魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第八章【東方大地】

8-31 とどまることは出来ないから

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―――そして、その夜。
お祭り騒ぎとなった城下町の明かりはいつまでも消えることなく、彼らの喜びに満ちた声は王城の寝室で休む三人のもとへと届いていた。

魔剣士「もう朝1時だっつーのに、いつまでも騒ぎ過ぎだろ……」
猛竜騎士「支配から解き放たれたんだ。アサシン盗賊団の脅威も去った今、他の山賊は相手になるわけもなし、東方の地は砂国一強になったわけだからな」
白姫「もう悩むことはないってことですね!」
魔剣士「この大地に住む以上、戦わないことはないだろうが、今までよりはずっと楽になるだろうな」
白姫「そっか。テイルさんならきっと良い国にしてくれるよね」
魔剣士「アイツはムカつくほど生意気で強気だからな。ちょっとやそっとじゃ倒れなー……」

"ドカッ!!"
言い切る前に、魔剣士は急に背後から強烈な蹴りを喰らい、吹っ飛んだのだった。

魔剣士「な、なんじゃ!?敵かァ!?」

立ち上がって武器を構える。しかし。

テイル「悪かったわね、生意気で!!」
ヴァイク「どうもです」
魔剣士「お前らかよ!?」

そこにいたのは、いつの間にか部屋に入って来たテイルとヴァイクだった。

テイル「フンッ」
魔剣士「ったく、何の用だよ」
テイル「色々と聞きたいことがあるからに決まってるでしょ」
魔剣士「知らねぇよ!?」

相変わらずのグダグダな会話に、白姫は苦笑を浮かべた。

テイル「……こほんっ!それよりも、ちゃんとした用事があるんだから聞いてよね。もっとまじめにするつもりだったのに、魔剣士といるとホンットに調子狂うんだから」
魔剣士「それこそ知るかよ!!つーか、何の用事だよ!」
テイル「締結状のことなんだけど」
魔剣士「……あぁ!」

"締結状"の名に、そういうことかと納得する。

猛竜騎士「……ヴァイクがいるから何かあると思ったが、そういうことか」
テイル「うん、そういうこと」

テイルは後ろのポケットから一枚の"紙"を取り出すと、部屋の中央にある机に拡げた。

魔剣士「んだこりゃ?」
テイル「締結状の交換用の制約紙…誓約書です。契約書と言ったほうが分かり易いとは思いますが」
魔剣士「ん……」

急に敬語になるテイルに、魔剣士は「気持ち悪いぜ?」と漏らしたが、何故か敬語のまま会話を続けた。

テイル「代表者としては、猛竜騎士さんでよろしいですね」
猛竜騎士「あぁ構わない」
テイル「では…。本題を申し上げますと、砂国は氷山帝国との共同戦線および絶対なる平和条約を決定事項としました」
魔剣士「お……!?」
白姫「テイルさん、それって……!」

ついにセージからの依頼、世界の平和のための目的を達成する時は来たのだのだが――。

猛竜騎士「俺たちとしては嬉しい話このうえないが……」
テイル「何か問題が?」
猛竜騎士「国内はまだ混乱しているし、無理というならば……」

落ち着きつつあるとはいえ、情勢は良好というわけではない。今後の戦いがあった際、国には計り知れないダメージを受ける可能性があった。

テイル「……見くびらないでください、猛竜騎士さん」
猛竜騎士「む…」
テイル「これは現段階における、砂国としての意志です。昼間、魔剣士さんがやってくれた花火のパフォーマンスのおかげもあって、彼がアサシンを倒したことへ全ての国民の意識がより魔剣士さんに集まっているんです」
猛竜騎士「……なるほどな」
テイル「国は生き物だと言うのなら、今この国は変な話"魔剣士さん"という一人で成り立ってるようなものですから。その意志に逆らうことは有り得ません」

国の意志だと、ハッキリと断言した。

魔剣士「意志はいいけどよ、テメェ俺のこと変な話って……!」
白姫「魔剣士、だめっ!しーっ」
魔剣士「はい」

予想外に強く白姫に止められた魔剣士は、素直に沈黙する。少し笑いたくもなったが、猛竜騎士はそれを気にせずに会話を続けた。

猛竜騎士「……分かった。そう言うのなら、この話は進めさせてもらう」
テイル「戦いになった時、お互いの存続のため力を貸します。世界平和の為に戦わせてもらいます」
猛竜騎士「では、締結状を渡させていただこう」

