死の餞ヲ、君ニ

弋慎司

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第1部

#21 ???共の対談

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「ふぅ……ようやく行ったか」
「お疲れ様です。不死鳥様」
「ほお~? 礼儀だけはしゃんとしているな。お前」
「ええ、ここでは数字の若いものから順に偉いと、そうお父様に教わりましたから」
「ふん、この儂に父上の変装なんかさせやがって……スーツはきつい」
 お父様と呼んだその人は、疲労を顕にして魔法陣を敷いた。赤く光る粉雪を散らして、彼は本来の姿を取り戻す。──紅の着物、それがこの少年の正装とでも呼ぶべきだろうか。
「申し訳ありません……。貴方様がお父様に類似していたので。流石に、魔術で身長は誤魔化せませんから」
「なんだと? お前今、遠回しに『背が低い』って言ったのか!?」
「いえ、そんなつもりは……」
「お前もあいつみたいに燃やしてやろうか? え? 焼死はマジ痛いぜぇ?」
「おい、ルドルフさんに悪口言うのはそこまでだ」
 扉を蹴り飛ばして荒々しく部屋に入ってきた少女は、いつだって僕の味方をしてくれる。僕は無意識に口角を上げてしまったことに気づき、胸元のポケットからハンカチーフを出すと口元を隠した。
「なんだよぉ、お前も燃やされたい?」
「ハッ、馬ッ鹿じゃねーの。あたいがその気になったら、あんたなんて一瞬でミンチにしてやるさ」
「一対二とか、卑怯だろ」
「アリッサムさん、いいんです。悪いのは僕ですから……」
 僕はこぼれた涙をハンカチで拭う。
 少女──アリッサムは僕の肩に手を乗せて、少年を睨みつけた。
「いいやルドルフさん。悪いのはどう考えてもこいつだ。勝手に被害妄想しやがって」
「めそめそして女に庇ってもらうとか女々しいな。被害者ヅラかよ、ケッ」
 不死鳥様と呼ばれた少年は、忽然と表情を普段の調子に戻す。彼が熱しやすく冷めやすい性格だというのは、周知の事実である。
「まぁいいや、本題に入ろうかのぉ」
「あのなぁ……」
「はい、彼らは間違いなく、僕が招待した者達で間違いありません」
「父上の仇か……」
「ええ、中には我々の最終目標である────」
「よい、皆まで言うな。いちいち言わずともわかる」
「……今後の方針は、どのように?」
「あの中に女がいただろ、アレはあたいが殺る。文句ないだろ?」
 アリッサムが一歩前に出て宣告する。
 それは、ここにいる僕や不死鳥様だけではない、他の兄弟にも言い聞かせるような、そんな顔立ちだった。
「構いませんが、まだ目標の傍にはその……仲間が」
「あ~、あの側近か。あれは厄介だよなぁ。……お前が殺れよ」
「……畏まりました」
 不死鳥様が不敵な笑いを浮かべる。少なからず僕の環境を知った顔をしている。
「なあんだぁ、身内は殺れないとか言ったらどうしようかと思ったけど──」
 僕は魔力を浪費して不死鳥様の至近まで距離を詰め、彼の首元にナイフを突きつけた。
──例え兄弟だろうと、個人の秘め事プライベートを侵すものを赦す義務はなし。
 それが、僕達「兄弟」の特別な原則であった。
「そこまでですよ。僕にだって、踏み入られたくない領域というものが有ります。これ以上喋ったら……先ずは貴方を殺さなくてはなりませんね」
「はー……儂はもう飽きたから散歩してくる」
「いってらっしゃいませ」
 少年は煙を撒くように姿を消す。僕はナイフを仕舞った。アリッサムがわざとらしく溜め息を吐く。
「ルドルフさん……いいのか? 次もし、イラっときたら二人で殺っちまおうぜ、あんな奴」
「ですが大事な兄弟ですから……それに、僕はあの方について理解しきれないことが多いですし。まぁ、よく分かったことも……」
「……なんだ?」
「年を取れば取るほど、精神年齢は……若くなる。ということです」
「クスクス……。……あぁ、あのさ、ルドルフさん」
 アリッサムは、いつもは男勝りな態度だ。──が、時折僕に女性らしさを見せることがある。僕には到底理解できないことだった。
「なんでしょうか」
「まぁ、その……あたいで良ければいつでも力になるからさ……」
「ありがとうございます。では、あの女性を頼みましたよ。……僕はもう、彼女に顔を知られてしまっていて殺りづらいんです」
「ああ、任せてよ……じゃ、またな」
「ではまた…………。お会いできれば」
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