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捕縛

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「お父様たちが……地下牢に……っ!?」  

「ああ、お前の両親は違法薬物を自身の経営する風俗店で使用していた。それから未成年の孤児を引き取り、売春させた容疑もかかっているため、本日逮捕した」

「そんな……っ」

「バ、バロー男爵が……っ!?」


マライア様が片手をスッと上げると騎士たちが現れ、デイジーを拘束する。


「いや、やめて!離して!私は関係ない!」

「たった今、違法薬物を愚弟たちに盛って情事に耽る映像が流れていただろう。言い逃れはできないぞ。デイジー・バロー、違法薬物の所持、ならびに王族と高位貴族に薬を盛った罪で逮捕する。余罪については取り調べでしっかり吐かせるから覚悟するといい。連れて行け!」


「いやああ!助けてコンラッド様!コンラッド様ぁ!!」


騎士に引きずられながら必死にコンラッド第一王子に助けを求めるも、彼は壇上で震えたままデイジーに視線を向けることはなかった。





「さて、コンラッド。次はお前たちの番だな?」


マライア様が笑みを深めると、四人はガタガタと震え、ぶつぶつ意味のない言葉を発している。


「ちが……違うのです姉上……っ。俺はデイジーに騙されて……」

「それはキャサリン嬢とのいざこざの件だろう? まあ、騙されていたとしてもお前を無実とするのは無理だが、私が今言っているのは、国庫の横領の罪で私を名指しした件だよ」

「あ……」

「確固たる証拠を持っていると言っていたな。是非その証拠とやらを見せてもらおうか」

「あ……あ……」


「マライア様、裁判の進行は私の仕事ですが?」

「おや、そうだった。すまない公爵。後はよろしく頼むよ」


デンゼル公爵が再び裁判を開始しようとしたその時、ざわめきと共に卒業生たちが次々に移動し、頭を下げて道を開ける。


そしてその先に女王陛下とドレイク公爵が現れた。


「親父……」

「まさか魔術師団長じきじきに来ていただけるとはね」



私とエゼルに気づくと、ドレイク公爵はウインクをした。その美貌に女生徒の歓声が聞こえる。

ブランケンハイム王国きっての魔力を持つドレイク公爵は、長く伸びた黒髪を後ろに一つに束ね、金の瞳と甘いマスクで周りを魅了していく。

そして隣を歩くフランチェスカ女王の従兄弟でもあるため、両者揃って神々しいほどの美貌の持ち主だ。

いわゆるイケオジというやつである。


「デンゼル公爵、遅くなったな。今より私もこの裁判を見守ろう」


女王陛下の言葉に、私たちも臣下の礼を取る。



「皆の者、面を上げよ」

「は……母上」

「──コンラッド、お前が始めたことよ。最後まで責任を取りなさい」

「母上っ!!」



それは事実上、息子を見限ったも同然の言葉だった。

コンラッド第一王子を見つめる厳しい瞳には、哀憐の色が滲んでいる。それだけは読み取れたのか、戦意喪失したかのように彼は両膝をついた。


「は~、ブリジットちゃんとエゼルはまたスゴイの作ったなぁ」


未だ一時停止中でスクリーンに映し出されている映像を見て、ドレイク公爵が苦笑いした。


「ではドレイク公爵殿、早速当事者の方たちに誓約魔法をかけていただけますか?」

「ああ。了解した」



デンゼル公爵に促され、ドレイク公爵が詠唱する。

すると私たちの前にそれぞれ金色に光る魔法陣が浮かびあがる。全員がそれに手をかざし、自分の魔力印を刻んだ。


壇上の四人は「もうお終いだ……」などと呟きながら同様に魔力印を刻んだ。


これで全員が真実しか言葉にできない。







それからの裁判の行方はあっけないものだった。

女王陛下と魔術師団長の登場と誓約魔法により、コンラッド第一王子の心が折れてしまったのたのだろう。

彼の罪は、彼の自白により明らかとなった。


王子は側近たちと共にマライア様の瑕疵になるようなネタはないかと探った。それに貴族派だった父親たちも加担したのだ。

それで上がってきたのが横領疑惑だった。


王子に渡された証拠は、父親たちが用意したもので、一見本当にマライア様の犯行に見えるように巧妙に細工されていた。

国庫の水増し請求書や裏帳簿の筆跡が、鑑定の結果マライア様のものだったのだ。


「──どういうことですかな?マライア様」


鑑定結果に驚いたデンゼル公爵がマライア様に問うと、彼女は動揺することもなく答える。


「そのサインは私ではなく、魔道具によって私の筆跡を記憶して書かれたものだ。真の横領の犯人が私に罪を着せるために侍女を買収し、筆跡を記憶できる魔道具のペンを私の執務室に置いた」

「その魔道具は今どこに?」

「既に侍女を捕え、魔道具も押収済みだ」

「真の犯人はもうわかっているのですか?」

「ああ。真の犯人は────そいつらの父親だ」



マライア様が側近たちに視線を向けると、彼らが驚愕に目を見開いた。


「は!? 父上が……!?」

「嘘だ!そんな……っ」

「なぜ!!」



「嘘ではない。お前たちの親が息子の卒業式に参加して家を開けている隙に、それぞれ家宅捜査に入らせてもらった。その結果、お前たちの親は全員逮捕だ。だからお前たちの親はパーティーに参加してないんだよ」

「そ……そんな……じゃ、じゃあ今日姉上が視察だというのは……」

「ああ、嘘だよ。王族の予定を知っている宰相と騎士団長に勘付かれないために、視察に行くフリをしていた。」


「「「…………」」」




その後、親の逮捕という衝撃の事実に三人は口を閉ざし、コンラッド第一王子はハラハラと涙を流しながら女王陛下とマライア様に縋った。


「母上!姉上!……すみませんでした……っ、どうかっ、どうかやり直す機会を……!!」


額を床につけ、土下座をしながら二人に慈悲を乞う。だが二人は無表情のまま冷たく王子を見つめていた。

そして女王陛下が小さなため息を一つ漏らした後、重い口を開く。


「コンラッド。やり直す機会はもう何度も与えました。私たちは何度も己の行動を改めなさいと言いましたね?忘れたとは言わせませんよ。その度に貴方は反発していました」

「そ、それは……っ」

「この国は法治国家であり、罪を犯せば裁かれるのです。貴方はもう子供ではない。成人した大人なのですよ!王族という身分は免罪符にはならない!自分の行動に責任を取りなさい!」

「母上ぇ!!」

「コンラッド・ブランケンハイム。お前は未来の女王であるマライアを害そうとしました。国家反逆罪により、地下牢へ投獄する!側近三名も共に捕えよ!」


女王の命により、騎士たちが四人を拘束して連れていく。


「いやだ!やめろ!離せ!!母上!許して下さい!!姉上ー!!いやだいやだいやだ!!俺に触るなー!!」

「大人しく地下牢で沙汰を待て」





遠のく王子の叫びと女王陛下の最後の言葉が、会場に悲しく響いた。
 
   

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