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照れながら、やり切る 2
しおりを挟むそのままちょっと品のよからざるほうへ流れて、
「夜中に奥さんが、プッと粗相をいたしまして、見ると旦那は寝ている。しかし寝たふりかもしれない。聞かれやしなかったかと心配になり、揺り起こして、
『ちょいと……』
『――どうした?』
『どうしたって……気づきませんでした?』
『なにを』
『いえね、――地震があったんですよ』
『ァそうか? そりゃ気づかなかったな。屁の前か?』――」
あまり品のよからざるが続くのも興を醒ましむるかと思われて、いわゆるシモからは離れ、
「『俺の友だちなんざァ、泳ぎが達者でな。ザブーンと飛び込んだまま十分も出て来ねえから、どうしたんだろうと思ってるてえと向こうのほうにプカリと出て来て何食わぬ顔だ。ェえ? こんなに泳ぎの達者なのは、おめえの友だちにゃあ、いるめえ』
『なにを言やんでェ俺の友だちなんざァ、去年の夏にザブーンと飛び込んだまま、まだ出て来ねえや』――」
もっともっとはラクだけれども、やるほうはつらい。
「ケチな人というものも、上には上がいるもんで、
『おう、ちょっととなりに行ってな、金づちを借りて来な』
『行って来ました』
『借りたか?』
『貸さねえんですよ。金づちでなにを打つんだって聞くから、釘ですって言ったら、そんな硬ェもの打ったら金づちが減るじゃねえかって言うんですよ』
『なんでえおっそろしいケチな野郎だな。しょうがねえや、うちのを使おう』――」
ケチつながりで思い出し、
「ある人が一年間おかずを買わなかったという。どういうことかというと、向かいのうなぎ屋から漂って来る匂いを嗅いで、うなぎを食べている気を作り、飯だけ食って暮らしていた。するとこのうなぎ屋もまたケチの性分で、ある日小僧さんを遣わして、
『ごめんくださいまし。ェえ、あたくしはうなぎ屋の者なんですが、主人から言付かって来ましたんで、ェえ。なんでも一年分の、うなぎの嗅ぎ賃を払っていただきたいということでして』
『なんだい嗅ぎ賃てえのは』
『うなぎの匂いをお嗅ぎになられた代金だということでして』
『あァそう。嗅ぎ賃がいるとは知らなかったな。いえ払いましょう払いましょう』
ってんで、あっさり財布を持って来たかと思えば、小僧さんの耳元で振ってみせ、銭の音を鳴らして、
『聞こえたか』
『へえ、聞こえましたが』
『じゃあ持って帰りなさい。嗅ぎ賃は音で払います』――」
さすがに命子の笑いも弱まって来たので、次で最後と断ると、
「升落としで鼠を捕まえましたところが、升の端から尻尾が出ていて、
『捕まえた!』
『しかしなんだね、その尻尾を見るってえと、その鼠はずいぶん小せえね』
『なにォ言やんでえ、この鼠はでけえや』
『ェえ? 小せえじゃねえか』
『でけえんだ』
『小せえよ』
『でけえ』
『小せえ!』
『でけえ!』
と言っていると升の中から鼠が
『中!』――」
ぐったりくたびれて頭を下げた。ありがとう存じます、ありがとう存じます、御忘れ物のなきよう、くれぐれもお気をつけくださいませ。安喜子さんは大ニコニコで、あなたみたいなおきれいな女の子にすてきな隠し芸があったものね。それじゃ今度は私もひとつと、お抹茶を点ててくれると、堅苦しい作法だの順番だのは抜きねと言いつつ、みやびな包装の箱を開けられた。元生徒の一人が送ってくれたという、目もあやなるお茶菓子であった。
あるいは昨夜の名画よりも網膜に灯されるものの少なからぬお茶菓子をいただいて、ちびちびお抹茶をすすりつつ、途中からお湯割りにしてお代わりなんぞしながら、とりとめのないよもやま話に花を咲かせているうちに、たいへん名残惜しかったけれども時間が来てしまったので帰り支度をした。
ぜひまたいらっしゃいねと言われて、必ず来ることを約束した。
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