おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

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第二部 第五章 成長と暗雲

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 ダンジョンの探索を終えて帰還すると、セーラたちの頑張りもあり、ダンジョン販売店は売上最高記録を更新し、冒険者たちから引き取ったドロップ品を納品しにメリーたちと共に冒険者ギルドに寄っていた。

 依頼されていたドロップ品を窓口カウンターに置く。

 しかし、いつもなら窓口の奥で暇そうに腕組みして、眼つきの悪い視線を飛ばしている人物の姿が見られなかった。

 気になったので、窓口の受付嬢に対していない理由を尋ねてみた。

「あれ? ジェイミーは今日は休みなのか?」

 尋ねた受付嬢の顔が強張るのが見て取れた。そして、あたりをキョロキョロと見ると耳を貸すようなしぐさをしてきた。

「ん?」

『あまり大っぴらには言えない話なんですけど、グレイズさんには伝えておくようにとジェイミーさんから言われてまして……。実は、新ギルドマスターのアルガド様がジェイミーさんの失態の話を蒸し返して、ブラックミルズの治安維持部隊を解散させて、自分の私兵で再編するといい始めたのですよ』

『なんだそれ。ジェイミーの件は領主の決裁でギルドマスター解任という話しで片が付いたはずだろう』

『ですが、新任のアルガド様は父親である領主からブラックミルズの治安維持を特に厳重にするようにと言われたそうで、現部隊の要員の内勤移動と部隊新設を強行されて、ジェイミーさんと意見がぶつかりまして……その、解雇されてしまいました』

『解雇? ジェイミーが? アルマは何も言わなかったのか?』

『いえ、アルマはその場にいなかったんで、あとで事態を知ったのですが、アルガド様が何か言うと食い下がらずに口を噤んで下を向いてしまいまして……。一応、ジェイミーさんの首で治安維持部隊の要員たちの職は確保されましたが、冒険者ギルド内はギスギスした空気が流れてます』

 受付嬢が言いにくい話を俺だけという形で耳打ちしてくれていた。

 二日間潜っている間にブラックミルズの冒険者ギルド内の様子がガラリと変化していたことを知り、新任のアルガドというギルドマスターのやり口に一抹の不安を感じている。

「大体の事情は分かった。後は本人から聞くことにするよ。教えてくれてありがとうな。それじゃあ、今回分の納品を清算してくれ」

 受付嬢から耳打ちされた話は冒険者ギルドとしても外に出したくない話であると思われたので、一応は俺の中で留め置くことにしておいた。

 一冒険者である俺が下手に騒いで、ジェイミーが首を差し出して確保した職員の処遇を反故にされてしまったら、元も子もなくなってしまうからだ。

 新任のギルドマスターの人柄は会ったことがないため把握できないが、彼が真面目にブラックミルズのことを考えて打ち出した方針であれば良いのだが……。しばらくは様子見をするしかないな。

 俺は受付嬢たちが納品したドロップ品の清算をする様子を見ながら、首になったジェイミーの立ち寄りそうな場所を思い起こしていた。

 その後、清算金をメリーに渡して別れると、残ったドロップ品を倉庫にしまいに行くため商店街に足を伸ばす。

 その途中で、ジェイミーが休みの日に入り浸っている酒場があったので、いるのではと思い顔を出していた。

「よう、ジェイミー。やっぱりここだったか」

 なじみの酒場のカウンター席に突っ伏しているジェイミーを発見していた。周りには飲み切って空になった酒瓶が散乱し、酒の匂いがジェイミーからプンプンしている。

「あんだぁ! おおぉ! グレイズか! めでたく自由の身になったぞ!」

 俺の姿を見たジェイミーが酒臭い息をまき散らして、半ば投げやりな感じの言葉を吐き、濁った眼をこちらに向けていた。

「酒臭いぞ。ジェイミー。冒険者ギルドを首になったからってベロン、ベロンに酔ってるとはな。それにしても、ジェイミーが解雇を受け入れるとはな。てっきり居座ると思ったが」

「馬鹿野郎。オレも部下の生活を守らないといけないんだよっ! あの禿デブの貴族野郎が自前の兵でこのブラックミルズの治安を守るとか言いやがって、新設部隊で何ができるって噛み付いたら、部下の首を獲りにきやがったんで仕方なくオレが首を差し出したんだよっ!」

 ジェイミーはフラフラとした足取りのまま、俺の服の襟を持ち、悔し気な顔をして言い募って来ていた。

 本人としてはこのブラックミルズの冒険者ギルドに骨をうずめる覚悟で働いていたと思われ、今回の解雇は本当に無念としか言えない事態なのだろう。

「禿デブ貴族やろうってのは新任のアルガドっていうギルドマスターのことか?」

「ああ、前にも言ったがこのブラックミルズを治めるクレストン家の嫡男で子爵の位を持つアルガド・クレストンのことだ。あんなボンボン貴族に繊細な配慮が必要となる治安維持業務なんてできるわけがないだろうさ」

