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秘された祝詞
弐
しおりを挟むほとんどの学生が終業祭のあと直ぐに帰省するのもあって、翌日の寮内は耳鳴りがしそうなほどに静まり返っていた。
学生服だと目立つため、比較的スーツっぽく見える濃紺のスラックスとシャツの私服姿に着替え、首から木札を下げてポケットにスマホをねじ込んだ。
時計を見上げる。朝の十時を少し過ぎた頃だ。
本殿では専科生の卒業式が始まった頃だろう。本庁の職員のほとんどが出席しているので、今頃庁舎は手薄になっているはずだ。
正面玄関は常時受付係がいる。まずは裏口の職員専用出入り口を目指す。通行札は持っているから難なく入れるだろう。
ずっとこの時を待っていた。
「……ッシャ!」
両頬を勢いよく叩いた泰紀は勢いよく自室の扉を開けて飛び出す。
意気揚々と一歩目を踏み出したその時。
「よう泰紀、そんなに気合い入れてどこ行くんだ?」
「何か企んでるようだな?」
突然背後から両脇を掴まれて、耳元でそんな囁きが聞こえた。うわぁッ!?と叫ぶ寸前で口を抑えられ、自室に押し戻される。
四本の手を引き剥がした泰紀は勢いよく振り返って2人を睨んだ。
「────ッ、いきなり何すんだよ! 亀代さん、鶴吉さんッ!」
悪びれた様子もなく部屋の中に上がった二人は「汚ぇ部屋だな」と畳の上に胡座をかいた。
「ちょっ、俺これから大事な用があるから出てってくれよ!」
のんびりくつろぎ始める二人に、泰紀は慌てて詰め寄った。胡座の上に肘をおき頬杖をついた亀代が口角を上げて口を開く。
「大事な用って、専科生の卒業式の日に本庁にこっそり忍び込むことか?」
「なっ!?」
戸惑いで声を上げた泰紀に、鶴吉がニヤリと笑い続ける。
「職員を装って裏口から侵入することか?」
「な、なんで」
「お前わかりやすいんだよ。アイツらが消えた翌日から、落ち込むどころかせっせこ本庁の周辺を探ったり、こそこそ何か準備し始めたりさ」
絶対に失敗できないと思って目の前のことしか見えていなかった自分に顔を顰めた。
もしかしてこの二人以外にも自分の計画がバレているんじゃ。
「まぁ他の奴らはお前より消えたヤツらの方に注目してるから気付いてないだろうな。そこは安心しろ」
亀代の一言にホッと息を吐いた泰紀は、隠す意味もないと判断し二人の前に腰を下ろした。
「で? 何を企んでやがる」
「まぁこそこそ侵入するのは、おおかた何かを盗みたいときだろうな」
「そんでもってアイツらが消えた翌日からってことは」
「それと何か関連してんだろ」
先程まで面白がっていた双子の表情が真剣な眼差しに変わった。クラスメイトたちが消えた理由と関連していると踏んだらしい。
あまりの察しの良さに若干の居心地の悪さを感じて、首の後ろをさすった。
どこまで双子に打ち明けるべきか悩んでいるうちに、鶴吉の腕が首に回った。
「今更センパイに隠し事かァ? いいから全部吐きやがれ」
ギリギリと締めあげられ「ギブギブ!」と腕を叩く。
二人の目を見れば、己のことを心配してここまで来てくれたことがいやでも伝わってくる。でも、この二人はこの件で親友を一人失っている。これ以上二人に悲しい思いをさせるのは嫌だ。
「お前のその小さい脳ミソで考えるより、私たちを頼れ、泰紀」
「お前は優しい奴だからあれこれ考えてんだろけど、そんな気遣いはいらねぇよ」
この双子にはそこまでバレているのか。
無性に目頭が熱くなって俯くと、大きな硬い手と小さなしなやかな手が自分の頭をポンと叩いた。
「私たちは親友を奪われたんだ。黙ってるわけないだろ」
「俺たちも、お前たちと一緒に戦う」
ああ、この人達は本当に。
涙がまつ毛を越えないように必死に目を瞑って唇を噛み締めた。
クラスメイトたちについて行かなかったのは、守りたいものがあるからだと言ったけれど、本当はどこかで怯えていたからだ。
目の前で命が奪われていくのを見た。その日から、自分の大切な人たちが死ぬ夢を何度も見た。
どうしようもなく怖かった。また目の前で誰かの命が奪われるかもしれないと思うと、目を背けたかった。
でもこの人は、この人達は、それでも尚立ち上がろうとする。立ち向かおうとする。
どうして、そんなにも強く立っていられるんだろう。
「助けて、くれ」
震える声でそう伝える。頭に乗せられた手に力がこもったのがわかった。
ああ、と双子は声を揃えるとそっくりな顔で笑った。
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