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アルガド視点
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※アルガド視点
父であるデルガド・クレストンからの呼び出しがあり、わたしはグレイズとメラニアの処理をヴィケットに任せ、ブラックミルズを離れ、父の居城があるパークラインに向けて馬車を走らせていた。
呼び出しの理由は先触れの使者に持たせたヴィケットが得た王の失踪に関して詳しく知らせよと呼び出しがかかり、面倒だとは思いながらも、メラニアとの婚約破棄を父にも追認してもらうため父のもとに向かっている。
現王の就任までに色々と血生臭い闘争を繰り広げた宰相閣下との間には、修復不可能な亀裂が入っており、今回の王の失踪が父の中で燻っていた政権奪取への野心に火を灯したらしい。
現状、王国はダンジョンから手に入るドロップ品や装備、貴金属類などにより財政は富み、強い外敵もおらず、内部の権力闘争に十分に力を注ぐことができる時勢ではあるが、できれば当事者として巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
国権を握るための権勢など面倒なだけである。
わたしは自由になる金と自由になる時間、それに好みの女に囲まれ楽しく日々を送りたいだけなのだ。
そのためにブラックミルズでのギルドマスターの仕事も引き受け、闇市を拡大し、冒険者ギルドの売り上げを誤魔化して、資金を蓄えている。
それらすべてが無駄になることだけは避けたいので、宰相閣下との権力闘争は父と取り巻きの貴族たちに任せ、わたしは両陣営から距離を置いて静観をするつもりでいた。
玉座などただの冷たい石の椅子でしかないのに、なにゆえ皆はアレを手に入れるために狂奔するのかが理解できぬな。
そんなことを考えていたら、目的地の父の居城に到着していた。
勝手知ったる我が家ではあるが、家を新たに興し独立した貴族となっているため、謁見の間に先導する執事の後をついて歩いていく。
やがて、贅沢の限りを尽くしたクレストン家の謁見の間に到着する。
王城と同じ規模で二〇〇人は収容できる大きな謁見の間に設えた石の玉座に父デルガド・クレストンが肘を突いてすでに座っていた。
「これは、父上。わたしの登城が遅かったようですな」
父に恭しく頭を下げ、挨拶代わりの嫌味を飛ばす。
「よい。普段なら怒りもするが、今ならば、お前の登城が遅れるくらいのことは我慢できるわ。で、単刀直入に本題に入らせてもらうぞ。あの話は本当なのか?」
父デルガドは玉座から身を乗り出さんばかりに、先触れの使者に持たせた書状に書いた内容を確認してきた。
ここで、簡単に情報を引き渡すと、体よくその後も父に使われるのは目に見えているため惚けることにした。
「あの話とはどの話のことですかな?」
「書状に書いてあった話のことだっ!」
「ああ、わたしの婚約破棄の話ですか。実はメラニア嬢が不貞を行いまして――」
「馬鹿者っ!! そんな小さな話はどうでもよいわっ!!」
「いえ、これは小さな話ではないのです。書状にも書きましたが、メラニア嬢は召喚術士の力を持つ暗殺者でした。婚約の仲介をした宰相閣下はメラニア嬢を使い、わたしを亡き者にしてクレストン家の断絶を狙っていると思われます」
「なんだとっ! そういえば、そのような話が書状に書いてあったな。あの狐野郎は玉座を自由にするだけじゃ飽き足らず、うちも潰しに来たのか。さてはついに……」
普段をまったく顔の表情を変えない父であるが、今は顔色を見るだけで思考が手に取るように理解できる。
『王の失踪』と『宰相閣下のクレストン家嫡男への暗殺者派遣』という二点が、父の中で宰相による王国乗っ取りクーデターという妄想を引き起こしているはずだ。
ヴィケットから得た情報では宰相閣下は王の出奔に慌てていたというので、乗っ取る気などはないのだろうが、父のやる気に水を差すのは子としては出しゃばり過ぎるため黙っておくことにした。
「父上、これは由々しき事態ですな。王国の危機とも言ってよろしいかと。ここは宰相閣下との融和路線は破棄して全面対決をするべきかと、わたしは思案いたします。ただ、相手が相手ですので、まずはわたしとメラニア嬢との正式な婚約破棄通告を皮切りに本丸である宰相閣下のクーデターを追求していったみ方がよろしいかと」
