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アルガド視点
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※アルガド視点
「アルガド様、このヴィケットが王都にて面白い情報を仕入れて参りましたぞ」
ダンジョン探索禁止令を布告したことで、冒険者ギルドでの仕事は休止状態となり、屋敷の執務室でヴィケットを迎えている。
メラニアの実家へ婚約破棄を伝える使者を発すると同時に、ヴィケットには王都での宰相閣下の動向に関しての情報収集をさせていた。
そのヴィケットが自ら馬車を走らせ駆け通しで、このブラックミルズに戻って来ていたのだ。
「面白い情報だと? それよりもわたしの婚約破棄の件は王都でどう扱われておるのかの報告が先だ。すでに父上に発した使者は帰還して、婚約破棄の件は宰相閣下とメラニアの実家によるわたしの暗殺計画だったと理解してもらえたようで、破棄に関して前向きな回答を得ているぞ」
「はぁ、それは重畳ですなぁ。その件に絡めまして面白い情報を仕入れましたので、お耳をお借りいたしたく存じます」
「よかろう。許す」
ヴィケットは周囲に人影のないことを確かめ、わたしの横に立つと、耳元に口を寄せてきてた。
『実は王都で宰相閣下の周辺を探っておりましたが、どうもアルガド様の婚約破棄の件以外で騒がしかった様子でして。なんでも、王が替え玉を立てて出奔したとか、しないとか。宰相閣下はそちらの対応に追われてメラニア嬢との婚約破棄どころではないようです。これは、私が王都のお得意様の宰相閣下に近い大貴族の方から仕入れましたので、情報の確度高いと思われます』
ヴィケットがもたらした情報は大いに驚きに溢れるものであった。
王が身代わりを立てて出奔したという情報は、王国を揺るがす一大事であるからだ。
宰相閣下が我がクレストン公爵家に対し、色々と介入できていたのは王を自分の懐中とも言える王城に収めていたからで、その権力の源たる王を失ったとなれば落ち着いていられる訳はないはずであった。
「ハハハっ! そいつは面白い情報だ。王が国を捨て出奔とはな。これは父上にお伝えせねば。父上がこの話を知れば国の乗っ取りにやる気を見せて、わたしの結婚問題など雲散霧消するだろうな」
「ただ、この話には続きがありまして」
「なんだと? 申してみよ」
「はい、宰相閣下が関係者を詰問して聞き出した王の出奔理由がどうも姉を探し出すためだと言うことらしいのです。なんでも最近、王に取り入った者が王の血縁者が残っていると囁いたらしいのです」
ヴィケットのもたらした追加の情報は疑問符が浮かぶ。
現王は我がクレストン家が推した者と、宰相閣下の推した現王の父とが一八年ほど前に血縁者を巻き込んで暗殺や毒殺などで殺し合いを行ったはずである。
最終的に現王の父が王に就任する直前に毒殺され、一歳の幼児だった現王が一五年前に王に就任し、以来宰相閣下が国政を牛耳ってい現状が続いているのだ。
なので、王には身内、血族といった近親者は全て死に絶えているはずである。
そんな王に血縁者がいるとは思えなかった。
「王に囁いた者の嘘ではないのか? 王の血縁者はあの壮絶な殺し合いで生き残った者などと……」
「宰相閣下も同じように考えたらしく、王に囁いた者を拷問して真偽のほどを確かめているらしいですぞ」
「王に血縁者か……。これも父上にお伝えした方がいい情報だな。なにせ、あの殺し合いをした当事者であることだし」
ヴィケットがもたらした情報は、父親の野心に再び火をつける結果を招く気がするが、そうなれば、わたしのことを構う時間もなくなってくれるだろう。
父が王になるのか、誰か別の者を立てるのか分からないが、わたしは国政に関わらず悠々自適な生活を送るように立ち回るべきか。
「ヴィケット。この話は、わたしだけにしか、まだしておらぬな」
「はい、アルガド様のお耳に入れようと誰にも伝えておりません」
「この話は父上とわたし以外には他言無用だ。よいな」
「ははっ! 心得ました」
ヴィケットが丁重に頭を下げていた。
王を逃がし、宰相閣下が王都で慌てふためいていると分かれば、ダンジョンに閉じ込めているグレイズたちを処理することに全力を注ぐべき時がきたと思われる。
「さて、宰相閣下の横槍が入らないと分かれば、メラニアとグレイズをキッチリと処理するとしよう」
「そちらも抜かりなく。王都でくすぶっていた暗殺者どもを雇って参りました。冒険者たちだけでは、例のグレイズを討ち漏らす可能性はありますので。確実を期して殺すプロを連れて参りました」
ヴィケットは前回の失敗を糧にして、グレイズを確実に葬るために、暗殺を専門に請け負う者たちを王都で雇ってきていたようだ。
やはり、この男はわたしの意図を汲んでより良い選択をしてくれる男である。
王都の暗殺者たちは毒を良く使い、その毒は猛毒であるとして知られていた。
「そうか。ならば、冒険者たちと共にダンジョンに送りこめ、探索禁止令を出して出入り口は封鎖してあるからな。今、ダンジョンの中にいる奴等は皆殺しでかまわん。どうせほどんど雑魚冒険者だしな。暗殺者たちにはそのことをしっかりと伝えておけ」
「ははっ! 心得ました。すぐに潜らせます」
ヴィケットがわたしに一礼すると、執務室から駆け出していった。
もう少しで色々と煩わしいことから解放され、マリアンと一緒に悠々自適な生活を送れる時期が近付いてきている。