 ジェイミーが吐き捨てるように新任のアルガドをこき下ろしているが、ジェイミー自身も闇市の跳梁を抑えられなかった前例をもっているため、全面的な同意はできないでいる。

「ジェイミーも失敗したからなぁ。確かに難しいとは思う。このブラックミルズの治安は年を追うごとに悪くなっていたからなぁ」

 三〇年近く住んでいる俺としては、このブラックミルズの治安の低下を肌身で感じ取って来ており、ジェイミーがギルドマスターに就任した後も治安は低下の一途を辿っていたのを思い出していた。

 別にジェイミーが無能だったということではなく、ダンジョンからもたらされる富に群がる人が増え、人口が増大の一途のたどっているブラックミルズには、素性のよろしくない者たちも多数住み着くようになっており、それらが起こす犯罪行為を抑えるための組織の充実が後回しにされてきていたことも一因であったのを知っている。

「それでも昔なら冒険者が治安維持にも手を貸してくれていた。グレイズなら知っていただろうが、昔の冒険者ギルドは街の治安維持業務も冒険者に依頼していたからな。オレもそっち専門の冒険者だったおかげで冒険者ギルドに引き抜かれたって話だしな。今じゃ冒険者の質が悪くなりすぎて、犯罪者と紙一重の奴らも増えて手が回ってなかったのは認める」

 俺が冒険者になった五年ほど前には、冒険者ギルドが冒険者に治安維持を頼むという業務は無くなっており、冒険者ギルドの治安維持部隊がトラブル処理を担当するようになっていたが、トラブルの増大で対応能力の限界を超えていたようにも思える。

 おかげで犯罪組織が闇市を開設するようになり、それが更なる犯罪を助長して治安を悪化させていたと思われる。

 けれど、先般のムエルたちが逮捕されたおかげで、ブラックミルズの治安も徐々に良くなり始めていた矢先の部隊解散。そして、ギルドマスター直卒の新設部隊による治安維持業務ということで不安は尽きない。

 このまま何も起きなければいいが、何かが起きた時に対応できる人材は実務経験の長いジェイミーくらいだと思われ、このまま、ここで酒を飲ませて腐らせるのも勿体ないことだ。

「そうだ。ジェイミー、冒険者ギルドを首になったら暇だろう? 実は一つ仕事があるんだがやらんか? ここで酒を飲んでくだを巻くよりもやりがいはある仕事だ」

「ああん? オレに仕事だと? 何の仕事だ?」

「うちの倉庫番だ」

「倉庫番だと!? オレが?」

「表向きがな。ちょっと裏の仕事も頼みたいから耳を貸せ」

 俺は驚いた顔をしているジェイミーに近づくと耳打ちをしていく。

『アルガドが変な動きをしないように見張って欲しいんだ。ジェイミーなら元部下たちと連携してブラックミルズの表も裏も分かるだろう。変な動きが無いに越したことはないが、どうも嫌な予感がしてならん。酒飲んで暇を潰しているくらいなら、表向き倉庫番として働いて元部下やブラックミルズの伝手を使ってアルガドを監視しておいてくれ』

 ジェイミーが俺の提案を聞くと酒で緩み切っていた顔を引き締めているのが見えた。

「ほぅ、オレを倉庫番にねぇ。悪くねぇ話だが、オレの給料は高いぜ」

 ジェイミーは自分の給料は高いと言っているが、それは情報収集の活動費込みという暗示であろうと思われる。

「知ってるか? 俺は意外と金持ちなんだぜ」

「知ってる。ダンジョン販売店は盛況らしいし、探索の方もバリバリ稼いでいるからな。数年後には大富豪間違いなしだろう。嫁、多数のな」

 最後の一言は余計だが、今のまま商売も探索も順調に進めば、ジェイミーが言ったようにブラックミルズでも指折りの資産家になれると思われた。

 なので、ジェイミー一人くらい雇用しても財産は揺らぎもしないはずだ。

「嫁の話は余分だが、金の心配はしなくっていいってことは理解してくれたようだな。で、うちで働くか?」

「ああ、仕事してないと酒もマズいんでな。グレイズのところで世話になるさ」

「なら、口直しに飲み直すとするか。たまには付き合ってやるよ」

 俺は倉庫に入れる荷物を傍らに置き、酒場の親父からエールを受け取ると、ジェイミーと乾杯を交わしていく。

 何事も起こらなければいいんだがなぁ……。
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