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第二部 第一五章 情報収集
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マリアンとアルマを連れ、アルガドの屋敷を出ようとしたところでマリアンが振り絞って声を出した。
「わ、私を連れ去ったら、アルガドが証拠を隠滅して逃げるわ。ここは手を組むことを提案させてもらう」
捕えていたマリアンが逃げ出そうとしている俺たちに共闘を申し込んできていた。
「共闘だと? お前が宰相のスパイという話は本当なのか?」
俺はマリアンが大声を出す気がないとみて、手の力を緩める。
「……聞いていたのね。乙女の秘密の話を盗み聞きしてるなんて、いやらしい男。そう、私はクレストン家を没落させようとしている宰相閣下から、アルガドを篭絡するために送り込まれたスパイよ。もう少しで、あの豚を地獄に堕とすことができるところで貴方たちに引っ掻き回されると、すべての段取りが水の泡になってしまうのよ。アルガドの断罪はこちらに任せなさい」
先ほどの話を聞いていたため、マリアン自身が宰相側のスパイだと暴露しても驚きはなかった。
アルガドは自らが一番信頼している者にすら裏切られている男であるようだ。人を使い、自らを安全圏において、欲望を達成しようとしていた男が愛してやまない女が実家のライバルである宰相と繋がっていると知った時、あいつはどんな顔をするのだろうと一瞬思った。
しかし、マリアンを操っている宰相が今回の件に介入するとなると、色々と込み入った話になってくる可能性がある。なんせ、こっちは王であるジェネシスからの依頼もあるしな。
「悪いが、こっちは宰相閣下よりも上の人からアルガドを断罪するために協力しろと言われているんでね」
「貴方が死んでないとなると、メラニアも無事で、王とも合流したのね。だったら、なおさら共闘をした方がいいわ。王の命を守るために」
マリアンは宰相が王であるジェネシスに危害を加える可能性があると示唆していた。
王国内でクレストン家と並ぶほどの権勢を持つ宰相からジェネシスが思い通りにならない王なら用済みとばかりに命を狙われれば、幾日も生きていられないかもしれない。
仮に王座を宰相に譲ったとしても生き延びるのは難しいだろう。
まだ、若いジェネシスには何としても生き延びてもらい、王として国を運営してもらいたい。
そう思った俺はマリアンからの共闘の申し出を条件付きで受けることにした。
「……分かった。共闘の提案を受け入れる条件はアルマの身柄引き取りと、ジェネシスとメラニアの保護だ。それだけ、保証してくれるなら受け入れる」
俺からの提示された条件を吟味しているのか、しばしの沈黙が流れる。
「……良いわ。ただ、こちらからも条件があるの。グレイズがアルマを説得してアルガドが行っている冒険者ギルドでの不正経理を記した帳簿を出させて頂戴」
「冒険者ギルドの不正経理だと……」
不正経理という言葉で抱き抱えていたアルマが身を固くするのが感じ取れた。
「それは、私が個人的に……アルガドに頼まれて。でも、私以外ギルド職員は誰も関与してません。だからこの罪は私が贖います。私は罪を犯しましたから……」
「アルマ……お前がそこまで追い詰められていたとは……」
「グレイズ、アルマを助けたいなら帳簿を見つけてこっちに渡すことね。アルガドにはアルマは舌を噛み切って死んだと伝えて誤魔化しておくわ。私はアルガドの信用されているからね」
マリアンがアルガドを追い詰めるための証拠を欲しているため、アルマを死んだことにして帳簿を手に入れるようにと持ち掛けてくる。
「グレイズさん、取引に乗るのは……。グレイズさんもこの件に連座することになりかねません。私のためにそんな提案には乗らないで」
「悪いがアルマの願いでもそれは聞けない。俺はお前を助けるって決めたからな。アルマは俺が結構ワガママな男だって知っているだろ?」
「グレイズさん……。本当に馬鹿です。せっかく、生きて帰ってきたのに、ただのギルド職員の私のことを守ろうとするだなんて……。馬鹿すぎです。ばかぁ。グレイズさんなんて、みんなとイチャイチャしてればいいんですから……。私みたいなのは、ほっとけばいいんです。ばか、ばか」
俺に片手で抱き抱えられたアルマが嗚咽を漏らして泣いていた。怒っているようで俺の足を手で叩いていた。
前々から彼女の気持ちには気付いていたが、俺の優柔不断さが招いたアルマの災難だった。
俺がアルガドの悪事を見抜けていれば、真面目なアルマが犯罪に手を染めることもなかったはずであり、今回のアルガドに関するすべての件は自分の人を見る目の無さが招いた失態である。
だから、アルマ一人を犯罪者として突き出させる気はない。
「帳簿はアルマに出させる。そして、アルガドを追い落とすまでは力を貸してやる。だが、それ以降はこっちにちょっかいを出そうとすれば俺は全力で阻止させてもらうからな。そう思っておけ」
「いいわ。宰相閣下もクレストン家だけ排除できれば満足だしね。一国民の首なんて欲しないわ」
俺はアルガドを追い落とすまでの共闘をマリアンに確約して、アルマだけを連れて、屋敷から姿を消した。
