死の餞ヲ、君ニ

弋慎司

文字の大きさ
19 / 74
第1部

#17 開幕

しおりを挟む
 夜も更けた。今夜は舞踏会には持って来いの、静かな晩。
 僕とレイセン君、ノアの三人は身支度を済ませると舞踏会のホールへ向かう。僕ら以外にも、招待された人々が寄り集まってワインを注いだり、会話をしたりとざわめいていた。
 ベンティスカとフィリアは着付けや化粧があるから、僕たちの倍以上はかかるだろうというのが、レイセン君の見通しだった。
「おまたせ」
 男性用の更衣室と正反対の扉から現れたのは、純白のドレスに身を包んだ二人の女性──ベンティスカとフィリアだ。上品な麗しさに、僕は暫し言葉を失った。
「あらぁ~? アクアさん、どこを見てらっしゃいますの??」
「……別に、どこも見てないですー」
「フィリア……えっと、肩の紐外れそう……」
「あら……お、おほほ……フィリアとしたことが。うっかり長さを整えるのを忘れていましたわ」
「もう……仕方ないなあ」
「ふふっ、こんなに素敵なドレスが着られるなんてね。もう二度とないかも……」
 ベンティスカはドレスの裾を摘み上げ、くるくると回った。幾つも重なったフリルが垣間見える。
「そろそろ始まりますよ、主催者の登場です」
 一際大きな扉の向こうから、幼い少年と、後に続いて執事服の青年が姿を現した。青年には見覚えがある──僕たちに招待状を渡した男だ。
 金髪の少年は耳元の装飾を揺らめかせ、容姿に見合わない鋭い目つきのまま、口を開いた。
「皆の者、今宵は舞踏会。朝まで踊り明かそうではないか。さあ、存分に楽しんでもらおう。グラスを掲げ、乾杯せよ」
 少年の合図と共に、人々が一斉にグラスを合わせ始めた。ベンティスカとフィリアがグラスを向かい合わせて掲げ、ノアも恐る恐る黒い影と乾杯していた。僕も大慌てでグラスを取る。
「わっ……えっと……」
「ご主人様」
 レイセン君が僕にグラスを差し出し、同じように動作をするよう促した。
「えっ、あ……うん……」
 グラス同士がカランと音を立ててぶつかり合う。心地良い透明な音色が、僕の脳内に響いた。

「レイセン君!! 乾杯ってなに? そんなことするなんて聞いてないよ! 見様見真似でなんとかなったけど……」
 僕は舞踏会の静粛な雰囲気を壊さないよう、ひそひそ話のように怒りをぶつけた。すると、レイセン君は嫌に微笑むわけでもなく、溜め息を付いた。
「はあ……そんなことも教えなくてはならないなんて。ですが、もう乾杯することはありませんし、自由に歩き回って、御馳走でも食い漁ってきては如何です」
「僕とお菓子を食い散らかすモンスターを一緒にしないでよね。……それになんでレイセン君、僕と同じ格好じゃないの?」
 レイセン君はウェイトレスの衣装を身に纏い、ワインを乗せた銀のトレイを手にしていた。「ダンスを踊るつもりはございません」と言いたげだ。
「ああ、これですか。ダンスに誘われないように、ここの者から拝借いたしました」
「へぇー……」
「『どうせまた奪ったんでしょ』と、思っていらっしゃいますね。仰るとおりです」
「ぎくっ……」
「クク……では、私は仕事に戻りますね。あちらのテーブルに棒付きキャンディーが針山の如く並んでいますよ」
 艶めくキャンディー達が、僕を甘い世界へと誘惑していた。
「えっ!? 早く言ってよ……なくなる前に、僕も食べるんだ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...