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第4章 冬
第5話 紅之介はどこに?
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二番門の辺りがようやく静かになったのは櫓からでもわかった。そこから見ると敵は後退し、門は閉じられている。戦いは終わったようだ。
(よかった・・・)
ようやく敵を追い払えたと葵姫は安堵した。だが心の奥では紅之介を心配していた。
そこに二番門に救援に行った侍大将から報告の者が来ていた。
「敵を追い払って二番門を閉じることができました。」
「それは上々。」
百雲斎をはじめその場にいる者たちは安堵して「ふうっ」と息を吐いて肩の力を抜いた。さらに報告は続いていた。
「今は救援した兵で二番門を固めております。二番門の守備隊はすべて討ち死にしましたので・・・」
それを聞いて葵姫は驚いて目を見開いた。
(えっ! では紅之介は!)
彼女は茫然として、その後の報告は全く耳に入らなかった。
(いや、紅之介が死ぬわけはない。ずっと私にそばにいると誓ったはずだ・・・)
だがそう思い込もうとしようとするほど、彼女の胸の中には悪い予感が広がっていった。心配のあまり、みるみる顔を青ざめていった。傍にいる百雲斎は、葵姫の顔色が悪くなったのを心配して声をかけた。
「いかがいたしました? 敵を押し返しましたぞ。しっかりなさいませ。」
「ああ、わかった。少し気分が悪くなった。後は任せる・・・」
葵姫は立ち上がった。もう居ても立っても居られない気持ちだった。
「では少しお休みに。」
百雲斎はそう言った。すると葵姫はふらふらと立ち上がった。だが階上の部屋に向かうのではなく、階段を下りてそのまま飛び出して行ってしまった。彼女は我知らず、紅之介を探しに行ったのだ。
百雲斎は葵姫が外に出て行くのに気が付いた。
「姫様! お待ちください。戦いは終わったばかりでまだ危のうござる。」
だが百雲斎の言葉も葵姫には届かなかった。葵姫はただ
(紅之介! 生きていてくれ!)
と祈るような気持で二番門まで走っていた。
やがて葵姫は二番門に着いた。そこは新たに二番門の警備についた兵たちが固めていた。血なまぐさいにおいが充満し、どす黒い血の色で染められていた。敵も味方も含めて多くの亡骸が転がっていた。
(紅之介はどこ?)
葵姫は亡骸の顔を一々見て回ったが、それらしい者はいなかった。葵姫は近くの兵に尋ねた。
「二番門の守備隊の者は? 紅之介、いや二神紅之介を知らぬか?」
紅之介はきっと生きている・・・葵姫はそう思い込もうとしていた。その兵は話しかけてきた相手が葵姫だとわかってあわてて跪いた。
「あっ。姫様。これは失礼しました。残念ながらすべて討ち死にしたようです。まだあちこちに亡骸が転がっておりますが、すでに片付けたものもあります。」
それを聞いて葵姫の目の前は真っ暗になった。
「姫様、どうされました?」
その兵は、茫然としている葵姫を心配して言った。
「いや、何でもない・・・」
葵姫は顔を伏せて、そのままふらふらと歩き始めた。その時、その兵は急に何かを思い出した。力なく歩く葵姫の背後から声をかけた。
「そう言えば・・・どこの者かわかりませぬが、一人だけ血の海に浮いていた者がいました。まだ息がありましたので、手当てして向こうの建物に寝かせているはずです。」
それは葵姫にはっきり聞こえた。葵姫は顔を上げた。
(紅之介に違いない!)
と急に目の前が開けた気がした。そしてすぐにその建物に小走りで向かった。
今回の砦攻めは失敗に終わった。しかも引き際を誤って多くの兵の損害を出してしまった。これ以上の不手際は許されぬし、早急に次の手を打つ必要があると兵助は考えていた。そのとき不意に人の気配を感じた。
「三郎か?」
「はっ。」
声がして三郎が姿を現した。兵助は眉をひそめて三郎を見た。
「そなたのせいで多くの兵を失った。どうしてくれよう。」
「ふふふ。我らはちゃんと門を開け申した。しくじったのは配下の兵であろう。しかもごり押しされたな。」
確かにその通りだった。兵助は痛いところを突かれて渋い顔をした。
「言い訳に来たのならもうよい。どこにでも行くがいい。」
「我らなしでこの砦をすんなり落とせますかな?」
「ではまた忍び込んで門を開けるのか? 今度は一番門か?」
「いや、その手はもう使えませぬ。敵の警戒は厳重になっておりましょう。だが門を開ける手はまだあり申す。」
三郎は意味ありげにニヤリを笑った。彼には何か妙案があるようだった。
「何か考えがあるのか?」
「もちろん。だからここに参った。」
「それは?」
兵助は身を乗り出していた。三郎はまたニヤリと笑った。
「敵の将を切り崩します。」
「ん? そのような者がいるのか? 儂が見たところ敵は一丸となっているようだが。」
「まあ、焦らずに仕掛けを御覧じろ。」
そう言ってまた三郎は姿を消した。後に残った兵助はため息をついた。
「当てにはできぬが・・・。だがこれがうまくいけば砦はもはや落ちたも同然。」
兵助は不気味に笑った。
(よかった・・・)
ようやく敵を追い払えたと葵姫は安堵した。だが心の奥では紅之介を心配していた。
そこに二番門に救援に行った侍大将から報告の者が来ていた。
「敵を追い払って二番門を閉じることができました。」
「それは上々。」
百雲斎をはじめその場にいる者たちは安堵して「ふうっ」と息を吐いて肩の力を抜いた。さらに報告は続いていた。
「今は救援した兵で二番門を固めております。二番門の守備隊はすべて討ち死にしましたので・・・」
それを聞いて葵姫は驚いて目を見開いた。
(えっ! では紅之介は!)