懐から締結状を取り出すと、誓約書の隣に拡げた。

テイル「確かに承りました。では、拇印とサインを」
猛竜騎士「承知した、が少し……」
テイル「はい」
猛竜騎士「本当はしたくないことだが、分かってくれ」
テイル「分かっています。構いません」

誓約書へ一応の目を通す。あまり実感はないが、猛竜騎士たちは"氷山帝国"の代表であり、戦った仲とはいえ易々とした不利な行動をするわけにはいかないのだ。

猛竜騎士「……よし、問題はない。では、サインをさせてもらっていいか」
テイル「ありがとうございます。こちらをお使いください」

特に問題ないことを確認すると、羽根ペンを受け取り、誓約書へサインを行った。

猛竜騎士「……よし」

最後に拇印を行い、テイルへ渡すと、彼女も重ねてサインと拇印を行う。最後に"国"としての判が押され、この瞬間、互いの"誓約"と"締結"する条約はしっかりと結ばれた。
故に、魔剣士たちが請け負った使命である"国と国を結ぶ一つの大役"がようやく終えたということだった。

猛竜騎士「これで、締結状の使命は終わりだ」
魔剣士「つーことは、俺たちの依頼は終わりなんだな!!」
白姫「一区切りということですね!」

―――そう。
つまり、東方大地の長き旅もこれで終えたということだった。

魔剣士「お、終わったぁぁぁーーーっ!!!」

大声を出し、ベッドに"ぼふんっ!"と横になる魔剣士。両手両腕を伸ばし、心地よさそうな表情を浮かべた。

テイル「……それで、みんな…みなさん…」
猛竜騎士「ん?」
テイル「国との話はこれでお終い。ここからは、仲間としての会話でも…いいかな……?」

テイルは国の代表として、これからのこともあり、ケジメをつけなければならなかった。それが自分には決して合わないと踏んでいた低姿勢な姿だということだが、誓約書を結んだ今はもう仲間として会話をしたくてウズウズしていたのだ。

猛竜騎士「……もちろんだ。仲間として会話をしてくれ」
白姫「当たり前だよ!」
魔剣士「敬語で話せよ」
テイル「ありがとう、みんな……!」
魔剣士「聞けよ」

タガが外れたテイルは三人の前でピョンと飛び跳ね、魔剣士と同じベッドの足元に腰を降ろした。それを見たヴァイクは小さく微笑む。

テイル「猛竜騎士、白姫、本当にありがとう…。感謝の言葉をどういえばいいか分からないよ……!」
猛竜騎士「構わないさ」
白姫「気にしないでよ!わ、私は何もしてないけど……」
魔剣士「おいテメェ、俺に感謝言ってないだろ」
テイル「それで、三人はいつまでここに……?」
魔剣士「聞けよ」

あえての無視を続けられた魔剣士は、頬をピクピクと動かした。

猛竜騎士「いつまでか…。分かっていると思うが、長居は出来ない。この誓約書を氷山帝国に届け、代表者とともに今後について考える必要があるんだ」
テイル「二人が良ければ、もっと長くいてもいいんだけどな……」
猛竜騎士「早くて明日には出て、イエローノースポートから氷山帝国を目指すつもりだ」
テイル「そ、そっか……」

"シュン"として寂しそうな、しおらしい表情を浮かべるテイル。それに対し猛竜騎士は笑みを浮かべ、ポンと頭に掌を乗せた。

猛竜騎士「そう心配しないでくれ。落ち着けばまた旅行に来るさ。次は長居する旅行となるだろうし、最高の部屋を取っておいてくれるか?」
テイル「そ、それはもちろん!最高の料理と最高のもてなしをしてあげるんだから!」
猛竜騎士「あぁ、楽しみにしておくよ」
テイル「白姫ちゃんも、絶対に遊びに来てよね!これから色々大変だと思うけど、きっと、絶対だよ!」
白姫「うん、もちろんだよ!絶対に遊びに来るから…!友達…だよね……!」
テイル「うん…。白姫ちゃんは大事な友達だよ!」

白姫のもとへ近づくと、拡げた両手で白姫をぎゅっと抱きしめた。

白姫「えへへっ…、友達って嬉しいね……」

恥ずかしくなったのか、少し顔を赤くする白姫。彼女にとって、初めての同年代の友達にして、とても大事な"仲間"が出来たということだ。
さて、次は自分の番だな。魔剣士は身体を起き上がらせ、テイルに向かうが……。

