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第三章 〜魔力覚醒 / 陰謀〜

53. 優しい瞳

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『ミイラの死体は邪神の仕業ですか?』





「───おそらく、そうだろう」


ノアの問いにクロヴィスが答えた。



皇帝は瞳を閉じ、これまでの情報を頭の中で整理する。今までは邪神は邪神教の象徴であると思っていた。

実在の神だとは誰も知らなかった。


20年前に父が制圧したはずの邪神教が徐々に力をつけ始め、最近活動が目立ち始めたこと、隣国貴族との癒着、ミイラの死体。


一連の出来事を思い返し、一つの結論に辿り着き、深くため息をついた。


そして皇帝は2人の上級精霊に答えを示す。



「父が・・・、───前皇帝が、イエヴァ王国を制圧する際に、邪神教の本殿を攻撃したのが全ての始まりですね。恐らくそこに、邪神が封印されており、何らかの原因で封印に亀裂が生じ、邪神が目覚めた」


「───そうだ。お前たちが国に攻め入らなければこんな事にはならなかった。恐らく封印場所に行ったとしても、もう奴はそこにいないだろう。かろうじてまだ封印は完全には解けていない。まだ力は削がれたままだ。しかしそれも時間の問題だろう。

奴は人の負の感情に身を寄せる。動ける身となった今、奴はきっと傀儡を見つけて力を取り戻しているのだろう。ミイラとやらの死体も、奴の養分となったわけだ」


クロヴィスは冷え切った瞳で皇帝を見下す。


「奴らが隣国との癒着があることは知っています。という事は、邪神教の奴らは隣国を巻き込んで戦争を起こし、邪神復活の糧にしようとしている。そういう事ですか?」


「そこまでは知らぬ。あとはお前たちで調べよ。我らが手を貸すのは主のみ。ただ一つ言えるのは、主の存在は時が満ちるまで邪神に気づかれてはならぬ。いずれこの世界に聖女が現れるだろう。

邪神は必ず聖女に接触する。その時が来たら、主とお前たちが邪神を討て。それ以外に人間が生き残る術はない」


「聖女とは・・・?」



「万物の力・・・全属性の魔力を宿す者」



「「「全属性!?」」」






その場にいる人間全員が驚愕する。


「精霊付きの者達が精霊の愛し子だとすれば、聖女は神の愛し子だ。神は聖女を介してこの世界で力を使う」



神の愛し子───。


そんな人間がこの世界にいるのか。それは無敵ではないか。どれほどの魔力を有するのだ。

それはその者の人間性や扱い次第で、邪神と並ぶほどの脅威なる存在になるのではないのか。


その存在を世界に知られた時、様々な国が聖女を欲しがるだろう。それはやがて争いの種になる。


それに、既にクロヴィスは言っていた。
加護を与える予定だった者の魂が邪神により穢されたと。


恐らくそれは聖女のことだろう。
穢されたとは一体どういう意味なのか。


皇帝がクロヴィスに疑問を投げかける。


「聖女は誰か知っているのですか?」


「それは制約により言えぬ。この世界のことわりは創生した神の管理の元に回っている。今はお前たちの知る時ではない。我らが今話せることは、我らが加護を与える前に既に聖女には穢れた魂が宿ってしまい、神は別の者に加護を得る魂を宿した。

それが主達だ。しかし我らはその魂の魔力を感じ取る事ができず、長年加護を与えられなかった。だが今回、我らの子供達の悲痛な声に答え、人間界に渡った時に主達を見つけた」


クロヴィスがクリスフォードの頭を撫でる。
兄に向けるその瞳は、下級精霊達に向ける瞳と同じだった。


「僕達にかけられた呪いも邪神教の奴らによるものでした。それならもう既に、邪神に僕らの存在は知られているのでは?」


「それも考えられない事もないが、可能性は低い。そもそもお前たちの体は全属性の魔力を宿せるような作りではない。その時点で聖女とは違う。それに、お前たちが呪われたのは赤子の時で神の洗礼を受ける前だ。邪神が気づいているのなら、赤子時点でその魂に干渉されているはず。しかし主達の魂はまだ綺麗なままだ。だが今後はわからない。だから時が満ちるまで目立つ魔法は使うな。我らも万能ではない。神の意向が全てわかるわけではない。人間界に干渉するにも制約があり、力を全て行使できるわけではないのだ。だから身を守る術を己で身につけてほしい」


「・・・・・・わかりました」




ここまでの話を聞き、ヴィオラは前世の記憶を思い出していた。


(もしかして・・・その聖女に宿るはずの魂がミオだった・・・?でも既に聖女の体には、邪神によって違う魂が宿ってしまっていたと───。もしかして聖女も別の世界の人間の魂が宿ったのかしら・・・?)


父エイダンに大まかな話は聞いていたが、改めてクロヴィスから聞く話は壮大過ぎてすんなり受け入れられていない。

魔法がある時点でこの世界がファンタジーの世界であるのは理解していたが、邪神や精霊という更に現実味のない存在が加わり、正直ヴィオラはついていけていなかった。


(何このRPGのゲームにありがちな設定の数々・・・。邪神て、別名魔王とか・・・?聖女に魔法、精霊──。そして私達は魔法使いで・・・・、次は勇者でも現れるとか?)


己で身を守る術とは、レベル上げをしろということなのだろうか?考えれば考えるほどヴィオラの頭は混乱を極める。


そして不意に、視線を感じた。



その方向に顔を向けると、
琥珀色の瞳と視線が合う。



「大丈夫か?顔色が悪い」

「あ・・・いえ、大丈夫です。ノア様」



自分を心配している瞳。

その瞳に、ヴィオラは笑顔で感謝の意を示す。



初対面で、何の含みもなく自分を気遣ってくれる他人はルカディオだけだと思っていたが、彼もそうなのだな。とヴィオラは思った。



それが、ヴィオラは嬉しかった。

自分は他人どころか両親にでさえ粗末にされる、虐げられる存在だと思っていただけに、彼のさりげない優しさがスッと身に染み込んだ。


レオンハルトもジルも、ヴィオラ達のステータスや精霊にしか興味がないが、基本的に自分達に親切だ。

そう、この国の人達はヴィオラ達に優しい。




ずっと狭い世界で生きてきたヴィオラの世界が、
彼らとの出会いでまた少し広がった。




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