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悔し泣き
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はあはあと、息を切らせて走るソフィ、草を蹴って、小川を越えて、だいぶ行った所で、アカシアの木のぽつんと立っているのが見えた。そしてその木の下に、うずくまるシエラの姿。
ソフィの走るスピードが落ちた。
「まったく、なんて足が速いの?」
しまいにはゆっくりと歩き出しながら、ソフィは胸に手を当て 息を整える。
「こんなに走ったの、久しぶり。あー疲れた」
「……ソフィ?」
ひざを抱えたまま、少し顔を上げるシエラ。
「ごめんなさいね。わたし あなたのお友達にとんでもない事をしてしまったわ。本当にとんでもない。わたし 最初からあんな事をするつもりなんてなかったの。本当よ? わたしはみんなと仲良くなりたいの。さっきの人だって そう、わたしはあの人と仲良くなりたいと思ったの。でも、初対面であんな態度って、ないと思わない? まだ仲良くもなっていないのに、あんなに相手をからかったりして。それはいけない事だわ。いけない事をされて、だからわたしは、ついカッときて彼の足を踏んだの。そんな経験、ソフィにもないかしら? 突然 前後の見境がなくなって、自分がおさえられなくなって、一気に爆発する。
ないか。いやだわ わたし、十三歳にもなって泣いたり怒ったり、思いきりやって、恥ずかしいったらないわね。かんしゃくなんて、もう すっかり治ってしまっているとばかり思っていたのだけど、さっきのは今までで一番ひどかった」
シルバーの髪を耳にかけ、そっとシエラの隣に座るソフィ。
「ルドヴィックはあなたの事をちょっとからかってみただけ。あなたの事を面白い子だと思ったの。だからああやってみんなにふざけて見せたの。それだって、冗談でやったこと。だって、彼が本当にシエラの事を汚いと思ったら、この髪に手を触れないし、握手だってしない」
涙と、泥が混ざった ぐしゃぐしゃの顔を上げて、シエラ、
「リューイッヒのように?」
「そう。それに、あなたは過酷な旅をして来たのだから、自分の体が汚れているくらい自分でも分かっている事じゃない。それを人から言われたくらいで、どうしてそんなに怒るの」
シエラはひざの上にあごを乗せて、
「自分で分かっているのと、他人から言われるのとでは、大違いよ。そうでしょう? しかも初対面の挨拶で、あんな人を馬鹿にした振る舞い。ルドヴィックって男、あんなの最低だわ。もう、ひざまずいて許しを請うたって、わたし絶対に許さないから」
ソフィは涼しい目をして、広々と草原を見渡した。大地はうす暗く、空はまだ明るい。
「不思議ね、本当に不思議。ルドヴィックは誰にだってあんな口を利いた事がない。普段の彼はとても大人しいの。女性に人気があっても、彼は女性に興味はないの。リューイッヒがいくら話しかけたって、あの通り上の空よ。それなのに、さっきのルドヴィックったら、あんなにおどけて、楽しそうに」
ごしごしと袖口で涙を拭いて、
「ルドヴィックの事なんてどうでもいい。本当にどうでもいい。それよりも、
ねえ ソフィ、あなたは何て優しい人なの? こんなどこの馬の骨とも知らないわたしの泣き虫に、こうまで付き合ってくれるだなんて、わたし感激したわ。大抵はわたし、一人で泣くようにしているの。だって、泣いている人が泣き止むまで待つのって、その人にとっては退屈なものでしょう?」
それを聞いたソフィ、胸の中にある少女の泣き顔が浮かんで来た。その少女も今のシエラみたいにさめざめ泣いていた。
『ソフィは、ほんと良い人、泣いている人が泣きやむまで待つのって、退屈でしょう?』
胸にぽっかりと丸い穴が開いている気がして、ソフィはそっと胸に手を当てた。その動きで、さらさらと肩の髪が流れ落ち、彼女の顔を隠した。
シエラは突然 体を横に向けて、
「ねえソフィ、わたしたち、お友達になれないかしら? 欲を言えば、親友になりたいの。わたしそりゃ良い子だわ。約束は破らないし、秘密は守るし、親友の為だったらわたし、何でも相談に乗る。ソフィが泣いている時はわたし、あなたが泣き止むまでとことん付き合う。一緒に泣いてあげたっていい。一緒につらい目にあったっていい。だから、ね、わたしとお友達になって。わたしとあなたは、なんだか気が合いそうだわ」
シエラは相手を誘うようにたくさん笑顔を作った。これだけ自分に良くしてくれるソフィが、自分と友達くらいにはなってくれると、シエラはそう思った。
ところがシエラの目の前には あの、恐ろしく冷たいソフィがいた。
「さてと、あなた、メイトリアール教会に用事があるのでしょう? もう泣き止んだ? 泣き止んだら ほら、さっさと行くわよ。わたし先生に話を通してあげる。あとは、あなたで何とかしなさい」
