言祝ぎの子 ー国立神役修詞高等学校ー

三坂しほ

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秘された祝詞

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「────こいつでラストだ!」


鶴吉がそう声をあげると共に目の前で渦巻いていた残穢が霧散した。

肩で息をしながらどてんとその場に腰を下ろすと、ボタボタと額から汗が落ちる。肺の空気を全て吐き出しせば、全身にどっしりと疲労感が乗り掛る。


「よくやった、お疲れ。泰紀お前、意外とちゃんと祝詞の勉強してるんだな」


隅で傍観していた亀代が泰紀の顔を覗き込んでニヤリと笑う。

言葉通り傍観するだけで、どれだけ助けを求めても一切手を貸してくれなかった。

なんて人だ。


「さっさと起きろ馬鹿ども。次の試練の扉が開いてる」

「ちょっとは休憩させろよ……」


鶴吉がそう文句を言いながら体を起こす。泰紀も首だけ持ち上げると、廊下の終わりに蔵にあるような重厚なつくりの扉が待ち構えていた。


「ていうかこの試練あと何個あんの……?」

「知らん。私たちはいつも二個目でリタイアしているからな」

「おいおい嘘だろ? 二人がリタイアする試練に、俺が太刀打ちできんのか?」

「さぁな。まぁ数打ちゃ当たるだろ」


行くぞ、と歩き出した亀代の背中に男子二人は深いため息を吐いた。

ギィィ、と金具が軋んで扉が開く。重い体を鼓舞して立ち上がると、先をゆく小さな背中に続いて扉をぬけた。


同じように廊下が続くのかと思っていたけれど、扉の先は道場のような広々とした空間だった。入ってすぐにテーブルがあって、墨が入った硯に筆、黒いお盆には人型に切り抜かれた暗紫の靄を纏った形代がある。

形代の真ん中には鍵のようなマークが朱色で描かれていた。


「どうする? 亀代。一斉に挑むか?」

「いや、一人ずつだ。私から行く。お前らはちょっとの間休んでろ」


双子の中だけで答えを出すと、亀代はテーブルの前まで進み筆に墨を含ませた。そのまま形代の真ん中に「飛鳥馬亀代」と名前を記した。


「何するんだ?」

「いいから見てろって」


鶴吉が泰紀の肩を引いて道場の壁まで下がらせる。

ちらりとこちらを一瞥して十分に離れたのを確認した亀代は、形代を手に持つと「フッ」と息を吹き替える。

その瞬間、手に持っていた形代こらぼわりと白煙が上がった。


「な、なんだ!?」

「二つ目の試練は"徳衡とっこうの座"だ。神職としての力量が試される」


今度は鶴吉が傍観スタイルで壁にもたれ掛かる。

白煙が次第に晴れていき、その真ん中から見慣れた姿が現れた。

白い着物に緑の袴、長い黒髪を高い位置でひとつにゆった眼鏡をかけた女性。


「えッ!? 亀代さんが二人!?」

「んな訳あるか。奥にいるのは亀代の形代だ。ここでは自分の姿の形代と戦うんだよ」


自分の姿の形代と戦う?

聞き返すよりも先に亀代の落ち着いた声が素早く祝詞を紡いだ。空気の塊のようなものが見えたかと思うと形代に向かって突進する。当たるよりも前に形代が何かを唱えた。形代を守るように卵色の結界が現れ爆発音を立てて塊を霧散させた。

爆風が流れてきて前髪が逆立つ。


「あの形代は挑戦者自身だ。力量も思考も全て挑戦者と同じ。この徳衡の座で俺たちは、自分自身に勝たなきゃいけない」


自分自身に勝つ。

鶴吉の言葉を小さく繰り返した。


「俺ら、いつもここで躓くんだよな。ちなみに挑戦者が全員負けたら資料室の管理担当に通知が行くようになってて、そこからしょっぴかれて罰則コースだから」


道場の真ん中でドゴォンと激しい爆発音と白煙を散らす亀代に、鶴吉は「今日こそ勝てよォ」と気の抜けた声援を送る。

二人がつまずく試練に自分が勝てるとは思えないんだけど。


そもそも激しすぎる戦闘に自分の番が来るまでこの道場が持つかどうかが一番不安だ。


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