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第1部
#17 開幕
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夜も更けた。今夜は舞踏会には持って来いの、静かな晩。
僕とレイセン君、ノアの三人は身支度を済ませると舞踏会のホールへ向かう。僕ら以外にも、招待された人々が寄り集まってワインを注いだり、会話をしたりとざわめいていた。
ベンティスカとフィリアは着付けや化粧があるから、僕たちの倍以上はかかるだろうというのが、レイセン君の見通しだった。
「おまたせ」
男性用の更衣室と正反対の扉から現れたのは、純白のドレスに身を包んだ二人の女性──ベンティスカとフィリアだ。上品な麗しさに、僕は暫し言葉を失った。
「あらぁ~? アクアさん、どこを見てらっしゃいますの??」
「……別に、どこも見てないですー」
「フィリア……えっと、肩の紐外れそう……」
「あら……お、おほほ……フィリアとしたことが。うっかり長さを整えるのを忘れていましたわ」
「もう……仕方ないなあ」
「ふふっ、こんなに素敵なドレスが着られるなんてね。もう二度とないかも……」
ベンティスカはドレスの裾を摘み上げ、くるくると回った。幾つも重なったフリルが垣間見える。
「そろそろ始まりますよ、主催者の登場です」
一際大きな扉の向こうから、幼い少年と、後に続いて執事服の青年が姿を現した。青年には見覚えがある──僕たちに招待状を渡した男だ。
金髪の少年は耳元の装飾を揺らめかせ、容姿に見合わない鋭い目つきのまま、口を開いた。
「皆の者、今宵は舞踏会。朝まで踊り明かそうではないか。さあ、存分に楽しんでもらおう。グラスを掲げ、乾杯せよ」
少年の合図と共に、人々が一斉にグラスを合わせ始めた。ベンティスカとフィリアがグラスを向かい合わせて掲げ、ノアも恐る恐る黒い影と乾杯していた。僕も大慌てでグラスを取る。
「わっ……えっと……」
「ご主人様」
レイセン君が僕にグラスを差し出し、同じように動作をするよう促した。
「えっ、あ……うん……」
グラス同士がカランと音を立ててぶつかり合う。心地良い透明な音色が、僕の脳内に響いた。
「レイセン君!! 乾杯ってなに? そんなことするなんて聞いてないよ! 見様見真似でなんとかなったけど……」
僕は舞踏会の静粛な雰囲気を壊さないよう、ひそひそ話のように怒りをぶつけた。すると、レイセン君は嫌に微笑むわけでもなく、溜め息を付いた。
「はあ……そんなことも教えなくてはならないなんて。ですが、もう乾杯することはありませんし、自由に歩き回って、御馳走でも食い漁ってきては如何です」
「僕とお菓子を食い散らかすモンスターを一緒にしないでよね。……それになんでレイセン君、僕と同じ格好じゃないの?」
レイセン君はウェイトレスの衣装を身に纏い、ワインを乗せた銀のトレイを手にしていた。「ダンスを踊るつもりはございません」と言いたげだ。
「ああ、これですか。ダンスに誘われないように、ここの者から拝借いたしました」
「へぇー……」
「『どうせまた奪ったんでしょ』と、思っていらっしゃいますね。仰るとおりです」
「ぎくっ……」
「クク……では、私は仕事に戻りますね。あちらのテーブルに棒付きキャンディーが針山の如く並んでいますよ」
艶めくキャンディー達が、僕を甘い世界へと誘惑していた。
「えっ!? 早く言ってよ……なくなる前に、僕も食べるんだ……!」
僕とレイセン君、ノアの三人は身支度を済ませると舞踏会のホールへ向かう。僕ら以外にも、招待された人々が寄り集まってワインを注いだり、会話をしたりとざわめいていた。
ベンティスカとフィリアは着付けや化粧があるから、僕たちの倍以上はかかるだろうというのが、レイセン君の見通しだった。
「おまたせ」
男性用の更衣室と正反対の扉から現れたのは、純白のドレスに身を包んだ二人の女性──ベンティスカとフィリアだ。上品な麗しさに、僕は暫し言葉を失った。
「あらぁ~? アクアさん、どこを見てらっしゃいますの??」
「……別に、どこも見てないですー」
「フィリア……えっと、肩の紐外れそう……」
「あら……お、おほほ……フィリアとしたことが。うっかり長さを整えるのを忘れていましたわ」
「もう……仕方ないなあ」
「ふふっ、こんなに素敵なドレスが着られるなんてね。もう二度とないかも……」
ベンティスカはドレスの裾を摘み上げ、くるくると回った。幾つも重なったフリルが垣間見える。
「そろそろ始まりますよ、主催者の登場です」
一際大きな扉の向こうから、幼い少年と、後に続いて執事服の青年が姿を現した。青年には見覚えがある──僕たちに招待状を渡した男だ。
金髪の少年は耳元の装飾を揺らめかせ、容姿に見合わない鋭い目つきのまま、口を開いた。
「皆の者、今宵は舞踏会。朝まで踊り明かそうではないか。さあ、存分に楽しんでもらおう。グラスを掲げ、乾杯せよ」
少年の合図と共に、人々が一斉にグラスを合わせ始めた。ベンティスカとフィリアがグラスを向かい合わせて掲げ、ノアも恐る恐る黒い影と乾杯していた。僕も大慌てでグラスを取る。
「わっ……えっと……」
「ご主人様」
レイセン君が僕にグラスを差し出し、同じように動作をするよう促した。
「えっ、あ……うん……」
グラス同士がカランと音を立ててぶつかり合う。心地良い透明な音色が、僕の脳内に響いた。
「レイセン君!! 乾杯ってなに? そんなことするなんて聞いてないよ! 見様見真似でなんとかなったけど……」
僕は舞踏会の静粛な雰囲気を壊さないよう、ひそひそ話のように怒りをぶつけた。すると、レイセン君は嫌に微笑むわけでもなく、溜め息を付いた。
「はあ……そんなことも教えなくてはならないなんて。ですが、もう乾杯することはありませんし、自由に歩き回って、御馳走でも食い漁ってきては如何です」
「僕とお菓子を食い散らかすモンスターを一緒にしないでよね。……それになんでレイセン君、僕と同じ格好じゃないの?」
レイセン君はウェイトレスの衣装を身に纏い、ワインを乗せた銀のトレイを手にしていた。「ダンスを踊るつもりはございません」と言いたげだ。
「ああ、これですか。ダンスに誘われないように、ここの者から拝借いたしました」
「へぇー……」
「『どうせまた奪ったんでしょ』と、思っていらっしゃいますね。仰るとおりです」
「ぎくっ……」
「クク……では、私は仕事に戻りますね。あちらのテーブルに棒付きキャンディーが針山の如く並んでいますよ」
艶めくキャンディー達が、僕を甘い世界へと誘惑していた。
「えっ!? 早く言ってよ……なくなる前に、僕も食べるんだ……!」
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