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夜の公園 side真乃
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しおりを挟む一瞬の沈黙が流れた。
彼、佐野充希の白いシャツは、私が吐いたお酒の色に染まっている。
「本当に、すみません!」
謝罪の言葉を震える声で伝えた。
12月、皮膚を刺す冷たい風が、公園を吹き抜ける。
厚手の上着を着ていても寒いのに、迷惑どころの話じゃない。
慌てて自分のカーディガンを彼に差し出した。
「これ着てください!」
「いらない」
素っ気なく断られて、手が止まる。
「でも……」
「いいから」
「すみません、本当にすみません……っ」
また涙が込み上げてきて、視界が滲んだ。
「……はぁ、ちょっとここで待ってて」
「え?あ、あの……!」
呼び止める声も届かず、佐野充希の背中が街灯の向こうに消えていく。
取り残された私は、ベンチにポツンと座ったまま、呆然とその場に立ち尽くした。
(……行っちゃった)
置いていかれても仕方がない。
思えば第一声から感じ悪く言い返してたし、勝手にふて腐れてデートすっぽかした元カノ。
再開したと思えば嘔吐、最低だもん。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
(しかも……取引先である総合病院の先生なのに……取引解除されてもおかしくないよね)
会社にクレームが入るかもしれない。
取引解除されるかもしれない。
みんなに迷惑をかけることになる。
ネガティブな思考が、頭の中を駆け巡る。
膝を抱えて、小さくその場にしゃがみ込んだ。
その時、遠くから、足音が聞こえてきた。
顔を上げると、ドラッグストアのビニール袋を手に持った佐野充希が駆け足で戻ってきた。
「目の前のドラッグストア行ってきた。色々買ってきたから。」
袋の中から薬とスポーツドリンク、それにホッカイロを取り出した。
「これ、飲んで」
差し出されたのは、胃薬と吐き気止め。
「あ……ありがとうございます」
震える手で受け取ると、彼がペットボトルの蓋を開けてくれた。
「水分も取って」
「……はい」
薬を飲んで、スポーツドリンクを一口含む。
冷たい液体が喉を通って、少しだけ気分が楽になった。
「……すみません」
「あとタクシー、呼んだから」
「え……」
「家まで送る」
「そんな……もう十分迷惑かけたのに」
「一人で帰れる状態じゃないだろ」
申し訳なさと不甲斐なさに反論する気力も残っていなくて、私はただ頷いた。
「……ありがとうございます」
小さく呟くと、彼が少しだけ表情を緩めた。
「いいって。」
そう言って、また空を見上げる。
その横顔を見ていると、胸の奥が締め付けられた。
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