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縁談の申し込み
しおりを挟む母の執務室で私は唖然とした。
「……お母様、今なんて言いました?」
「だから、貴女に縁談の申し込みが来たのよ。ドレイク公爵家から」
「────お相手は……?」
「エゼルバートに決まってるじゃないの」
──は?
驚いて隣のエゼルを見上げると、私を見て不敵な笑みを浮かべた。気のせいかな? 瞳が獰猛に光ってる気がするんだけど。
「返事は保留にしてあるの。イアンと婚約破棄したばかりだし、貴女が落ち着いて考えられるようになったらどうするか自分で決めなさい。私達はもう政略を貴女に強いるつもりはないわ。貴女が結婚したいと思う人と結婚しなさい。エゼルにもウチの方針は話してあるから」
「よろしくな、ブリジット」
「────はい」
あまりに急展開過ぎて、私はそれしか言葉が出てこなかった。
エゼルと婚約……?
私が……?
「再従兄弟なんですけど?」
「法律上結婚しても問題ないだろ」
「ひえぇ‼︎」
いきなり背後から本人の声がして驚きで肩が跳ねる。いつのまにかエゼルがちゃっかり私の部屋に入り込んでいた。
「ちょっと!何勝手に入って来てるのよ!」
「いつものことだろ」
「いつもは親戚だから大目に見てただけよ!」
「へえ……、やっと俺を男として認識してくれた?」
「え……?」
エゼルがニッコリ笑うと戸惑う私の手を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。そして甘えるように首と肩の間に顔を埋めて擦り寄る。
「……いい匂い」
「ちょちょちょっ‼︎ ちょっと待って!なにごと⁉︎ 何この状況‼︎ くすぐったい‼︎ ていうかアンタキャラ変わり過ぎっ……あっ!ちょっと……っ、耳噛まないでよ……っ‼︎」
「ふーん、ブリジットは首と耳が弱いんだな。イイこと知った」
目の前のお色気ムンムンで微笑む男は誰よ……。
どういうことなの⁉︎
突然のキャラ変についていけないんですけど⁉︎
がっちり私の体を抱きしめて、離す気配全くなし。
「──離してもらいたいんだけど」
「うーん……もう少し堪能させて?」
「その言い方変態っぽい」
「俺はアイツらみたいなセックスは趣味じゃないけど」
「言い方‼︎」
明け透けだなオイ!
「だってせっかくブリジットが俺を男だと認識してくれたんだ。これに乗じてもっと意識してもらいたいからさ」
「今までそんな素振り全くなかったじゃない」
「だってお前はイアンと婚約してただろ。それでも諦められなくて、お前の側にいたくてカーライル商会の専属魔道具師になったんだよ。」
「え⁉︎ 確かその頃って、魔術研究施設の勧誘を断ってウチの商会に来たわよね? まさかそれが理由⁉︎」
「そうだよ」
嘘……。エゼルがウチの専属になったのって子供の頃の話よ?私とエゼルが作った照明がバカ売れした事で、母が青田買いしようとエゼルを勧誘したのだ。
「そんな前から……?」
思いのほか長い期間想われていた事を知り、頬が熱くなる。私にとってはエゼルは親戚の子で、恋愛対象ではなく、イアンと同じく姉弟や息子感覚で接していた。
意識したことなんかなかったから、突然近くなったこの距離に動揺を隠せない。
私の体を包む腕と胸板はやはり逞しくて、嫌でもエゼルを男として意識してしまう。
絶対ヒョロガリ体型だと思ってたのに、実は筋肉質とかギャップがずるいでしょ‼︎
「ヤバいな、その顔ワザとやってんの?」
「何が⁉︎」
え⁉︎ テンパって変な顔してた?慌てて顔を押さえようとすると、その手をエゼルに絡め取られる。
「真っ赤な顔して目を潤ませて……あ~ダメだ、我慢出来ない」
「は? 一体なんの話を──んんっ⁉︎」
エゼルの話の意図が全然分からず、疑問を返そうと彼の顔を見上げた途端、唇を塞がれた。
「んっ……んん~っ……‼︎」
突然の口付けに驚いてエゼルの背中をバシバシ叩くが、唇が離れるどころかますます唇を強く押しつけられ、隙間なく深く唇を合わせられた。
まるで食べられているような感覚に襲われる。
角度を変えながら私の唇に吸い付き、下唇を舐められる。
驚いて声を出せば、僅かに開いた唇の隙間を舌でこじ開けられ、口内にエゼルの舌が侵入した。
嘘でしょ……私エゼルとキスしてる……
しかも初っ端からディープ‼︎
エゼルの舌が私の舌を絡め取って吸われると、背筋にゾクゾクとした震えが走った。逃がさないとでもいうように後頭部に手を添えられ、深く私の中に入ろうとする。
体が熱くなり、息苦しくて酸欠気味になった私を見てエゼルが唇を離し、額同士を合わせた。
その隙に私は大きく息を吸う。酸素切れの頭で目の前のエゼルの顔をぼーっと眺めると、エゼルも顔が火照っているのが見えた。
「エロい顔」
「へ⁉︎」
言い返す前にまた唇を塞がれ、再び口内を蹂躙される。
「愛してるよ、ブリジット」
「~~~~っっ‼︎」
「すげえ好き。めちゃくちゃ好き」
待って、ほんとキャラ変についていけない‼︎ キスの角度を変える度に、エゼルは何度も愛の言葉を囁いた。
まるで箍が外れたかのように激しいキスと想いをぶつけてくる。
「俺が一生お前を支えるから、俺のものになれ、ブリジット」
初めて見るエゼルの切ない表情に、心臓が跳ね上がると同時に前世の痛みが蘇る。
政略の方が楽だと思った。イアンとは信頼関係を結べるパートナーになれたらいいと。でもその政略ですらうまくいかず、結局お互い傷ついた。
何で私は前世の記憶なんかあるんだろう。
そのおかげでカーライル商会が潤ったのは間違いないけど、でも辛い記憶を今世にも持ち込ませるなんて、神はどれだけ鬼畜なの?
────私を抱きしめる体温から、エゼルの本気が伝わる。けど私は、震えて言葉が出てこない。
フラッシュバックが辛い────。
それでもエゼルに言葉を返さなきゃと口を開くけど、ハクハクと開閉するだけで声が出てこなかった。
「悪い、がっつき過ぎたわ」
腕の力を緩め、エゼルが私の頭を優しく撫でる。
「今すぐ答えを出さなくていい。今は影の仕事も抱えてるしな。だから少しずつ、俺との結婚を考えてほしい。政略じゃなくて、俺がブリジットに心底惚れてるから、お前の夫になりたい。ただそれだけだ」
エゼルのストレートな想いが胸に刺さる。さっきからずっと心拍数がすごい事になっている。
今までこんなに強く、激しく求められたのは前世を入れても初めてだ。だからこそ、尚更どうしていいのかわからない。
「いくらでも待つから、ゆっくり考えて」
「──うん」
「でも……」
「……ん?……んんっ⁉︎」
エゼルが再び唇を重ね、軽いリップ音を鳴らしてすぐに離れる。そして私に熱の篭った視線を向け、
「口説くのはやめないよ」
そう言って、エゼルは妖艶に微笑んだ。
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