2 / 7
我が理想郷、ここにあり
しおりを挟む―…ター…
遠くで、誰かが何かを言っている。しかし、何を言っているのかまでは、よく聞き取れない。
澱む意識に揺られ、『彼』は微睡みの中に引きずり込まれていく。
―…スター…
だが、『彼』はその深みへの誘いを、必死に跳ね除けようとする。何故だか、そうしないといけない気がするから。
自分には、大事な何かがあったはずだと、『彼』は必死に、記憶を手繰り寄せる。
―マスター…
そこでようやく、『彼』…ヴィクターを名乗っていた男は、己を取り戻した。
******
「…マスター、お目覚めになって下さい」
女性の声だ。それも、機械的に作りだされたかのような、抑揚のない声。しかし、不快ではない。寧ろ良い。理想の嫁の声を実際に作ってみたらこうなりました、という感じの声だ。
意識が朦朧としているヴィクターは、その愛らしい声を頼りに、意識を表層へと浮かび上がらせる。
「ふぅんぬ…うん、起きる。起きるからもうちょい待って…」
どうしても持ち上がらない瞼を、何とかして開かんと躍起になるが、これがどうしても開かない。
致し方なし、と判断した彼は、自らの手で無理矢理開かんと、その手を上へと持ち上げる…が、持ち上げた瞬間、指の先が『何か』に触れた。それも、こつん、という音とともに。
(ん?『こつん』?なんだこれ、なんというか…硬い?硬くて…湾曲してる?)
手探りでその『何か』に触れてみると、どうやら球状のような物体であるらしい。それも、半球に近い形状の。近い、というだけで、完全な球状ではないようではある。
ヴィクターは、その感触から得られた情報を頼りに、脳内でそれが何であるかをイメージする。
「マスター、もしや目が見えておられないのでしょうか。そこは私の胸部ですが」
イメージするまでもなく、親切な声が教えてくれた。
(…『私の』?今、確かにそう言ったか?)
『私の胸部』。確かに声の主は、そう言った。
『硬くて』、『湾曲していて』、それでいて『半球に近い形状の何か』。そして、『私の胸部』発現。ここから導き出される答えは…
瞬間、ヴィクターの目が、勢いよくカッと見開かれる。
「お目覚めになりましたか」
はたして、そこにいたのは見目麗しい、鋼鉄のメイド。…失敬。説明不足だ。
一見して艶やかな銀に近い白髪のポニーテールに見える頭部は、その全てが磨き抜かれた金属装甲であり、顔もまるで人形のようだが、どことなく生気を感じる。そして、そんな彼女の端整な顔を若干隠すのは、整った湾曲を描く胸、否、黒の胸部装甲。
(ま、まさかのそういう展開……ッ!?)
流石に人外好きを拗らせているヴィクターも、これには動揺せざるをえなかったようだ。いや、目に映る相手が、明らかに機械的な存在だからというのもあるだろう。そして極め付けに、彼は「自分が何を枕にしているのだろう」という疑問に辿り着く。そして、理解した。
「…ッ!!!」
顔に熱が集まるのを自覚したヴィクターは、素早く身体を転がし、丁度メイド(仮)の正面で正座の体勢を取った。
「あら、如何されました、マスター」
どうも、自分が枕にしていたのは、本当に膝だったらしい。メイド(仮)も正座で座り込んでいる。
それを見て、思わず膝枕されていた事に対する嬉しさと小恥ずかしさを押し殺し、ヴィクターは目の前の人物―『人』と呼称していいものか怪しいが―の姿を改めて確認する。
なるほど。メイドと自分で評したのはあながち間違いではないようだ。全身に使われている色合いが白と黒のみというシンプルなカラーリングだが、それが逆に、彼女の一見のイメージとしてメイドを想起させる。
それも、昨今のアキバ等でよく見かけるようなメイドとは異なり、丈の長いスカートを穿いている。以前どこかの本かネットのページで見た、ヴィクトリアメイドとやらに近いだろうか。
そして人間のメイドと決定的に異なるのは、そのメイド服と思われるであろう胴体部分のみならず、全身全てが装甲である事。目に見えるだけの関節部分も全て、球体関節だ。
(せ、清楚感パネェ!つかパーフェクト!)
思わず生唾を飲み込んでしまう程に、完璧な造形。そこでふと、思い出した事があった。
確か自分が喉から手が出る程に欲したパートナーモンスター、マキナ。A型、E型と存在するそのモンスターの容姿を、ヴィクターはネットの記事か何かで一度だけ目にした事がある。
どうやら、元々の設定では奉仕者でありながら統治者であるというものだったらしく、A型は燕尾服をイメージしたカラーリングの、やや細身の男のロボットだった。
そして問題のE型の容姿が、今目の前にいるメイドと、全く同じ容姿だったのだ。
「え、えぇと、お名前の方をお伺いしても…?」
まさかとは思いつつ、念の為に敬語で喋ってしまうヴィクター。それも仕方あるまい。見た目は欧米人風だが、中身はれっきとした日本人なのだ。
「そんなに畏まらなくてもよろしいのですが、まぁ良いでしょう」
「ああ、そういえばマスターって呼んでましたね…」と、今更ながら思い出すが、やはり敬語から変えようなどと思えないのは、現代を生きる日本男児故か。
「私は、造物主によりこの身を授かりしモノ。MACHINA(マキナ) Type-EVE。これより、貴方と運命を共にしましょう」
だが、そんな引っ込み思案な面も、今の一言で文字通り引っ込んでしまった。
目頭が急に熱くなり、そこから頬へと、熱い何かが伝う。
ヴィクターの中に生まれた、熱い感情。それは、『達成感』、そして『感動』だった。
感極まったヴィクターは、その右腕を天高く突き上げる。その拳を、堅く握りしめ、そして一言。
「やった」
『うォォーーーんンンッッッ!!!』
「ぜ…はぇ?」
不意に辺りをつんざく獣のような咆哮に、ヴィクターは思わず間抜けそうな声を出してしまう。いや、獣のものではない。ヴィクターには、その声に聞き覚えがある。そのどこか悲しげな叫びに、彼は聞き覚えがある。
そして改めて見回してみると、そこは先程まで彼がいたはずの遺跡エリアではなく、深いジャングルの中だった。
「…ところで、どこだここ」
今更ながらその異変に気付いたはいいが、気付いたからといって何ができるわけでもなし。
とりあえず今は、聞き覚えのある絶叫を頼りに、道なき密林を行かねばならなかった。
なお、マキナはヴィクターの後を、一定の間隔を空けつつ、フワフワと浮きながら追従してきていた。何でも、「地磁気の反発を利用している」らしい。要はリニアモーターカーのようなものと言えばわかりやすいか。
あと、付かず離れずの距離で、彼の駆け足を阻害しないよう配慮している辺り、やはりメイドであるという彼の認識は間違っていなかったらしい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※基本週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる