紅 ー紅之介と葵姫の四季の物語ー

広之新

文字の大きさ
44 / 56
第4章 冬

第3話 開けられた門

しおりを挟む
 月のない暗い夜だった。昼間の激闘から一転して辺りはしんと静まり返っていた。その暗闇の中を密かにうごめく複数の影があった。門の上には不寝番の兵がいるがその動きに全く気付いていなかった。その影の集団は2番門の近くの土塀に近づくと動きを止め、辺りをうかがった。やはりまだ砦の者には見つかっていない。その影の者たちは規律だった動きで下になる者、上になる者に分かれて高い土塀を次々に越えて行った。そして向こう側に静かに着地した。
 彼らの前に門を守る兵がいる。かがり火をごうごうと燃やして辺りを見渡して立っていた。彼らはお互いに目で合図をして静かにその兵たちに忍び寄っていく。

「コトン・・・」

かすかな音がした。兵の一人がそちらの方に顔を向けるとそこには黒ずくめの者が忍び寄っていた。その兵は大声を出そうとしたが、すぐにその者が駆け寄って口をふさがれ、刀で首を斬られた。

「うぐっ!」

殺された兵はわずかに声を発した。その声に他の兵も異変を感じただ、時すでに遅かった。兵たちはすべて口をふさがれ後ろから首を斬られていた。後には、

「ドサッ!」

という兵たちの倒れる音しかしなかった。これで邪魔する者はいなくなった。忍びたちは2番門のかんぬきに手をかけて門を静かに開いた。そして飛び出した忍びの一人がかがり火から松明を抜き取って大きく回した。これが合図となった。

「うおーっ!」

外で待ち構えた兵助の兵は声を上げて砦になだれ込こうとした。その声は二番門の近くで休んでいる地侍たちの耳に入った。

「敵襲だ!」

あわてて地侍たちは飛び起きて二番門に向かった。すると門は大きく開けはなたれ、今や敵がそこから侵入しようとしていた。

「いかん!門が開けられて敵がなだれ込んでいる! 押し返すぞ!」

地侍たちはすぐに敵兵に向かっていった。ここで押しとどめなければ大変なことになると・・・だが敵の数は多かった。まるで濁流の様に門からあふれ出してきた。地侍たちはその勢いに飲み込まれようとしていた。
 だがその二番門の守備隊には紅之介がいた。彼は息を止め呼吸を整えると、まるで鬼になったかのように刀を振るっていった。彼に近づく兵は次々に斬り倒されていった。



 二番門での激闘は瞬く間に砦中に伝わった。それを聞いて加勢に駆け付ける者、敵の襲来を恐れて隠れる者、浮足立って動けなく者・・・砦の中は騒然としていた。もちろん櫓にいる葵姫のもとにも、

「二番門で戦いが起こっております。死傷者がかなり出ている模様。」

と知らせが届けられた。

(二番門? そこは確か、紅之介がいるところ・・・)

葵姫は茫然とした。紅之介は無事なのかと・・・。もう砦中に二番門での戦いの激しい音が響き渡っている。傍らにいた百雲斎が尋ねた。

「どういう状況なのだ?」
「門がすでに開かれ敵がなだれ込んでおります。二番門の守備隊が押さえておりますが、敵の数が多すぎて次々に斬り倒されております。」
「いかん! 他の守備隊から兵を回す。」

急転した事態に慌てながら、百雲斎がそう言って立ち上がって行ってしまった。葵姫が櫓から外を見ると、確かに激しく人の影が動き回っていた。暗闇ではっきりわからないが、二番門にまだまだ敵の兵が殺到してきている。このままでは二番門の守備隊は全滅かも・・・悪い予感を覚えていた。

(お願いです。紅之介。どうか無事で・・・)

葵姫は祈るような気持だった。しかし彼女はその感情を押し殺して評定の場に向かった。葵姫には上に立つ者としてやらねばならなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

処理中です...