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日常編 王都への旅
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しおりを挟む急いで王都への旅支度を整え、翌朝早くに馬車のあるみんなで冒険者ギルドに出向いていた。
「ひょ、ひょ、ひょ。グレイズ、水臭いのぅ。嫁たちを連れて婚前旅行なら、なにもコッソリと行かずとも大手振っていけばよいのに」
なぜか、おばばを始め、商店街の連中、顔見知りの冒険者、冒険者ギルドの職員たちが俺たちの王都行きを見送るために勢揃いしていたのだ。
「意味が分からん。仕事で王都に行くだけだぞ。王様と領主の護衛兼ギルドマスターとして本部に顔見せ行くためだけでなぁ――」
「照れるな、照れるな。ここに居る皆は分かっておる。帰ってきてしばらくしたらおめでた話を聞けると良いのぅ。ひょ、ひょ、ひょ」
おばばが口にした言葉で背後のメンバーたちの熱量が上がるのを感じた。
せっかく落ち着けたのに油を注ぐのは勘弁して欲しい。
「そういう色気のある話は無し。お仕事だからな。それはそうとおばばの土産は何がいいんだ? 長く世話になっているしせっかく王都まで足を運ぶんだから土産の一つくらい買ってきてやるぞ」
「ひょ、ひょ、ひょ。土産はいらんで『孫』の顔がみたいのぅ。最近、わしも歳を取ったからな。ゴホ、ゴホ」
おばばがわざとらしく俺をチラ見しながら、身体弱ったアピールをしていた。
暇があれば、俺かカーラが回復魔法を掛けて治癒しているおばばなので、人並み以上に健康体なはずである。
「おばば、大丈夫ー?」
「ファーマか、おばばのことを心配してくれるのはアンタだけだねぇ。いいかい、この旅で絶対にグレイズを落とすんだよ。いいね。ファーマ」
「はーい。ファーマ頑張るねー」
ファーマ、そこは頑張っちゃダメだからな。
おばばも元気にさせるとロクなことを言わない。
「ブハハッ! グレイズ、もういい加減に諦めたらどうだ。結婚もいいぞ! 嫁の飯は美味い! 人生も充実するぞ。いやー、俺ももっと早く結婚して所帯もつべきだったなぁ」
隣に嫁を連れたジェイミーも見送りに来ていた。
アルマから聞いた話だか、所帯を持ってからはジェイミーの昼飯は嫁のお手製弁当になったらしい。
それを毎日部下たちに自慢して食って喜んでいるらしく、周囲からは嫁自慢が酷いとの評価を頂いているようだ。
「うるせぇ。俺も色々と心の準備ってのが必要なんだぞ」
「そんなのは勢いだ。勢い。いい子たちばかりだから、結婚すればお前のために尽くしてくれるいい嫁になるだろうさ。ブラックミルズの住人はお前の結婚式を待ち望んでいるぞ。イテテ!」
「あー、はいはい。ジェイミーさん、これ以上グレイズさんを刺激しないでください。ただでさえ、慎重な人なんでプレッシャーかけると逃げそうな気がしますからね。私たちは待つと決めてますから」
馬車の準備を終えて戻ってきたアルマが、ジェイミーの耳を引っ張ってたしなめていた。
アルガドの事件以降、アルマはたくましく成長し、ギルドマスター代行として風格を備え始めてもいる。
冒険者ギルドでは俺はお飾りのギルドマスターなので、実質アルマがギルドマスターとしてジェイミーとともに切り盛りをしてくれていた。
「イテテ、すまん。すまん、言い過ぎた。ギブアップ!」
「ジェイミーさん、私たちが留守にするんで冒険者ギルドをしっかりと運営しておいてくださいね。帰ってきた時に問題が山積みなっていたら、お給料の査定に響きますからね」
アルマの眼がキラリと光る。
なんだか、アルマもメリーに似てきたような気がするな。
「ひぃ、そ、それだけは勘弁を! 給料が減ると嫁に怒られるから」
「大丈夫です。私も無給でギルドのお仕事をしてますから」
「いや、お前はグレイズに食べさせてもらって――」
「んんっ! 私は『ギルドマスター専属の奴隷』としてですから、そこのところお間違いなく。グレイズさんが反応しちゃうでしょう」
アルマも中々にジェイミーに対し言うようになった。
このまま嫁にするとメリーとともに尻に敷かれそうな気がする。
「グレイズっ! 貴様っ! セーラも連れていくのか! ワシは婚前旅行など認めた覚えはなーーむぐぅ!」
アルマとジェイミーのやり取りを見ていたら、背後から聞き覚えのある声がした。
『おっさんず』のグレイだ。
「お父さん、恥ずかしいから止めて! 私はメリーさんのお付きとして王都に取引先を開拓をしに行くって言ったでしょ」
どうやらこっちもこの度の王都行きで揉めているらしい。
誰がグレイに婚前旅行だと偽情報を仕込んだのだろうか?
