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自供2
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リック・ペルシュマンの失言による自供と、破落戸のリーダーが所持していた契約書から、お粗末な誘拐劇が明らかになった。
常日頃からデイジーに泣きつかれて彼女を慰めていたおむつ野郎は、持ち前のズレた正義感からキャサリン様の存在がどうしても許せなかったらしい。
愛する女を虐げている黒幕は、何食わぬ顔で学園に君臨し、大きな顔をしている。
王弟の娘という権力を振りかざして弱き者を甚振る悪女が、主であるコンラッド第一王子の婚約者であることも彼は我慢ならなかった。
王族の血を継ぐキャサリン様を潰すには、嫌がらせをしたというだけでは理由としては弱い。
マクガイア家なら簡単に握りつぶせる。
だから王弟でも庇いきれないほどの瑕疵を作る必要があった。そこでおむつ野郎とデイジーが考えたのが、今回の自作自演の誘拐事件だ。
破落戸たちにデイジーを誘拐して襲うフリをし、わざとリック様たちに捕縛されて依頼主はキャサリン様だと証言するよう依頼されたらしい。
破落戸たちはペルシュマン侯爵家という家名と、高額な契約金の半分を前金でもらい、隣国への逃亡の面倒まで見てくれるということで契約を交わしたのだとか。
焦って簡単に口を滑らせたり、闇の組織に家名を名乗ったり、馬鹿さ加減が想像の上を行ってい
るわね。デイジーのせいなのか、それとも元々バカなのか……、でもデイジーが彼らに使った媚薬は性的嗜好を昂らせるものだから、やはり後者なのかしら。
壇上にいる彼らに対するギャラリーの視線が、訝し気な色に変わった。
破落戸に関与を暴露され、おむつ野郎が床に膝をつき、頭を抱えて何か唸っている。
侯爵家の子息が、筆頭公爵家の娘に冤罪をかけて陥れようとしたのだ。
彼はもう、騎士としての未来も、貴族としての未来もきっと閉ざされるだろう。
「デイジー……?」
コンラッド第一王子が真っ青な顔をしてデイジーを見つめている。先ほどまで彼女を強く抱きしめていた腕は外され、一人分の距離が置かれていた。
「コンラッド様……っ、ち、違うのこれは……っ」
「ほう? 契約書に三つ並んでいる魔力印のうちの一つは貴女のものですが、私の鑑定魔法が間違いであると貴女は主張しますか?」
「……っ」
代々、裁判官を輩出するデンゼル公爵家は無属性の鑑定魔法を得意とする家門で有名だ。その裁判官にジロリと視線を向けられ、デイジーは恐怖で体を硬直させた。
「そ……そんな、では私は何のために……」
デイジーを襲った誘拐事件がリック様とデイジー様の自作自演だとわかり、コンラッド第一王子がわかりやすく動揺し始めた。
「何のために――とは?」
デンゼル公爵の追求にビクッと体を震わせて青褪めた表情を見せるも、すぐに王子然とした表情に切り替え、堂々と次の手を打ってきた。
「し、しかし虐めの件と、キャサリンが私以外の男と姦通した件が残っている。この二件に関しては無実を証明できていないではないか! 私はキャサリンと寝た男たちからこの女に媚薬を盛られて正気を失い、交わってしまったと私に懺悔してきたのだぞ! そしてその媚薬の入った瓶も押収している!」
「当事者の他に、目撃者はいるのですか?」
「は?」
「ですから、彼らが媚薬を使用して乱交に及んだ現場を見たものはいるのですか?」
「……いないと思うが」
「それは本当に? 乱交に及んだ日は第一王子の誕生日パーティですよね? 多くの貴族が集まっていたというのに、誰一人目撃者はいなかったのですか? 給仕の者や護衛、使用人たちはなんと言っていたのですか?」
「そんなものは知らん!」
コンラッド第一王子の逆切れ回答に会場がシーンと静まり返る。
「……なあ、アイツ馬鹿じゃないのか。調査してないことを自ら暴露してるぞ。筋肉もないから頭の中にお花か綿でも詰まってんじゃないのか?」
