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第九章【セントラル】
9-33 画竜点睛
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―――15分後。
リッターに案内されたのは、例の地下実験場だった。
途中で地下へ呼ばれていると気付いたものの、リッターがどこかいつもと違う雰囲気を察して、無言のまま着いてきていた。
魔剣士「…」
バンシィ「…」
バンシィが兄と決別し、ブリレイの力を知ったあの日。魔剣士はチャンスを失ったことを、バンシィは敵になったブレイダーに対する気持ちがふつふつと沸く。
リッター「……さて、着いてきてくれて有難う」
魔剣士「そりゃ呼ばれたからな」
リッター「時に、君たちはブレイダーさんと濃い関係にあるのは知っているんだが……」
魔剣士「濃いって…、ただ知り合いってだけだっつーの」
リッター「何々、充分だ。俺としてはだな、それについ知っておきたいことがあるんだ」
魔剣士「……何だ?」
リッターは両こぶしをゴンゴンと胸の前で鳴らし、まるで戦う姿勢を取る。
リッター「いや何、これは騎士団としても、俺としても知っておきたい問題でな。いや、試したいこと…といったほうが正しいか」
魔剣士「だから何だよ」
リッター「……分かるだろう?」
もう一度、"ゴンゴン"と拳を鳴らす。
魔剣士「本気か?俺にとって、理由はねーぞ」
リッター「俺にはある」
魔剣士「アンタとやる理由はねぇ。急にそんなこと言われても、乗る気もしねぇ」
リッター「こんな機会はないぞ。これでも俺は、シュトライトの現役時代からそれなりに名を馳せていたと自負しているんだがな」
魔剣士「……聞いたこともないな。お前の中でだけ有名だったんじゃねーのか?」
リッター「ふはははっ!!相変わらず口が悪いが、冒険者はそうでなくてはな!」
三度目。"ゴンゴン!!"と拳をぶつけ合い、今までよりも強く音が響く。
魔剣士「……理由を聞かせろ。納得できるなら、付き合ってやる」
リッター「生憎だが、言うに言えん。不本意ながら、戦うことだけが優先されているらしい」
魔剣士「……は?」
この言い方、もしかすると。
魔剣士「おいアンタ、まさかとは思うが……」
リッター「さぁ、御託ばかり並べるより強制的にゴングを鳴らそうか!!」
魔剣士「ん……」
リッター「行くぞッ!!」
魔剣士「ッ!!?」
バンシィ「あっ……!?」
リッターは大声と同時に、右の拳が魔剣士めがけて突いてきた。かろうじて反応した魔剣士は、剣を抜いて側面部分でそれを弾き、何とかダメージなく抑える。
魔剣士「……ッ!」
"びりびり"と、弾いた剣で手が痺れた。
リッター「ほう、反応は悪くない。やはり睨んだ通りだ」
魔剣士「テメェ……!」
リッター「話をしている暇もなく」
魔剣士「うっ!?」
続いて、左拳。咄嗟に刃で防御を図ろうとするが、弾く寸前に拳は"ピタッ"と停止し、今度は右拳が魔剣士の脇腹を捉えた。
魔剣士「なんっ…!うごォッ!?ご、ごほっ……!」
そのまま突き飛ばされた身体は、壁に大きく叩きつけられて"ゴシャッ!"と鈍い音が響く。
バンシィは慌てて傍に寄ると、お兄ちゃん!と倒れた身体を抱きかかえた。
魔剣士「げほっ、げほげほっ……!」
バンシィ「お兄ちゃん、大丈夫……!?」
魔剣士「大丈夫だ、そ…それより一回離れていろ…!この、クソリッター…が…………!」
腕をバンシィの前に伸ばし、守るよう姿勢を整える。
リッター「成る程、硬いな」
魔剣士「テメェ…!お、俺を攻撃するのは……!」
リッター「実力を量るためだ」
魔剣士「何だと…!」
リッター「それ以上の言葉はない。それに、ここならば存分に暴れられると思ってな」
自身の背中に手を伸ばすと、グネグネとした折りたたまれた細い板のようなものを取り出した。
そして、「ふんっ!」と力を入れるとそれは、立派に成した"太刀"へと姿を変える。
魔剣士「本気なのか…テメェ……」
リッター「こいつは魔太刀(マダチ)だ。中々珍しいモノでな、魔力を維持している間のみ剣として扱うことが出来るちょっとした代物だ」
魔剣士「それがどうした……」
ただのデッケェ剣だろうがと余裕を見せるが、バンシィは気づく。
バンシィ「お兄ちゃん、あれ……!」
魔剣士「あ?」
バンシィ「あれは物理と魔法を半々に宿すやつだよ…。岩を砕いた時にした、あの……!」
魔剣士「……なるほどな、そういうことかよ…」
彼の持つ太刀は、物理と魔法の効果を宿す。防御を取る時、半々のイメージをしなければ斬られてしまうということだ。
魔剣士「どうしてかは分からねーけど、本気みてーだな……」
リッター「お前の力を量るためだ。すまないが、覚悟をしてくれるか」
魔剣士「……つっても、その眼は本気で俺を殺しに来てるような気がするんだがな?」
リッター「量る前に死んでしまったのなら、その程度だということだ!」
でかい図体をしながらも、リッターの速度は尋常ではない。
太刀を構えたのが見えたと思えば、一瞬で間合いを詰めて魔剣士の懐へと潜る。
魔剣士「早ぇっ!?」
リッター「斬った…か?」
横一文字に切り裂く太刀の一撃。魔剣士は身体を逸らしてそれを避けながら、後転しつつ太刀を蹴り上げて弾く。
リッター「……っと…!」
魔剣士「はァッ!」
リッターのわずかな隙に、無詠唱による雷撃を撃ち込む。しかし彼もまた無詠唱によって雷撃を弾き飛ばしながら、再び超速による間合い詰めを行う。
魔剣士(げっ、全く動じないのかよ!?)
間合いを詰められてすぐ、同じように横一文字の斬撃を繰り出すリッター。一度目は剣で弾き返すも、太刀はそのまま円を描き縦の振り下ろしに変わる。
魔剣士「うっ!?」
リッター「反太刀の型、クロイツシュナイデン――…」
あまりにも早すぎる攻撃に、魔剣士はついていくことが出来なかった。
魔剣士「やべ……」
バンシィ「お、お兄ちゃんっ…!!」
強烈な魔力を帯びた巨大な刃。二度目の太刀は、防御を行う前に魔剣士をてっぺんから股下まで一発で切り裂いた。バンシィの目の前で、魔剣士の身体は真っ二つにされたのだ。
リッター「ふむ、硬いと思ったのは気のせいだったか。訂正しよう…、何と……脆い存在なのだと」
………
…
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―――その頃、猛竜騎士宅にて。
魔剣士がリッターに襲われていた同時刻。猛竜騎士の自宅には数人の騎士団が訪れていた。
猛竜騎士「貴様ら……!」
ただ、何をするわけでもなく"お越しください"と言うばかりで、手を出す様子はなかった。
猛竜騎士「何用だ…!」
騎士団「ハイル王の命令により、お前たちを連れに来た。抵抗さえしなければ、何をするわけでもない」
猛竜騎士「……ハイル王だと?王が、ただの男と女に用事があるというのか!?」
カマをかける。自分たちが装着している"仮面"の幻惑効果は動いているのか。
騎士団「違う、詳細は聞かされていないが猛竜騎士様と白姫様のお二人に用事があるという話だ。王、直々の命令だと思え」
猛竜騎士「……ッ!」
自分たちの存在を理解されているということは、仮面の類の魔法に触れている。つまり、ブリレイが絡んでいるということだった。
猛竜騎士「……先に動かれたか…!」
白姫「猛竜騎士さん…」
猛竜騎士「魔剣士は心配いらないだろうが、これはちょっとよろしくない状況だな……」
白姫「…っ」
猛竜騎士「しかし…、どうして……」
どこか行動を急いでいるように感じる。少し前に会ったブリレイは決して急いでいる様子もなく、敵意の片鱗も見せていなかったというのに、シュトライトともあろう男が存在を明かすようなヘマをやるものだろうか。
猛竜騎士(わざわざ部下に迎えに来させるとは、いくら俺でもこのくらい逃げ切ることは容易だと分からなかったのか……)
"……ハッ"とする。
―――罠か?
