おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
68 / 232
第二部 第五章 成長と暗雲

5

しおりを挟む
 商店街に向かって歩いていくと定住先のない冒険者たちが宿代わりに使っている歓楽街に近い場所にさしかかった。

 すると、前方にボロボロの丈の短いメイド服を着た若い少女が重そうな荷物を背負って歩いていたのが目に入った。

 どこの家のメイドだろうか……。ずいぶんとみすぼらしい格好をしているが、それにしてもあの丈の短さだと、あの姿だと襲ってくださいと言って回っているようにしか思えない。

 ブラックミルズの治安は、多少良くなったものの、お世辞にも煽情的な格好をした少女が独り歩きできるほど良い場所でもない。

「前の子、見ない顔ね。最近になって雇われた子かしら」

 商売柄、ブラックミルズでメイドを雇える裕福な家のことをほとんど知っているメリーも初顔の子であったようだ。

「ファーマ、手伝ってくるー!」

「ちょ、ファーマ!」

 ファーマが止める間もなく、ビュンと駆け出し、前を歩いていた少女に声をかけていった。

「ねぇ、重そうだから、ファーマが手伝ってもいいー?」

 話しかけられた小柄な少女がびっくりしたような顔をしてファーマを見ていた。

「えっ! でも、あのこれはわたくしが……」

 手にしていた籠の一つをファーマが持つと、少女が戸惑った顔を浮かべていたので、すぐに声をかけることにした。

「すまない。うちの連れが重そうな荷物を運ぶ君を見かねて手伝いたいと言い出してね。止める暇がなかった。良ければその子に手伝わせてやってくれ。もちろん、俺たちもだけどな」

 キョトンとした顔で俺の説明を聞いていた少女は、ボロボロのメイド服に見合わぬ垢抜けた顔立ちをしている子で手には綺麗な紋様を刻んだ指輪を大事そうにはめているのに気が付いた。

「え……。でも、これはわたくしが頼まれた仕事ですので……。それに他の人には触れさせるなとのメイド長からのお達しがありますから、お手伝いして頂くわけには……。せっかくのお申し出ですがお断りさせてもらいます」

「そうなのー。怒られちゃうなら仕方ないかー」

 すまなそうにファーマに頭を下げた少女は籠を受け取ると、商店街の方へ向けて歩き出していく。

 だが、やはり荷物の量が重すぎるようでフラフラと左右に揺れていて見ていてハラハラする。

 このまま、放っておいて怪我でもされたらなんか嫌だから、袖擦り合うのも多少の縁ってことで目的地も同じようだし一緒に行くことにした。

 フラフラとしている少女が背負っている荷物を軽く支えてやる。

 すると、それまでのふらつきはなくなりまっすぐになった。

「えっと、さきほども申し上げましたが……」

「ん? ちょうど行き先が同じようなんでね。一緒にいこうか。昼間とはいえ、この辺りは余り治安がよろしくない場所でね。若い子が一人で重い荷物を持ってフラフラしてたら、襲ってくださいって言ってるようなもんだからな。悪いが手伝させてくれ」

「ファーマもお手伝いー!」

「私も持つ」

「安心して、グレイズさんは変な人じゃないから。ここら辺の顔役みたいな人でね。一緒にいれば、変な虫が寄ってこないわ」

「そうです。グレイズさんは紳士なんで安心してください」

 みんなも少女のことが気になっていたようで、ファーマとカーラは手の荷物を持ち、アウリースとメリーは少女を安堵させようと話しかけていた。

 少女はキョロキョロと周りを見ていたが、やがて諦めたようで、ふぅとため息を吐いた。

「では、皆さんのご厚意に甘えさせてもらうことに……」

「行先は商店街のどの店だい? 送っていくよ」

「色々と回らないといけませんので、商店街までご一緒していただければ、あとはわたくしが」

  あまり好意の押し付けも良くないと思い、お手伝いは少女が言った商店街の入り口までにしておくことにした。

「オッケー。なら、背中の重そうなんで、君を運ぶのは俺の担当にしておくぞ。ここまで持ってくるのも骨が折れただろう。商店街まで休憩していていいぞ」

「あっ!」

 少女ごとひょいと持ち上げて肩に担ぐと、みんなで商店街に向かって歩き出していた。


 メンバーの皆とワイワイしゃべりながら少女を担ぎ歓楽街を抜けて、商店街の入り口が見えてくる。

 ここから先は街に住む住人が数多くいる地域のため、歓楽街に比べれば悪さする輩もだいぶ減るはずだ。

「すみません、色々とお世話をおかけしたようで……。そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。わたくしメラニアと申します。今日はお手伝いしていただきありがとうございました」

