縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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舞い上がっていた埃が沈み、新たに積もり始める 1

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 美那子に毎朝早くランニングをする習慣がついた。それを契機に一日の二十四時間がようやく眠りから覚めたごとく尋常の余暇も生じ始めた。それまでどうしてあれほど時間がなかったのかわからないほど有り余る時間の善意に満たされた。それは一緒に走っていない命子にも及ぶ確かな変化であった。

 何度か命子もついて走ったけれど、美那子が体力そのものよりも考え方の厳格さで以ていつまでも走り続けるので、気を遣わせて途中で切り上げさせるのも悪いと思って断念した。

 境目があやふやだった散歩と買い物が確固として分けられると、買い物は美那子だけが行くようになった。美那子は行ってから帰るまで早かった。

 余暇の使い道を如何せん。ヘタなものへ手を出して劣悪な習慣を持ってしまったら終わりだと以前に結論していたが、自然に向こうから来るものをただ待つということ自体が習慣になってしまったらまた終わりだ、ここいらでひとつ飛び越さねばならぬ。

 どのみち習慣には捕まるであろうからせめてどのようなものでも文句は言うまい。今は未知なる将来の習慣にいったいなにが呼び水となるかわからないけれども、色々と注いでみる実験を軽やかに行った。

 近所の様々の場所や物に名前を付けて回ったり、古典の三本立てなどかかっている古い映画館に入り浸ったり、護身具を懐へ忍ばせて深夜徘徊してみたり、鉢植えを買って来てベランダに咲かせてみたり、お出汁のコクを探究したり有機野菜の虫を取ったり、云々、云々云々。

 美那子が買い物に出かけているあいだ、命子が諸々の遊具で遊ぶ赤銅の団地の子どもたちを窓から見下ろしている。活発な小学生児童たちが男女混じり合って、どうやらドロケイだのタカオニだの、命子にも馴染み深い遊びに興じていた。

 数年前まではそういう中にいたのであろう、今とぼとぼと帰って来る大人しそうな女子中学生は、母親と買い物しているところを見たことがある。私服は野暮で。彼女は幼いころからああもかげりを帯びていたのか。途中からか。いつかは晴れる翳りであるのか、否か。

 あとは高校生くらいの男の悪ガキたちが隅に固まってなにかよからぬ相談をしているらしいくらいのことで、今日も命子の希望に反して少女二人だけのグループはいなかった。

 どうしてそのようなものを探しているのかわからないけれども――いやじっさいはわかり切っていた。暗鬱たる未来の象徴の残像をその場で即座に焼却し得る過去の象徴を見出して、惨憺たる予感を逃れんという意図であることは自ら明白なのだった。これ以上に重要なものはないくらいの、それは真剣勝負なのだった。

 ふと二人きりの少女を見つけることがあっても、命子が疑い深く眺めているうちに、やっぱりそこへ一人でも増えると、たった今までそこにあった美しいものがたちまち薄まり、軽やかになり、平均的なものへと落ち着くのだった。あとで二人きりに戻ればまた返って来るだろうし、そういう刹那的のものだからこそそれは存するのでもあろうけれども、命子は駄々をこねるように、我ながらろうとも思われない完璧な二人組を探し続けた。

 ふときれいなお姉ちゃんが歩いていれば、嗚呼あれもあのまま世の中の日向をゆかれたら、いずれは動きやすいだけの服を着て、子どもを乗せた電動自転車なんか漕いでいるのだ、あと五、六年かな。しかしそのころには次の女の子が大きくなっているから、あのきれいなお姉ちゃんは永遠に存在するわけだな……。

 そうこうするうちに奇跡のような独りきりの幼女が見つかったが、ここは極めて移ろいやすそうで、なににでも簡単に所属し、それもすぐに投げ出しそうな悪自由のにおいがして、命子はすぐに目を逸らし、忘れようと努めた。

 しかしあまりにすんなり入ってしまってなかなか取れない。同類の共感か。いやだいやだ、どうしようどうしようと部屋の中を歩き回っているうちに美那子が帰って来れば、するりと排出されるのだった。


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