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王宮の地下牢
しおりを挟むイアンとの婚約破棄から2日後、私はマライア様に呼ばれて王宮に参内した。婚約破棄の報告と、ハネス伯爵夫人の処遇を聞く為だ。
彼女は地下牢に3日間入っているが、未だ罪を認めずに喚き散らしているらしい。
私は子供の頃から夫人が嫌いだ。
婚約したばかりの頃から当たりが強かった。彼女だけは婚約に反対していたのだ。
当時は何故何もしていないのに嫌われているのか不思議だったけど、真実を知った今なら理由は単純。彼女は実の息子を恋人のように扱っていたのだ。
彼女とイアンのスキンシップが多かったのも頷ける。幼い頃からそう育てられれば、その距離感が普通なのだとイアンが思っていても仕方ないだろう。
この女からすれば、私は恋人を奪う憎い恋敵───といったところだろうか。
私はローブを羽織り、フードを目深に被ってマライア様と共に地下牢に向かった。
イアンを歪ませたこの女にひと言文句を言ってやらなきゃ気が済まない。この母親失格の狂った女に───。
「やあ、ハネス伯爵夫人。ご機嫌いかがかな?」
「王太女殿下!ここから出して下さい!これは誤認逮捕ですわ!私は騎士達に冤罪をかけられたのです!」
「冤罪?」
「そうです!私は無実なんです……っ、こんな横暴が許されていいんですか!?」
「……冤罪ねぇ。つまり貴女は、私が無実の民に冤罪を着せて逮捕させるような無能だと言いたいのかな?」
「い……いえ!そういうわけではなく!こ…これは何かの間違いで……っ、そうですわ!きっと誰かの陰謀ですわ!」
王宮の地下牢に、ハネス伯爵夫人の甲高い声が響く。
この女は何を言っているの?
イアンの人生を歪ませておいて、義兄達の人生を奪っておいて、自分は保身に走ろうとしている。なんて浅ましい人間なの…っ。
「何が陰謀よ…っ、全部貴女の私利私欲で動いた結果でしょ!!!」
私の怒鳴り声に驚いて肩を揺らした後、誰の声か分かったのだろう。マライア様の後ろにいる私を憎悪の視線で睨みつけた。
「この声……ブリジットね⁉︎」
「ええ、そうですよ。お久しぶりです。ハネス伯爵夫人」
私はフードを取って顔を見せ、ニッコリと彼女に微笑みかけた。すると彼女の表情が更に歪む。
「そう…これはカーライル商会の仕業ね⁉︎私からイアンを奪おうとしただけでも気に入らなかったのに、私を陥れて夫の会社でも奪うつもりなんでしょう!金の亡者の貴方達ならそれくらいやりかねないわ!」
「カーライル侯爵家は一応ハネス伯爵家より格上ですよ。その態度は我がカーライル侯爵家への侮辱罪と受け取りますが、よろしいですか?」
「ほら!そうやって権力を使って脅しをかけてくる!王太女殿下!カーライル商会を調べて下さい!きっと今までも卑劣な手段で儲けてきたに違いないわ!」
────ああ。
清々しいほどにクズ女だわ。過去見の魔道具で本性は既に見ていたけど、実際目の当たりにすると気持ち悪いほどに性根が腐ってる。
これならイアンの時みたいに胸が痛む事もない。
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「やれやれ、往生際が悪いね。普通なら貴族が地下牢に一日放り込まれたら心が折れるはずなんだけど、流石真の悪人は肝が据わっているようだ」
「私は悪人ではありませんわ!悪いのはカーライルで──」
「黙りなさい。罪人が王太女殿下に声を荒げるなど、その場で首を撥ねられても文句は言えないのよ」
「何故私が罪人なのよ!」
「それを今からお見せしてあげるわ。自分の犯した罪を、その目に焼きつけなさい」
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