スカートの草を払って、立ち上がるソフィ、そのままシエラを見向きもしないで、一人アカシアの木を離れて行った。
ソフィの走るスピードが落ちた。
「まったく、なんて足が速いの?」
しまいにはゆっくりと歩き出しながら、ソフィは胸に手を当て 息を整える。
「こんなに走ったの、久しぶり。あー疲れた」
「……ソフィ?」
ひざを抱えたまま、少し顔を上げるシエラ。
「ごめんなさいね。わたし あなたのお友達にとんでもない事をしてしまったわ。本当にとんでもない。わたし 最初からあんな事をするつもりなんてなかったの。本当よ? わたしはみんなと仲良くなりたいの。さっきの人だって そう、わたしはあの人と仲良くなりたいと思ったの。でも、初対面であんな態度って、ないと思わない? まだ仲良くもなっていないのに、あんなに相手をからかったりして。それはいけない事だわ。いけない事をされて、だからわたしは、ついカッときて彼の足を踏んだの。そんな経験、ソフィにもないかしら? 突然 前後の見境がなくなって、自分がおさえられなくなって、一気に爆発する。
ないか。いやだわ わたし、十三歳にもなって泣いたり怒ったり、思いきりやって、恥ずかしいったらないわね。かんしゃくなんて、もう すっかり治ってしまっているとばかり思っていたのだけど、さっきのは今までで一番ひどかった」
シルバーの髪を耳にかけ、そっとシエラの隣に座るソフィ。
「ルドヴィックはあなたの事をちょっとからかってみただけ。あなたの事を面白い子だと思ったの。だからああやってみんなにふざけて見せたの。それだって、冗談でやったこと。だって、彼が本当にシエラの事を汚いと思ったら、この髪に手を触れないし、握手だってしない」
涙と、泥が混ざった ぐしゃぐしゃの顔を上げて、シエラ、
「リューイッヒのように?」
「そう。それに、あなたは過酷な旅をして来たのだから、自分の体が汚れているくらい自分でも分かっている事じゃない。それを人から言われたくらいで、どうしてそんなに怒るの」
シエラはひざの上にあごを乗せて、
「自分で分かっているのと、他人から言われるのとでは、大違いよ。そうでしょう? しかも初対面の挨拶で、あんな人を馬鹿にした振る舞い。ルドヴィックって男、あんなの最低だわ。もう、ひざまずいて許しを請うたって、わたし絶対に許さないから」
ソフィは涼しい目をして、広々と草原を見渡した。大地はうす暗く、空はまだ明るい。
「不思議ね、本当に不思議。ルドヴィックは誰にだってあんな口を利いた事がない。普段の彼はとても大人しいの。女性に人気があっても、彼は女性に興味はないの。リューイッヒがいくら話しかけたって、あの通り上の空よ。それなのに、さっきのルドヴィックったら、あんなにおどけて、楽しそうに」
ごしごしと袖口で涙を拭いて、
「ルドヴィックの事なんてどうでもいい。本当にどうでもいい。それよりも、
ねえ ソフィ、あなたは何て優しい人なの? こんなどこの馬の骨とも知らないわたしの泣き虫に、こうまで付き合ってくれるだなんて、わたし感激したわ。大抵はわたし、一人で泣くようにしているの。だって、泣いている人が泣き止むまで待つのって、その人にとっては退屈なものでしょう?」
それを聞いたソフィ、胸の中にある少女の泣き顔が浮かんで来た。その少女も今のシエラみたいにさめざめ泣いていた。
『ソフィは、ほんと良い人、泣いている人が泣きやむまで待つのって、退屈でしょう?』
胸にぽっかりと丸い穴が開いている気がして、ソフィはそっと胸に手を当てた。その動きで、さらさらと肩の髪が流れ落ち、彼女の顔を隠した。
シエラは突然 体を横に向けて、
「ねえソフィ、わたしたち、お友達になれないかしら? 欲を言えば、親友になりたいの。わたしそりゃ良い子だわ。約束は破らないし、秘密は守るし、親友の為だったらわたし、何でも相談に乗る。ソフィが泣いている時はわたし、あなたが泣き止むまでとことん付き合う。一緒に泣いてあげたっていい。一緒につらい目にあったっていい。だから、ね、わたしとお友達になって。わたしとあなたは、なんだか気が合いそうだわ」
シエラは相手を誘うようにたくさん笑顔を作った。これだけ自分に良くしてくれるソフィが、自分と友達くらいにはなってくれると、シエラはそう思った。
ところがシエラの目の前には あの、恐ろしく冷たいソフィがいた。
「さてと、あなた、メイトリアール教会に用事があるのでしょう? もう泣き止んだ? 泣き止んだら ほら、さっさと行くわよ。わたし先生に話を通してあげる。あとは、あなたで何とかしなさい」
スカートの草を払って、立ち上がるソフィ、そのままシエラを見向きもしないで、一人アカシアの木を離れて行った。
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