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日常編 王都への旅
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しおりを挟むお節介な女神様の謀略を寸でのところで阻止することに成功した俺は冒険者ギルドに顔を出していた。
「よぅ! グレイズ、いいところに来たな」
受付窓口にはアルマの命令で王都に出張していたはずのジェイミーの顔があった。
「あれ? 王都に出張だったんじゃないのか? 例の色々な許認可をもらいに王都のギルド本部に顔を出してたはずじゃ……」
「いやー、そのつもりで行ったんだがな。最近、冒険者ギルド本店で人事異動があったらしくてな。トップに座った奴が、『王様が認可したギルドマスターであろうが、本部に顔出ししない上に前例のない施策を独断で実施するとはけしからん』って頭の固い発言するやつになっちまってな。俺程度じゃ話にならんと門前払いされたのさ」
「いや、でもさジェネシスって一応アレでも王様なわけだろ。その王様が直接任命したギルドマスターにケチを付ける本店のトップもマズいんじゃないか?」
「酷いっすね。『一応』じゃなくて『ちゃんと』王様っすよ。今は宰相のサイアスに国事行為を代行させてますけど、修行期間が終われば正式に王として戻るつもりですし、俺は舐められてるんですかね? この場合、キッチリしめた方がいいっすか?」
ファルブラウ王国の最高権力者である国王の認可を受け、冒険者ギルドも営業活動を行っているため、今回の本店の仕打ちは彼の顔に泥を塗る行為ではある。
とはいえ、就任から一度たりとも顔を出さないギルドマスターを放置すれば、本店としての面子が立たないという相手側の事情も分かる気がした。
王様が直々に任命したギルドマスターなんて王国内でも俺一人くらいだろう。
多くのギルドマスターはその地の冒険者ギルドの職員から選ばれるか、本店から派遣された者が勤めるのが本来の姿だとアルマとジェイミーに聞いている。
イレギュラーな存在の俺が色々と新たな施策の案を持ち込めば拒否反応が強いのは予想できた。
「ジェネシス様、申し訳ありません。本店のやつらは頭硬いのが多いんで……。俺も国王陛下の任命したギルドマスターの代理だとお伝えしたのですがね。それが癪に障ったのか、相手の態度が硬化しましてギルドマスター本人が直接説明しに来ないと話は聞かないと駄々をこねられました」
「ほぅ、その本店のトップになったやつを『余』自らが顔を出して成敗してやろうか。『余』が任命したグレイズ殿をないがしろにする行為をしよって」
それまでのお調子者の駆け出し冒険者風の装いを捨て、本来の姿である王の姿が出てきていた。
「おい、ジェネシス。落ち着け、王様が一時の感情に流されて私刑を行うのは短慮が過ぎるぞ」
「嫌だなぁ、冗談っすよ。冗談。さぁて、今日はグレイズさんたち潜らないから警護のやつらと潜ってくるかぁ。窓口のお嬢さんなんか実入りのいい依頼ないっすか」
地金の王様の姿が出かかったジェネシスであったが、すぐに仮面を被り直し、冒険者の顔に戻って窓口の受付嬢と話を始めていた。
「とはいえ、やっぱり一度俺が顔を出した方が何事もスムーズに動くみたいだから、ちょっくら王都に顔を出してくるしかないかぁー。実施予定の施策も早いところ冒険者ギルドの認可ももらいたいところだし」
「あー、悪いがそうしてもらえるとありがてぇ。アルマがお前にどう報告しようか頭を抱えてたからな。お前が直接出向くと言ってくれれば万事解決だ」
「おぅ、そうするとしよう。アルマは上か?」
「ああ、上でお前に何て報告するか悩んでるはずだ」
俺はジェイミーに礼を言うと、二階の執務室へ足を運んだ。
「グ、グレイズさん~!! すみません、すみません。なんか色々とすみません!!」
部屋に入るとアルマがぺこぺこと頭を下げていた。
「まぁ、事情をジェイミーに聞いているので、アルマが謝る必要はない。とりあえず、俺が王都の本店に顔を出せばいいんだろ?」
「え、ええ。はい、そうですね。誠に申し訳ありませんが、人事異動があったようでトップになったハリアーさんが反王国派で冒険者ギルドの独立運営にこだわってる方らしいと、モーラッド一族のヨシュアさんが教えてくれました」
ジェネシスの耳目となったヨシュアのやつも王都やこっちを往ったり来たりして色々と忙しそうだな。
だが、色々と情報を流してくれるのはありがたい。
「ふむ、冒険者ギルドに反王国派って考えるやつなんているのか? 仮にも国から認可受けてるやってる商売だろ?」
「私も詳しくは知らないのですが、ヨシュアさん情報によれば本店には結構いるみたいですよ。王国に支払う税額が上がる度に反王国派が増えるらしいです」
「ああ、そういう意味か……。税金は稼げば持っていかれるのは仕方ないだろう。確かに税の支払いが無くなれば、その金は自由に使えるようにはなるがな……」
「ですね。このブラックミルズの冒険者ギルドも膨大な税金を国と領主に支払ってますけど、領主の分は投資資金として還元されてますからね。余所とはちょっと事情が違うかも」
領主の税の取り分に関してはメラニアが直接アルマに投資還元をすると通告してあるため、帳簿の上での徴税はされているが実際は手元に残ることになっていた。
そのため、その金も一部が色々な施策への資金源となっていた。
「もしかして、うちの特例措置も気に入らないってやつか?」
「かもしれませんね。本店から見れば、ブラックミルズ支店は税負担が極端に軽いですから、やっかみもあるのかもしれません」
「やはり一度きちんと話をつけてきた方がいいな。王都までは馬車で二週間だったな」
「え、ええ。はい、二週間ほどかかります。でも、グレイズさん抜けたら『追放者』の探索やダンジョン販売店の方に支障が出るのではないですか?」
「まぁ、出るだろうけどもさ。俺が行かないことには話が進まないだろ?」
「え、ええ……そうですね。私が出向いても同じことを言われるでしょうし……」
「なら行くしかないだろ。みんなにはその間お休みしておいてもらうか、ダンジョン販売店のお手伝いをしてもらっておくつもりだ」
今のメンバーたちなら俺が居なくても中層階に潜って難なく探索は果たせそうだが、でもやはり彼女らだけで探索に出すのに一抹の不安を感じるのは過保護過ぎるだろうか。
「す、すみません……。グレイズさんが来てくれるなら、私がお供して相手方に施策のご説明をさせてもらいます。冒険者ギルドの方はジェイミーさんがしばらくなら面倒見てくれるだろうし」
「そうか、アルマが説明してくれるなら俺はご挨拶しに行くだけだからな。それに実は俺はこの歳まで王都まで行ったことがないんだ。地理不案内なんで案内人がいると助かる」
「え? グレイズさんって商人でしたよね? 仕入れとかで王都とか訪れませんでしたか?」
俺が王都に行ったことがないと言うと、アルマが驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「商人って言っても、俺は雇われ商人でそれも鑑定専門だったし、仕入れは店の主人がほとんどやってたからな。近隣の村や街は行ったことがあるが、王都まで足を伸ばすことは全くなかったぞ」
「へぇ、じゃあ私が美味しい食事の店を教えますね。旅の楽しみは食事と風景くらいしかないですから」
「ああ、そうしてくれ。じゃあ、今からみんなに王都に行くことを伝えてくるから、出立は明日の朝早くでいいな?」
「はいっ! 私もすぐに準備しておきますね」
そう言うと俺は執務室を去り、メンバーたちが待つ自宅に帰ることした。
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