猛竜騎士(待て、相手はあのシュトライトだ。もし、俺と白姫が逃げるのを前提にこれを仕組んだとすれば……)
どちらともいえない。着いていくのが罠かもしれないし、逃げてもらうことが目的かもしれなかった。
猛竜騎士(……なら、答えはこちらか)
両手を挙げて、騎士団に従うとアピールして白姫にもそれを促す。
白姫「も、猛竜騎士さん……」
猛竜騎士「この状況、逃げるのに容易過ぎる。どうも、逃げるよりも従ったほうが良さそうだ」
白姫「……分かりました」
猛竜騎士「すまない。怖い思いをさせるかもしれないが……」
白姫「いえ、大丈夫です!」
奥底では恐怖を感じつつも、健気に強気な姿勢を見せる。
猛竜騎士「そうか、ありがとう。……それじゃ騎士団の皆さんよ、案内をしてもらおうか」
騎士団「……最初から素直に従えばいいものを。着いてこい!」
猛竜騎士「乱暴にはするんじゃないぞ」
まさに急転直下。二人は腕を縄できつく縛られると、騎士団に王城へと連行されていった。
………
…
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―――20分後。
猛竜騎士と白姫は、両腕を縛られたままセントラル王城、王室へと案内された。
騎士団の一人が扉を開き「入れ」の一言に、二人は部屋へと入る。
白姫「…っ」
白姫にとっては久方ぶりの"我が家"であり、かつて父と時間を共にした思い出の場所。ここに歩いてくる途中にも、まるで昨日のことのようにそれを思い出していた。
猛竜騎士「…」
だが、王室の玉座に座っていたのは"ハイル"ではなかった。
ブリレイ「……こんにちわ、猛竜騎士さん。白姫さん」
想像をしていた通り、やはり"シュトライト"、彼であった。
猛竜騎士「ブリレイ……」
ブリレイ「こんなかたちで申し訳ありません。実は、ちょっとしたことがありまして……」
猛竜騎士「御託はいらん…。貴様の目的は一体なんだ……!」
ブリレイ「猛竜騎士さん、僕のお話しを少し落ち着いて聞いていただけませんか?」
猛竜騎士「この状態で、よくそんな言葉が出るな」
ブリレイ「……分かりました。それでは落ち着くために…」
軽く腕を上げたブリレイ。指を"パチン!"と鳴らすと、二人を縛っていた縄がはらりと落ちた。
猛竜騎士「……これは余裕か?」
ブリレイ「だから、お願いですからお話しを聞いていただけませんか」
猛竜騎士「何を聞けというんだ…。この状況から、お前の話などまともなものでないことは分かる」
ブリレイ「そうではありません。実は、このような状況になったのはいくつか理由があります」
猛竜騎士「くだらぬ理由だろう」
ブリレイ「これは、ハイル王による直々の命です。今、ハイル王は部屋で休まれています。その合間に、情報を伝えようと…このような状況で案内をさせていただきました」
猛竜騎士「…」
ブリレイ「もしかすると、この状況で僕を怪しんでいるかもしれません。ですが、今も僕はセージ様と共に心はあります。……信じてください」
玉座から降り、二人のもとへと近づく。
ブリレイ「これからお話しすることは、信じられないことかもしれません。ですが、貴方たちが疑っていることはこれで解決するはずです」
猛竜騎士「何だと言うんだ、言ってみろ……!」
ブリレイ「……僕は、闇魔法の会得者です」
猛竜騎士「!」
白姫「!」
何を言うのかと思えば、隠し通すと思っていた言葉を彼はあっさりと口にした。
しかしその言葉で、ブリレイが氷山帝国から来た手紙のことを知らないのだと分かる。
ブリレイ「氷山帝国での実験中、たまたま事故で闇魔法を宿してしまいました」
猛竜騎士「……にわかには信じられない話だな」
ブリレイ「そうだと思いますが、僕は得意とする幻惑魔法を闇魔力で扱っています」
猛竜騎士「信じられない言葉だが…、もしそれが本当だとして、俺たちにそれを伝えて何になる……?」
ブリレイ「僕はこの力を使って、世界を救いたい。ですから、お二人にはそれのお手伝いをしてほしいんです」
猛竜騎士「何…?」
ブリレイは申し訳なさそうな表情で、攻撃的な雰囲気もなく、あたかもそれが真実であるとばかりに訴えてくる。真偽がどちらなのか、まだ決断は出来ない。
ブリレイ「僕は、力を得た当初こそこの力をもって現役時代のような覇者になる夢も見ました。ですが、僕にとっては世界を救うほうが大切だった」
猛竜騎士「それで…、俺らに手伝ってほしいってことはなんだ……」
ブリレイ「簡単なことです。僕が王を幻惑し、その後の世界を担う存在になってほしい。今の団長に変わるかたちで、猛竜騎士さんは戦士たちのトップを。白姫さんは王の代わりになってほしいのです」
猛竜騎士「……な、何?」
白姫「わ、私が…王の代わりに……?」
ブリレイ「えぇ、実はその準備も既に進めており……」
"……ドンッ!!!"
その時、強烈な魔力。白姫も気付くくらいに、強力過ぎる魔力が王城を包んだ。
ブリレイ「うっ!?」
猛竜騎士「な、何だ!?」
白姫「あうぅっ…!?」
話の途中だったブリレイですら、驚くほどの魔力。しかし、この感覚を猛竜騎士だけは知っており、ブリレイも理解する。
猛竜騎士(今のは王城の地下深くから……、それもこの感覚はまさか……魔剣士のか……!?)
ブリレイ(……強力なほどの闇魔力!やっているようだな、リッター…!)
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――同時刻、地下室にて。
リッター「……ふむ、確かに斬ったと思ったのだがな」
魔剣士「……ッ!!」
頂点から真っ二つにされた魔剣士の身体は、防衛本能による魔法化によりすぐに回復が施された。バンシィはそれを間近で見て、これこそが闇魔法の神髄なのだと悟る。
リッター「何をした?有り得ない量の魔力だったが、斬った手ごたえは深く、まず間違いなく頭からかち割ったものと思ったが……」
王室にいる猛竜騎士たちが感じ取った魔力は"これ"だった。魔剣士が砂国以来の魔法化を行ったのだが、リッターの一撃は身体が緊急的な回復を求めるほどに強力なものだったらしく、宿っていた闇魔力が急激に身体を再形成したときに発せられたものだったらしい。
魔剣士(今、意識が完全に外に飛んでいた…。もし魔法化がなかったら、俺は……)
死んでいただろう。そう思っているのもつかの間、次の一撃がさく裂する。
バンシィ「……お兄ちゃんっ!!」
魔剣士「うぉっ!?」
"ズバァンッ!!"
横払いの剣撃が、またもや魔剣士の肉体を捉える。考える暇も、悩む暇もなく、リッターは"命"を狙って来た。
魔剣士「ちっ……!」
半身が吹き飛ばされたものの、即座に魔法化して煙のように消えたあと、肉体はまた形成される。今度ばかりはリッターはハッキリとそれを見て、何かの術かと問う。
リッター「今のは何だ…。蜃気楼の類でもなし、初めて見るものだ。何をしている……?」
魔剣士「お、俺の秘術をそう簡単に教えてたまるかよ……!」
秘術も何も、死なぬ身体というわけなのだが、それでもリッターの強さはどこか敗北してしまうんじゃないかという"戦士のオーラ"が強くあった。
魔剣士(こいつ、マジで強ぇッ…!しかも、ここまで魔法化したら他の面子にも気づかれたか……!)
回復に濃い闇魔力を二度も自動発動してしまった時点で、既に誰かしらは強き魔力を保持していることは気づいていることだろう。バレないように立ち回っていた努力が、一瞬で水の泡へと消えた怒りが沸いてくる。
魔剣士(この…野郎……)
突然の攻撃に、何も分からないまま努力を無駄にされた怒り。魔剣士は剣を強く握り、構えを取る。
魔剣士「てめぇのせいで、俺の努力は水の泡だ。ざけやがって…!周りに色々とバレちまったってんなら、手加減も必要なくなったことだろうが……」
リッター「お前に手加減という言葉もあるのか?…言うならば、今のは闇魔力の一つの力だろうが、それでは俺に勝てんぞ!」
魔剣士「っ!?」
知っている。自分の力のことを。
魔剣士「……最初から思ってたが、やっぱりか。テメェ、もしかしなくても…"操られている"な」
リッター「操られているだと?」
魔剣士「俺を殴る前、アンタは確かに"戦うことが優先されている"と言った。ブリレイに何か仕込まれたな……?」
リッター「…何を言っている?」
魔剣士「いや、どこまで何を言われているのかは知らないが。だけどよ、分かったことがある」
―――ブリレイは敵だ…。
俺の命を狙うような命令をしているのなら、ブリレイは間違いなく、敵であると。
魔剣士「結局、ブリレイも敵だったのかよ…。セントラルに入ってから、何が嘘で、何が本当で、裏切りばっかで、ここまでくると自分以外が信用できなくなっちまって笑えるんだよ」
リッター「ふむ?」
魔剣士「アンタに俺を殺すよう仕向けたということは、ブリレイだって馬鹿じゃない。何か算段があるっつーことだろう。それに、急いでるな?」
リッター「……何の話かは分からないが」
魔剣士「ここにきて、ヘグっちまったなブリレイ。アンタの目的は知らないが、力量を量ることが出来なかったみてぇだな?」
魔剣士は剣で円弧を描き、地面へと突き刺す。
……瞬間、全身が炎を包み込んだ。
リッター「何っ…!?」
魔剣士「バンシィ、離れとけ。リングの上の比じゃねぇ、命を賭けた戦いってのなら…俺の本気で戦ってやるよ」
バンシィ「う、うん……」
闇魔法の神髄を、今こそ。本気で戦わねばならない相手だと、打ち合って分かった。
魔剣士「行くぞ、ここからはしゃべる暇もねぇからな」
リッター「ハハハッ、楽しみだ!」
………
…
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―――王室側。
強烈な闇魔力を感じたブリレイは目を開いて驚いたものの、すぐに細目で冷静な表情へと戻った。
だが、猛竜騎士はそれについて聞く他はない。
猛竜騎士「……ブリレイ」
ブリレイ「何でしょうか?」
猛竜騎士「今のは、強い魔力。誰もが感じるほどに強い魔力が確かに、王城の地下から感じたのだが…?」
ブリレイ「えぇ、自分も感じましたが……」
隠せる内容ではないと踏んだのか、潔くそれを認める。
猛竜騎士「何が起きているんだ?この地下には何がある?」
ブリレイ「以前説明した通り、大声では言えませんが…闇魔法の実験場があります。ブレイダーさんがおりますし、その影響ではないかと……」
猛竜騎士「なるほど、ブレイダーの魔力か」
ブリレイ「えぇ」
ここで失態。ブリレイは、魔剣士の魔力だと認めていればよかったのだが。
猛竜騎士「……そうか」
感じた魔力は"肉体再生の際に起こる闇魔力"だと知っていた猛竜騎士は、嘘を見抜いたのだ。
ブリレイ「それよりも、先ほどのお話しなのですが……」
猛竜騎士「あぁ、俺らに手伝ってほしいことだったな」
ブリレイ「はい…。改めて説明しますが、僕の闇の幻惑によって、王を操作し、平和な世界を入手することをお手伝いいただけませんか?」
猛竜騎士「俺を団長に、白姫を王の代わりに立てると……」
