縁日ヶ丘物語

尼子猩庵

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郷愁が去る

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 お粗末な景品の中に嘘みたいな年代物のジッポーライターがまぎれ込んでいたので、良助が凄まじく射的に興じているあいだ、隅っこのベンチに並んで座っている。

 舞が美那子の足の組み方や、ちょっとした所作やを、わざとらしくじろじろと見て、

「重範さんとうまく行ってるんだ」
「うん」
「日南子ちゃんもいい子だし、このまま行っちゃうの」
「さあね」
「さあねか」

 美那子が舞を見やれば、言わずもがなのような顔をしているので、

「……どうしたらいいかわかんないわ。私は舞みたいに百戦錬磨じゃないから」
「尻軽みたいに言わないでよ。あたしは良助と会うまでは、おんなじようなのとばっかりだったから、あのころのはぜんぶ合わせて一人だよ」

 美那子は笑って、

「ひどいね」
「向こうのほうがひどかったもん。ほんとに全員が全員。知ってるでしょ」
「うん。知ってるよ」それから美那子は舞のおなかを、触りはしないが少し浮かせたところでなでるふうをして、「渓士郎けいしろう君もうすぐね。おーい。元気で生まれて来るんだぞ」
「触ってもいいのに」
「今の私からは、多分よくない電波が出てるから」
「美那子さんの電波だったら入れといてよ」
「そう? 入れとこうか?」しかし美那子は手を引っ込めて、「私たちみたいに、縁日ヶ丘で遊ぶようになったらいいね」
「ほんとだ。そうなるといいね」

 けっきょく撃ち落とせなかった良助がやって来て、話に加わろうとしたけれど、なかなかうまく行かず、希望を聞いて飲み物を買いに行った。

「命子ちゃんとはまだ連絡とってないの?」
「こないだ久しぶりにメール来て、今度泊まりに来るよ」
「ほんと? 久美ちゃんも来る?」
「久美子ちゃんはまた次の機会だって。舞も来る?」

 舞はうーんと考えて、

「あたしは身重だし、久美ちゃんが来た時にしよっかな」
「そう」
「――命子ちゃん、もしまた戻って来たら、美那子さんどうするの」
「どうって? みんなで会社やる?」
「会社はあきらめてないけど、そうじゃなくって。美那子さん、久美ちゃんのお父さんになるの。それとも重範さんのお嫁さんになるの」
「なにそれ?」

 と笑おうとするのを、

「どっちにするの。わかってるでしょ」
「ちょっと待ってよ」

 舞はかぶりを振って、

「もう、らしくないな。あたしの美那子さんはねェ」

 そう言いかけるのを、美那子は拝むように制して、

「ねえ舞、久しぶりに命子と会うの、楽しみなんだ。だから今は、あんまりいじめないで」

 舞はしばらく美那子を見つめたと思うと、腕を取った。組むのかと思うと引っぱるから、されるがまま寄せられて行ったらとうとう膝枕になり、頭を優しくなでられた。美那子は人目もはばからず目を閉じて、

「舞、お母さんだね」
「そうだよ。よしよし」
「私このまま赤ちゃんになりたいよ」
「ダメ。美那子さんはあたしの完璧ウーマンなの。負けたり、弱ったりする権利を持たないの。これからもずっとそうなの」
「ふうん……完璧ウーマンは大変なんだね」
「そうだよ」
「舞母さんは、時々なぐさめてくれるの?」
「あたりきよ。いつでも駆けつけたげる」
「私は飛んでっちゃいたい。もっとラクな世界に」
「どこでも駆けつけるよ。呼ばれなくても遊びに行くよ」
「一緒に来てもいいよ」

 けれども、舞は優しくなでながら、

「一緒には、もう行けないよ」

 美那子の閉じた目に、涙がにじんだりしたかもしれなかった。しばらく閉じたままでこらえて、それは流れることなく消えたりしたかもしれなかった。

「――……仕方ないね。きっと遊びに来てね」
「うん。絶対に行くね」


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