魔剣士「……ごほんっ、テイル。ここに国を取り戻し英雄である男が」

テイル「みんな、本当にありがとう!何度も言っちゃうけど、本当に本当にありがとう!」

やはり、無視をされた。

白姫(あっ、これはー……)

白姫は気づく。

魔剣士「…」

まさにその通りで、ピクつき頬から額へ、ブチリという音が聞こえた気がした。

魔剣士「て、てめぇ……!この野郎ォォ!!」
テイル「え……」
白姫(やっぱり……)

背後からテイルへ襲いかかり、ベッドへと引き込む魔剣士。
仮にも一国の女王となった彼女に対しての仕打ち、本気で打ち首になってもおかしくないのだが。

テイル「や、やめっ…!こらーーっ!!!」
魔剣士「がーっはっはっは!お前が望んだことだァ!これが俺の欲だァー!!」
テイル「変な真似すんなぁー!!ちょっ、嫌っ…!やぁっ!!」
魔剣士「お、これは何だ、ここはどこだァー!!柔らかいぞ、んんーっ!!」
テイル「あぅっ…!ほんっとに……!」

毛布を被り、テイルの身体を弄ぶ魔剣士。白姫はそれを見てぷぅと頬をふくらましたかと思うと、二人のベッドへと「私もー!」と突撃し、更なる混乱を招いた。
一方、暴れる三人を見ながら猛竜騎士は「やれやれ」とため息をつき、いつの間にか側近の立ち位置となっていたヴァイクは大声で笑っていた。

猛竜騎士「いいのか、アンタのところの女王様が一人の男に襲われてるが」
ヴァイク「ハハハ、友達同士のじゃれ合いのようなものじゃないですか。自分が止めることもないです」
猛竜騎士「死刑にしても構わないぞ?」
ヴァイク「そんなことをしたら、私がテイル様より死刑を受けてしまいますよ」
猛竜騎士「ククッ、そうか。ところで、イケる口か」

"クイッ"と手を口に運ぶ。

ヴァイク「大好物ですよ。最高の品をお持ちします。この王城には部隊員のみが許された保管庫がありますから」
猛竜騎士「煙草はあるか?久しく、そんな暇もなくてな」
ヴァイク「つまみと、煙草、酒。あらゆる嗜好品を」
猛竜騎士「共に、呑むか」
ヴァイク「乾杯を許されるのなら、是非」
猛竜騎士「こちらかもお願いするさ」
ヴァイク「はい、喜んで……」

ヴァイクはすかさず王城にあった品々を運び、緊張した戦いが続いたことで忘れかけていた"嗜好"のひと時を楽しむべく、二人の男は窓際に座り、休息を取った。
魔剣士たちは夜食に手を伸ばしつつ白姫とテイルとともに雑談を拡げ、長い夜はゆっくりと更けていったのだった。

………………
…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――次の日、朝6時頃。
猛竜騎士にたたき起こされた魔剣士は眠そうにしながら白姫、猛竜騎士と共ににに王城の庭園に立っていた。
盗賊団の連中にも荒らされなかったらしく、かなり広めの庭園には朝日が差し込み、溢れる噴水から花々が咲き誇りキラキラと輝く。

白姫「凄く綺麗だねー…!」
魔剣士「ふわぁー…!オアシスって感じはするなぁ……」
猛竜騎士「シャキっとしろ。もうすぐ、テイルたちも……」

まさに、噂をすれば。テイルとヴァイクは、大型の魔馬と馬車を連れて庭園に現れたのだった。

テイル「おはよう、みんな」
ヴァイク「おはようございます、みなさま」
白姫「おはよう、テイルさん!ヴァイクさん!」
猛竜騎士「おはよう」
魔剣士「ふわぁ……、眠い……」

早朝から出発する予定だった魔剣士一行。次の目的地は再び氷山帝国への旅になる。
時間がないことを知っていたテイルは、王城一早い"魔馬"の馬車を準備してくれたらしい。

猛竜騎士「有りがたいことだが、帰りはどうするんだ?」
テイル「ヴァイクが操縦してくれるのよ。そのまま帰りは任せてもらっていいから」
猛竜騎士「しかしそれでは側近たる立場がいないのではないか?」
テイル「この馬は3日もあれば往復できるから。相当な速さを誇ってるの。それに、私一人でも色々仕事が出来るようになる良い機会だし」
猛竜騎士「そうか。それなら有り難く」