「アデライド、あんな愚か者でも一応王族の端くれだから不敬になるわよ。私たちの出番になるまで黙秘しておきましょう」
キャサリン様とアデライド様がヒソヒソとコンラッド第一王子に対して不敬な発言をしている。
そしてデンゼル公爵とケアード公爵は憐れむような目でマライア様を見ていた。
マライア様は微笑みを浮かべたまま弟を見ているが、やはり彼女の瞳は全く笑っていない。
「では、被害者だと主張している彼らとその証拠品の媚薬を提出していただくことは可能ですか?」
うんざりした表情でデンゼル公爵が質問すると、コンラッド第一王子はにやりと笑う。
「ああ、いいだろう! おい! お前たち前に出てこい!」
コンラッド第一王子が視線を向けた方向に、誕生日パーティで捕らえられ、私たちにあえて泳がされた男たちがいた。
全員が顔面蒼白でフラフラと前に歩を進める。
彼らもまさか臨時裁判などというイレギュラーが発生するとは思わなかったのだろう。極度の緊張に右手と右足が同時に出て、機械のような歩き方をしている者もいた。
「さあお前たち! 自身の口からあの女の所業を語れ!」
再び会場に静寂が訪れた。
皆が彼らの紡がれようとしている言葉に耳を傾ける。
そして――
「ぼ、ぼぼぼ、僕たちは、マ、マクガイア公爵令嬢と――」
ニヤリと勝ち誇った表情のコンラッド第一王子が腹立しい。でも次の証言で彼のその表情が、時が止まったかのように硬直した。
「僕たちは、マクガイア公爵令嬢と乱交などしていません!」
「――――は?」
「おや? 先ほどコンラッド第一王子はマクガイア公爵令嬢が使用した媚薬を押収していると言っていましたが? 貴方たちはその媚薬の被害に遭われたのではないのですか?」
「……いいえ。その媚薬はコンラッド第一王子が僕らに渡したものです。それを使ってあの夜にマクガイア公爵令嬢の純潔を散らせという命令を受けました。――でも、マクガイア公爵家の護衛騎士に捕まって失敗しました」
「なんだと!? 貴様ら俺には乱交を楽しんだと言って詳しく報告していたではないか!! あの時失敗したなんて一言も――……あ」
リック様に続いて、コンラッド第一王子の自供も会場に響き渡った。
常日頃からデイジーに泣きつかれて彼女を慰めていたおむつ野郎は、持ち前のズレた正義感からキャサリン様の存在がどうしても許せなかったらしい。
愛する女を虐げている黒幕は、何食わぬ顔で学園に君臨し、大きな顔をしている。
王弟の娘という権力を振りかざして弱き者を甚振る悪女が、主であるコンラッド第一王子の婚約者であることも彼は我慢ならなかった。
王族の血を継ぐキャサリン様を潰すには、嫌がらせをしたというだけでは理由としては弱い。
マクガイア家なら簡単に握りつぶせる。
だから王弟でも庇いきれないほどの瑕疵を作る必要があった。そこでおむつ野郎とデイジーが考えたのが、今回の自作自演の誘拐事件だ。
破落戸たちにデイジーを誘拐して襲うフリをし、わざとリック様たちに捕縛されて依頼主はキャサリン様だと証言するよう依頼されたらしい。
破落戸たちはペルシュマン侯爵家という家名と、高額な契約金の半分を前金でもらい、隣国への逃亡の面倒まで見てくれるということで契約を交わしたのだとか。
焦って簡単に口を滑らせたり、闇の組織に家名を名乗ったり、馬鹿さ加減が想像の上を行ってい
るわね。デイジーのせいなのか、それとも元々バカなのか……、でもデイジーが彼らに使った媚薬は性的嗜好を昂らせるものだから、やはり後者なのかしら。
壇上にいる彼らに対するギャラリーの視線が、訝し気な色に変わった。
破落戸に関与を暴露され、おむつ野郎が床に膝をつき、頭を抱えて何か唸っている。
侯爵家の子息が、筆頭公爵家の娘に冤罪をかけて陥れようとしたのだ。
彼はもう、騎士としての未来も、貴族としての未来もきっと閉ざされるだろう。
「デイジー……?」
コンラッド第一王子が真っ青な顔をしてデイジーを見つめている。先ほどまで彼女を強く抱きしめていた腕は外され、一人分の距離が置かれていた。
「コンラッド様……っ、ち、違うのこれは……っ」