 入り口まできたところで、メラニアを下すと彼女は荷物を受け取りお礼を述べて頭を下げていた。

 すると、背後からヒステリックな叱責の声が飛んできた。

「メラニアっ!! 私は大切なご主人様の品物を他人に触れさせるなと申したはずっ! 何ゆえ、下賤な冒険者如きに触らせているのっ!」

「あうっ!」

 色気が過剰なメイドが、数名のメイドたちとともに俺たちの背後からツカツカとメラニアに近づくと、パンと頬を張って、バランスを崩したメラニアが地面に倒れ込んだ。

 きっとメラニアの上司であるメイド長なのであろうと思われるが、やることが少し暴力的すぎる。

 もう一発平手がメラニアに振り下ろされそうだったので、思わず間に入ってメイド長の手を掴んでしまった。

「くっ! 邪魔をするとは! 冒険者風情が出しゃばるところじゃないわ」

 手を止められたメイド長がキッと眼を吊り上げて俺を睨みつけてくる。

「すまんな。彼女はキチンと断っていたんだ。それを俺たちが勝手に手伝っただけなんだよ。そちらの事情を知らずに手を出してしまったことは謝罪させてくれ。メラニアは悪くないんだ」

「そのようなことはどうでもいいの! この子が断り続けなかったことが大変なことなのよ。上役である私の言いつけを守ることができなかったことへの折檻であり、赤の他人の貴方たちが口を出す問題ではないわ!」

 メイド長は俺に握られた手を振りほどこうと、ヒステリックに叫びながら、身を捩じらせていた。

「マリアン様、申し訳ありません。言いつけを破ったのはわたくしです。お仕置きは甘んじて受けます。その方たちはご厚意でわたくしを助けて頂いただけです」

 地面に倒れたメラニアが、額を地面に擦りつけてメイド長に謝罪を行っていた。

 その姿を往来の人が物珍しそうにチラ見していく。

「とりあえず、ここで余り大っぴらに事を荒立てるのは、あんたのご主人様の評判を下げることになると思うんで、手を収めてくれないだろうか」

 メイド長は周囲に視線に気づいたようで、俺の言葉に従い手の力を収めていく。これ以上、公衆の面前で彼女を叩く可能性はないと判断したため、手を放してやった。

「し、仕方ない。メラニアっ! 頭を下げている暇があったら、すぐに荷物を持って私の後に続きなさいっ!」

 メイド長は頭を下げて謝罪しているメラニアに一瞥もくれずに足早に商店街の方へ向かって歩いていく。

「は、はい。ただいま追い駆けます。皆さん、お手伝いありがとうございました」

 重い荷物を背負いなおして、立ち上がったメラニアがちょこんと俺たちに向けて頭を下げていくと、足早に立ち去ったメイド長たちの後を追って商店街に消えていった。

「それにしても、どこのメイドだろうか……。メイドたちのトップであるメイド長があんな……」

「メイド長も見ない顔ね。本当にどこの家のメイドかしら」

「最近来た貴族、ギルドマスターの家くらい。新顔、そこの家の可能性高い」

「メラニアさん、叩かれていたね。痛くなかったかなー。グレイズさん、ファーマたち悪いことしちゃったから、メラニアさん怒られたのー?」

「それも、公衆の面前でとは……可哀想すぎます」

「メイドの躾と言われてしまえば、俺らが口を出せなくなっちまうからなぁ。メラニアには悪いことしちまったな……」

 俺がメイド長の手を止めたため、メンバーたちも合えて騒ぎを大きくしないようにと配慮してくれて黙っていてくれたが、メラニアたちが立ち去るとメイド長の行為に対して憤慨しているようである。

 だが、俺たちが他人の家のルールに口出しできる立場ではないことも理解しており、ただメラニアの心配をしてやれるだけであった。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。