御礼に頭を下げ、ヴァイクに操縦を改めて依頼する。

白姫「テイルさん、それじゃ本当にお別れだね」
テイル「さよならは言わないから」
白姫「えっ…?」
テイル「またね。絶対に、ぜーったいに遊びに来なさいよ?」
白姫「あ…、うんっ!」
テイル「それと、ふ…不本意だけどアンタも!」

隣にポケっと立つ魔剣士に向かって、強く言い放つ。

テイル「特別に、本当に特別だけど、たまになら遊びに来てもいいから!」
魔剣士「嫌だ」
テイル「ちょっと」
魔剣士「俺はこんなところ、二度とこねーよ!バーカ!」
テイル「えっ、ちょ…っと……」

まさかの反応に、言葉を無くすが――…。

魔剣士「嘘だっつーの」
テイル「うっ…!」
魔剣士「こんな良い国…。お前が創り上げる未来はもっと良い国になっているだろうからな。お前が嫌がっても俺は遊びに来るぞ!!」
テイル「……っ!」
魔剣士「なっはっは!!」
テイル「ふ……っ!」
魔剣士「ふ?」
テイル「ふざけんなぁぁっ!!」
魔剣士「へっ……」

テイルは身体の軸を回転させ、得意な"旋風"を魔剣士に浴びせ、爆音をたてて吹き飛ばした。

テイル「うぅぅ、ふざけんなぁーーっ!!」

彼女は少しばかり、涙目になっている気がした。

魔剣士「あーびっくりした……」
テイル「そして何ごともなく起き上がるなぁ!!うーっ、自信も無くすし泣きたくなるし!!」
魔剣士「あれ、そんな俺が遊びに来ないのショックだった?」
テイル「うるさいっ!!もう来るなっ!!」
魔剣士「ケケケッ、嫌だっつっても俺は来るっつーのバーカ!」
テイル「うるさいうるさいーーっ!!」
魔剣士「ハッハッハ、そんな強い女王様なら国もマジで安泰だろうよ!」
テイル「何がよ!!」
魔剣士「その強気で頑張れよ!」
テイル「あっ……」

これが、魔剣士なりの恥ずかしい優しさ。

魔剣士「んじゃーな。白姫、行こうぜ」
白姫「あっ、う…うんっ……」

白日の手を引いて、馬車に乗り込む。テイルは慌てて姿を消す前に、魔剣士を呼び止めた。

テイル「魔剣士っ!!」
魔剣士「んあ」
テイル「……ありがとう。また、会いに来てね…」
魔剣士「…」
テイル「…」
魔剣士「……当たり前だろ。仲間だからなっ!!」
テイル「っ!」

魔剣士は彼女に心からの笑みを見せた。それを見たテイルは嬉しそうにしたが、それ以上に寂しげに、彼と白姫が馬車に消えるのを見つめていた。

猛竜騎士「では、また来るよテイル女王」
テイル「あっ…うん……」
ヴァイク「それでは猛竜騎士様もお乗りください」
猛竜騎士「あぁ、最後までよろしく頼む」

猛竜騎士も馬車へ乗り込むと、ヴァイクは先頭のワゴンに座った。

テイル「…ッ」

いよいよ、別れの時。
彼らに出会えたことが、何よりも奇跡で、今がとても幸せで。複雑な想いでいっぱいいっぱいになる。

ヴァイク「それでは行ってまいります」
テイル「……気を付けてね」

ヴァイクは「はいやっ!」と魔馬を走らせると、庭園から猛スピードで走りだした馬車はあっという間に城門を抜け、城下町から遠くの水平線の彼方へと消えていく。
小さく、小さく、小さく。小さく、小さく、小さく……。

テイル「寂しい…な……」

小さく、小さく、本音を呟き、うつむいた。

―――しかし、その時。

"ドォォォンッ!!"
空に響き渡る轟音。空気を伝わった波動がビリビリとテイルの身体を震わした。
何ごとかと空を見上げると、彼らが消えていった彼方から、魔剣士の放ったであろう黄金色の花が大きく、大きく、鮮やかに輝いた。

テイル「……馬鹿っ」

小さく、小さく、呟いた。
今度はうつむくことなく、空を見上げたまま、ずっと、ずっと、前を見据えるようにして。
ずっと、ずっと、このまま、真っ直ぐ…………。

………………
…………
……


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