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絶対手に入れる① side エゼルバート
しおりを挟む*母の名前変更しました
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「ダイアナ様、ブリジットが婚約破棄出来たら、俺にブリジットをちょうだい」
俺が初めてハッキリ気持ちを告げると、ブリジットと似た顔立ちの妖艶な美女は楽しそうに笑みを溢した。
王家の影の当主であり、カーライル商会長のダイアナ・カーライル。
貴婦人達の流行を作り、影としても女王の厚い信頼を得て、この国の社交界を牛耳る女傑だ。
「あの泣き虫エゼルが、男の顔になってきたわね」
「何年前の話?もういい加減忘れてよ」
クスクスと笑いながら俺の頭を撫でて子供扱いするこの人は、母の従姉妹なので昔の俺を知っている。
俺は、ドレイク公爵家の出来損ないだった。
建国時から代々続く魔術師の家系で、俺を除く家族は例に漏れず高魔力保持者。
俺だけが平凡な魔力量で生まれてきた。
そんな俺を家族は咎める事なく愛してくれたけど、周りの俺を見る目はドレイク公爵家に生まれた『異端な存在』『出来損ないの三男』という嘲る視線だった。
家庭教師には毎日優秀な2人の兄と比べられてはため息を吐かれた。俺の外見が父とそっくりでなかったら、きっと母は不貞を疑われただろう。
それくらい、2人の血を引いてるとは思えないと使用人や教師、他の貴族から親にわからないように陰口を言われた。
その事に傷つき、どんどん暗く卑屈になっていく俺を家族は心配してくれたけど、俺は反発して距離を取るようになっていった。高魔力保持者の皆に俺の気持ちなんかわかるわけがないと思ったんだ。
部屋に引き篭もり、家族に顔を見せない日々が続いたある日、俺はブリジットに部屋に突撃された。
「いつまで部屋に閉じこもってるの!アンタこのまま行けば将来ニートまっしぐらよ?それでいいの!?」
「ニート・・・?何だよそれ・・・、てゆーか勝手に入ってくるなよ!出て行け!」
「何よ反抗期?この間会った時はリジー、リジーって私の後ろついて回ってたのに」
「そんな昔の事は忘れた」
「昔って・・・つい一年くらい前の話でしょうが。8歳のお子ちゃまが何言ってんのよ。ほら、部屋から出て庭でお茶でもしましょう?王都でエゼルの好きだったクッキー買ってきたんだよ」
俺と同い年で再従兄弟のブリジット。
王都老舗のカーライル商会の跡取り娘。ブリジットは物心ついた頃から風変わりで、新商品の開発が趣味の変わった子供だった。
そして勉強熱心で成績優秀。所詮兄達側の人間なのだ。ブリジットにだって出来損ないの俺の気持ちなんて分かりっこない。
そんなやさぐれた気持ちが顔に出ていたのだろう。
突然頭に衝撃が走ってブリジットに視線を向けると、その手の構えからデコピンされたのだと気づく。
「一年引き篭もりしたんだから、もうそろそろいいでしょう?」
「何が」
「そうやって不貞腐れてても、何も変わらないのよ?生まれ持ったスペックは変えられない。変えられるのは知識と体で覚えて身につけたスキルだけ」
そう言って俺の肩を掴んで真剣な顔で俺を見た。
「エゼルは出来損ないじゃない。兄様達と同じじゃなくてもいいのよ。エゼルはエゼルの得意な事を伸ばせばいい」
「───俺に得意な事なんてない。何をやっても兄上達の足元にも及ばない」
自分で言ってて悲しくなった。
「あるよ。エゼルの得意な事」
「──────なに?」
「魔術書を読む事と、魔法陣を作れる事。普通は魔術書なんていう文字だけの分厚い専門書を読むなんて苦行でしかないのよ。勉強の為に皆イヤイヤ仕方なく読むだけ。でもエゼルは魔術書読むの大好きでしょ?」
それは、魔術の勉強をすれば魔力量が上がると思い込んでいたからだ。俺をバカにする奴らを見返す為に躍起になっていただけ。
魔術書を読んでいる時だけは、その魔法を使っている自分を想像して、空想の世界に浸れた。いつかそんな自分になるんだと夢を描いて努力していたのに、その夢を家庭教師に無残に壊された。
『生まれ持った魔力量は生涯変わらない』
頑張って魔術の勉強をしている俺に向かってそう言った。どんなに難しい魔術を学んでも、俺の魔力量じゃその魔法は一生使えないと。
つまり俺は、一生出来損ないのまま。
その事実は子供の俺を絶望させるには十分だった。
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