ブリレイ「悪いお話しではないはずです」
猛竜騎士「……お前の求めるのは何だ?」
ブリレイ「求めるものですか?」
猛竜騎士「俺と白姫を国のトップに仕上げたところで、お前に利点はない。お前の幻惑魔法もいつまで持つか分からないし、ずっと王の傍に張り付くのか?」
ブリレイ「それしかないと思っております。世界平和のために、僕の命一つあれば……」
猛竜騎士「……なるほどな」
さて、どうしたものか。
これが本心なのかは定かではないが、現時点における情報を総ざらいする。
猛竜騎士(…)
瞳に宿る闇魔法の存在を打ち明けた理由、ブリレイの真の目的が何なのか。また、どうして地下にいる魔剣士の存在を隠すような発言をしたのか。
猛竜騎士(…)
ハイル王は疲れて休んでいるといったが、傲慢な彼がいくらブリレイでも"玉座"に座ることを許すだろうか。
猛竜騎士(…)
騎士団の動向は。今日、騎士団として活動するはずの魔剣士が地下にいる理由は。
猛竜騎士(…)
嘘ばかりで固められていること。だが、戦いになればこちらが不利だろう。
猛竜騎士(…)
どうして急いだ。ブリレイが俺らにこの話することを、どうして急いだのか。
猛竜騎士(…)
何かがあった。ブリレイにとって、急ぐ何かが……。
ブリレイ「…えぇと、猛竜騎士さ……」
猛竜騎士「お前に聞きたいことがある」
ブリレイ「っと、何でしょうか?」
猛竜騎士「さっき、地下で今日もブレイダーが実験を行っていると言ったな」
ブリレイ「えぇ、そうですね」
猛竜騎士「ならば問う。どうして、魔剣士も一緒にいる?」
ブリレイ「……えっ?ま、魔剣士さんですか?」
わずかな動揺。見逃すはずがない。
猛竜騎士「ブレイダーの実験に、魔剣士が付き合っているのか?」
ブリレイ「それは…、そうですね。少し言うのが遅れましたが」
猛竜騎士「忘れることか。ちょっとこの話は、俺らだけでは決めかねることだからな…。魔剣士にも相談をしたいんだが?」
ブリレイ「今は闇魔力に溢れた実験場にいるので、危険かと思いますので……」
猛竜騎士「直接に攻撃されなければ大丈夫だと知っている。案内してくれないか」
ブリレイ「それは…ですね……」
明らかに口周りが下手になる。
だが、これ以上につつけば蛇が出る危険もあると感じた猛竜騎士は一旦そこで話を止める。
猛竜騎士「……まぁ、実験の手伝いが全部が済んでからでいいさ」
ブリレイ「そ、そうですか?」
猛竜騎士「考えてもみれば、危険なのは変わりないしな。あとで魔剣士と会って、その時に話をするかたちでいいか?」
ブリレイ「えぇ、それならば……」
猛竜騎士「……分かった。それじゃ俺らは一度、家に戻らせてもらうぞ」
"くるり"と振り返り、白姫にも「帰ろう」と伝えて出口に向かう。
あわよくば、このまま城内の散策を行い、地下室にいるであろう魔剣士と合流しようと考えたのだが。
ブリレイ「……猛竜騎士さん、白姫さん、申し訳ありません」
謝罪した彼が"パチン!"と指を鳴らすと、連れてこられた時と同じように縄がキツく二人の腕を縛り上げた。
白姫「ぶ、ブリレイさん…?」
猛竜騎士「……どういうことだ?」
ブリレイ「申し訳ありません…」
はぁとため息をついて、すみませんと言いながら城内にいた騎士団を呼ぶ。
ブリレイ「自宅まで送り届けさせていただきます」
猛竜騎士「別に、必要ないんだがな…?」
ブリレイ「一応は、そのほうが城内で見られた他の面子にとっても丁度いいのです。騎士団の数人は僕の幻惑で、素直に動くばかりなので敵意はないため、ご安心ください」
猛竜騎士「……そうかい」
ブリレイ「それと、この様子を見られて何かあった時のために、護衛として数人を自宅周りに待機させます。これで、何かあった際に守るよう命令を行っておきますので」
丁度いいのはブリレイにとってだろう。また、護衛といってもそれは自分たちに対する"見張り"ということだ。
猛竜騎士「……そこまでの配慮はいらないんだがな」
ブリレイ「いえいえ、これもお守りするためのことですので。ご協力の程、よろしくお願い致します」
猛竜騎士「あぁ、分かったよ……」
今は素直に従う他はない。猛竜騎士と白姫は、騎士団の面子に誘導されて廊下へと消えて行った。
ブリレイ(……ふむ)
一方、ブリレイは彼らの反応に気になる点は見つけていた。
ブリレイ(俺が闇魔法の会得者と言ったあと、すぐに信じている様子だったな。すると……)
いくつかの可能性がある。
自分の幻惑を既に魔剣士から聞いていて、強さに納得したのか。それとも、他に会得者の存在があって闇魔法事態が珍しいものではないのか。
ブリレイ(それともまさか、俺が闇魔法の会得者であると知っていた……?)
最も正解に近いと、自分でこれが答えなのではないかと確信する。
ブリレイ(……とはいえ、知っていたところで計画に支障はない。ハイルがあの時、地下にいなければもっとじっくりと計画を進行できたものを…!)
小さく舌打ちをして、床を見つめる。
ブリレイ(それにしても、さっきの魔力の強さは何だ?今まで感じたことのないほどの量だった。これ以上、計画を邪魔されては困る。頼むぞリッターと"ブレイダー"……)
彼の言う計画は、猛竜騎士や魔剣士にいよいよ見え始めている。
そして、ブリレイは計画の準備のため、自分の部屋へと戻っていった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして地下室、実験場にて。
幻惑をかけられたであろうリッターと対峙する魔剣士は、今も激闘を繰り広げていた。
何よりも驚いたのは、リッターが"普通の人間"であるというのに、魔剣士の攻撃に耐えていたことであった。
魔剣士「これほど…、人の力は高みに昇れるもんなのかよ……!」
リッター「面白い力を存分に楽しませてくれる…。さぁ、次は何をする?」
物理の斬撃は意味をなさず、魔法は避けられ、一切の攻撃が通じない。
むしろ、隙を見ては自分が重い一撃を受けるばかりで、既に何度死んでいたのか分からない。
魔剣士「く、くそが……!」
リッター「お前の秘密は中々破れないが、試合に勝っても勝負に負けたのと同意だな。お前は既に死んでいる」
魔剣士「……死んでなんかいねぇ。現に俺は生きているだろうが!」
リッター「それは闇魔法の力だろう?幻惑や蜃気楼といった類でもなし、斬った感触は幾度も感じている。つまり、お前は本来…死んでいる存在なのだと分かっている」
魔剣士「くっ……!」
さすがに鋭い。ただ、魔法化という概念はリッターでも気付くことが出来ないようだった。
魔剣士「うるせぇ…!俺が死なないってわかってるなら、アンタだって諦めがつくんじゃないのか!!」
剣を振り下ろし、太刀と弾き合う。つばぜり合いの中で、それでもリッターは弱気な姿勢を見せない。
リッター「愚か者だな、お前は。俺は何日でも、腕一本、髪の毛一本となろうとも止めることはない」
魔剣士「……そういうことかよ!力量は量るとか言っておいて、その言い方からするとお前は俺を殺したいんだな…!?」
リッター「失言だったな。どうしたものか、俺はお前を殺すつもりでいるらしい」
魔剣士「幻惑にかかってんだろうよ…!目ぇ覚ませ、ボケェ!!」
リッター「今は俺の浮かぶままに行動するまで。……フンッ!」
魔剣士「ッ!」
せり合いの中で、リッターは魔剣士に蹴りを放つ。腹部へと命中し、魔剣士はわずかに痛みでのけぞった。
リッター「十五回目だ……!」
太刀技、クロイツシュナイデンが十字を描き魔剣士の身体を十字に切り裂く。頭部とわき腹からほぼ同時に斬撃を浴びて、血を吹き出しながら四体に分けられるが、即座に回復されて肉体は戻る。
魔剣士「ぐっ……!」
リッター「いつまでも相手をしてやるぞ。お前の謎の不死能力が堕ちるのが先か、俺の体力が先か。それとも、終わりはないのか――…!」
何てタフな男なのか。魔剣士は地下を破壊する、バンシィを逃がし部屋全てを焼き尽くす勢いでやらねばと考えた。
だがその時、地下の出入り口から聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。
ブレイダー「……なるほどね、そういうことだったんだね」
魔剣士「は…!」
バンシィ「お、お兄…ブレイダー……!」
リッター「来たか、ブレイダー」
最悪なことに、ブレイダーは魔剣士の力を目の前で見てしまっていたらしい。
気配すら気付かないとは何と愚かなことをしたものかと舌打ちするが、ブレイダーは更に信じられないことを口にした。
ブレイダー「それに聞いたよ…。君の正体は、仮面で隠していても……魔剣士クン、君だったんだね……」
魔剣士「いっ…!?」
何故、どこでバレたのか。
急な事態に頭の回らなかった魔剣士だったが、代わりにバンシィが気付いた。
バンシィ「待って魔剣士お兄ちゃん、おかしいよ……」
魔剣士「何がだ!」
バンシィ「お兄ちゃんから説明されてた話だと、お兄ちゃんの仮面は触った人にしか分からないって……」
魔剣士「……そういえば…」
バンシィ「幻惑の魔力と同じに、それに触れたってことだよね……?」
魔剣士「だとすると……」
バンシィ「その仮面を造った人が、ブレイダーに教えた、魔力を触らせたってことだよ……」
魔剣士「……ぶ、ブリレイかぁああッ…!!」
確実に、魔剣士という存在を消すつもりなのか。
ブレイダー「気付けなかったよ。彼の幻惑は凄いね。仮面一つで、君だって理解できなかったんだから」
魔剣士「……そいつぁどーも。それで、お前は何しに来たんだよ」
ブレイダー「まぁ久しぶり…でもないけど、認知してからは久しぶりになるのかな。僕は、積もる話もあるんだけどさ……」
魔剣士「俺にはねーな」
ブレイダー「相変わらずだね、ホントに。僕としては、君が闇魔法の会得者だって知って……どうにも思えない気分だよ……」
魔剣士「ハッ、そうかよ」
ブレイダー「……象徴者は一人で充分なんだ。リッターが倒せなかった理由は分からないけど、闇魔力同士なら…僕の攻撃なら、効くよね…?」
魔剣士「……ッ!」
絶対的に効くというわけではないが、純度の濃い闇魔力を注入されると、回復が追い付かず消滅する可能性があることは知っている。
魔剣士「おいおい、二対一じゃ卑怯じゃねーのか……?」
無造作な魔力、闇魔法同士の戦い。この状況でブレイダーは手を抜くはずもなく、効果のある可能性が出てきた闇魔力を目いっぱい使われては死なないとは限らない。情けないが、手を抜いてもらうか、戦いは避けたい状況となった。
ブレイダー「え?二対二だよ。君のところに、一人いるじゃないか」
バンシィを指差す。
魔剣士「テメ…、本当は自分の妹だぞ!本気で言ってんのかコラァ!!」
ブレイダー「充分に戦士でしょう。それとも、バンシィの強さを認めてあげないの?」
魔剣士「……認めてはいる!だけどなぁ、リッターやお前のような闇魔法を相手にして!」
ブレイダー「だったらいいじゃないか。僕は、僕だけが強ければそれでいいんだ……」
"たんっ…!"
