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自供
しおりを挟むマライア様の宣言により、臨時裁判が始まった。
誓約魔法をかける魔術師団所属の魔術師が不在のため、担当魔術師が会場に到着するまで起訴内容の確認と質疑応答を先に進めることになった。
誓約魔法が発動していないとはいえ、今この場で嘘の証言をしても魔術師が到着すればその場で嘘がバレる。
そのため、必然的に彼らは一切の嘘がつけない状況に追い込まれた。嘘をつけば待っているのは死。その現実に、全員の顔から血の気が引いている。
「ではアイレンベルク公爵子息、先程読み上げた彼女たちの罪とやらを、もう一度読み上げてください」
裁判官の威厳を纏うデンゼル公爵に名指しされたノーパン野郎――もといジョルジュ様は、震える声で先ほど私たちに突きつけた罪状を読み上げた。
さっきまで興奮で紅潮させていた顔は今や真っ白。裁判官の威厳の前では性癖も縮こまってしまうらしい。
「つまり彼女たちはバロー男爵令嬢に対して脅迫罪、器物破損、誘拐未遂、暴行未遂、そしてマクガイア公爵令嬢は姦通の罪を犯しているということでよろしいか?」
「はい、そうです」
コンラッド第一王子が私たちを睨みながら肯定する。
「その件に関しての証拠品、証人がいたらこの場で提出、証言をお願いします」
すると、先ほど声高々に私たちの罪をでっちあげていたデイジーとクラスメイト達が、貝のように口を閉じている。
「デイジー? どうした。さっきと同じようにアイツらにされたことを言えばいいんだ」
コンラッド第一王子がデイジーに証言を促す。
――ということは、本当に彼は虐めがデイジーの自作自演だと気づいていないようだ。
――――えー……、無能すぎて逆に驚く。
デイジーに溺れる前はそこまで成績悪くなかったのに、王族としての立ち回りが全くできていない。
頭の回転悪すぎるし、国政に携わる人間なら人の裏の感情や空気を読むスキルがないとダメだろう。
隣を見なさいよ。
頭の悪いデイジーでも、ここで嘘をつけば命が危ないことを理解して顔面蒼白でガタガタと震えているじゃない。デイジーの協力者であるクラスの取り巻きたちも一向に喋ろうとしない。
それがどういうことなのか、いい加減悟って欲しい。
「デイジー? こんなに震えてどうしたんだ。怖いのか? 大丈夫だ。俺がお前を守ってやるからな!」
そう言ってコンラッド第一王子はデイジーを強く抱きしめ、彼女の頭に頬をすり寄せた。
ダメだこの男!
何も悟ってない!
それどころか空気も読めてない!
休日返上させられた裁判官と議長の前でイチャつくとかどういう神経してるの!?
前を見て! デンゼル公爵とケアード公爵のこめかみに青筋立ってるのが見えないの!?
「どうしました? 先ほどのように意気揚々と証言してください」
声に威圧を乗せてデンゼル公爵が再び声をかけると、取り巻きの男たちが次々に悲鳴を上げて懺悔しはじめた。
「うあああーっ!! ずびまぜん……っ、俺たち本当は現場見てないんです! デイジーに証言してほしいって頼まれて……っ、いつもマクガイア公爵令嬢たちに虐められてるって泣いていたから、そうなんだろうと思い込んでました!」
「ずびません~! 僕も、嫌がらせされた後のデイジーしか見たことありません! 犯人は彼女たちだと証言するように頼まれました!」
「酷いわ! どうしてそんな嘘つくの!? 私のせいにしないで!!」
デイジーが必死になって取り繕うとするが、焦りすぎて顔が引き攣りまくっている。
でも彼らは自分の身を守るのに必死で、皆泣きながら懺悔を続けていた。もう事態はパーティの余興では済まされなくなった。臨時裁判が行われたことで、ここで偽証すれば廃嫡、もしくは高位貴族の令嬢を故意に貶めたとして不敬罪で牢に入れられ、家が窮地に立たされる可能性もある。
だから彼らはデイジーより保身を取ったのだ。
「なんだ……? どういうことだ?」
「そんな……っ、まさか」
「うそだろ……」
「デイジー……?」
壇上の四人の男が、デイジーに対して懐疑的な目を向ける。
「な……っ、違う! 私……私は……っ」
デイジーはそれ以上、言葉が出てこない。
今を凌いだって魔術師が来たら嘘がバレるのだから。
「で、でも……そうだ! 破落戸はこちらで捕らえている! そいつらに証言させればいい! おい! 先ほど捕らえた破落戸をここに連れてこい!」
「コンラッド様!」
「大丈夫だデイジー。アイツらは縛り上げて手も足も出ない。デイジーに指一本触れさせないよ」
再び壇上でイチャイチャしだしたけど、デイジーは冷や汗まで浮かべて今すぐ卒倒しそうな顔色をしている。
味方に背中をグサグサ刺されてるようなものだものね~。
守るとか言いながら彼がデイジーをどんどん窮地に追いやっているのだから。
そして、しばらくして王子の護衛騎士たちが縄で縛った破落戸たちを会場に連れて来た。
本来なら罪人が学園にいること自体がおかしい。確実に私たちを罰するために用意していたに違いない。
破落戸たちが騎士たちにより、壇上の前に立たされた。
彼らは今がどんな状況かわかっていないようで、不思議そうに周りをキョロキョロと見渡している。そして壇上にいるリック・ペルシュマンとデイジーを見た。
「「……っ」」
二人の顔が動揺で歪む。
「そこの証人に聞きます。貴方たちにデイジー・バロー男爵令嬢を暴行するように依頼した人物は誰ですか? 私は裁判官です。この場で嘘の証言をすれば、貴方たちの罪は重くなります。もうすぐ魔術師が到着して皆さんに誓約魔法をかけますので、嘘をつけばすぐにわかります。ご理解いただけたら、どうぞ真実だけを述べてください」
デンゼル公爵の威厳に満ちた言葉を聞いて、破落戸たちの顔が青くなっていく。
「は? ……裁判官? 誓約魔法?」
「ま……まさか、これ裁判か?」
「嘘だろオイ! 俺らこんなこと聞いてねえぞ! お前ら嵌めやがったな!」
一人が騒ぎ出すと、他の破落戸たちも顔面蒼白になって逃げだそうと暴れる。
一部の破落戸が壇上にいるリック様とデイジーに向かって裏切者と何度も罵声を浴びせた。
「ほう。君たちはペルシュマン侯爵令息とバロー男爵令嬢の二人と関わりが深いようですね?」
デンゼル公爵が破落戸たちの言葉に興味を向けると、リック様とデイジーが面白いほど狼狽えて首を横に振る。
「し、知らない! 俺は何も知らない! 関係ない!」
「私も知らないです! この人たちの言うこと信じないでください!」
「ふざけるな! お前らが前金払って自分を襲うフリをしてくれと依頼してきたんだろうが!
逃亡の手配もすべて侯爵家でやるっつーから契約したんだぞ! その時の契約書だって持っている! 俺らのことを疑うならその契約書の魔力印と筆跡鑑定でもしろよ」
「な、なんでまだ持ってるんだ! 仕事の後に破棄する約束――――あ……」
自分の失言に気づき、リック様の顔が青くなっていく。
その大きな声は会場にも響き、再びザワザワと周りが騒ぎ出した。
今この瞬間、彼が一つの罪を自作自演だと自供したのだ。
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