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国外追放処分を受けたコーデリアが、アルテシオン大神殿に来て早二か月過ぎていた。
王太子の気まぐれによって婚約破棄され、叛乱を企んだとされた公爵令嬢だった過去の自分を全て捨て去り、人生を再出発させると決意して始めた神官見習いとしての生活は、彼女にとって驚きと発見の日々であった。
それまで一切やったことの無かった掃除や炊事、洗濯は同室で友達となったフロースが丁寧に教えてくれたことで、周囲からは筋が良いと褒められている。
元来、こだわり症の気質があったコーデリアであったが、周囲から褒められたことでより一層習得に意欲を燃やすことになり、瞬く間に腕を上げてきていた。
そして、今は神官の仕事である傷病者の手当をするため、集落の男たちが集めてきた薬草を神殿の広間にて皆で調合している所であった。
「それにしても、コーデリアは何をやらせても上手にこなすよね。あたしはお裁縫以外、苦手だなあ」
「そうですか? わたくしの腕など皆様から見ればまだまだだと思いますが……」
すでに薬草の調合に飽きた様子のフロースとは対照的に、コーデリアの方は口を動かしつつも、薬草を調合するために石製の薬研車を動かす手を止めずにいた。
「まだ、二か月だよ。コーデリアがここに来て……。先輩たちに聞いたけど、外から来た人がたった二か月でここでの生活に順応したのは見たことないって言ってた」
「そう……ですか? わたくしもこんなに楽しく生活ができるとは、来るまでは全然思っておりませんでしたけどね。もっと、辛くて苦しい生活かと思ったんですが、ここでの生活はわたくしの性分に合っているのだと思いますよ。それにフロースが助けてくれますし」
アルテシオン大神殿での生活がコーデリアにとって楽しいと思えている理由の一つにフロースの存在があった。
人懐っこく顔が広い彼女がいてくれているおかげで、生活の不安を感じることなく、神殿内での人間関係もおおむね良好な状態を維持できていたからだ。
何かと世話を焼いてくれるフロースが居なければ、自分としてもここまで早くこの地での生活に馴染めたかは分からない。
「そう言ってもらえるとあたしとしても嬉しいけど……貴族の生活が恋しいとか、家族が恋しいとかないの?」
「んーーー…………。全くですね。前にもフロースには話しましたけど、貴族としての生活はわたくしにとって重圧でしかなかったし、故国に残る家族と言えるのはわたくしを売った異母兄だけですしね。帰りたいとは全く思いません。むしろ、こちらでの生活が楽しすぎて毎日充実してます」
「まぁ、確かにそっか……。婚約者から手酷い仕打ち受けたり、兄に裏切られてるんだったよね。ああ、可哀想なコーデリア。あたしがギュッと抱きしめてあげるね。ほら、ギューっと」
調合の手を止めて喋っていたフロースが背後からコーデリアにそっと抱きしめてくれていた。
二か月経った今ではフロースはコーデリアにとってかけがいのない大事な友達になっているのだ。
思い出すと今でも辛い経験だった王都でのことも、彼女には全て隠さずに事実を伝えてある。
彼女はその話を真剣に聞いて、王太子や異母兄のことを本気で怒ってくれていた。
神殿に来た当初はコーデリアも王都でのことを隠し通そうとしていたが、フロースに話したことで、別に隠さなければならないことではないと感じ、自分から神殿の人たちに伝えたことで温かく迎え入れてもらえていた。
王太子の気まぐれによって婚約破棄され、叛乱を企んだとされた公爵令嬢だった過去の自分を全て捨て去り、人生を再出発させると決意して始めた神官見習いとしての生活は、彼女にとって驚きと発見の日々であった。
それまで一切やったことの無かった掃除や炊事、洗濯は同室で友達となったフロースが丁寧に教えてくれたことで、周囲からは筋が良いと褒められている。
元来、こだわり症の気質があったコーデリアであったが、周囲から褒められたことでより一層習得に意欲を燃やすことになり、瞬く間に腕を上げてきていた。
そして、今は神官の仕事である傷病者の手当をするため、集落の男たちが集めてきた薬草を神殿の広間にて皆で調合している所であった。
「それにしても、コーデリアは何をやらせても上手にこなすよね。あたしはお裁縫以外、苦手だなあ」
「そうですか? わたくしの腕など皆様から見ればまだまだだと思いますが……」
すでに薬草の調合に飽きた様子のフロースとは対照的に、コーデリアの方は口を動かしつつも、薬草を調合するために石製の薬研車を動かす手を止めずにいた。
「まだ、二か月だよ。コーデリアがここに来て……。先輩たちに聞いたけど、外から来た人がたった二か月でここでの生活に順応したのは見たことないって言ってた」
「そう……ですか? わたくしもこんなに楽しく生活ができるとは、来るまでは全然思っておりませんでしたけどね。もっと、辛くて苦しい生活かと思ったんですが、ここでの生活はわたくしの性分に合っているのだと思いますよ。それにフロースが助けてくれますし」
アルテシオン大神殿での生活がコーデリアにとって楽しいと思えている理由の一つにフロースの存在があった。
人懐っこく顔が広い彼女がいてくれているおかげで、生活の不安を感じることなく、神殿内での人間関係もおおむね良好な状態を維持できていたからだ。
何かと世話を焼いてくれるフロースが居なければ、自分としてもここまで早くこの地での生活に馴染めたかは分からない。
「そう言ってもらえるとあたしとしても嬉しいけど……貴族の生活が恋しいとか、家族が恋しいとかないの?」
「んーーー…………。全くですね。前にもフロースには話しましたけど、貴族としての生活はわたくしにとって重圧でしかなかったし、故国に残る家族と言えるのはわたくしを売った異母兄だけですしね。帰りたいとは全く思いません。むしろ、こちらでの生活が楽しすぎて毎日充実してます」
「まぁ、確かにそっか……。婚約者から手酷い仕打ち受けたり、兄に裏切られてるんだったよね。ああ、可哀想なコーデリア。あたしがギュッと抱きしめてあげるね。ほら、ギューっと」
調合の手を止めて喋っていたフロースが背後からコーデリアにそっと抱きしめてくれていた。
二か月経った今ではフロースはコーデリアにとってかけがいのない大事な友達になっているのだ。
思い出すと今でも辛い経験だった王都でのことも、彼女には全て隠さずに事実を伝えてある。
彼女はその話を真剣に聞いて、王太子や異母兄のことを本気で怒ってくれていた。
神殿に来た当初はコーデリアも王都でのことを隠し通そうとしていたが、フロースに話したことで、別に隠さなければならないことではないと感じ、自分から神殿の人たちに伝えたことで温かく迎え入れてもらえていた。
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