足音が聞こえた時には、そこに姿はなく。気付けばバンシィの前で剣を構えていて。
魔剣士「……バンシィッ!!」
バンシィ「だ、大丈夫……ッ!」
無詠唱、瞬時に具現化された氷波が目の前のブレイダーを吹き飛ばす。
だが、氷撃に対してブレイダーは足裏に抵抗魔法を展開、それを蹴飛ばしくるくると空中を飛んでリッターの隣に着地した。
魔剣士も慌ててバンシィの隣に移動すると、怪我はないかと両肩を掴み身体にダメージがないことを確認する。
ブレイダー「……ほら、戦えるじゃないか」
くすくすと笑いながら、ぺろっと舌を出す。
魔剣士「ど、どいつもこいつも……!」
バンシィ「……足引っ張っちゃうかもしれないけど、ごめんね、お兄ちゃん…」
魔剣士「そんなことはねぇ。それに怖がらないでくれ…。俺はお前を絶対に守るって約束するからな」
バンシィ「うん…っ」
魔剣士を抱きしめ、バンシィは「僕も頑張る…」と呟いた。
魔剣士「さて、と……」
ブレイダー「やる気になったかい?」
魔剣士「地下室は少し広めで助かった。出来るだけ、一般人にゃ迷惑かけらんねーしよ……」
ブレイダー「そんなことは気にしなくていいよ。僕は誰に迷惑がかかろうが、僕以外の象徴を殺すだけだから」
魔剣士「へぇ、そうかい。死ぬのはお前かもしれねーぞ?」
ブレイダー「それはないかなぁ」
魔剣士「……見逃せといっても、お前はもうそのつもりもないんだろ?」
ブレイダー「殺すだけだよ」
"チャキンッ…"
剣を突き出し、先端に魔力を込める。雷が具現化し、剣先からバチバチと雷撃が剣身を包み込んだ。
魔剣士「装填術…!お前……」
ブレイダー「君もやりなよ。炎が得意なんだっけ?」
魔剣士「……もっと面白いモンを見せてやろうか」
ブレイダー「ん?強がり?」
魔剣士「ククッ、さっきまでブリレイに見せてたモンだけどよ…もちっと面白いことが出来るんだわコレが……!」
ブレイダー「うん?」
足を"ダンッ!!"と踏むと、自身の周囲に炎が強く燃え上がった。
魔剣士「お前にゃ…もったいねー業だがな……!」
ブレイダー「んーっ、ただ周囲に魔法を具現化してるだけじゃない。何も凄くないよ?」
魔剣士「悪いな。お前の知らない、普通じゃ辿りつかない領域っつーもんがあってなぁ……!」
更に魔力を込め、イメージから炎が霧状のオーラへと変わる。
ブレイダー「えっ…?」
魔剣士「絶対無効化のオーラだ。闇魔法の二段階目ってことらしいぜ……」
ブレイダー「……っ!」
少し顔色が変わる。これこそ、ブレイダーが求めていた"新たなる進化"の形だったのだから、当然である。
魔剣士「……だがな、闇魔法でも辿りつかない更なる上があるってのが教えてやるよ…」
ブレイダー「ま、まだ…あるっていうの……?」
魔剣士「さっきからリッターの斬撃で断片的には見せていたが、真のバーサーカーの姿……見るがいい……!!」
両腕を交差させ、全身を更なる火炎に包み込むように、体内に宿る魔力の全てを吐き出すような、アサシンの戦いに見た怒りを表現する――…。
魔剣士「……かぁっ!!」
"ゴォォオッ!!!"
爆音とともに、魔剣士の身体は"火炎化"した。肌の全てが燃え上がるような赤、炎の揺らめき、全身が逆立って凶悪な炎を作り出す。近くにいたバンシィも、あまりの熱気でやや後方へと下がった。
ブレイダー「そ、それ…は……!」
魔剣士「……出し惜しみはしねぇ。お前を討つべきタイミングはここだ…」
ブレイダー「それも…、闇魔法だっていうの……?」
魔剣士「さぁーな。俺がこの力を手に入れたのはたまたまだ。リッター、テメェも覚悟しとけよ……」
リッター「……面白いことだ」
怯む様子はなく、太刀を持ち直す。驚いていたブレイダーも剣を構えたまま「幸運だ」と笑った。
魔剣士「あ?」
ブレイダー「僕は、君の一歩上にいった技術が気に入らなかった。猛竜騎士さんの強さも気に入らなかった……」
魔剣士「……それがどうした」
ブレイダー「だけど、強くなるべき技術をもって、君はまた僕に会いに来てくれた。君の力、君を殺しても奪い、僕が全ての象徴になる!」
魔剣士「やってみろよ、クソ野郎……!」
燃え上がる眼力で、ブレイダーを睨み付ける。
バンシィ「……お、お兄ちゃん…」
魔剣士「おっと、悪いなバンシィ。熱いだろうが、ちょっとばかし我慢してくれるか……」
バンシィ「ううん…。僕も、一瞬びっくりして下がっちゃってごめんなさい…。一緒に戦うから、僕のことも、信じて……」
魔剣士「フフッ、頼りにするぜバンシィ」
バンシィ「う、うんっ…!」
魔剣士は剣を、腕を魔法の射出に魔力を込めて構えに入る。
対するブレイダーとリッターも、攻撃に備えて姿勢を低くし準備に入る。
魔剣士「さて……、行くぞコラァ!!」
ブレイダー「泣かせてあげるよ、あの世でね……!」
リッター「殺す気で来い…!」
バンシィ「僕の氷結魔法で、身体を粉々にしてあげるから……」
地下室での決戦が、今、始まった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃。
自宅へ戻ったはずの猛竜騎士と白姫は、何故か急いで王城へと戻っていた。
猛竜騎士「このまま走れるか、白姫!」
白姫「問題ありません!」
どうして、彼らは王城へと戻ろうとしていたのか。
白姫「猛竜騎士さん、さっきのことが本当なら……」
猛竜騎士「とんでもない話だ…。王城に仕掛けられていた魔法結界が…、ブリレイの奴め……!」
白姫「魔剣士、無事ですよね……」
猛竜騎士「当たり前だ。アイツは死ぬような奴じゃない。絶対に生きている!」
白姫「はいっ……!」
実は彼らが自宅へ戻った際、二階の窓に、魔梟が現れていた。
猛竜騎士「しかし、これが真実であるとすれば……」
白姫「セージさんが託してくれた情報を、無駄には出来ません!」
二人が得た情報とは、氷山帝国より飛翔した二通目の魔梟による手紙から知る、真実の情報。
今度の内容は、セージからの直筆であり、魔剣士や猛竜騎士、白姫が触れた魔力に反応して文字が浮かびあがる仕様で、事細かに記されていたのだった。
猛竜騎士「生きていてくれて、本当に良かった……。あとは、俺たちの仕事だ。任せてくれ……!」
手紙の内容は、単純ながらも重要たる真実の記載。
"自分はブリレイの瞳に宿る闇魔法で操られていたこと"
"闇魔力の結界を開発した際に、それが自分に暴走してしまったこと"
"暴走に巻き込まれた際、片目を失ったが生きていること"
"ブリレイが何を目的として動いているのか、定かではないこと"
"但し、世界平和とは別の次元で動いている可能性が高いこと"
―――…そして。
猛竜騎士「闇魔力を封じることが出来る、全身が闇魔力の魔剣士が消滅してしまうかもしれない結界が、王城に仕掛けられていたとは……ッ!!」
以前、話を聞いていた"王城に仕掛けられた対魔法結界"は闇魔力にも効果のあるものだった。
更にセージから結界に使う魔法陣の記載された魔法書を、彼が所持している可能性があるらしい。
白姫「でも、よくセージさんが、氷山帝国で闇魔力にへ対抗できる結界をみんなに公開できましたね……」
猛竜騎士「どういう意味だ?」
白姫「い、いえ…セージさんが操られていたら、どうして結界術をお弟子さんたちに伝えるのかなって」
猛竜騎士「なるほど、確かに操られている彼女が世界平和のために動くのはおかしいか……」
白姫「はい」
猛竜騎士「ふむ、幻惑は時間とともに術は解けていく。セージともなれば、経験として抵抗力も高く、世界平和のために本能で動いていたんだろう」
白姫「強いですね、セージさん……」
猛竜騎士「片目を失ってもなお、俺らにそれを託そうとしている。だから、今は王城へ急ぐぞ!しっかりと着いてくるんだ!」
