【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん

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後日談(短編)

一世一代の②

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「ドレスの準備は終わったか?」
「はい、今日やっと最終チェックが終わりました」

卒業パーティーの準備のため、二週間ほど前からティナとアレクシが王城に滞在している。

「王妃様がどんどん派手なドレスにしようとするので阻止するのに必死でしたよ」
「はぁ…ホントにもうあれはどうしようもないな…」

ティナを婚約者としてパートナーにするのは初めてだからドレスやら宝石やらは一緒に決めるつもりだったのだがその役割もいつの間にか王妃ははに取られた。
最初は提案程度だったが段々とダメ出しを連発し始め、最終的には俺だけが閉め出されてしまったのだ。最近は何だかんだと二人の時間をジャマしてくる母親に怒りしか湧かない。

「はぁ~…だけどやっぱり緊張します。私が参加して大丈夫でしょうか?」
「まぁそんな大層に考えなくても何とかなるだろ」
「…また適当なこと言って」

卒業パーティーは式典後の二次会的な位置付けだ。出席者の多くは婚約者をパートナーとして連れていくのが慣わしであるから俺もティナを連れて出席するが、大々的に発表するつもりは毛頭ない。
入場して一曲踊ったらサッと会場を出て、その後そのまま王都の外れにある別邸で二人きりで過ごす予定だ。

(そこでついに……)

ようやく巡ってくるだろう甘い展開を妄想しニヤニヤしているとジト目で見られていた。ごまかすように小さく咳払いし、何か違う話題はないかと見渡せばテーブルの端に置いてある新聞が目に入る。

「お?なんだこれ」
「あ、それは昨日ヘレナ様にもらった新聞です」
「どれどれ…」

新聞の地域のニュース欄にはヘレナ嬢の事が載せられているという。

「ふ~ん…踊ってプロポーズ?」
「ええ。この記事のおかげで新店舗の売り上げが倍増したらしくて新聞も買い占めて配っているんだそうです」

なるほど、商魂たくましいヘレナ嬢らしいと記事を読み進めていく。

(プロポーズ…プロポーズか……)

「ハッ!?」
「うん?どうかしましたか?」
「あ、いや…」

今更ながら大変なことに気がついた。

(俺プロポーズしてなくないか!?)

記憶を隅々まで掘り起こしてみてもあの子供の頃のお茶会でプロポーズもどきをしたことしか覚えていない。


甦るあのお茶会の記憶――


『決めた!お前を俺のフィアンセにしてやろう!』

………
……


『誰だか知りませんがおことわりします』



(黒歴史!!)

上から目線で言い放ち、すげなく断られて泣かされたあの残念なプロポーズ!

「ヤバい…これはマズい…」

好きだとは何度か言ったが結婚してくれとははっきり伝えていない。そしてプロポーズもしていないのにしようと計画を企てている…

(無責任!!)

卒業パーティーはもう目の前だ。それまでにちゃんとしたプロポーズをしなければ男としてまずいんじゃないか!?

(だが何の用意もしてないのに今から完璧なプロポーズなんかできるか…?)

「どうかされましたか?なんか顔色悪いですよ」
「は、あ…いや…」
「?」

考えがまとまらずに悶々としていると、扉をコンコンとノックする音が響きアレクシが顔を覗かせた。

「お姉さま、お兄さまただいま!」
「アレクシ!」

部屋に入ってきたアレクシは一目散にティナの元に駆け寄りぎゅっと抱きつく。
ティナの気が逸れてとりあえず助かったと小さくため息を吐いた。

「しつれいします」
「お邪魔するよ」
「あ、アマリアちゃんにスレヴィ様、おかえりなさい」

アレクシに次いで部屋に入ってきたのはスレヴィに従妹いとこのアマリアだ。アマリアは王妃ははの末の弟の娘で現在七才。内向的で無口な性格ではあるがとてもしっかりしている女の子だ。

何の因果か今日とある公爵家で貴族の令息令嬢を招いてのガーデンパーティーがあり、アレクシもシルキア家の令息として招かれていた。こういった集まりに参加するのはまだ早いのではないかとティナは心配していたが、すでに慣れているアマリアが出席するので一緒に出てはどうかと提案したのだ。
シルキア伯爵家の跡取りになるのであれば貴族との交流は避けられない。今のうちに少しでも慣れて味方をつけていた方が良いだろう。特にシルキア家はユーリアのことがあったため風当たりは強い。立場的にアレクシを庇うことは容易だが本人の強さも必要だ。

「意地悪されなかった?」
「う~ん…お前みたいな元平民が参加していいお茶会じゃないんだぞ!って言われた」
「なぬ!?」

ティナはいきり立っているが、貴族あるあるだろう。しょうもないことで難癖つけてくるヤツはどこにでもいるもんだ。

「あの…ですがアレクシ様はとてもりっぱに言い返しておられました」
「そうなの?何て?」
「僕が本当に来ちゃダメだったら門で止められたよって言ったんだ」
「お~ド正論~」
「それにアマリア様もたすけてくれたんだよ!」

アマリアは照れくさいのか顔を赤くしてもじもじと口を開く。

「たすけるだなんてたいしたことは…ただアレクシ様に“お姉様はリクハルド王太子殿下の婚約者ですから殿下ともよくお会いになるのですか?”とたずねたら令息たちはみるみるうちに真っ青になって……とてもおもしろかったです」
「……」
「あ…アレクシ様にいじわるを言った令息のリストをまとめましたので…」
「ああ、それは僕が引き受けるよ」

アマリアが何事か書いた紙をスレヴィに渡している。なぜかはにかんで面白かったと言い、リストまで作ったアマリアに末恐ろしいものを感じるが、さすがにこの辺りは自分たち(特にスレヴィ)と通じるものがあると感心する。……ティナは引いているが。

「とにかくアレクシの貴族デビューは上々だったってことだね。僕たちのお茶会とは違って」
「!」

にっこり笑って言うスレヴィに思わず俺もティナも言葉に詰まった。思い出したくない記憶なのは二人とも同じだろう。
…いや、待てスレヴィ。お前もそんなに良い思い出ではないだろう。そんな思いを込めてじろりと睨むとスレヴィは意味深に俺が手にしていた新聞に視線を送る。その途端体がビクッと反応してしまった。

「…あ。それってヘレナ嬢のプロポーズのやつでしょ?」
「う、ああ…」
「素晴らしいプロポーズだったらしいね。ね、兄さん」
「クッ…」

何かもお見通しというようににっこり微笑まれ俺は余計に焦りを感じ始めたのであった。

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