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流れのままに 4
しおりを挟むほんの一瞬、賢也はどうしているだろうと思ったけれど、陽気なアルコールがすぐに連れ去るらしかった。
なにやら悪童たちから重んぜられている美那子に重範は軽く目を見張りながらも、
「ああいう子たちは、知り合いには礼儀正しいですね」
とだけ言った。美那子は曖昧にうなずいておいて、
「ここって、重範さんも懐かしい?」
と尋ねた。それは以前、命子を仲間に引き入れた時に、舞と良助と四人でしていた会話であった。重範もよそから来たクチだったので。重範は聞き返して質問の意味を飲み込むと、
「ええ、確かに、懐かしいような感じはしますね」
「それは、やっぱり血の中の遺伝子が懐かしいような感じ?」と、舞の持説を思い出して。
「え?」と重範は少々面食らったふうだったけれども、美那子があくまでも返事を待っているので、絞り出すように「――あるいはそうかもしれないですね。アプリオリな懐かしさというか。もうないのに、あるように感じる、日本人の幻肢痛みたいなものが、ふいに肉体と邂逅した快さのような……」
こちらはしらふの重範は、おのが名論卓説ぶりに苦笑して口をつぐんだけれども、重範の賤しからざる言葉運びに美那子の思うことは、静華さんは久治さんのインテリジェンスにも惚れていたものかしら。
ともあれ美那子は今、重範とは無関係に、なんだかだるかった。
それから当たり障りのない、社交的の会話をだらだらとして、マンションまで送ってもらった。そのまま部屋へ寄られることをぼんやり覚悟していたけれど重範は去った。去り際、約束まではしないけれど次の機会も希望する感じを声音に込めて、今日は楽しかったです、おやすみなさい。
翌日爽子が、いつか公園にいたセキレイを彷彿させながら人懐っこく寄って来て、
「どうでした」
「いい人だったよ」
「付き合うんですか」
「さあね。わかんない」
またお誘いがあった。今度は待ち合わせ場所からタクシーで店へ行き、重範も飲んだ。なかなか酒豪らしかった。支払いは美那子がトイレに行っているあいだに済んでいた。
帰りは歩きたいと言うと付き合ってくれた。そのままマンションまで送ってもらった。そうして、どのように転んでもそうでないよりはましだと思われて、コーヒーでもいかがですかと言ってみた。けれども、もう遅いからと言って帰って行った。
独りでコーヒーをいれかけて、舞にもらったハーブティーにした。今一つ物足りない液体をふうふう冷ましていると、だんだんやかましいような静けさの中、最近の出来事の緩慢な濁流のあいだに保留し続けて来たものが一斉に押し寄せて来た。
美那子は胸中へ激しく展開される自問自答のお祭り騒ぎをぼんやり聞き流しつつ、いかなるリアクションもせずに、自然の沈静をひたすら待った。
やがて大きな倦怠感があらかたを食べ尽くして定住するらしかった。美那子はひそかに安堵して、ハーブティーを飲んだ。
先生の洋館にまた行きたいと思った。行くのなら命子と二人で行きたかった。
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