白姫「はいっ!」
二人は、王城への道を走り急ぐ――…。
…………
……
…
―――15分後。
リッターに案内されたのは、例の地下実験場だった。
途中で地下へ呼ばれていると気付いたものの、リッターがどこかいつもと違う雰囲気を察して、無言のまま着いてきていた。
魔剣士「…」
バンシィ「…」
バンシィが兄と決別し、ブリレイの力を知ったあの日。魔剣士はチャンスを失ったことを、バンシィは敵になったブレイダーに対する気持ちがふつふつと沸く。
リッター「……さて、着いてきてくれて有難う」
魔剣士「そりゃ呼ばれたからな」
リッター「時に、君たちはブレイダーさんと濃い関係にあるのは知っているんだが……」
魔剣士「濃いって…、ただ知り合いってだけだっつーの」
リッター「何々、充分だ。俺としてはだな、それについ知っておきたいことがあるんだ」
魔剣士「……何だ?」
リッターは両こぶしをゴンゴンと胸の前で鳴らし、まるで戦う姿勢を取る。
リッター「いや何、これは騎士団としても、俺としても知っておきたい問題でな。いや、試したいこと…といったほうが正しいか」
魔剣士「だから何だよ」
リッター「……分かるだろう?」
もう一度、"ゴンゴン"と拳を鳴らす。
魔剣士「本気か?俺にとって、理由はねーぞ」
リッター「俺にはある」
魔剣士「アンタとやる理由はねぇ。急にそんなこと言われても、乗る気もしねぇ」
リッター「こんな機会はないぞ。これでも俺は、シュトライトの現役時代からそれなりに名を馳せていたと自負しているんだがな」
魔剣士「……聞いたこともないな。お前の中でだけ有名だったんじゃねーのか?」
リッター「ふはははっ!!相変わらず口が悪いが、冒険者はそうでなくてはな!」
三度目。"ゴンゴン!!"と拳をぶつけ合い、今までよりも強く音が響く。
魔剣士「……理由を聞かせろ。納得できるなら、付き合ってやる」
リッター「生憎だが、言うに言えん。不本意ながら、戦うことだけが優先されているらしい」
魔剣士「……は?」
この言い方、もしかすると。
魔剣士「おいアンタ、まさかとは思うが……」
リッター「さぁ、御託ばかり並べるより強制的にゴングを鳴らそうか!!」
魔剣士「ん……」
リッター「行くぞッ!!」
魔剣士「ッ!!?」
バンシィ「あっ……!?」
リッターは大声と同時に、右の拳が魔剣士めがけて突いてきた。かろうじて反応した魔剣士は、剣を抜いて側面部分でそれを弾き、何とかダメージなく抑える。
魔剣士「……ッ!」
"びりびり"と、弾いた剣で手が痺れた。
リッター「ほう、反応は悪くない。やはり睨んだ通りだ」
魔剣士「テメェ……!」
リッター「話をしている暇もなく」
魔剣士「うっ!?」
続いて、左拳。咄嗟に刃で防御を図ろうとするが、弾く寸前に拳は"ピタッ"と停止し、今度は右拳が魔剣士の脇腹を捉えた。
魔剣士「なんっ…!うごォッ!?ご、ごほっ……!」
そのまま突き飛ばされた身体は、壁に大きく叩きつけられて"ゴシャッ!"と鈍い音が響く。
バンシィは慌てて傍に寄ると、お兄ちゃん!と倒れた身体を抱きかかえた。
魔剣士「げほっ、げほげほっ……!」
バンシィ「お兄ちゃん、大丈夫……!?」
魔剣士「大丈夫だ、そ…それより一回離れていろ…!この、クソリッター…が…………!」
腕をバンシィの前に伸ばし、守るよう姿勢を整える。
リッター「成る程、硬いな」
魔剣士「テメェ…!お、俺を攻撃するのは……!」
リッター「実力を量るためだ」
魔剣士「何だと…!」
リッター「それ以上の言葉はない。それに、ここならば存分に暴れられると思ってな」
自身の背中に手を伸ばすと、グネグネとした折りたたまれた細い板のようなものを取り出した。
そして、「ふんっ!」と力を入れるとそれは、立派に成した"太刀"へと姿を変える。
魔剣士「本気なのか…テメェ……」
リッター「こいつは魔太刀(マダチ)だ。中々珍しいモノでな、魔力を維持している間のみ剣として扱うことが出来るちょっとした代物だ」
魔剣士「それがどうした……」
ただのデッケェ剣だろうがと余裕を見せるが、バンシィは気づく。
バンシィ「お兄ちゃん、あれ……!」
魔剣士「あ?」
バンシィ「あれは物理と魔法を半々に宿すやつだよ…。岩を砕いた時にした、あの……!」
魔剣士「……なるほどな、そういうことかよ…」
彼の持つ太刀は、物理と魔法の効果を宿す。防御を取る時、半々のイメージをしなければ斬られてしまうということだ。
魔剣士「どうしてかは分からねーけど、本気みてーだな……」
リッター「お前の力を量るためだ。すまないが、覚悟をしてくれるか」
魔剣士「……つっても、その眼は本気で俺を殺しに来てるような気がするんだがな?」
リッター「量る前に死んでしまったのなら、その程度だということだ!」
でかい図体をしながらも、リッターの速度は尋常ではない。
太刀を構えたのが見えたと思えば、一瞬で間合いを詰めて魔剣士の懐へと潜る。
魔剣士「早ぇっ!?」
リッター「斬った…か?」
横一文字に切り裂く太刀の一撃。魔剣士は身体を逸らしてそれを避けながら、後転しつつ太刀を蹴り上げて弾く。
リッター「……っと…!」
魔剣士「はァッ!」
リッターのわずかな隙に、無詠唱による雷撃を撃ち込む。しかし彼もまた無詠唱によって雷撃を弾き飛ばしながら、再び超速による間合い詰めを行う。
魔剣士(げっ、全く動じないのかよ!?)
間合いを詰められてすぐ、同じように横一文字の斬撃を繰り出すリッター。一度目は剣で弾き返すも、太刀はそのまま円を描き縦の振り下ろしに変わる。
魔剣士「うっ!?」
リッター「反太刀の型、クロイツシュナイデン――…」
あまりにも早すぎる攻撃に、魔剣士はついていくことが出来なかった。
魔剣士「やべ……」
バンシィ「お、お兄ちゃんっ…!!」
強烈な魔力を帯びた巨大な刃。二度目の太刀は、防御を行う前に魔剣士をてっぺんから股下まで一発で切り裂いた。バンシィの目の前で、魔剣士の身体は真っ二つにされたのだ。
リッター「ふむ、硬いと思ったのは気のせいだったか。訂正しよう…、何と……脆い存在なのだと」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃、猛竜騎士宅にて。
魔剣士がリッターに襲われていた同時刻。猛竜騎士の自宅には数人の騎士団が訪れていた。
猛竜騎士「貴様ら……!」
ただ、何をするわけでもなく"お越しください"と言うばかりで、手を出す様子はなかった。
猛竜騎士「何用だ…!」
騎士団「ハイル王の命令により、お前たちを連れに来た。抵抗さえしなければ、何をするわけでもない」
猛竜騎士「……ハイル王だと?王が、ただの男と女に用事があるというのか!?」
カマをかける。自分たちが装着している"仮面"の幻惑効果は動いているのか。
騎士団「違う、詳細は聞かされていないが猛竜騎士様と白姫様のお二人に用事があるという話だ。王、直々の命令だと思え」
猛竜騎士「……ッ!」
自分たちの存在を理解されているということは、仮面の類の魔法に触れている。つまり、ブリレイが絡んでいるということだった。
猛竜騎士「……先に動かれたか…!」
白姫「猛竜騎士さん…」
猛竜騎士「魔剣士は心配いらないだろうが、これはちょっとよろしくない状況だな……」
白姫「…っ」
猛竜騎士「しかし…、どうして……」
どこか行動を急いでいるように感じる。少し前に会ったブリレイは決して急いでいる様子もなく、敵意の片鱗も見せていなかったというのに、シュトライトともあろう男が存在を明かすようなヘマをやるものだろうか。
猛竜騎士(わざわざ部下に迎えに来させるとは、いくら俺でもこのくらい逃げ切ることは容易だと分からなかったのか……)
"……ハッ"とする。
―――罠か?