父がわたしの意見を聞くと、顎に手を当てて考え込み始める。
すでに宰相閣下のクーデターというのは、父の中で事実化されたようなので放っておいても国を二分する大喧嘩が始まるはずだ。
だが、その前にクレストン家として正式にメラニアのヴィーハイブ家との婚約を破棄だけはしてもらわなければ困る。
それだけ宣言してもらえれば、もう用無しである。後は権力闘争の中で父が死ねば棚ぼた式にクレストン家の当主が転がり込むし、父が宰相閣下を打倒すれば、この分だと自分が王位に就くと思われ、空いたクレストン家の当主の座はどっちにしろわたしに転がり込む。
逆に宰相閣下が父を打倒すれば、その時はクレストン家に付き従う貴族家の中で中規模くらいの当主の首を数個差し出して手打ちをするつもりだ。
どっちに転んでもわたしはクレストン家の当主になれると思われる。
父と宰相閣下が殺し合いを始めたら、巻き込まれないように僻地のブラックミルズに籠り、自らの私兵たちで周囲を固め、暗殺だけされないようにして嵐が過ぎ去るのを待てばいい。
住めば都とは誰かが言っていたが、僻地であるブラックミルズではあるが、意外と住みよい街であり、食指の動く平民女も多数いるため、引きこもるにはちょうど良い街だと思える。
ギルドマスターの仕事もひと段落ついたことだし、グレイズとメラニアの死亡をさえ確認すれば、あとはマリアンとアルマ、それに街の女たちを屋敷に引っぱり込んで悠々自適な生活を送ることにしよう。
そんな風に考えていたら、父が玉座からスッと立ち上がって宣言していた。
「よかろうっ!! お前とメラニア嬢の婚約は正式に破棄するっ!! そして、王都に乗り込んであの狐野郎のクーデターを糾弾して追い落としてくれるわっ! アルガド、お前はついてくるか?」
「いえ、わたしでは父上の足手まといになりかねませぬ。任地であるブラックミルズにて職務に精励させてもらい、父上の後方支援をさせてもらいます」
「分かった。後ろは任せるぞ!」
「ははっ! 父上のご武運をお祈りいたします」
わたしは恭しく頭を下げ、下を向くと思わずこみ上げそうになる笑いを抑えるのに必死だった。
こうして、父デルガド・クレストンは取り巻き貴族たちを集め、一路宰相の勢力圏である王都へ向け出発していった。
父であるデルガド・クレストンからの呼び出しがあり、わたしはグレイズとメラニアの処理をヴィケットに任せ、ブラックミルズを離れ、父の居城があるパークラインに向けて馬車を走らせていた。
呼び出しの理由は先触れの使者に持たせたヴィケットが得た王の失踪に関して詳しく知らせよと呼び出しがかかり、面倒だとは思いながらも、メラニアとの婚約破棄を父にも追認してもらうため父のもとに向かっている。
現王の就任までに色々と血生臭い闘争を繰り広げた宰相閣下との間には、修復不可能な亀裂が入っており、今回の王の失踪が父の中で燻っていた政権奪取への野心に火を灯したらしい。
現状、王国はダンジョンから手に入るドロップ品や装備、貴金属類などにより財政は富み、強い外敵もおらず、内部の権力闘争に十分に力を注ぐことができる時勢ではあるが、できれば当事者として巻き込まれるのは勘弁して欲しい。
国権を握るための権勢など面倒なだけである。
わたしは自由になる金と自由になる時間、それに好みの女に囲まれ楽しく日々を送りたいだけなのだ。
そのためにブラックミルズでのギルドマスターの仕事も引き受け、闇市を拡大し、冒険者ギルドの売り上げを誤魔化して、資金を蓄えている。
それらすべてが無駄になることだけは避けたいので、宰相閣下との権力闘争は父と取り巻きの貴族たちに任せ、わたしは両陣営から距離を置いて静観をするつもりでいた。
玉座などただの冷たい石の椅子でしかないのに、なにゆえ皆はアレを手に入れるために狂奔するのかが理解できぬな。
そんなことを考えていたら、目的地の父の居城に到着していた。
勝手知ったる我が家ではあるが、家を新たに興し独立した貴族となっているため、謁見の間に先導する執事の後をついて歩いていく。
やがて、贅沢の限りを尽くしたクレストン家の謁見の間に到着する。
王城と同じ規模で二〇〇人は収容できる大きな謁見の間に設えた石の玉座に父デルガド・クレストンが肘を突いてすでに座っていた。
