55 / 63
反撃開始
しおりを挟むリック様に続き、コンラッド第一王子の自作自演も発覚して会場は騒然となった。
「うそでしょ、これも自作自演……?」
「王族が犯罪を企てるなんて何を考えてるんだ?」
「断罪劇が始まったと思ったら、蓋を開ければ全部自分たちの罪を暴露してるだけじゃない。バロー男爵令嬢が虐められたっていうのも自作自演なんじゃないの?」
「彼女たちがバロー男爵令嬢と一緒にいるところをほとんど見たことないものね。たまに見かけても、どちらかというバロー男爵令嬢の方がキャサリン様たちに絡んで付き纏ってたように見えたわ」
王子の罪が確定したところで敬う必要性を感じなくなったのか、各々が自身の見解を述べ始めた。その一つ一つが壇上にいるメンバーに突き刺さり、顔から血の気を失い、もはや人形のように立ち尽くしている。
そしてコンラッド第一王子から受け取った証拠品の媚薬をデンゼル公爵が鑑定したところ、我が国にはない原料で作った媚薬であることがわかった。
とても強力なもので、使用すれば脳に強く作用し、人の理性を奪い、それこそ性犯罪者のように近くにいる者を手当たり次第に襲ってしまうほどの性衝動を起こさせるらしい。
もはや毒と同じで廃人になるか死亡する恐れのある劇薬であり、とても乱交で楽しむレベルのものではない。
もし本当に使われていたのなら、キャサリン様も彼らも今こうして立っているはずがないのだ。
つまりコンラッド第一王子は、彼らに毒を渡したことになる。
「――貴方はマクガイア公爵令嬢の命までも奪うつもりだったのですか?」
デンゼル公爵の追及に、コンラッド第一王子は激しく首を横に振って否定した。
「違う! 俺はその媚薬がそんな恐ろしいものだったなんて知らなかった! バロー男爵が用意したものをそのままアイツらに渡しただけだ! 毒だなんて聞いていない! 俺は騙されたんだ!」
「コンラッド様!」
「触るな! くそ! 何がどうなってるんだ! なんでこんなことに!」
縋ろうとしたデイジーの手を叩き落とし、コンラッド第一王子が頭を押さえながら膝をついた。
きっと彼の中では目障りなキャサリン様とマライア様を衆人環視の中で断罪して社会的に殺し、自分の地位を高めるつもりだったのだろう。
でもすべてにおいて詰めが甘いのだ。
勉強不足でもあるし、悪い意味で彼は根が純粋だった。彼よりも腹黒で悪どいことを笑顔でやる人間は王宮に沢山いるし、水面下では常に権力争いが起こっている。
王族はそれに飲まれないよう毎日気を張っていなければならないし、人の善悪を見極める能力も備えなければならない。
王宮や社交の場では、甘言を吐く者ほど怪しい人物だと疑ってかからなければならないのだ。
言葉をそのまま受け取り、言外に含まれる思惑を感じ取れないなら、やはり彼は王族としての資質に欠ける。
だからデイジーやバロー男爵のような小物に引っかかり、ネブロス帝国の皇子に利用されるのだ。
ざわざわと会場の声が高まる中、スッとマライア様が片手を上げた。
「皆の者、静粛に!」
王太女の声に、会場の声が消える。その緊張感の走る空気に全員が固唾を呑んだ。
「――デンゼル公爵、進めてくれ」
「ありがとうございます。ではこれより先はマクガイア公爵令嬢にお伺いします。冒頭で読み上げられた脅迫罪、器物破損、誘拐未遂、暴行未遂、姦通罪についてお心当たりはありますか?」
「一切ございません。事実無根です」
デンゼル公爵の質問に、キャサリン様は堂々と答える。
「そうですか。それを証明する証人、証拠はありますか?」
「はい。ワタクシとこちらにいる友人たちが無実であるという証拠を用意しております」
そしてキャサリン様は私に視線を向けた。
私は頷いてレースの袖口に隠し持っていた映像記憶装置を取り出す。
やっと、エゼルと私の苦労が報われる時が来た。エゼルと視線を合わせ、二人でキャサリン様の横に並び立つ。
「カーライル侯爵が長女、ブリジット・カーライルと申します。キャサリン様に変わり、証拠品の提出と説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「許可します」
「こちらはカーライル商会で扱う予定の新商品です。これは景色や人物、その時の会話など、映像として記憶することができます」
私の商品説明に会場が再びざわざわと騒ぎ出した。
この国にはまだ動画という文化はないから想像もつかないのだろう。前世にあった家電や女性用下着なんかは、私が開発するまでなかったのだ。
魔法はあっても文明は日本よりかなり遅れている。だから私の説明を聞いても、きっと皆は想像がつかないだろう。
だから百聞は一見に如かず。実際に見てもらった方がいいでしょう。
「今からこの装置に記憶されている映像を皆さまにお見せします。これを見ればキャサリン様は無実であると証明できるでしょう」
「そうですか。では見せていただけますか」
デンゼル公爵の了承を得て装置をエゼルに渡す。
それを受け取ったエゼルは壇上の奥に垂れ下がる舞台の幕に魔法陣を組み、録画した映像を大きく映し出した。
壇上では「うそ! うそ! なんでこの世界に動画があるの!」とデイジーが叫んでいる。もう庇護欲をそそる女を演じる余裕はなくなったようだ。
そんな彼女の様子と叫ばれた言葉に、デイジーがやっぱり転生者だと確信する。そして脳裏にイアンの言葉が浮かんだ。
『デイジーは、あの女の生まれ変わりだ』
あの女――前世で私から京介を奪ったあの女。
名前も知らない人だったけど、こうしてデイジーの感情的な行動を目の当たりにすると、確かにあの女に似ているような気もする。
いろいろ考え込んでいると、周りが騒然としだした。そしてデイジーが「違う違う違う!」と仕切りに叫んで映像をかき消そうとしている。でもその手は空を切るばかりで、魔法で映し出した映像を消すことはできない。
大スクリーンに映し出されたのは、デイジーに付かせていた影が録画した記録。
虐めを演出するために、自作自演に勤しむデイジーの姿だった。
324
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる