縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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流れのままに 1

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 命子は実家に帰り、美那子は手ごろなマンションに引っ越した。

 ベランダからはとなりの建物の壁が見え、もう一つの窓からは別の建物の壁が見えた。節水のためにかトイレの水量が少なく、たいがいのお宅がけっきょく二度流すのがしばしば響いていた。

 それから百貨店に戻った。復職希望の旨を伝えると、ある婦人服売り場から熱心に誘われて、そこへ勤めた。

 化粧品の売り子たちからは、美那子さんのいなくなったあとで主任が前よりのさばって、それに取り入っている人もいる、ぜひぜひ戻って来て治めて欲しいと懇願されたけれど、自分たちでやっつけなさいと言って断わった。売り子たちはそろって可愛らしくしゅんとしたけれど、みんな舞への加害者であった。

 すべてが順調で元気いっぱいの舞が足しげく遊びに来た。マンションの青いタイル張りの壁や螺旋状の階段を見回して「いいな、いいな」と言っていた。

 婦人服販売の先輩で、美那子さん美那子さんと慕って来る六つ年下の爽子そうこからたびたび合コンに誘われた。美那子は迷う気持ちがあるのかないのか自分でも判じかねるままふらふらと連れられて行った。

 爽子は美那子を連れて行くこと自体に一種の誇らしさを感ずるらしかった。美那子の機嫌を終始気にしていた。

 美那子は姿勢を正して座り、涼しい心でほほ笑みを絶やさず、要求には明るく応じて、座を白けさせないことにのみ努めた。

 時おり不快な思いをさせられたけれども、いったい自分が今なにを喪失し、どう誤っているのかも判然としない美那子は、爽子が心配するほど気分を害しはしなかった。

 害しはしないのをいいことに、この取り澄ました美人に卑猥なことを言わせようと、ある種の男連中はあれこれ頓智を働かせて美那子に話しかけたりした。――なめこおろし……アワビのやわらか煮……ヤリイカのマリネ……マグロと長芋のねばとろ和え……ホッキ貝のしゃぶしゃぶ……ぶっかけうどん……全員ナマで。云々。

 美那子は涼しく承って注文した。爽子は憤慨していたけれど、美那子は平気だった。

 じっさいダメージもなかった。いわゆる下ネタなるものは、女子高時代に聞き飽きた。のみならず、幼いころに意味もわからず聞き覚えた古典落語には、いわゆる艶笑噺えんしょうばなしも混じっていて、今にして思えばかなりどぎついものもあった。命子に出会うまで、人前で口にしなくて本当によかったと思う。

 それに比べたら、技巧においても下品さにおいても、しょせんは屁のようなものだった。


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