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しおりを挟む「ふぅ、美味しい。やはり、食事はでき立てが一番おいしいようですね。このように美味しい食事が毎度食べられる生活が送れるとは、思ってもいませんでした。わたくし追放されてよかった」
「あてくしがお毒見いたしましょうか? コーデリア」
先に食べ終わっていたフロースがコーデリアの食事を狙って、舌なめずりをしているのが見えた。
育ち盛りのフロースには少し物足りない量であったようだ。
「う~ん……。一口だけですよ。わたくしもこの鶏肉のスープは好物になりましたので……」
「わぁい、ありがとう~コーデリア!」
「ひ、一口だけですからね。あとはわたくしのです」
フロースのスプーンをもらうと、自分の器から鶏肉のスープを一すくい取って彼女の前に差し出す。
親鳥から餌をもらう雛鳥のように口を開けていたフロースにスープを飲ませてあげる。
コーデリアは生まれた時から母がおらず、異母兄とも不仲であったため、父との食事以外は常に一人で食べていた。
その癖が寄宿舎生活でも抜けず、夜会などの立食パーティーの時以外は、専属料理人に作らせた食事を自室にて一人で食べていたのだ。
しかも、毒見をされたことで冷めて冷たくなった食事を延々、一八歳になるまで食べてきていた。
それもこのアルテシオン大神殿に来るまでであり、ここに来てからは皆と一緒に温かい出来立ての食事を食べることになり、元々健啖家であったコーデリアは食事を楽しめるようになっていた。
「ごちそうさまでした」
残っていたスープを全て平らげると、炊事当番の人たちが器を集めて去っていく。
同じように食事を終えた神官たちは、広間にあるアルテシオン神の神像の足元に移動し、祈りを捧げる準備を始めていた。
これからは、神官としてアルテシオン様への祈りを捧げる時間である。
「さぁ、食事も済みましたので、皆でアルテシオン様に祈りを捧げることにしましょう」
神殿の神官で一番年長にあたるヴァリエは自分では名目だけの神官長だと謙遜しているが、人柄、知識どちらをとっても神殿の中では抜きんでた存在である。
そんなヴァリエに神官たちも心服して、人間関係によるいざこざもなく、皆が協力して物事が進んでいた。
王都にも創造神たるアルテシオン様を奉る神殿は多数作られていたが、そこにいる神官たちは信徒から金を巻き上げ、貴族のような暮らしをしている者ばかりであると、父が嘆いてたのは、魔物討伐遠征でこのアルテシオン大神殿を訪ねたことがあったからだとコーデリアは思っていた。
ここにいる神官たちには、慈悲と奉仕という言葉がピッタリと当てはまる、フロースを始めとした心優しい者たちが集まっているのだ。
そんな場所で心安らかに暮らせることの喜びをコーデリアは感じている。
アルテシオン神への祈りは決められたものはなく、各々が無言で心の中のアルテシオン神への祈りを捧げる時間であった。
一番最初にこの祈りの時間に立ち会った際、コーデリアだけが王都で習った礼拝の所作をしたため、皆に注目を浴びることとなった。
けれど、ヴァリエによれば、礼拝の所作は王都の神官たちが自らの威厳を整えるために作り出したもので、本来の祈りは各々が心の中でアルテシオン神に語りかけるらしいそうだ。
そのことを聞いて以来、コーデリアも礼拝の所作を止め、この祈りの時間はそれまでに発見や驚いたことをアルテシオン神に報告し、感謝の言葉を添えることにしていたのだ。
『アルテシオン様、昨日は未知の香辛料を集落の人から教えてもらったんですが、すごく辛くてびっくりいたしました。新しい食事のレシピも教えてもらいましたし、今度炊事当番になった時は作ってみようと思います。それにフロースにお裁縫も教えてもらってます。彼女はわたくしの神官服を夜会で着るような華美なものにしたいみたいですけど、わたくしとしては普通ので十分だと思うんですが……どう思います?』
祈りの最中ではあるが、アルテシオン神への報告のつもりが、半ば話しかけるようになっていた自分自身に笑いがこみ上げそうだった。
「コーデリア……貴方、もしかして……。その光は……まさか……」
アルテシオン様へのお祈りという名の独白を楽しんでいたら、ヴァリエさんの慌てたような声が聞こえてきていた。
普段から冷静で滅多に慌てた様子を見せない彼女の声が震えているのに気が付いたコーデリアは、閉じていた眼を開く。
すると、自分の身体が今までに見たことも無いような色の光に包まれているのに気が付いた。
「え!? え? えぇ~!? これは何です? わたくし何か変なことをしてしまいましたか?」
黄金と言えるような眩い光が自らの身体を包む様子にさすがのコーデリアも驚きを隠せないでいた。
「黄金の光……これって、アルテシオン神が認められた『聖女』の印……」
周囲にいた神官たちもヴァリエの言葉に釣られ、祈りを中断してコーデリアの身体を包み込んだ黄金の光に目を奪われていた。
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