猛竜騎士(待て、相手はあのシュトライトだ。もし、俺と白姫が逃げるのを前提にこれを仕組んだとすれば……)
どちらともいえない。着いていくのが罠かもしれないし、逃げてもらうことが目的かもしれなかった。
猛竜騎士(……なら、答えはこちらか)
両手を挙げて、騎士団に従うとアピールして白姫にもそれを促す。
白姫「も、猛竜騎士さん……」
猛竜騎士「この状況、逃げるのに容易過ぎる。どうも、逃げるよりも従ったほうが良さそうだ」
白姫「……分かりました」
猛竜騎士「すまない。怖い思いをさせるかもしれないが……」
白姫「いえ、大丈夫です!」
奥底では恐怖を感じつつも、健気に強気な姿勢を見せる。
猛竜騎士「そうか、ありがとう。……それじゃ騎士団の皆さんよ、案内をしてもらおうか」
騎士団「……最初から素直に従えばいいものを。着いてこい!」
猛竜騎士「乱暴にはするんじゃないぞ」
まさに急転直下。二人は腕を縄できつく縛られると、騎士団に王城へと連行されていった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――20分後。
猛竜騎士と白姫は、両腕を縛られたままセントラル王城、王室へと案内された。
騎士団の一人が扉を開き「入れ」の一言に、二人は部屋へと入る。
白姫「…っ」
白姫にとっては久方ぶりの"我が家"であり、かつて父と時間を共にした思い出の場所。ここに歩いてくる途中にも、まるで昨日のことのようにそれを思い出していた。
猛竜騎士「…」
だが、王室の玉座に座っていたのは"ハイル"ではなかった。
ブリレイ「……こんにちわ、猛竜騎士さん。白姫さん」
想像をしていた通り、やはり"シュトライト"、彼であった。
猛竜騎士「ブリレイ……」
ブリレイ「こんなかたちで申し訳ありません。実は、ちょっとしたことがありまして……」
猛竜騎士「御託はいらん…。貴様の目的は一体なんだ……!」
ブリレイ「猛竜騎士さん、僕のお話しを少し落ち着いて聞いていただけませんか?」
猛竜騎士「この状態で、よくそんな言葉が出るな」
ブリレイ「……分かりました。それでは落ち着くために…」
軽く腕を上げたブリレイ。指を"パチン!"と鳴らすと、二人を縛っていた縄がはらりと落ちた。
猛竜騎士「……これは余裕か?」
ブリレイ「だから、お願いですからお話しを聞いていただけませんか」
猛竜騎士「何を聞けというんだ…。この状況から、お前の話などまともなものでないことは分かる」
ブリレイ「そうではありません。実は、このような状況になったのはいくつか理由があります」
猛竜騎士「くだらぬ理由だろう」
ブリレイ「これは、ハイル王による直々の命です。今、ハイル王は部屋で休まれています。その合間に、情報を伝えようと…このような状況で案内をさせていただきました」
猛竜騎士「…」
ブリレイ「もしかすると、この状況で僕を怪しんでいるかもしれません。ですが、今も僕はセージ様と共に心はあります。……信じてください」
玉座から降り、二人のもとへと近づく。
ブリレイ「これからお話しすることは、信じられないことかもしれません。ですが、貴方たちが疑っていることはこれで解決するはずです」
猛竜騎士「何だと言うんだ、言ってみろ……!」
ブリレイ「……僕は、闇魔法の会得者です」
猛竜騎士「!」
白姫「!」
何を言うのかと思えば、隠し通すと思っていた言葉を彼はあっさりと口にした。
しかしその言葉で、ブリレイが氷山帝国から来た手紙のことを知らないのだと分かる。
ブリレイ「氷山帝国での実験中、たまたま事故で闇魔法を宿してしまいました」
猛竜騎士「……にわかには信じられない話だな」
ブリレイ「そうだと思いますが、僕は得意とする幻惑魔法を闇魔力で扱っています」
猛竜騎士「信じられない言葉だが…、もしそれが本当だとして、俺たちにそれを伝えて何になる……?」
ブリレイ「僕はこの力を使って、世界を救いたい。ですから、お二人にはそれのお手伝いをしてほしいんです」
猛竜騎士「何…?」
ブリレイは申し訳なさそうな表情で、攻撃的な雰囲気もなく、あたかもそれが真実であるとばかりに訴えてくる。真偽がどちらなのか、まだ決断は出来ない。
ブリレイ「僕は、力を得た当初こそこの力をもって現役時代のような覇者になる夢も見ました。ですが、僕にとっては世界を救うほうが大切だった」
猛竜騎士「それで…、俺らに手伝ってほしいってことはなんだ……」
ブリレイ「簡単なことです。僕が王を幻惑し、その後の世界を担う存在になってほしい。今の団長に変わるかたちで、猛竜騎士さんは戦士たちのトップを。白姫さんは王の代わりになってほしいのです」
猛竜騎士「……な、何?」
白姫「わ、私が…王の代わりに……?」
ブリレイ「えぇ、実はその準備も既に進めており……」
"……ドンッ!!!"
その時、強烈な魔力。白姫も気付くくらいに、強力過ぎる魔力が王城を包んだ。
ブリレイ「うっ!?」
猛竜騎士「な、何だ!?」
白姫「あうぅっ…!?」
話の途中だったブリレイですら、驚くほどの魔力。しかし、この感覚を猛竜騎士だけは知っており、ブリレイも理解する。
猛竜騎士(今のは王城の地下深くから……、それもこの感覚はまさか……魔剣士のか……!?)
ブリレイ(……強力なほどの闇魔力!やっているようだな、リッター…!)
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――同時刻、地下室にて。
リッター「……ふむ、確かに斬ったと思ったのだがな」
魔剣士「……ッ!!」
頂点から真っ二つにされた魔剣士の身体は、防衛本能による魔法化によりすぐに回復が施された。バンシィはそれを間近で見て、これこそが闇魔法の神髄なのだと悟る。
リッター「何をした?有り得ない量の魔力だったが、斬った手ごたえは深く、まず間違いなく頭からかち割ったものと思ったが……」
王室にいる猛竜騎士たちが感じ取った魔力は"これ"だった。魔剣士が砂国以来の魔法化を行ったのだが、リッターの一撃は身体が緊急的な回復を求めるほどに強力なものだったらしく、宿っていた闇魔力が急激に身体を再形成したときに発せられたものだったらしい。
魔剣士(今、意識が完全に外に飛んでいた…。もし魔法化がなかったら、俺は……)
死んでいただろう。そう思っているのもつかの間、次の一撃がさく裂する。
バンシィ「……お兄ちゃんっ!!」
魔剣士「うぉっ!?」
"ズバァンッ!!"
横払いの剣撃が、またもや魔剣士の肉体を捉える。考える暇も、悩む暇もなく、リッターは"命"を狙って来た。
魔剣士「ちっ……!」
半身が吹き飛ばされたものの、即座に魔法化して煙のように消えたあと、肉体はまた形成される。今度ばかりはリッターはハッキリとそれを見て、何かの術かと問う。
リッター「今のは何だ…。蜃気楼の類でもなし、初めて見るものだ。何をしている……?」
魔剣士「お、俺の秘術をそう簡単に教えてたまるかよ……!」
秘術も何も、死なぬ身体というわけなのだが、それでもリッターの強さはどこか敗北してしまうんじゃないかという"戦士のオーラ"が強くあった。
魔剣士(こいつ、マジで強ぇッ…!しかも、ここまで魔法化したら他の面子にも気づかれたか……!)
回復に濃い闇魔力を二度も自動発動してしまった時点で、既に誰かしらは強き魔力を保持していることは気づいていることだろう。バレないように立ち回っていた努力が、一瞬で水の泡へと消えた怒りが沸いてくる。
魔剣士(この…野郎……)
突然の攻撃に、何も分からないまま努力を無駄にされた怒り。魔剣士は剣を強く握り、構えを取る。
魔剣士「てめぇのせいで、俺の努力は水の泡だ。ざけやがって…!周りに色々とバレちまったってんなら、手加減も必要なくなったことだろうが……」
リッター「お前に手加減という言葉もあるのか?…言うならば、今のは闇魔力の一つの力だろうが、それでは俺に勝てんぞ!」
魔剣士「っ!?」
知っている。自分の力のことを。
魔剣士「……最初から思ってたが、やっぱりか。テメェ、もしかしなくても…"操られている"な」
リッター「操られているだと?」
魔剣士「俺を殴る前、アンタは確かに"戦うことが優先されている"と言った。ブリレイに何か仕込まれたな……?」
リッター「…何を言っている?」
魔剣士「いや、どこまで何を言われているのかは知らないが。だけどよ、分かったことがある」
―――ブリレイは敵だ…。
俺の命を狙うような命令をしているのなら、ブリレイは間違いなく、敵であると。
魔剣士「結局、ブリレイも敵だったのかよ…。セントラルに入ってから、何が嘘で、何が本当で、裏切りばっかで、ここまでくると自分以外が信用できなくなっちまって笑えるんだよ」
リッター「ふむ?」
魔剣士「アンタに俺を殺すよう仕向けたということは、ブリレイだって馬鹿じゃない。何か算段があるっつーことだろう。それに、急いでるな?」
リッター「……何の話かは分からないが」
魔剣士「ここにきて、ヘグっちまったなブリレイ。アンタの目的は知らないが、力量を量ることが出来なかったみてぇだな?」
魔剣士は剣で円弧を描き、地面へと突き刺す。
……瞬間、全身が炎を包み込んだ。
リッター「何っ…!?」
魔剣士「バンシィ、離れとけ。リングの上の比じゃねぇ、命を賭けた戦いってのなら…俺の本気で戦ってやるよ」
バンシィ「う、うん……」
闇魔法の神髄を、今こそ。本気で戦わねばならない相手だと、打ち合って分かった。
魔剣士「行くぞ、ここからはしゃべる暇もねぇからな」
リッター「ハハハッ、楽しみだ!」
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――王室側。
強烈な闇魔力を感じたブリレイは目を開いて驚いたものの、すぐに細目で冷静な表情へと戻った。
だが、猛竜騎士はそれについて聞く他はない。
猛竜騎士「……ブリレイ」
ブリレイ「何でしょうか?」
猛竜騎士「今のは、強い魔力。誰もが感じるほどに強い魔力が確かに、王城の地下から感じたのだが…?」
ブリレイ「えぇ、自分も感じましたが……」
隠せる内容ではないと踏んだのか、潔くそれを認める。
猛竜騎士「何が起きているんだ?この地下には何がある?」
ブリレイ「以前説明した通り、大声では言えませんが…闇魔法の実験場があります。ブレイダーさんがおりますし、その影響ではないかと……」
猛竜騎士「なるほど、ブレイダーの魔力か」
ブリレイ「えぇ」
ここで失態。ブリレイは、魔剣士の魔力だと認めていればよかったのだが。
猛竜騎士「……そうか」
感じた魔力は"肉体再生の際に起こる闇魔力"だと知っていた猛竜騎士は、嘘を見抜いたのだ。
ブリレイ「それよりも、先ほどのお話しなのですが……」
猛竜騎士「あぁ、俺らに手伝ってほしいことだったな」
ブリレイ「はい…。改めて説明しますが、僕の闇の幻惑によって、王を操作し、平和な世界を入手することをお手伝いいただけませんか?」
猛竜騎士「俺を団長に、白姫を王の代わりに立てると……」