「これは、父上。わたしの登城が遅かったようですな」
父に恭しく頭を下げ、挨拶代わりの嫌味を飛ばす。
「よい。普段なら怒りもするが、今ならば、お前の登城が遅れるくらいのことは我慢できるわ。で、単刀直入に本題に入らせてもらうぞ。あの話は本当なのか?」
父デルガドは玉座から身を乗り出さんばかりに、先触れの使者に持たせた書状に書いた内容を確認してきた。
ここで、簡単に情報を引き渡すと、体よくその後も父に使われるのは目に見えているため惚けることにした。
「あの話とはどの話のことですかな?」
「書状に書いてあった話のことだっ!」
「ああ、わたしの婚約破棄の話ですか。実はメラニア嬢が不貞を行いまして――」
「馬鹿者っ!! そんな小さな話はどうでもよいわっ!!」
「いえ、これは小さな話ではないのです。書状にも書きましたが、メラニア嬢は召喚術士の力を持つ暗殺者でした。婚約の仲介をした宰相閣下はメラニア嬢を使い、わたしを亡き者にしてクレストン家の断絶を狙っていると思われます」
「なんだとっ! そういえば、そのような話が書状に書いてあったな。あの狐野郎は玉座を自由にするだけじゃ飽き足らず、うちも潰しに来たのか。さてはついに……」
普段をまったく顔の表情を変えない父であるが、今は顔色を見るだけで思考が手に取るように理解できる。
『王の失踪』と『宰相閣下のクレストン家嫡男への暗殺者派遣』という二点が、父の中で宰相による王国乗っ取りクーデターという妄想を引き起こしているはずだ。
ヴィケットから得た情報では宰相閣下は王の出奔に慌てていたというので、乗っ取る気などはないのだろうが、父のやる気に水を差すのは子としては出しゃばり過ぎるため黙っておくことにした。
「父上、これは由々しき事態ですな。王国の危機とも言ってよろしいかと。ここは宰相閣下との融和路線は破棄して全面対決をするべきかと、わたしは思案いたします。ただ、相手が相手ですので、まずはわたしとメラニア嬢との正式な婚約破棄通告を皮切りに本丸である宰相閣下のクーデターを追求していったみ方がよろしいかと」
父がわたしの意見を聞くと、顎に手を当てて考え込み始める。
すでに宰相閣下のクーデターというのは、父の中で事実化されたようなので放っておいても国を二分する大喧嘩が始まるはずだ。
だが、その前にクレストン家として正式にメラニアのヴィーハイブ家との婚約を破棄だけはしてもらわなければ困る。
それだけ宣言してもらえれば、もう用無しである。後は権力闘争の中で父が死ねば棚ぼた式にクレストン家の当主が転がり込むし、父が宰相閣下を打倒すれば、この分だと自分が王位に就くと思われ、空いたクレストン家の当主の座はどっちにしろわたしに転がり込む。
逆に宰相閣下が父を打倒すれば、その時はクレストン家に付き従う貴族家の中で中規模くらいの当主の首を数個差し出して手打ちをするつもりだ。
どっちに転んでもわたしはクレストン家の当主になれると思われる。
父と宰相閣下が殺し合いを始めたら、巻き込まれないように僻地のブラックミルズに籠り、自らの私兵たちで周囲を固め、暗殺だけされないようにして嵐が過ぎ去るのを待てばいい。
住めば都とは誰かが言っていたが、僻地であるブラックミルズではあるが、意外と住みよい街であり、食指の動く平民女も多数いるため、引きこもるにはちょうど良い街だと思える。
ギルドマスターの仕事もひと段落ついたことだし、グレイズとメラニアの死亡をさえ確認すれば、あとはマリアンとアルマ、それに街の女たちを屋敷に引っぱり込んで悠々自適な生活を送ることにしよう。
そんな風に考えていたら、父が玉座からスッと立ち上がって宣言していた。
「よかろうっ!! お前とメラニア嬢の婚約は正式に破棄するっ!! そして、王都に乗り込んであの狐野郎のクーデターを糾弾して追い落としてくれるわっ! アルガド、お前はついてくるか?」
「いえ、わたしでは父上の足手まといになりかねませぬ。任地であるブラックミルズにて職務に精励させてもらい、父上の後方支援をさせてもらいます」
「分かった。後ろは任せるぞ!」
「ははっ! 父上のご武運をお祈りいたします」
わたしは恭しく頭を下げ、下を向くと思わずこみ上げそうになる笑いを抑えるのに必死だった。
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