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安喜子さんの驚くべき冒険譚 2
しおりを挟む匿うことを決断し、部屋を与えた。それから二人で庭いじりと読書と映画鑑賞の日々を送った。
外出することはなく、食事は元生徒の一人が律儀に送り続けてくれるお米と、小さな菜園や果樹園からとれるささやかな野菜・果物と、週に一度の宅配サービスで完全にまかなわれていた。
元曲者は逃亡中の身の上ということだったけれど、いつまで経っても追っ手の気配はなかった。お屋敷に脱走女囚が住んでいることは誰も知らなかった。脱走女囚が本当に脱走した女囚であるのかもけっきょくわからなかった。新聞やラジオやテレビをそれとなくチェックしていたけれど、それらしい報道は一度もなかった。
ぜんぶ嘘なら大した度胸だが、本気で思い込んでいるのなら逃げ出したのは刑務所ではないかもしれなかった。じっさい女囚嬢は時おり長々とおどけてみせたりした。不必要に長かったりした。けれどもそのすがたは童子のように無邪気で愛らしく、安喜子さんはそんな時の女囚嬢が好きだった。
数年ののち、安喜子さんより十六歳年下だった女囚嬢は急激に衰えた。明らかに消化器系の病気だったけれども、本人たっての願いで病院には行かなかった。
最期の朝、安喜子さんは女囚嬢のかたわらで本を読んでいた。この屋敷に二度目のお看取りは――一度目はあれほど冴え渡って消耗し、頭と心は語り尽くしたものであったが――静かでやわらかなものだった。
死亡届を出す際には、警察沙汰になるだろうと覚悟していたけれども、ならなかった。お役所の人たちがテキパキと引き取ってくれた。テレビカメラや新聞記者が来るかもしれないと思っていたけれど、誰も来なかった。
安喜子さんは女囚嬢の素性も、お墓の如何も調べなかった。独りひそかに通夜をした。
お屋敷の端にくっついている尖塔は、内部が螺旋階段になっていて、てっぺんは小さな部屋になっている。南側の壁には長方形にくり抜かれた窓があり、遠くの海が見えた。東と西の壁には色ガラスの窓があり、朝陽と夕陽が射し込んだ。石の床の真ん中にはロッキングチェアが二脚置かれていた。
天井の古いツバメの巣に、すがたは見せたことがないけれど時々美しい声で歌う小さなお化けが住んでいる。夜中にばさばさやって来る音と、明け方にばさばさ去る音を安喜子さんは聞いたことがあった。
――以上が語られた概要であるが真偽は如何。美那子と命子は、完全な事実として聞いた。
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