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プロローグ
外は荒れ狂う嵐だった。
風が扉を叩き、稲妻が夜空を裂く。
その閃光の中、ひとりの女が子どもを抱いて邸を訪ねてきた。
リディア。
かつて太公が“唯一の愛”と誓った女。
雨に濡れたドレスは重く、桃色の髪は泥にまみれていた。
それでも、その瞳だけは、かつての恋を信じていた。
「……もう一度、あなたの傍にいたいのです」
震える声。腕の中の子がかすかに泣く。
原作では――このあと太公が彼女を抱きしめ、
“許しと再誓い”の幕が下りるはずだった。
だが、その男の瞳には、もはや情の欠片もなかった。
「……もう遅い」
雷鳴が空を割る。
その音を切り裂くように、低く冷たい声が続く。
「俺が愛しているのはセレーネだ」
リディアの表情が、凍りついた。
腕の中の子を抱きしめたまま、言葉を失う。
その背後――
光の差し込む窓辺に、静かに立つ影があった。
セレーネ。
銀の月光に包まれ、穏やかに微笑む後妻。
白いドレスの裾が風に揺れ、光の粒が舞う。
太公の視線は、ただその人だけを見ていた。
リディアの瞳から、静かに絶望が零れ落ちる。
ひとすじの涙が、冷たい石床に落ちた瞬間――
外の雷鳴が轟き、世界が軋む音が響く。
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