ブリレイ「悪いお話しではないはずです」
猛竜騎士「……お前の求めるのは何だ?」
ブリレイ「求めるものですか?」
猛竜騎士「俺と白姫を国のトップに仕上げたところで、お前に利点はない。お前の幻惑魔法もいつまで持つか分からないし、ずっと王の傍に張り付くのか?」
ブリレイ「それしかないと思っております。世界平和のために、僕の命一つあれば……」
猛竜騎士「……なるほどな」
さて、どうしたものか。
これが本心なのかは定かではないが、現時点における情報を総ざらいする。
猛竜騎士(…)
瞳に宿る闇魔法の存在を打ち明けた理由、ブリレイの真の目的が何なのか。また、どうして地下にいる魔剣士の存在を隠すような発言をしたのか。
猛竜騎士(…)
ハイル王は疲れて休んでいるといったが、傲慢な彼がいくらブリレイでも"玉座"に座ることを許すだろうか。
猛竜騎士(…)
騎士団の動向は。今日、騎士団として活動するはずの魔剣士が地下にいる理由は。
猛竜騎士(…)
嘘ばかりで固められていること。だが、戦いになればこちらが不利だろう。
猛竜騎士(…)
どうして急いだ。ブリレイが俺らにこの話することを、どうして急いだのか。
猛竜騎士(…)
何かがあった。ブリレイにとって、急ぐ何かが……。
ブリレイ「…えぇと、猛竜騎士さ……」
猛竜騎士「お前に聞きたいことがある」
ブリレイ「っと、何でしょうか?」
猛竜騎士「さっき、地下で今日もブレイダーが実験を行っていると言ったな」
ブリレイ「えぇ、そうですね」
猛竜騎士「ならば問う。どうして、魔剣士も一緒にいる?」
ブリレイ「……えっ?ま、魔剣士さんですか?」
わずかな動揺。見逃すはずがない。
猛竜騎士「ブレイダーの実験に、魔剣士が付き合っているのか?」
ブリレイ「それは…、そうですね。少し言うのが遅れましたが」
猛竜騎士「忘れることか。ちょっとこの話は、俺らだけでは決めかねることだからな…。魔剣士にも相談をしたいんだが?」
ブリレイ「今は闇魔力に溢れた実験場にいるので、危険かと思いますので……」
猛竜騎士「直接に攻撃されなければ大丈夫だと知っている。案内してくれないか」
ブリレイ「それは…ですね……」
明らかに口周りが下手になる。
だが、これ以上につつけば蛇が出る危険もあると感じた猛竜騎士は一旦そこで話を止める。
猛竜騎士「……まぁ、実験の手伝いが全部が済んでからでいいさ」
ブリレイ「そ、そうですか?」
猛竜騎士「考えてもみれば、危険なのは変わりないしな。あとで魔剣士と会って、その時に話をするかたちでいいか?」
ブリレイ「えぇ、それならば……」
猛竜騎士「……分かった。それじゃ俺らは一度、家に戻らせてもらうぞ」
"くるり"と振り返り、白姫にも「帰ろう」と伝えて出口に向かう。
あわよくば、このまま城内の散策を行い、地下室にいるであろう魔剣士と合流しようと考えたのだが。
ブリレイ「……猛竜騎士さん、白姫さん、申し訳ありません」
謝罪した彼が"パチン!"と指を鳴らすと、連れてこられた時と同じように縄がキツく二人の腕を縛り上げた。
白姫「ぶ、ブリレイさん…?」
猛竜騎士「……どういうことだ?」
ブリレイ「申し訳ありません…」
はぁとため息をついて、すみませんと言いながら城内にいた騎士団を呼ぶ。
ブリレイ「自宅まで送り届けさせていただきます」
猛竜騎士「別に、必要ないんだがな…?」
ブリレイ「一応は、そのほうが城内で見られた他の面子にとっても丁度いいのです。騎士団の数人は僕の幻惑で、素直に動くばかりなので敵意はないため、ご安心ください」
猛竜騎士「……そうかい」
ブリレイ「それと、この様子を見られて何かあった時のために、護衛として数人を自宅周りに待機させます。これで、何かあった際に守るよう命令を行っておきますので」
丁度いいのはブリレイにとってだろう。また、護衛といってもそれは自分たちに対する"見張り"ということだ。
猛竜騎士「……そこまでの配慮はいらないんだがな」
ブリレイ「いえいえ、これもお守りするためのことですので。ご協力の程、よろしくお願い致します」
猛竜騎士「あぁ、分かったよ……」
今は素直に従う他はない。猛竜騎士と白姫は、騎士団の面子に誘導されて廊下へと消えて行った。
ブリレイ(……ふむ)
一方、ブリレイは彼らの反応に気になる点は見つけていた。
ブリレイ(俺が闇魔法の会得者と言ったあと、すぐに信じている様子だったな。すると……)
いくつかの可能性がある。
自分の幻惑を既に魔剣士から聞いていて、強さに納得したのか。それとも、他に会得者の存在があって闇魔法事態が珍しいものではないのか。
ブリレイ(それともまさか、俺が闇魔法の会得者であると知っていた……?)
最も正解に近いと、自分でこれが答えなのではないかと確信する。
ブリレイ(……とはいえ、知っていたところで計画に支障はない。ハイルがあの時、地下にいなければもっとじっくりと計画を進行できたものを…!)
小さく舌打ちをして、床を見つめる。
ブリレイ(それにしても、さっきの魔力の強さは何だ?今まで感じたことのないほどの量だった。これ以上、計画を邪魔されては困る。頼むぞリッターと"ブレイダー"……)
彼の言う計画は、猛竜騎士や魔剣士にいよいよ見え始めている。
そして、ブリレイは計画の準備のため、自分の部屋へと戻っていった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして地下室、実験場にて。
幻惑をかけられたであろうリッターと対峙する魔剣士は、今も激闘を繰り広げていた。
何よりも驚いたのは、リッターが"普通の人間"であるというのに、魔剣士の攻撃に耐えていたことであった。
魔剣士「これほど…、人の力は高みに昇れるもんなのかよ……!」
リッター「面白い力を存分に楽しませてくれる…。さぁ、次は何をする?」
物理の斬撃は意味をなさず、魔法は避けられ、一切の攻撃が通じない。
むしろ、隙を見ては自分が重い一撃を受けるばかりで、既に何度死んでいたのか分からない。
魔剣士「く、くそが……!」
リッター「お前の秘密は中々破れないが、試合に勝っても勝負に負けたのと同意だな。お前は既に死んでいる」
魔剣士「……死んでなんかいねぇ。現に俺は生きているだろうが!」
リッター「それは闇魔法の力だろう?幻惑や蜃気楼といった類でもなし、斬った感触は幾度も感じている。つまり、お前は本来…死んでいる存在なのだと分かっている」
魔剣士「くっ……!」
さすがに鋭い。ただ、魔法化という概念はリッターでも気付くことが出来ないようだった。
魔剣士「うるせぇ…!俺が死なないってわかってるなら、アンタだって諦めがつくんじゃないのか!!」
剣を振り下ろし、太刀と弾き合う。つばぜり合いの中で、それでもリッターは弱気な姿勢を見せない。
リッター「愚か者だな、お前は。俺は何日でも、腕一本、髪の毛一本となろうとも止めることはない」
魔剣士「……そういうことかよ!力量は量るとか言っておいて、その言い方からするとお前は俺を殺したいんだな…!?」
リッター「失言だったな。どうしたものか、俺はお前を殺すつもりでいるらしい」
魔剣士「幻惑にかかってんだろうよ…!目ぇ覚ませ、ボケェ!!」
リッター「今は俺の浮かぶままに行動するまで。……フンッ!」
魔剣士「ッ!」
せり合いの中で、リッターは魔剣士に蹴りを放つ。腹部へと命中し、魔剣士はわずかに痛みでのけぞった。
リッター「十五回目だ……!」
太刀技、クロイツシュナイデンが十字を描き魔剣士の身体を十字に切り裂く。頭部とわき腹からほぼ同時に斬撃を浴びて、血を吹き出しながら四体に分けられるが、即座に回復されて肉体は戻る。
魔剣士「ぐっ……!」
リッター「いつまでも相手をしてやるぞ。お前の謎の不死能力が堕ちるのが先か、俺の体力が先か。それとも、終わりはないのか――…!」
何てタフな男なのか。魔剣士は地下を破壊する、バンシィを逃がし部屋全てを焼き尽くす勢いでやらねばと考えた。
だがその時、地下の出入り口から聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。
ブレイダー「……なるほどね、そういうことだったんだね」
魔剣士「は…!」
バンシィ「お、お兄…ブレイダー……!」
リッター「来たか、ブレイダー」
最悪なことに、ブレイダーは魔剣士の力を目の前で見てしまっていたらしい。
気配すら気付かないとは何と愚かなことをしたものかと舌打ちするが、ブレイダーは更に信じられないことを口にした。
ブレイダー「それに聞いたよ…。君の正体は、仮面で隠していても……魔剣士クン、君だったんだね……」
魔剣士「いっ…!?」
何故、どこでバレたのか。
急な事態に頭の回らなかった魔剣士だったが、代わりにバンシィが気付いた。
バンシィ「待って魔剣士お兄ちゃん、おかしいよ……」
魔剣士「何がだ!」
バンシィ「お兄ちゃんから説明されてた話だと、お兄ちゃんの仮面は触った人にしか分からないって……」
魔剣士「……そういえば…」
バンシィ「幻惑の魔力と同じに、それに触れたってことだよね……?」
魔剣士「だとすると……」
バンシィ「その仮面を造った人が、ブレイダーに教えた、魔力を触らせたってことだよ……」
魔剣士「……ぶ、ブリレイかぁああッ…!!」
確実に、魔剣士という存在を消すつもりなのか。
ブレイダー「気付けなかったよ。彼の幻惑は凄いね。仮面一つで、君だって理解できなかったんだから」
魔剣士「……そいつぁどーも。それで、お前は何しに来たんだよ」
ブレイダー「まぁ久しぶり…でもないけど、認知してからは久しぶりになるのかな。僕は、積もる話もあるんだけどさ……」
魔剣士「俺にはねーな」
ブレイダー「相変わらずだね、ホントに。僕としては、君が闇魔法の会得者だって知って……どうにも思えない気分だよ……」
魔剣士「ハッ、そうかよ」
ブレイダー「……象徴者は一人で充分なんだ。リッターが倒せなかった理由は分からないけど、闇魔力同士なら…僕の攻撃なら、効くよね…?」
魔剣士「……ッ!」
絶対的に効くというわけではないが、純度の濃い闇魔力を注入されると、回復が追い付かず消滅する可能性があることは知っている。
魔剣士「おいおい、二対一じゃ卑怯じゃねーのか……?」
無造作な魔力、闇魔法同士の戦い。この状況でブレイダーは手を抜くはずもなく、効果のある可能性が出てきた闇魔力を目いっぱい使われては死なないとは限らない。情けないが、手を抜いてもらうか、戦いは避けたい状況となった。
ブレイダー「え?二対二だよ。君のところに、一人いるじゃないか」
バンシィを指差す。
魔剣士「テメ…、本当は自分の妹だぞ!本気で言ってんのかコラァ!!」
ブレイダー「充分に戦士でしょう。それとも、バンシィの強さを認めてあげないの?」
魔剣士「……認めてはいる!だけどなぁ、リッターやお前のような闇魔法を相手にして!」
ブレイダー「だったらいいじゃないか。僕は、僕だけが強ければそれでいいんだ……」
"たんっ…!"
