婚約破棄された元公爵令嬢は、辺境で聖女としてしたたかに生きることにした。

シンギョウ ガク

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「フロース、わたくしを慰めてくれるのはうれしいのですが、まだ調合が終わってませんよ」
「あたしはコーデリアの慰め係として立派にお仕事――」
「ほら、そこ。二人でイチャイチャしないの。今日は薬草から薬を作らないといけないのよ。これも立派な神官としての務めなのだからね」

 ヴァリエからの注意に周囲で一緒に調合していた神官たちから一斉に笑い声があがる。
 フロースとコーデリアの仲の良さは神殿関係者には至極当然のこととして受け入れられていた。

「はぁ~い。お仕事に戻りまーす」

 フロースが抱きしめていたコーデリアから離れると、再び薬研車を手に取り、乾燥した薬草を磨り潰し始めた。
 コーデリアも新たな薬草を手に取ると、引き続き磨り潰し始めていった。 

 コーデリアが二か月を過ごしたこのアルテシオン大神殿での神官の仕事は大きく分けて三つある。
 一つは神殿の維持管理。
 もう一つはアルテシオン神を奉る祭事奉仕。
 そして最後の一つが近在の集落で出た傷病者の手当てを行うことだ。

 魔物や肉食の動物も徘徊し、湿地帯からの湿気で一年を通して蒸し暑い気候もあり、神殿に運び込まれる傷病者の数はそれなりにいる。
 そんな人たちに対し、密林や湿地帯で自生している薬効植物を調合した飲み薬を作り与える活動をしているのだ。

 病気や怪我になったら神殿へ。
 それがアルテルバードの集落に住む住民たちの合言葉になっていた。
 そして薬代のかわりに集落の住民たちは神殿に住む神官たちへ食料や薬効植物を納める関係になっている。

 ポーションに関しての知識やレシピは代々の神官たちが受け継ぎ、改良、改変して効果を高めてきていた。
 おかげで、擦り傷や熱冷まし、食あたりなどの簡単な病気はポーションによって癒せるほどになっているのだ。
 その薬効は王都で使われている高級ポーションよりも効果が高いとコーデリアは思っていた。
 ただ、非常に味はよろしくないのだけが玉に疵であるが。
 そんなことを思いつつ薬研車で乾燥した薬草を砕く音だけが広間に響く時間が過ぎていった。

「さて、今日の調合はこれくらいにして、昼食後はアルテシオン様への祈りの時間としましょうか」

 今日の目標としていた薬草の調合の終りが見えたところで、ヴァリエが皆の手を止めるように声をかけた。
 すでに日が高く昇っていることから昼を過ぎており、コーデリアのお腹も空腹を訴えてきている。

「ご飯だぁー。あー、お腹空いたぁ」

 フロースの言葉に釣られたのか分からないが、今日の炊事当番の神官たちが昼食の準備を終え配膳しに来たようで、広間には食欲をそそる匂いが広がっていた。
 どうやら、今日の昼食は香辛料やハーブを効かせた辛味と酸味の強い鶏肉のスープのようであった。

「ご飯きた―! コーデリア、配膳のお手伝いしよう。ね。ね」
「分かりました。わたくしが器を配膳するので、フローラは皆さんに注いで回ってくれますか」
「はいはーい。すぐやるね」

 炊事当番の作った昼食の配膳役を買って出た二人が、器と食事を手早く配膳をしていく。

「さすがに息の合った二人ね。あっという間に準備が終わるなんて。じゃあ、アルテシオン様に感謝をして昼食を頂きましょう」
「頂きますっ! あー、美味しい!」

 配膳を終えたフロースがヴァリエの言葉が終わると、すぐに昼食に手を付けていた。
 釣られるようにコーデリアもアルテシオン神に感謝の祈りを捧げると、目の前の鶏肉スープに口を付けていく。

 鶏肉だけでなく、香草や野菜が入って具たくさんになったスープは、コーデリアもこの地に来て一番好きになった食ベものであった。
 王都では見たこともなかった香辛料による辛味と酸味を加えられたスープは、一口飲むと一気に汗が噴き出すが、すぐにさわやかな酸味が広がり食欲を刺激されていく逸品であるのだ。
 
 ここに来る前、食料はあまり豊富ではないと聞いていたが、小さいながらも集落では家畜を飼ったり、畑を耕してもいるため、野菜や家畜が薬代のかわりとして貢納されてもいた。
 それに密林や湿地帯では王都では食されない食材が多数あり、それらを加えれば豊富とまではいかないまでも、食事に事欠くことは今のところは一度もなく生活できている。
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