23 / 24
23
しおりを挟むアルテシオン神への祈りの時間中に起きた珍事。
それは、国外追放処分を受け神官見習いとして二か月ほど生活してきた元公爵令嬢であるコーデリアが、祈りのさなか『聖女』の証である黄金色の光を纏っていたことであった。
聖女とは。
それは神の恩寵を与えられた者の別名。
病気にかかることのない健康で丈夫な身体と、人よりも優れた知性を与えられし存在。
そして、武芸知略に優れた守護騎士に『勇者』の力を与えることができる存在でもあった。
そんな力を持つ『聖女』の証となる黄金の光がコーデリアを包んでいるのだ。
「コ、コーデリア! その光って聖女様の……光……。まさか、コーデリアが聖女様に選ばれるなんて……すごい、すごいよ!」
「わたくし、普通にお祈りしていただけですが……。急に光が……」
「これはまさしくアルテシオン神の啓示ね。この時期に聖女が誕生したということは、また魔物と魔族の活動期が近いようね……。王国に知らせを送らないと……」
ヴァリエはコーデリアの纏った黄金色の光を見て、すぐに彼女がアルテシオン神の選んだ『聖女』であると判断した。
聖女が選択されるのは、決まって魔物と魔族の活動が活発化する時期である。
近年では、コーデリアの父エドガーが率いた魔物討伐軍が来た三〇年ほど前に、今と同じように聖女がアルテシオン神から選ばれていたのを知っているからだ。
「コーデリア、貴方はアルテシオン神様より『聖女』であると認定されたようです」
「せ、聖女ですか? わたくしが? それよりも『聖女』とは一体? 王都では『聖者』という方はいっぱいおりましたが……」
コーデリアが王都の神殿で会ったのは『聖者』と呼ばれる神官で、ほぼすべて例外なく男性の神官だった。
しかも、神の恩寵を得た者であると吹聴し、信徒から金を無心するような腐った神官が大半であったと記憶している。
「『聖者』なんてのは王都の連中が勝手に捏造した偽物の恩寵者よ。『聖女』は正真正銘アルテシオン神が選択された恩寵者、しかも女性に限定されているわ。私も元『聖女』だしね」
ヴァリエがコーデリアから発せられた黄金色の光を懐かしそうな目で見ていた。
「ヴァリエさん、元『聖女』なんですか!? わたくし、そのような話は伺っておりませんが」
「エドガーが率いてきた魔物討伐軍と私と守護騎士だった旦那とで、前回の活動期は乗り切ったのは言ってなかったかしら……。言ったような気がしてたけど、最近、耄碌したのかしらねぇ」
元『聖女』であると告白したヴァリエから聞かされた言葉にコーデリアは衝撃を受けていた。
父エドガーが魔物討伐にこの地に足を踏み入れていたことは知っていたが、それをヴァリエとその配偶者が助けていたとは一切聞かされていない話だったからである。
「ヴァリエさんの旦那さんは、今やアルテルバードの集落のまとめ役だもんね。超常の力である『勇者』としての力は失ったけど、守護騎士としてはとても頼りになる人だし」
近くで話を聞いていたフロースが、ヴァリエに関する新情報を告げていた。
どうやら、彼女の旦那は存命で近隣の集落であるアルテルバードをまとめているそうだ。
「……。結婚されていたのですか……」
コーデリアはヴァリエが終日神殿に住み込んでいるため、独身であると思い込んでいた。
そう思い込んだ理由は、他の女性神官は独身の若い神官であったためだ。
「一応ね。でも私は神殿の管理があるし、あいつは集落のまとめ役だし、今は別居よ。別居。ほんとはわたしが神殿長になる時に別れようって言ったんだけどね。『俺はお前の役目が終わるのを待つ』の一点張りで……」
「ひゅーひゅーお熱いお二人さんだこと」
「フロース、貴方のところの爺様も元『勇者』でしょうが。婆様が私の前の『聖女』で先代神官長だし」
ヴァリエの言葉にコーデリアがフロースを見る。
今まで色々と話してきていたが、祖父と祖母が元『勇者』と元『聖女』だという話は初耳であったからだ。
「フロース、その話は本当なの?」
「え? ああ、言ってなかったけ? ここの神殿に住んでる人たちって遡ると大体、元勇者と元聖女の血筋の人に当たるの」
「えーっと、それはこの神殿に居る人たちは……。みんな聖女の血を引いてる子たちということかしら……?」
「そうだね」
フロースは最高の笑顔のまま、コーデリアの問いかけに答えていた。
そんな話は一切された覚えがないので、少しだけ仲間外れにされた気もしたが、勇者や聖女の血筋を引いていない自分がなぜ選ばれたのか不思議でならなかった
0
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる