おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
168 / 232
ムエル外伝(本編とは関係ありません)

2

しおりを挟む

「遅かったわね。ローマンもあたしも待ちくたびれたわ」

 先にダンジョンの入り口にきて待っていたミラとローマンが、オレの姿を見つけて話しかけてきた。

 元々痩せていたミラであるが、この苦行ともいえる一ヵ月でさらに体は絞り込まれ、眼つきは野生の獣のような目に変化している。

 一方、ローマンも顔はこけて緩み始めていた身体も引き締まってきていた。

「すまんな。今日を生き残る方法を考えていたら遅れた」

「生き残ったところで何かが変わるわけではないだろう。だが、私は死にたくないぞ」

 収監されてから続く、命の危険が常に付きまとう探索の日々に、どこか冒険者としての自覚が薄かったローマンも覚悟を決めているようだ。

「看守から今日はD地区と聞いてるわ。あそこは魔物の出現率高い場所よ。慎重に行かないとすぐに肉塊にされるわね……」

 感情が前面に出て常にカリカリしていたミラも、毎日、命を削るような探索の日々が続いたことで怒りや焦りが自らの寿命を縮めると悟ったようで、以前とは比べ物にならないほど感情に起伏がなくなっている。

 ミラもローマンもオレも、生き残ることを最重要視したことで以前のオレたちとは変わり果てている。

 悔しいがこの一ヵ月はあのグレイズが、オレたちにうざいほど言い続けていた小言を忠実に実施することで生き延びられていた。

「D地区だからあまり戦いたくはないが、かといって成果物がなければ、オレたちは食い物を減らされ、装備もランクを落とされる。そうなれば、あとはあいつらと同じ道だ」

 オレはダンジョンの入り口付近にたむろって死を待っている者たちへ視線を向けた。

 重傷を負ってダンジョンから帰還し、回復不能と判定され、廃棄され死を待つ人間だった物であった。

 ああなってしまえば、もうどうしようもなくなる。ただ、徐々に弱る身体から与えられる苦痛だけが生きている証拠になるのだろう。

 あんなのには絶対なりたくない……。生きてさえいれば、何か変わる日が訪れるかもしれない。それまではなんとしても生き残り続けてやる。

「今回は大鉤爪熊ビックグローブベアーだけ狙う。それ以外は無視して逃げるぞ。大鉤爪熊ビックグローブベアーは動きも緩慢である程度軟らかい。ミラが牽制してオレがトドメってやれば数は狩れるはずだ。それ以外のは危険度が高いし、回復役のローマンが狙われるしな」