わたしはその生活を夢想すると湧き上がる笑いを抑えることが難しかった。
「アルガド様、このヴィケットが王都にて面白い情報を仕入れて参りましたぞ」
ダンジョン探索禁止令を布告したことで、冒険者ギルドでの仕事は休止状態となり、屋敷の執務室でヴィケットを迎えている。
メラニアの実家へ婚約破棄を伝える使者を発すると同時に、ヴィケットには王都での宰相閣下の動向に関しての情報収集をさせていた。
そのヴィケットが自ら馬車を走らせ駆け通しで、このブラックミルズに戻って来ていたのだ。
「面白い情報だと? それよりもわたしの婚約破棄の件は王都でどう扱われておるのかの報告が先だ。すでに父上に発した使者は帰還して、婚約破棄の件は宰相閣下とメラニアの実家によるわたしの暗殺計画だったと理解してもらえたようで、破棄に関して前向きな回答を得ているぞ」
「はぁ、それは重畳ですなぁ。その件に絡めまして面白い情報を仕入れましたので、お耳をお借りいたしたく存じます」
「よかろう。許す」
ヴィケットは周囲に人影のないことを確かめ、わたしの横に立つと、耳元に口を寄せてきてた。
『実は王都で宰相閣下の周辺を探っておりましたが、どうもアルガド様の婚約破棄の件以外で騒がしかった様子でして。なんでも、王が替え玉を立てて出奔したとか、しないとか。宰相閣下はそちらの対応に追われてメラニア嬢との婚約破棄どころではないようです。これは、私が王都のお得意様の宰相閣下に近い大貴族の方から仕入れましたので、情報の確度高いと思われます』
ヴィケットがもたらした情報は大いに驚きに溢れるものであった。
王が身代わりを立てて出奔したという情報は、王国を揺るがす一大事であるからだ。
宰相閣下が我がクレストン公爵家に対し、色々と介入できていたのは王を自分の懐中とも言える王城に収めていたからで、その権力の源たる王を失ったとなれば落ち着いていられる訳はないはずであった。
「ハハハっ! そいつは面白い情報だ。王が国を捨て出奔とはな。これは父上にお伝えせねば。父上がこの話を知れば国の乗っ取りにやる気を見せて、わたしの結婚問題など雲散霧消するだろうな」
「ただ、この話には続きがありまして」
「なんだと? 申してみよ」
「はい、宰相閣下が関係者を詰問して聞き出した王の出奔理由がどうも姉を探し出すためだと言うことらしいのです。なんでも最近、王に取り入った者が王の血縁者が残っていると囁いたらしいのです」
ヴィケットのもたらした追加の情報は疑問符が浮かぶ。
現王は我がクレストン家が推した者と、宰相閣下の推した現王の父とが一八年ほど前に血縁者を巻き込んで暗殺や毒殺などで殺し合いを行ったはずである。
最終的に現王の父が王に就任する直前に毒殺され、一歳の幼児だった現王が一五年前に王に就任し、以来宰相閣下が国政を牛耳ってい現状が続いているのだ。
なので、王には身内、血族といった近親者は全て死に絶えているはずである。
そんな王に血縁者がいるとは思えなかった。
「王に囁いた者の嘘ではないのか? 王の血縁者はあの壮絶な殺し合いで生き残った者などと……」
「宰相閣下も同じように考えたらしく、王に囁いた者を拷問して真偽のほどを確かめているらしいですぞ」
「王に血縁者か……。これも父上にお伝えした方がいい情報だな。なにせ、あの殺し合いをした当事者であることだし」
ヴィケットがもたらした情報は、父親の野心に再び火をつける結果を招く気がするが、そうなれば、わたしのことを構う時間もなくなってくれるだろう。
父が王になるのか、誰か別の者を立てるのか分からないが、わたしは国政に関わらず悠々自適な生活を送るように立ち回るべきか。
「ヴィケット。この話は、わたしだけにしか、まだしておらぬな」
「はい、アルガド様のお耳に入れようと誰にも伝えておりません」
「この話は父上とわたし以外には他言無用だ。よいな」
「ははっ! 心得ました」
ヴィケットが丁重に頭を下げていた。
王を逃がし、宰相閣下が王都で慌てふためいていると分かれば、ダンジョンに閉じ込めているグレイズたちを処理することに全力を注ぐべき時がきたと思われる。
「さて、宰相閣下の横槍が入らないと分かれば、メラニアとグレイズをキッチリと処理するとしよう」
「そちらも抜かりなく。王都でくすぶっていた暗殺者どもを雇って参りました。冒険者たちだけでは、例のグレイズを討ち漏らす可能性はありますので。確実を期して殺すプロを連れて参りました」
ヴィケットは前回の失敗を糧にして、グレイズを確実に葬るために、暗殺を専門に請け負う者たちを王都で雇ってきていたようだ。
やはり、この男はわたしの意図を汲んでより良い選択をしてくれる男である。
王都の暗殺者たちは毒を良く使い、その毒は猛毒であるとして知られていた。
「そうか。ならば、冒険者たちと共にダンジョンに送りこめ、探索禁止令を出して出入り口は封鎖してあるからな。今、ダンジョンの中にいる奴等は皆殺しでかまわん。どうせほどんど雑魚冒険者だしな。暗殺者たちにはそのことをしっかりと伝えておけ」
「ははっ! 心得ました。すぐに潜らせます」
ヴィケットがわたしに一礼すると、執務室から駆け出していった。
もう少しで色々と煩わしいことから解放され、マリアンと一緒に悠々自適な生活を送れる時期が近付いてきている。
わたしはその生活を夢想すると湧き上がる笑いを抑えることが難しかった。
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