「ほう? 契約書に三つ並んでいる魔力印のうちの一つは貴女のものですが、私の鑑定魔法が間違いであると貴女は主張しますか?」
「……っ」
代々、裁判官を輩出するデンゼル公爵家は無属性の鑑定魔法を得意とする家門で有名だ。その裁判官にジロリと視線を向けられ、デイジーは恐怖で体を硬直させた。
「そ……そんな、では私は何のために……」
デイジーを襲った誘拐事件がリック様とデイジー様の自作自演だとわかり、コンラッド第一王子がわかりやすく動揺し始めた。
「何のために――とは?」
デンゼル公爵の追求にビクッと体を震わせて青褪めた表情を見せるも、すぐに王子然とした表情に切り替え、堂々と次の手を打ってきた。
「し、しかし虐めの件と、キャサリンが私以外の男と姦通した件が残っている。この二件に関しては無実を証明できていないではないか! 私はキャサリンと寝た男たちからこの女に媚薬を盛られて正気を失い、交わってしまったと私に懺悔してきたのだぞ! そしてその媚薬の入った瓶も押収している!」
「当事者の他に、目撃者はいるのですか?」
「は?」
「ですから、彼らが媚薬を使用して乱交に及んだ現場を見たものはいるのですか?」
「……いないと思うが」
「それは本当に? 乱交に及んだ日は第一王子の誕生日パーティですよね? 多くの貴族が集まっていたというのに、誰一人目撃者はいなかったのですか? 給仕の者や護衛、使用人たちはなんと言っていたのですか?」
「そんなものは知らん!」
コンラッド第一王子の逆切れ回答に会場がシーンと静まり返る。
「……なあ、アイツ馬鹿じゃないのか。調査してないことを自ら暴露してるぞ。筋肉もないから頭の中にお花か綿でも詰まってんじゃないのか?」
「アデライド、あんな愚か者でも一応王族の端くれだから不敬になるわよ。私たちの出番になるまで黙秘しておきましょう」
キャサリン様とアデライド様がヒソヒソとコンラッド第一王子に対して不敬な発言をしている。
そしてデンゼル公爵とケアード公爵は憐れむような目でマライア様を見ていた。
マライア様は微笑みを浮かべたまま弟を見ているが、やはり彼女の瞳は全く笑っていない。
「では、被害者だと主張している彼らとその証拠品の媚薬を提出していただくことは可能ですか?」
うんざりした表情でデンゼル公爵が質問すると、コンラッド第一王子はにやりと笑う。
「ああ、いいだろう! おい! お前たち前に出てこい!」
コンラッド第一王子が視線を向けた方向に、誕生日パーティで捕らえられ、私たちにあえて泳がされた男たちがいた。
全員が顔面蒼白でフラフラと前に歩を進める。
彼らもまさか臨時裁判などというイレギュラーが発生するとは思わなかったのだろう。極度の緊張に右手と右足が同時に出て、機械のような歩き方をしている者もいた。
「さあお前たち! 自身の口からあの女の所業を語れ!」
再び会場に静寂が訪れた。
皆が彼らの紡がれようとしている言葉に耳を傾ける。
そして――
「ぼ、ぼぼぼ、僕たちは、マ、マクガイア公爵令嬢と――」
ニヤリと勝ち誇った表情のコンラッド第一王子が腹立しい。でも次の証言で彼のその表情が、時が止まったかのように硬直した。
「僕たちは、マクガイア公爵令嬢と乱交などしていません!」
「――――は?」
「おや? 先ほどコンラッド第一王子はマクガイア公爵令嬢が使用した媚薬を押収していると言っていましたが? 貴方たちはその媚薬の被害に遭われたのではないのですか?」
「……いいえ。その媚薬はコンラッド第一王子が僕らに渡したものです。それを使ってあの夜にマクガイア公爵令嬢の純潔を散らせという命令を受けました。――でも、マクガイア公爵家の護衛騎士に捕まって失敗しました」
「なんだと!? 貴様ら俺には乱交を楽しんだと言って詳しく報告していたではないか!! あの時失敗したなんて一言も――……あ」
リック様に続いて、コンラッド第一王子の自供も会場に響き渡った。
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