翌日、アルガドの屋敷ではマリアンの口から、アルマが舌を切って死んだアルガドに伝えられた。その報告を聞いたアルガドは僅かに顔をしかめただけで、アルマの顔を確認することもせずに屋敷外に処分するように伝えただけであった。
「わ、私を連れ去ったら、アルガドが証拠を隠滅して逃げるわ。ここは手を組むことを提案させてもらう」
捕えていたマリアンが逃げ出そうとしている俺たちに共闘を申し込んできていた。
「共闘だと? お前が宰相のスパイという話は本当なのか?」
俺はマリアンが大声を出す気がないとみて、手の力を緩める。
「……聞いていたのね。乙女の秘密の話を盗み聞きしてるなんて、いやらしい男。そう、私はクレストン家を没落させようとしている宰相閣下から、アルガドを篭絡するために送り込まれたスパイよ。もう少しで、あの豚を地獄に堕とすことができるところで貴方たちに引っ掻き回されると、すべての段取りが水の泡になってしまうのよ。アルガドの断罪はこちらに任せなさい」
先ほどの話を聞いていたため、マリアン自身が宰相側のスパイだと暴露しても驚きはなかった。
アルガドは自らが一番信頼している者にすら裏切られている男であるようだ。人を使い、自らを安全圏において、欲望を達成しようとしていた男が愛してやまない女が実家のライバルである宰相と繋がっていると知った時、あいつはどんな顔をするのだろうと一瞬思った。
しかし、マリアンを操っている宰相が今回の件に介入するとなると、色々と込み入った話になってくる可能性がある。なんせ、こっちは王であるジェネシスからの依頼もあるしな。
「悪いが、こっちは宰相閣下よりも上の人からアルガドを断罪するために協力しろと言われているんでね」
「貴方が死んでないとなると、メラニアも無事で、王とも合流したのね。だったら、なおさら共闘をした方がいいわ。王の命を守るために」
マリアンは宰相が王であるジェネシスに危害を加える可能性があると示唆していた。
王国内でクレストン家と並ぶほどの権勢を持つ宰相からジェネシスが思い通りにならない王なら用済みとばかりに命を狙われれば、幾日も生きていられないかもしれない。
仮に王座を宰相に譲ったとしても生き延びるのは難しいだろう。
まだ、若いジェネシスには何としても生き延びてもらい、王として国を運営してもらいたい。
そう思った俺はマリアンからの共闘の申し出を条件付きで受けることにした。
「……分かった。共闘の提案を受け入れる条件はアルマの身柄引き取りと、ジェネシスとメラニアの保護だ。それだけ、保証してくれるなら受け入れる」
俺からの提示された条件を吟味しているのか、しばしの沈黙が流れる。
「……良いわ。ただ、こちらからも条件があるの。グレイズがアルマを説得してアルガドが行っている冒険者ギルドでの不正経理を記した帳簿を出させて頂戴」
「冒険者ギルドの不正経理だと……」
不正経理という言葉で抱き抱えていたアルマが身を固くするのが感じ取れた。
「それは、私が個人的に……アルガドに頼まれて。でも、私以外ギルド職員は誰も関与してません。だからこの罪は私が贖います。私は罪を犯しましたから……」
「アルマ……お前がそこまで追い詰められていたとは……」
「グレイズ、アルマを助けたいなら帳簿を見つけてこっちに渡すことね。アルガドにはアルマは舌を噛み切って死んだと伝えて誤魔化しておくわ。私はアルガドの信用されているからね」
マリアンがアルガドを追い詰めるための証拠を欲しているため、アルマを死んだことにして帳簿を手に入れるようにと持ち掛けてくる。
「グレイズさん、取引に乗るのは……。グレイズさんもこの件に連座することになりかねません。私のためにそんな提案には乗らないで」
「悪いがアルマの願いでもそれは聞けない。俺はお前を助けるって決めたからな。アルマは俺が結構ワガママな男だって知っているだろ?」
「グレイズさん……。本当に馬鹿です。せっかく、生きて帰ってきたのに、ただのギルド職員の私のことを守ろうとするだなんて……。馬鹿すぎです。ばかぁ。グレイズさんなんて、みんなとイチャイチャしてればいいんですから……。私みたいなのは、ほっとけばいいんです。ばか、ばか」
俺に片手で抱き抱えられたアルマが嗚咽を漏らして泣いていた。怒っているようで俺の足を手で叩いていた。
前々から彼女の気持ちには気付いていたが、俺の優柔不断さが招いたアルマの災難だった。
俺がアルガドの悪事を見抜けていれば、真面目なアルマが犯罪に手を染めることもなかったはずであり、今回のアルガドに関するすべての件は自分の人を見る目の無さが招いた失態である。
だから、アルマ一人を犯罪者として突き出させる気はない。
「帳簿はアルマに出させる。そして、アルガドを追い落とすまでは力を貸してやる。だが、それ以降はこっちにちょっかいを出そうとすれば俺は全力で阻止させてもらうからな。そう思っておけ」
「いいわ。宰相閣下もクレストン家だけ排除できれば満足だしね。一国民の首なんて欲しないわ」
俺はアルガドを追い落とすまでの共闘をマリアンに確約して、アルマだけを連れて、屋敷から姿を消した。
翌日、アルガドの屋敷ではマリアンの口から、アルマが舌を切って死んだアルガドに伝えられた。その報告を聞いたアルガドは僅かに顔をしかめただけで、アルマの顔を確認することもせずに屋敷外に処分するように伝えただけであった。
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