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日常編 男たちの酒盛り
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しおりを挟む「というわけで、うちの居候にメラニアの召喚獣となったノーライフキングが住むことになったわけだ」
メラニアの召喚術練習を終えて、ブラックミルズの街に引き上げてきたが、メンバーたちは新たに召喚獣になったクイーンの世話をするという名目でみんなで買い出しに出ていた。
みんなの買い出しが終わるまで一人になった俺は、仕事を終えたジェイミーと、冒険者としての装備を見繕っていたジェネシス、そして休日だった『おっさんず』の三人を酒場で見つけ、男たちだけで酒盛りを始めていたのだ。
「あー、あのノーライフキングっすよね? グレイズさんの回復魔法で破裂して小さくなってた」
俺が奢った串焼きの肉を食いながら、ジェネシスがノーライフキングを思い出していたようだ。
「確かに小僧っ子くらいにまで縮んでたなぁ。Sランク冒険者もはだしで逃げ出すノーライフキングもグレイズたちにかかるとペットみたいなもんだな」
「ちげえねぇ。あのノーライフキングに魂吸われても死なない男だしな」
「セーラの父親にはピッタリだな。子供はきっと強い冒険者になるぞ。グレイ」
『おっさんず』たちは、休日だったのですでに昼から酒を飲んでいたようでかなり出来上がってきていた。
最近では、ダンジョン販売店の給料も増額され、順調に借金が減っているので、懐が多少なりとも温まっているようであった。
「ブフゥウウっ!! モロー、馬鹿言っているんじゃねぇっ!! セーラは嫁に出さねえぇって言ってるだろうがっ!」
グレイが飲んでいたエールをモローに向けて噴き出していた。
「きったねぇな」
「グレイズ、セーラに手を出したら絶対に許さねぇぞっ!」
グレイがかなり酔っ払っているようで、セーラの話になった途端、俺に絡んできていた。
「手は出さねえから安心しろって」
酔っ払っているグレイがこれ以上暴れないように、努めて冷静に返答していた。
「あぁあんっ! おめえ、うちのセーラに女としての魅力がねえって言いたいのかっ! ありゃあ、このブラックミルズ一のいい女なんだぞっ! こらぁ!」
もうダメだ。出来上がり過ぎてグレイがめんどくさい酔っ払いになってやがる。
俺は『おっさんず』の二人に助けを求める視線を送った。
二人はニヤニヤしているだけで、俺を助ける気はなさそうであった。
「セーラはな。いい女なんだよ。そりゃあな、グレイズには女傑のメリーとか、公爵家当主のメラニアとか、才能溢れる子たちがいっぱいいるがな。セーラもあれはあれでなぁ苦労して生きてきてるんだよっ!」
「分かってる。分かってるから」
グレイが酒を片手に号泣し始めてしまっている。
誰だよ。こんなに酒飲ませたやつは。
飲ませた張本人たち二人がニヤニヤとしていた。
「まぁ、セーラもいい女だが、アルマもちゃんと面倒見てやれよ。アレは例の裁判で公衆の面前でグレイズの嫁にされたからな。もう、他に嫁の貰い手はこのブラックミルズにいなくなったぞ」
グレイが暴れている隣で、しみじみと煮込み料理を食いながらエールを飲んでいたジェイミーがボソリと俺に対して呟いていた。
「ボソリと言うな。それも理解しているつもりだ。俺もそこまで鈍感じゃないつもりだ」
「そうか、ならいい。これで、オレも安心して結婚したことを報告できるぜ」
「は!? ジェイミーお前何言って……」
しんみりと酒を飲んでいたと思ったジェイミーが、俺に向かって結婚指輪をはめた指を見せていた。
古株のギルド職員であるジェイミーであるが、ギルドマスター時代から独身を貫き通していた男が、いつのまにか結婚していたのだ。
俺は驚きの余りに何度もその指輪を見てしまっていた。
「いつの間にだよっ! そんな話聞いてないぞ」
「いつの間にって、まぁ、ホラ。ギルド職員を首になってからな。ホラ、倉庫番してたから、商店街の方で飲んでたことも増えてな。そこで、世話をしてくれるやつができて、まぁ、その押し切られたわけだ」
スキンヘッドのいかつい男が頭を掻いて照れた顔を見せていた。
年齢的にも俺と同じジェイミーであったが、ブラックミルズでもあまり居ない独身仲間であった男でもあるのだ。
四〇になっても妻帯しない男はブラックミルズでは希少である。大半の男性はその年齢に達するまでに結婚をして家庭を築いているのだ。
俺が商店街の連中から妻帯しないことを心配されるのは、そういった事情も加味されているのだが、それにしても希少な独身仲間が今一人脱落したことを知って衝撃を受けていた。
「お前、散々結婚する気ないって言ってたのに裏切りやがって」
「いや、オレもな。長い付き合いのグレイズがいるから、相手にもちょっと待ってくれとは言ったんだぜ。でも、ほら、相手も痺れをきらせてな。とうとうオレの指にも指輪がはまることになったわけだ」
「マジか……。ジェイミーまで結婚したら、俺へのプレッシャーが半端なくなるじゃねえか」
俺の中ではギルドマスターだったジェイミーが結婚していないのが、おばばたちに対する防波堤の役目も果たしていたので、ジェイミーの結婚により、これでより一層防ぎ切る盾を失ったことにもなったのだ。
俺もそろそろ陥落する時が近づいてきているのかもしれないなぁ。
「まぁ、結婚生活も案外悪いものじゃないさ。っと言ってもグレイズの場合はもう始まっているようなもんだろうけどな」
「あれは共同生活だっつーの」
「嫌だなぁ、ああいうのは嫁入り前の同棲って言うらしいっすよ。この前商店街の人たちにそう教えられたっす」
俺の言葉を聞いたジェネシスがもう一本の串焼きを取って口に運びながら、商店街の連中から仕込まれた知識を披露してくれていた。
王様であり、王宮で育ったジェネシスにはブラックミルズの街での生活は新たな発見ばかりであるようで、商店街や歓楽街に出向いては色々と変な知識を仕入れてきていたのだ。
「ジェネシス。いいか、あれは『共同生活』と言うんだ。『同棲』とは違う別物だぞ」
「グレイズの結婚恐怖症も大概なレベルだな。ジェネシスは真似するなよ。王様が結婚しないってなると国が乱れるからな」
ジェイミーが串焼きを食っているジェネシスを掴まえて、早めに結婚するように迫っていた。
「ああ、そうっすね。いい子がいたらすぐにでも結婚するようにと姉上にも念を押されていますしね」
ジェネシスも結婚は早めにする気であるらしい。三年という期限を切っての冒険者生活を行うと言っているため、それを終えたら王としての仕事をする気でいるらしい。
若いのに殊勝な心掛けの青年である。
「ふぅ、男どもからも俺は結婚を勧められる事態になっちまったか……」
「まぁ、そう言うな。いい女たちばかりじゃねえか。相手の返事は『イエス』しかねぇからな。あとはお前次第ってことさ。さぁ、オレの結婚祝いにグレイズの奢りで飲むぞー」
「あざっす。ゴチになります。グレイズさん」
「グレイズ、てめぇ、うちのセーラを泣かせたら容赦しねぇからなっ!」
その後、メリーたちがクイーンに必要な日用品を買い集めて戻ってきた時には、俺たちは完全に出来上がって酔い潰れており、みんなの肩を借りて郊外の家に帰る羽目になったことは不覚であった。
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