おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク

文字の大きさ
231 / 232
最終章 そして、伝説へ

25

しおりを挟む
 二回目の光は転移ではなかった。

 二回目の光は極度に濃い魔素マナを含んだ発光現象だった。

 おかげでさっきまで戦っていたみんなや冒険者たちが、一気に魔素マナ酔いで地面に倒れ込んで動かずにいる。

「メラニアーどうしたのじゃー。メラニアー、起きるのじゃー。こんなところで寝たら危ないのじゃ」

 召喚された魔物であるクィーンは、光の影響を受けなかったようで、倒れ込んでいるメラニアの頬を叩いて起こそうとしていた。

 味方の中で光によって意識を失わなかったのクィーンと俺だけであった。

「おっさん、動くなよ。動いたら、あいつらが魔物の餌だぜ」

 ダンジョン主の青年はニヤついた顔で、倒れている仲間や冒険者たちを指差していた。

 魔物たちは光の影響を受けていないようで、いつでも仲間たちを攻撃できるように身構えたままであった。

「卑怯な野郎だ……」

「お前こそ、化け物の癖にいつまでも人間ぶるなよっ!!」

「ぐぅっ!」

 ダンジョン主の拳が俺の顎をとらえていた。

 衝撃を受け、口の中に血の味が広がる。

 俺はクラクラとする頭を抑えながら、ゆっくりと立ち上がった。

「ああ、そうだ。この状況を解決するたった一つの方法を教えてやろうか? 非常に簡単な方法だ。すぐに終わる」

 ダンジョン主が、近くで意識を喪失して倒れていたハクを掴み上げると、俺の方へ投げ捨てた。

「その意識体を殺せ。そうしたら、あとのやつらは生きてこのダンジョンから出してやる。どうだ? やるか? やらないか?」

 にやけた顔をしたまま、俺の返事を待っていた。

 状況は絶望的だ。

 魔物に囲まれ、味方は俺とクィーン以外全員が意識を喪失して倒れている。

 ハクを殺すことを断れば、目の前の青年は皆殺しをするのにためらいは見せないだろう。

 ジッと獣人になったハクの顔を見る。

 ハクは薄目を開けてこちらを見ていた。

『グレイズさん、三つ数えたら、あたしがみんなの魔素マナを強制浄化して意識を戻しますから、その間ダンジョン主を抑えてください。魔物たちもダンジョン主の指示がなければ動きませんので』

 ハクのやつ寝たふりしてたのか……。

 それにしても、無茶な要求だぞ。

『あたしのご主人様ならきっと無茶も簡単にこなしてくれるって信頼してますからね。大事なファーマちゃんの命もかかってますし、それにこのダンジョン主はこのまま放っておくには危険すぎるとアクセルリオン神もお認めになられましたので、グレイズさんの能力限定も全解除です。あたしの力も付与されるので九割がた神様の完成です』

 ちょっと、待て。

 九割方の神様ってほとんど神様じゃ――

『細かい話はこのダンジョン主を討伐した後でタップリとしますよ。じゃあ、カウント、スリー、ツー、ワン、ゼロ』

「おわっとっ!! なんだこれっ!!」

 ハクのカウントがゼロになると、腕輪を解放し時間経過は遅く感じていたが、その時間経過が更に遅くなった。

 止まってるのか? いや、俺の時間経過が早すぎるのか?

 突如、解放された力に戸惑いながらも、立ち止まったまま止まっているダンジョン主を殴り地面に叩きつけた。

「げふぅううっ!! おまえっ! なんだその動きっ!! くそ、お前らや――」

 ハクがみんなの意識を回復させるまで、魔物たちに指示を出せないよう、マウントポジションを取ると拳を繰り出し続けた。

「げふ、がふ、ば、ばけものめっ! ごぼ、ごはっ! やめろ、仲間がどうなっても――」

 ダンジョン主の六枚羽根が光り始めたので、三度目の光を浴びないよう、羽根に手をかける。

 そして、力の限り精いっぱい引き裂いてやった。

「ぎゃああああああああああああああっ! 羽根がっ! 羽根がぁあああっ!」

 背中からもぎ取った羽根を放り投げると、放出が続いていた黒い霧が晴れていく。

 羽根をむしったら、一気に魔素マナの放出がおさまったな。

 その間にハクの全身が光り輝いたかと思うと、周囲に光が拡がっていった。

「う、うん……何が……はっ! そうだ、戦闘中!! みんな起きて!!」

 一番最初に目覚めたメリーが近くの仲間を目覚めさせていく。

 魔物たちはハクの放った光で怯んだのか、それともダンジョン主の指示が届いていなのか分からないが動かずにいた。

「メラニアも起きるのじゃー」

「う、ううん。はっ! クィーンちゃん!? そう言えば今は戦闘中でした!」

「起きたのじゃ! こんなところで寝ると風邪をひいてしまうのじゃ」

「あー、なんかスッキリしたよー。身体軽い。今なら、グレイズさんを超える速さで――って、グレイズさんの攻撃が見えないよー何が起きたの?」

「とりあえず、支援魔法飛ばす。みんな起きるがいい」

「カーラさん、援護します」

 次々に目覚めた仲間たちが再び魔物たちとの戦闘を開始した。

 これで、人質はなくなった。

「くそ、くそ、くそがぁああああああっ!! なんで、お前だけがっ! お前だけが全てにおいて優遇されてるんだよっ!! そんなの卑怯じゃねえかっ! バケモノだって言うのによぉおおっ!」

 羽根をむしられて、顔を腫らしたダンジョン主が叫んでいた。

 一つボタンを掛け違えていたら、俺はこの男と同じことを言っていたかもしれない。

 だが、俺には心配してくれる仲間とおせっかいな人間が集まった故郷があったから、こうならずに済んだだけだ。

「俺の知り合いは、なかなか俺に人間をやめさせてくれないんだよ。お前にもきっとそういうやつが居たと思う」

 俺は叫んでいる男を心のどこかで憐れみながらも、拳を固め、人をやめた存在になったダンジョン主を倒すことにした。

「きっと、お前だっていつか、こっち側にくるはずだ。精々、その時が来るのを地獄で見届けてやるさっ!!」

「悪いな。きっとそうはならないさ」

 それだけ言うと、俺は拳に最大限に魔力を込め、ダンジョン主の顔に向けて振り下ろした。
しおりを挟む
感想 1,071

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。