言いがかりも甚だしいぞ。
「グレイズー! ワシは認めんぞー!」
「グレイは俺らがちゃんとシメとくんで、きちんとセーラの面倒を頼むな。土産は王都の美味い酒でいいぞ」
「グレイ、もういい加減に諦めろ。グレイズならセーラの将来は安泰だぞ。ちょっと歳はいっているが、領主の婿兼冒険者ギルドマスター兼ブラックミルズ一の商店の共同経営者だぞ。これほどの良物件はザラにはねぇ」
「認めん、ダメと言ったらダメだ!」
グレイが仲間の二人の忠告にも耳を貸さずに暴れているのを見て、メリーが呟く。
「これは減給かしらね……。セーラはお仕事で王都に行くのを妨害するということだし」
その呟きが聞こえたのか、暴れていたグレイがピクリと動かくなった。
娘のために借金返済に励んでいる彼にとってはとても痛いところを突かれていた。
「メ、メリー社長! 減給は酷いだろ!」
「グレイもいいかげん子離れしないと娘に愛想を尽かされるわよ。いい歳した娘のことに父親が出しゃばったらダメよ」
「ぐぬぬっ! ち、ちくしょう! 今回は大目に見といてやらぁ。グレイズ、うちの娘に手を出したらタダじゃおかねえからなっ!」
「お父さん! グレイズさんに挑んだらお父さんが跡形もなく消し飛ぶから」
セーラ、さすがに俺もグレイを消し飛ばしたりはしないつもりだぞ。
まったく、みんなして俺のことを何だと思っているんだか……。
今回の旅はお仕事。きちんとしたお仕事なのだよ。
みんな早とちりしすぎだろうに……。
俺は旅に出る前にすでにグッタリとして疲れていた。
「おはよっす。グレイズさん、お待たせしました。ああ、皆さんお見送りありがとうさんっす。いやーこんなに集まって頂いてありがたい。さすがグレイズさん、人気者っすね。みんなに連絡した甲斐があった」
住民たちへの情報漏洩のもとは、どうやらこの王様冒険者だったようだ。
ジェネシスよ。おしゃべり過ぎるのは冒険者として致命的だぞ。
俺はジェネシスの肩にそっと腕を回すと軽く力を入れていく。
「ほほぅ。こんなに朝早くにみんなが集まった原因は君かー。ほー、そうか……」
「イデデデっ! グレイズさん、ギブ、ギブ! ああ、さーせん。みんなが知らないうちに行くと問題になるかなって思ってお知らせしといたんっすよ」
「おかげでとんでもなく大事になったがな!」
「さすがっす。俺の師匠のグレイズさんだけのことはありますわ。ブラックミルズの住民から愛されてますね」
「どう見てもからかいたい人の集まりだと思うがな……」
「またまた、照れちゃって。王都で用事を済ませるまで二か月近く離れるんで見納めしといてくださいよ」
ジェネシスの言葉で長年育ったブラックミルズの街に視線をやる。
慣れ親しんだ風景もしばらくはこれで見納めになるか……。
でも、まぁ王都での仕事を終えればまた帰ってくることになるしな。今しばらくのお別れさ。
「さて、見送りはありがたいが、そろそろ出発の時間だ。これから二か月ほど留守にするがその間はよろしく頼むぞ。帰ってきたら街が無かったとかだけは勘弁してくれ」
俺の言葉に見送りに来ていた者たちからドッと笑いが広がる。
「ダンジョン主が地上に出てこない限り、ブラックミルズが消えるなんてありえねえさ」
「ちげえねぇ。それよりも、グレイズが無事綺麗な身体のままで帰ってこれるかどうかの方が気になるところだ」
「わはははっ! 言ってやるな。綺麗なお供付きの漫遊旅だ。色々と間違いも起きるだろうさ」
「もしかしたら、逆にお供が増えて帰ってくるかもしれんぞ。グレイズならやりかねない」
冒険者たちは言いたい放題に言ってくれていた。
大丈夫、俺の自制心は鋼鉄よりも硬いのだよ。
「わふう(硬すぎですね)」
「硬すぎる。グレイズ、もっと柔らくする方法知りたい。王都で探してみよう」
「硬いって何がー?」
「カチカチです。でも、私はそんなグレイズさんが素敵だと思います」
「硬いのを溶けさせたらデレるのかしら?」
「お父様とお母さまにどうやってご紹介したら……」
「ああ、私、この人たちと一緒に居ていいのかしら……」
「硬いけど優しいですからね。グレイズさんは。さぁ、皆さん王都に向けて出発しますよー。馬車の乗車一覧はこちらです」
「メラニア―おなか減ったー。おやつのバナナ食べていいー?」
というわけで俺は大所帯を連れてブラックミルズから馬車で王都を目指す旅路を始めることにした。
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