彼女は茫然として、その後の報告は全く耳に入らなかった。
(いや、紅之介が死ぬわけはない。ずっと私にそばにいると誓ったはずだ・・・)
だがそう思い込もうとしようとするほど、彼女の胸の中には悪い予感が広がっていった。心配のあまり、みるみる顔を青ざめていった。傍にいる百雲斎は、葵姫の顔色が悪くなったのを心配して声をかけた。
「いかがいたしました? 敵を押し返しましたぞ。しっかりなさいませ。」
「ああ、わかった。少し気分が悪くなった。後は任せる・・・」
葵姫は立ち上がった。もう居ても立っても居られない気持ちだった。
「では少しお休みに。」
百雲斎はそう言った。すると葵姫はふらふらと立ち上がった。だが階上の部屋に向かうのではなく、階段を下りてそのまま飛び出して行ってしまった。彼女は我知らず、紅之介を探しに行ったのだ。
百雲斎は葵姫が外に出て行くのに気が付いた。
「姫様! お待ちください。戦いは終わったばかりでまだ危のうござる。」
だが百雲斎の言葉も葵姫には届かなかった。葵姫はただ
(紅之介! 生きていてくれ!)
と祈るような気持で二番門まで走っていた。
やがて葵姫は二番門に着いた。そこは新たに二番門の警備についた兵たちが固めていた。血なまぐさいにおいが充満し、どす黒い血の色で染められていた。敵も味方も含めて多くの亡骸が転がっていた。
(紅之介はどこ?)
葵姫は亡骸の顔を一々見て回ったが、それらしい者はいなかった。葵姫は近くの兵に尋ねた。
「二番門の守備隊の者は? 紅之介、いや二神紅之介を知らぬか?」
紅之介はきっと生きている・・・葵姫はそう思い込もうとしていた。その兵は話しかけてきた相手が葵姫だとわかってあわてて跪いた。
「あっ。姫様。これは失礼しました。残念ながらすべて討ち死にしたようです。まだあちこちに亡骸が転がっておりますが、すでに片付けたものもあります。」
それを聞いて葵姫の目の前は真っ暗になった。
「姫様、どうされました?」
その兵は、茫然としている葵姫を心配して言った。
「いや、何でもない・・・」
葵姫は顔を伏せて、そのままふらふらと歩き始めた。その時、その兵は急に何かを思い出した。力なく歩く葵姫の背後から声をかけた。
「そう言えば・・・どこの者かわかりませぬが、一人だけ血の海に浮いていた者がいました。まだ息がありましたので、手当てして向こうの建物に寝かせているはずです。」
それは葵姫にはっきり聞こえた。葵姫は顔を上げた。
(紅之介に違いない!)
と急に目の前が開けた気がした。そしてすぐにその建物に小走りで向かった。
今回の砦攻めは失敗に終わった。しかも引き際を誤って多くの兵の損害を出してしまった。これ以上の不手際は許されぬし、早急に次の手を打つ必要があると兵助は考えていた。そのとき不意に人の気配を感じた。
「三郎か?」
「はっ。」
声がして三郎が姿を現した。兵助は眉をひそめて三郎を見た。
「そなたのせいで多くの兵を失った。どうしてくれよう。」
「ふふふ。我らはちゃんと門を開け申した。しくじったのは配下の兵であろう。しかもごり押しされたな。」
確かにその通りだった。兵助は痛いところを突かれて渋い顔をした。
「言い訳に来たのならもうよい。どこにでも行くがいい。」
「我らなしでこの砦をすんなり落とせますかな?」
「ではまた忍び込んで門を開けるのか? 今度は一番門か?」
「いや、その手はもう使えませぬ。敵の警戒は厳重になっておりましょう。だが門を開ける手はまだあり申す。」
三郎は意味ありげにニヤリを笑った。彼には何か妙案があるようだった。
「何か考えがあるのか?」
「もちろん。だからここに参った。」
「それは?」
兵助は身を乗り出していた。三郎はまたニヤリと笑った。
「敵の将を切り崩します。」
「ん? そのような者がいるのか? 儂が見たところ敵は一丸となっているようだが。」
「まあ、焦らずに仕掛けを御覧じろ。」
そう言ってまた三郎は姿を消した。後に残った兵助はため息をついた。
「当てにはできぬが・・・。だがこれがうまくいけば砦はもはや落ちたも同然。」
兵助は不気味に笑った。
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