縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

文字の大きさ
30 / 93

照れながら、やり切る 2

しおりを挟む



 そのままちょっと品のよからざるほうへ流れて、

「夜中に奥さんが、プッと粗相をいたしまして、見ると旦那は寝ている。しかし寝たふりかもしれない。聞かれやしなかったかと心配になり、揺り起こして、
『ちょいと……』
『――どうした?』
『どうしたって……気づきませんでした?』
『なにを』
『いえね、――地震があったんですよ』
『ァそうか? そりゃ気づかなかったな。屁の前か?』――」

 あまり品のよからざるが続くのも興を醒ましむるかと思われて、いわゆるシモからは離れ、

「『俺の友だちなんざァ、泳ぎが達者でな。ザブーンと飛び込んだまま十分も出て来ねえから、どうしたんだろうと思ってるてえと向こうのほうにプカリと出て来て何食わぬ顔だ。ェえ? こんなに泳ぎの達者なのは、おめえの友だちにゃあ、いるめえ』
『なにを言やんでェ俺の友だちなんざァ、去年の夏にザブーンと飛び込んだまま、まだ出て来ねえや』――」

 もっともっとはラクだけれども、やるほうはつらい。

「ケチな人というものも、上には上がいるもんで、
『おう、ちょっととなりに行ってな、金づちを借りて来な』
『行って来ました』
『借りたか?』
『貸さねえんですよ。金づちでなにを打つんだって聞くから、釘ですって言ったら、そんなかてェもの打ったら金づちが減るじゃねえかって言うんですよ』
『なんでえおっそろしいケチな野郎だな。しょうがねえや、うちのを使おう』――」

 ケチつながりで思い出し、

「ある人が一年間おかずを買わなかったという。どういうことかというと、向かいのうなぎ屋から漂って来る匂いを嗅いで、うなぎを食べている気を作り、飯だけ食って暮らしていた。するとこのうなぎ屋もまたケチの性分で、ある日小僧さんを遣わして、
『ごめんくださいまし。ェえ、あたくしはうなぎ屋の者なんですが、主人から言付かって来ましたんで、ェえ。なんでも一年分の、うなぎの嗅ぎ賃を払っていただきたいということでして』
『なんだい嗅ぎ賃てえのは』
『うなぎの匂いをお嗅ぎになられた代金だということでして』
『あァそう。嗅ぎ賃がいるとは知らなかったな。いえ払いましょう払いましょう』
 ってんで、あっさり財布を持って来たかと思えば、小僧さんの耳元で振ってみせ、銭の音を鳴らして、
『聞こえたか』
『へえ、聞こえましたが』
『じゃあ持って帰りなさい。嗅ぎ賃は音で払います』――」

 さすがに命子の笑いも弱まって来たので、次で最後と断ると、

「升落としで鼠を捕まえましたところが、升の端から尻尾が出ていて、
『捕まえた!』
『しかしなんだね、その尻尾を見るってえと、その鼠はずいぶんちいせえね』
『なにォ言やんでえ、この鼠はでけえや』
『ェえ? 小せえじゃねえか』
『でけえんだ』
『小せえよ』
『でけえ』
『小せえ!』
『でけえ!』
 と言っていると升の中から鼠が
ちゅう!』――」

 ぐったりくたびれて頭を下げた。ありがとう存じます、ありがとう存じます、御忘れ物のなきよう、くれぐれもお気をつけくださいませ。安喜子さんは大ニコニコで、あなたみたいなおきれいな女の子にすてきな隠し芸があったものね。それじゃ今度は私もひとつと、お抹茶をててくれると、堅苦しい作法だの順番だのは抜きねと言いつつ、みやびな包装の箱を開けられた。元生徒の一人が送ってくれたという、目もあやなるお茶菓子であった。

 あるいは昨夜の名画よりも網膜に灯されるものの少なからぬお茶菓子をいただいて、ちびちびお抹茶をすすりつつ、途中からお湯割りにしてお代わりなんぞしながら、とりとめのないよもやま話に花を咲かせているうちに、たいへん名残惜しかったけれども時間が来てしまったので帰り支度をした。

 ぜひまたいらっしゃいねと言われて、必ず来ることを約束した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...