「そうしてもらえると助かる。この一ヵ月私も逃げ足だけは鍛えられたからな」

「了解、大鉤爪熊ビックグローブベアー狙いね。他のが寄ってきたらすぐに警告するわ」

「よし、じゃあD地区に行くぞ」

 今回の討伐魔物を決めると、オレたちはお互いに命を託す装備の再確認をしてダンジョンの奥に入っていった。

 
 オレたちの収監されている牢獄は、新発見されたダンジョンの近くに併設されている施設だ。

 その発見されたダンジョンはブラックミルズのダンジョンとは違い、廃墟型のダンジョンで入り口である大きな門を潜り抜けると、そこには廃墟化した街が広がっている。

 未だダンジョンの正式名称は決められていないが、収監されている者たちから『絶望都市』と言われている。

 発見されて数年の『絶望都市』はすでに多くの犯罪者の命を喰らい、年々門の内側のダンジョンを複雑化させ広げているそうだ。

 そんな『絶望都市』は比較的新しく作られた地域からA、B、C、Dと区画割りされており、オレたちが潜る予定のD地区は一番古い区画になっている。

 当然、古い区画はダンジョン主に近く、発生する魔物はブラックミルズの深層階に出てくるような強敵ばかりで死傷率も高い。

「さて、そろそろD地区に入るぞ。各自、体調を申告しろ」

「あたしは問題なし」

「私もない」

 すぐに返答が二人から返ってくる。ここにくるまでには消耗を抑えるため、最小限の戦闘しかしてこなかった。

「じゃあ、ミラ。先頭を頼む。ローマンも遅れるなよ」

「了解、先行するわね」

「分かっている。私は死にたくないからな」

 すぐにミラが先行して地区を隔てる大きな金属製の門の扉を開けていた。

 錆び付いた蝶番が奏でる軋んだ音とともにD地区と言われるこの『絶望都市』の最古の場所が目に飛び込んできた。

 そこは壁や屋根が崩れた街が軒を連ねているが、この世界で見る建築様式とは似ても似つかない形をしている。

 金属やガラスが建材として多用された街は、ここが異世界のように思えた。

 先行して魔物の気配を探っていたミラが立ち止まったかと思うと、オレたちに止まるよう手で制した。

「右奥の建物の中に一匹いるわ。左奥には別のがいるから手早くやりましょう」

 ミラの視線を追うと、右側の三軒先の廃墟に大鉤爪熊ビックグローブベアーが一体いて、何かを漁っている様子だった。

「了解、ローマンは少しだけ間をおいてから来い」

「ああ、回復はすぐに発動させられるようにしておく」

「できれば、温存しておきたいが、誰かが怪我したら頼む。ミラ、行くぞ」

「了解。先に仕掛ける」

 ミラがオレとともに何かを漁っている大鉤爪熊ビックグローブベアーに向かい駆け出した。

 駆け出していくと、こちらに気付いた大鉤爪熊ビックグローブベアーが漁るのをやめて身体をこちらに向ける。

 漁っていたのは、探索奴隷としてこの場所に送り込まれた受刑者の死体であった。

 恨めしそうにこちらに顔を向け、事切れた死体はすでに内臓を食いつくされ、顔と手足しか残っていなかった。

 そんなに恨めしそうにこっちを見るな。オレもヘマすれば、すぐに仲間入りしちまう身だ。

 凄惨な死にざまの死体を見ても、何ら感情は動揺することなく、ミラの牽制攻撃によって、意識が彼女に向いた大鉤爪熊ビックグローブベアーの一番軟らかい脇の下を狙い、オンボロの鉄の剣を突き入れていく。

 以前なら装備の力で圧倒できた魔物だが、今のオンボロ装備では下手な打ち込みをすれば折れる可能性があるため、一撃を放つのにも細心の注意を払って最高の一撃を打ち込む癖がつき始めている。

「ムエル、まだ生きてる。援護するわ」

 ミラが未だ生きている大鉤爪熊ビックグローブベアーの動きを見て警告を発し、手にした短刀を正確に敵の目に打ち込んでいた。

「助かる」

 大鉤爪熊ビックグローブベアーの筋肉に締め付けられた剣刃をもう一段奥へ向け押し込む。

 やがて、鼓動がゆっくりとなりだらりと腕が垂れたかと思うと、白煙となってドロップ品に変化していた。

「一匹目。ミラ、近づく魔物はいるか?」

「大丈夫。左側のは気付いてないわ」

 ミラは魔物を倒しても警戒を解くことなく、短剣を拾いながら周囲の気配を探っている。

「ドロップ品は私が持つ」

 追いついたローマンが手早く、ドロップ品を背中の背嚢バッグにしまい込む。

「今日は当たりの武器らしい。切れ味もなんとかなりそうだ」

「了解したわ。D地区だから装備が当たりだと助かる確率があがるわね」

「私の魔法はあまり当てにするなよ。回復魔法は止血くらいまでしかできないからな。折れたら直せん」

 魔法に関しては看守たちも厳しく管理しており、ローマンが与えられた杖も普通の武具屋なら廃棄されるようなゴミに近い杖であるのだ。

「分かっているわよ。次、行くわ」

 ミラは別の大鉤爪熊ビックグローブベアーを見つけたようで、すぐに戦闘態勢に入り、廃墟を奥に向かって進んでいった。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。