縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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美那子が危機をかわし、命子が予言を聞く 2

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 命子は商店街のスーパーで散漫にお菓子を買い、帰りになにやら今はいちだんと現実感のない遊歩道へ逸れて行って、辺鄙へんぴなベンチに座っていた。

 美那子に接客を押しつけている迷惑をどのようにあがなおうかと考えつつ、賢也の帰るのを待っていた。ほっとけば気詰まりになって帰るだろう。きっと一時間も持つまい……。

 そこへ向こうから一人の老婆が歩いて来た。どうせ通過して行くものと注意も払っていなかったところがこちらへ近寄って来るらしい。とうとうとなりに座った。命子の左手を労わるように見つめて、

「大変だね」と言った。

 それから自分には労わる資格があるのだと証明するように語られた身の上話にいわく、老婆は従姉と二人で赤銅の団地に住んでいる。東の隅っこの棟の二階で、鳩除けのネットを張ってあるのが目印。自分は若いころに鬱病を患い、克服する機会を得ないまま現在まで時に経たれてしまった。

 従姉がずっと養ってくれていた。たいそう優しくしてくれた。しかしある日従姉が脳出血で倒れ、一命はとりとめたものの軽い麻痺が残って働かれなくなった。爾来じらいガラリと人が変わった。今では「あんたのせいで」と言われ、なじられてばかりいる。

 それまで住んでいた家を売り、十五年前にここへ越して来た。生活保護で生きている。福祉課の職員が様子を見に来るたびに従姉の被害妄想に命ぜられてテレビを押し入れに隠さねばならない。その体力もそろそろなくなりつつある――云々、云々云々……。

 老婆の携帯電話が鳴り、従姉が苛立っているからと言って帰って行った。

 命子は老婆の後ろすがたが見えなくなるまで睨みつけるように見送った。もしふり返って手を振られても会釈すら返すものかと決心していたけれど、けっきょくふり返らなかったために老婆と自分とのあいだに架けられたものを切断できずに仕舞った。

 風はあるけれど老婆のにおいが鼻腔へ残っていた。思えば奇怪な行動力でこの団地に越して来て、そうして今いったいちゃんとしたなにを手に入れられたのか、ちゃんとしたなにが起こっているのか、わからないけれどもこのままでは駄目だと思われた。

 どうにかしてあの老婆を自分の未来の象徴からこそぎ取らねばならぬ。そう脳裏によぎってからはもうその解決策の模索のほかに思考の仕方を持たなかった。そのうち思考にもならずにただ循環する暗い予感にこびりつかれて、なにかが途切れて正気に返るたび、涙でも流れているのではなかろうかと頬など触ってみる。これはいよいよ変になったかしら。べつだんそうも思わないところが本気でヤバそうだけれども?……

 たぶん妄想に捕まったのだ。どんなに頭が疲れても継続させられる粘っこい考えだ。無限にくり返される確認だ。脱出するためには別の考えに侵略させて、強制撤去させねばならぬか。たとえば図書館にでも行って、昔の新聞など調べれば、女二人の心中の記事なんかはどれくらいあるだろう。わたしたちもすでに載っていないとも限らないな――

 にわかに耐え切れないものがあって、我知らず叫び出しそうになった時、向こうから舞がやって来た。とたんに甚大な束縛力を持っていたものが彼方へ飛び去り、賢也はまだいるのだろうかと思うと、さっと血が冷えるようだった。

 美那子への贖いは、舞を用いずにあとで必ずきちっとしようと決心しながら、しかしこの場は彼女がどれほど助けになるか知れなかった。


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