずはこちらに目を通して下さい」
資料の一番最初には男性の性器の図をつけてある。それと、色々な図が欲しかったので、分りやすいポルノを調べたのだ。
娼館を訪れた時に、お姉様方のおすすめの本を教えて貰ったし、色々話を聞けて彼女達と楽しくお話ができた。実はコリーヌは3時間娼婦のお姉さんを買い上げるという淑女には有るまじき破天荒な事をしていた。彼女達はケーキと美味しいワインを持って行くと、性行為無しに楽しくおしゃべりするだけで良いので喜んでくれて、沢山のことを教えてくれたのだ。
それこそ顧客の変わった趣味や性行為の注意点、今男性の間で流行っている猥本等、性の事ならなんでもござれだった。

壊滅的に図解や絵を描くのが下手なコリーヌは、彼女たちに教えてもらった猥本の挿絵を切り抜いて貼り付けていた。
無表情だったハーバートはページを巡って、すぐにバン!と両手で資料を閉じてしまう。

「こ、コ、コ、コ、コリーヌ!なんて猥褻な!こんな物を誰が君に渡したんだ!」

顔を赤くして、ハーバートは声を荒げていた。
「私が自分で資料を探してきて、ここに添付しているのよ。…だって、私の絵が下手なのは貴方も良く知っているでしょう?」
「う…む」
それには異議がないのか、ハーバートは黙り込む。

…貴方と兄が散々私の描いた絵で笑っていたのを覚えているのよ…
今回はこんなハーバートの邪魔には負けないんだからっ!

少し鼻白みながらコリーヌは咳ばらいをして続ける。

「…若いうちの性欲の発散に役に立つというわけで、自慰は医者の観点からしても推奨されています。ですが、やり方によっては将来悪影響が出るのです。」
チャールズとハーバートは男性の自慰の話を興味深げに聞いている。
「とある話を聞いたのですが……娼館に訪れたお客様が、射精を遂げる事ができないという事で娼婦の方の力を求めて来たらしいのです…、でもその方は結局最後まで出来ませんでした。娼婦の方も困ってしまったようで、色々と手を尽くしてもダメだったということです」
「原因は激しい自慰行為です。自慰のやり方が強過ぎて、普通の性行為ではもう射精ができない体になってしまったらしく、女性の体では刺激が足りなくなっていたのだそうです」
チャールズは眉を寄せて、ハーバートも少し眉間に皺を寄せていた。2人の表情は流石親子なだけあってそっくりだった。

「ですから、私、自慰の仕方をお医者様に教えて貰いました」
コリーヌは鞄から張型を取り出した。

「な…!」
張型を見たハーバートが声を出した。チャールズも気まずそうに目を泳がせている。

あら、教えを請うたお医者様と同じような反応をするわね。でも…性教育ってそう言う事よね?

目の前のテーブルに少し大きめの張型を反り立つように立てて置き、そこに指で輪っかを作り手を添える。

「や!止めなさい!コリーヌ!」

また来た。
もう!邪魔しないでよ!

コリーヌは少しハーバートを睨むが、彼は顔を真っ赤にして怒った表情をしていた。
怖いわ…

「君がそんなこと!そんな事するぐらいなら、私が手本を見せる!」

「え?いいの?」
実は願ったり叶ったりだったりする。こればっかりは男性でないと力加減が分からないなと思っていたのだ。
コリーヌは期待する目をハーバートに向ける。
ハーバートは今さら嫌だとは言えなくて、ぐっと少し止まった後、張型を彼女の元から奪った。
それを手に取ると、ハーバートは余計に眉を顰める。
「ちょっと…これは大きくないか?コリーヌ?」
「見えやすいように一番大きい奴を買ってきたの。大丈夫、新品の未使用品よ」
コリーヌだって大人のお店で初めて手に取ったが、たぶんこんなに大きい人はいないと思う。サイズはXXLマグナムというものを購入したのだ。太い女性の腕位の太さがある。

「…」
ハーバートは少し躊躇するとソファに座っていた自分の股の間にそれを入れ、太ももで挟むように固定した。

「…!」
そこまでしなくていいのだけれど…
それでは、本当にハーバートの物が立ち上がっているように見えてしまうわ…
今度はコリーヌが少し焦った。
熱くなりそうな頬を押さえてから咳払いして、ハーバートにお願いした。
「で…では、いつもしているようにして貰えますか…?」
「いつもはしていないっ、たまに昂りを抑えたい時にしかしないぞ!」
間髪入れずにハーバートは焦って恥ずかしい答えを返してきた。

木でできているそれは塗装されているのか少し光っている。
そこにハーバートの男性らしい角ばった手が添えられて、そろりそろりと手を上下し始めた。

「娼婦の方から話を聞きましたが、亀頭のくびれたところや、裏の部分にとても敏感な部分があるのです。筋の張っている…このあたりですかね。ここを中心に擦るように優しく…ですが、人によって気持ち良い場所は微妙に違うという事です」
解説を付けて、コリーヌはチラリとハーバートの様子を伺った。
うう…なんだかいけないものを見ている気がするわ…
コリーヌはまるでハーバートの自慰を覗いているような、いけない気分になったのだった。
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