足音が聞こえた時には、そこに姿はなく。気付けばバンシィの前で剣を構えていて。
魔剣士「……バンシィッ!!」
バンシィ「だ、大丈夫……ッ!」
無詠唱、瞬時に具現化された氷波が目の前のブレイダーを吹き飛ばす。
だが、氷撃に対してブレイダーは足裏に抵抗魔法を展開、それを蹴飛ばしくるくると空中を飛んでリッターの隣に着地した。
魔剣士も慌ててバンシィの隣に移動すると、怪我はないかと両肩を掴み身体にダメージがないことを確認する。
ブレイダー「……ほら、戦えるじゃないか」
くすくすと笑いながら、ぺろっと舌を出す。
魔剣士「ど、どいつもこいつも……!」
バンシィ「……足引っ張っちゃうかもしれないけど、ごめんね、お兄ちゃん…」
魔剣士「そんなことはねぇ。それに怖がらないでくれ…。俺はお前を絶対に守るって約束するからな」
バンシィ「うん…っ」
魔剣士を抱きしめ、バンシィは「僕も頑張る…」と呟いた。
魔剣士「さて、と……」
ブレイダー「やる気になったかい?」
魔剣士「地下室は少し広めで助かった。出来るだけ、一般人にゃ迷惑かけらんねーしよ……」
ブレイダー「そんなことは気にしなくていいよ。僕は誰に迷惑がかかろうが、僕以外の象徴を殺すだけだから」
魔剣士「へぇ、そうかい。死ぬのはお前かもしれねーぞ?」
ブレイダー「それはないかなぁ」
魔剣士「……見逃せといっても、お前はもうそのつもりもないんだろ?」
ブレイダー「殺すだけだよ」
"チャキンッ…"
剣を突き出し、先端に魔力を込める。雷が具現化し、剣先からバチバチと雷撃が剣身を包み込んだ。
魔剣士「装填術…!お前……」
ブレイダー「君もやりなよ。炎が得意なんだっけ?」
魔剣士「……もっと面白いモンを見せてやろうか」
ブレイダー「ん?強がり?」
魔剣士「ククッ、さっきまでブリレイに見せてたモンだけどよ…もちっと面白いことが出来るんだわコレが……!」
ブレイダー「うん?」
足を"ダンッ!!"と踏むと、自身の周囲に炎が強く燃え上がった。
魔剣士「お前にゃ…もったいねー業だがな……!」
ブレイダー「んーっ、ただ周囲に魔法を具現化してるだけじゃない。何も凄くないよ?」
魔剣士「悪いな。お前の知らない、普通じゃ辿りつかない領域っつーもんがあってなぁ……!」
更に魔力を込め、イメージから炎が霧状のオーラへと変わる。
ブレイダー「えっ…?」
魔剣士「絶対無効化のオーラだ。闇魔法の二段階目ってことらしいぜ……」
ブレイダー「……っ!」
少し顔色が変わる。これこそ、ブレイダーが求めていた"新たなる進化"の形だったのだから、当然である。
魔剣士「……だがな、闇魔法でも辿りつかない更なる上があるってのが教えてやるよ…」
ブレイダー「ま、まだ…あるっていうの……?」
魔剣士「さっきからリッターの斬撃で断片的には見せていたが、真のバーサーカーの姿……見るがいい……!!」
両腕を交差させ、全身を更なる火炎に包み込むように、体内に宿る魔力の全てを吐き出すような、アサシンの戦いに見た怒りを表現する――…。
魔剣士「……かぁっ!!」
"ゴォォオッ!!!"
爆音とともに、魔剣士の身体は"火炎化"した。肌の全てが燃え上がるような赤、炎の揺らめき、全身が逆立って凶悪な炎を作り出す。近くにいたバンシィも、あまりの熱気でやや後方へと下がった。
ブレイダー「そ、それ…は……!」
魔剣士「……出し惜しみはしねぇ。お前を討つべきタイミングはここだ…」
ブレイダー「それも…、闇魔法だっていうの……?」
魔剣士「さぁーな。俺がこの力を手に入れたのはたまたまだ。リッター、テメェも覚悟しとけよ……」
リッター「……面白いことだ」
怯む様子はなく、太刀を持ち直す。驚いていたブレイダーも剣を構えたまま「幸運だ」と笑った。
魔剣士「あ?」
ブレイダー「僕は、君の一歩上にいった技術が気に入らなかった。猛竜騎士さんの強さも気に入らなかった……」
魔剣士「……それがどうした」
ブレイダー「だけど、強くなるべき技術をもって、君はまた僕に会いに来てくれた。君の力、君を殺しても奪い、僕が全ての象徴になる!」
魔剣士「やってみろよ、クソ野郎……!」
燃え上がる眼力で、ブレイダーを睨み付ける。
バンシィ「……お、お兄ちゃん…」
魔剣士「おっと、悪いなバンシィ。熱いだろうが、ちょっとばかし我慢してくれるか……」
バンシィ「ううん…。僕も、一瞬びっくりして下がっちゃってごめんなさい…。一緒に戦うから、僕のことも、信じて……」
魔剣士「フフッ、頼りにするぜバンシィ」
バンシィ「う、うんっ…!」
魔剣士は剣を、腕を魔法の射出に魔力を込めて構えに入る。
対するブレイダーとリッターも、攻撃に備えて姿勢を低くし準備に入る。
魔剣士「さて……、行くぞコラァ!!」
ブレイダー「泣かせてあげるよ、あの世でね……!」
リッター「殺す気で来い…!」
バンシィ「僕の氷結魔法で、身体を粉々にしてあげるから……」
地下室での決戦が、今、始まった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃。
自宅へ戻ったはずの猛竜騎士と白姫は、何故か急いで王城へと戻っていた。
猛竜騎士「このまま走れるか、白姫!」
白姫「問題ありません!」
どうして、彼らは王城へと戻ろうとしていたのか。
白姫「猛竜騎士さん、さっきのことが本当なら……」
猛竜騎士「とんでもない話だ…。王城に仕掛けられていた魔法結界が…、ブリレイの奴め……!」
白姫「魔剣士、無事ですよね……」
猛竜騎士「当たり前だ。アイツは死ぬような奴じゃない。絶対に生きている!」
白姫「はいっ……!」
実は彼らが自宅へ戻った際、二階の窓に、魔梟が現れていた。
猛竜騎士「しかし、これが真実であるとすれば……」
白姫「セージさんが託してくれた情報を、無駄には出来ません!」
二人が得た情報とは、氷山帝国より飛翔した二通目の魔梟による手紙から知る、真実の情報。
今度の内容は、セージからの直筆であり、魔剣士や猛竜騎士、白姫が触れた魔力に反応して文字が浮かびあがる仕様で、事細かに記されていたのだった。
猛竜騎士「生きていてくれて、本当に良かった……。あとは、俺たちの仕事だ。任せてくれ……!」
手紙の内容は、単純ながらも重要たる真実の記載。
"自分はブリレイの瞳に宿る闇魔法で操られていたこと"
"闇魔力の結界を開発した際に、それが自分に暴走してしまったこと"
"暴走に巻き込まれた際、片目を失ったが生きていること"
"ブリレイが何を目的として動いているのか、定かではないこと"
"但し、世界平和とは別の次元で動いている可能性が高いこと"
―――…そして。
猛竜騎士「闇魔力を封じることが出来る、全身が闇魔力の魔剣士が消滅してしまうかもしれない結界が、王城に仕掛けられていたとは……ッ!!」
以前、話を聞いていた"王城に仕掛けられた対魔法結界"は闇魔力にも効果のあるものだった。
更にセージから結界に使う魔法陣の記載された魔法書を、彼が所持している可能性があるらしい。
白姫「でも、よくセージさんが、氷山帝国で闇魔力にへ対抗できる結界をみんなに公開できましたね……」
猛竜騎士「どういう意味だ?」
白姫「い、いえ…セージさんが操られていたら、どうして結界術をお弟子さんたちに伝えるのかなって」
猛竜騎士「なるほど、確かに操られている彼女が世界平和のために動くのはおかしいか……」
白姫「はい」
猛竜騎士「ふむ、幻惑は時間とともに術は解けていく。セージともなれば、経験として抵抗力も高く、世界平和のために本能で動いていたんだろう」
白姫「強いですね、セージさん……」
猛竜騎士「片目を失ってもなお、俺らにそれを託そうとしている。だから、今は王城へ急ぐぞ!しっかりと着いてくるんだ!」
白姫「はいっ!」
二人は、王城への道を走り急ぐ――…。
…………
……
…
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