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出会い
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―ガラガラカシャン
多分空き缶だろう。凄まじい音が狭い路地裏に響き渡る。続いて下世話な笑いを含んだ数人の声。
場所柄を考えると何か良からぬ事が行われようとしていることは間違いなさそうだ。
佐久間力はチラと路地の奥に目をやると深い嘆息を洩らした。
本来自分は親切な男ではない。人が困っていても助けない事など日常茶飯事だ。
しかし,卑怯な事は大嫌いだ。
そして微かに聞きつけた救いを求める声は、今行われようとしている行為が決して正当ではないことを伝えていた。
ビルとビルの狭間の、昼間でも誰も立ち入らない場所に4人の男がいた。
いや、正確には3人の見るからに世間の爪弾きと呼ばれる不良然とした学生と、それに囲まれた小さな人間だ。
何度か転ばされたようだ。赤くフードのついたダッフルコートは埃にまみれていた。
俯いた様子から3人に言いように扱われていたことは間違いない。
力は音を立てて更に次の攻撃を加えようとしていた一人に歩み寄った。
コンクリートが立てた靴音に気づかれるより早く、力は相手を背負い投げていた。
何が起こったのか理解出来ていない相手に背を向けて、同じようにポカンと口を開けている残り2人もまた同様に、軽く往なすと、立ち竦んでいたダッフルコートの人間の手を取ると、全速力でその場から駆け出した。
こういう時は下手に騒ぎ立てるよりも、相手の虚をつくことが一番効果的であることを力は知っていた。
まだ、現状が飲み込めない3人を尻目に、2人は脱兎の如く逃げ出したのであった。
半ば力が相手を引きずるようではあったが・・・。
後ろを振り返りもせず、ただひたすら走った。
3人が我に返る時間はそう長くないだろう。
単純な彼らのことだ。烈火の如く怒り、力達を探し回るだろう。
少しでも現場から遠く離れる必要があった。
連れの、息を弾ませ、苦しそうにしている様子が気にならないでもなかったが、奴らに捕まるよりはマシだろうと、構わず走り続けた。
さすがにこれだけ離れたなら安全だろうという地点まできて、力はやっと足取りを緩やかにした。
いつの間にかビル群から抜け出、今は閑静な住宅街へとやって来ていた。
それは平和そのものの風景だ。
運よく見つけた公園のベンチに寄り掛かり、荒い息を吐く。
呼吸を整えて初めて、力は相手の顔を凝視した。途端にアッと驚いた。
目の前にいた小柄な人間は力の見知った人間だったからだ。
未だ息苦しそうにしている人物は力のクラスメート、石川秋人だったのである。
赤いダッフルコートと、小柄な背丈からてっきり女の子だと思っていた力はまず「男」であった事に驚き、次にその「男」が自分の知っている人間だった事に驚いた。
と同時に、絡まれていたのが秋人であったことに妙に納得してしまった。
身長160cm弱。髪は女の子のようにツヤツヤ光る坊ちゃん刈り。
線が細く、見るからにひ弱そうである。
色白で日に当たると溶けてしまうのではないかという印象を受ける。
顔の大部分を覆い隠すような大きな黒縁メガネをかけている。
今どきどこで売ってるんだろうか。
同じクラスではあったが力は秋人とは一度も話した事はない。
というか、秋人は誰とも話した事がないのではないだろうか。
いつも一人でポツンとしている。
その理由は秋人自身にあった。
秋人は無類の吃り性なのであった。
春先に行われた自己紹介さえ満足に出来なく、担任教師が代わりに紹介してやったぐらいである。
そんな秋人が不良共に絡まれ、路地裏に連れ込まれる事は何だか当然のような気になってしまう。
「大丈夫か?ケガとかないか?」
とにかく知っている人間だったので、そのまま置き去りにする訳にもいかず、力は秋人に声を掛けた。
助けてくれた人間が力であった事に驚いたのか、秋人は目を大きく見開いた。
「なぁ、大丈夫かって聞いてんだけど」
余計ないざこざに巻き込まれた苛立ちから、ついキツイ口調になる。
ビクッと体を縮こませて、秋人は何度も頷く。
鞄を胸元でギュッと抱きしめ立っている。
鞄はまるで命綱のようだった。
「そうか。奴らも多分もう追ってこないだろう。見つかんないように帰れよ。」
と背を向けようとした瞬間。秋人の細い声が聞こえた。
「あのっ・・・あり・・・が・・・とう。僕・・・・・・本当に・・・・こまっ・・困っ・・・てて・・・」
一言一言搾り出されるように発せられた言葉ではあったが、力は秋人が話した事に驚いた。
赤くなって俯いている秋人の前までやってくると、
「別にいいさ。それよりお前話せない訳じゃないんだな。俺ずっとお前がしゃべる事が出来ないんだと思ってたぜ。」
声を掛けられてますます緊張したのか、秋人は更に頬を染め、ジッと地面を見つめている。
暫くして秋人がやっと口を開けた。
「僕・・・緊張・・・と・・・かしちゃ・・・うと、途端・・・・・に話せ・・・な・・・・・・く・・・なっちゃ・・・う」
一生懸命話そうとする秋人の姿に、今まで感じた事のない感情が力の中に湧き上がる。
親が子どもを見守るような、そんな感じだ。
「そっか。だから学校でも話せないのか。でもお前、俺と今話してるんだぜ。きっと慣れれば平気になるって。そうだ、学校に来たら俺に話掛けろよ。ちゃんと聞いてやるから。」
ビックリしたように顔を上げた秋人は、真意を図るように力の顔を凝視した。
力が秋人に笑い掛けてやると、秋人の瞳に涙が滲んだ。
そして、秋人は泣き笑いの笑顔を向け、嬉しそうに頷いた。
多分空き缶だろう。凄まじい音が狭い路地裏に響き渡る。続いて下世話な笑いを含んだ数人の声。
場所柄を考えると何か良からぬ事が行われようとしていることは間違いなさそうだ。
佐久間力はチラと路地の奥に目をやると深い嘆息を洩らした。
本来自分は親切な男ではない。人が困っていても助けない事など日常茶飯事だ。
しかし,卑怯な事は大嫌いだ。
そして微かに聞きつけた救いを求める声は、今行われようとしている行為が決して正当ではないことを伝えていた。
ビルとビルの狭間の、昼間でも誰も立ち入らない場所に4人の男がいた。
いや、正確には3人の見るからに世間の爪弾きと呼ばれる不良然とした学生と、それに囲まれた小さな人間だ。
何度か転ばされたようだ。赤くフードのついたダッフルコートは埃にまみれていた。
俯いた様子から3人に言いように扱われていたことは間違いない。
力は音を立てて更に次の攻撃を加えようとしていた一人に歩み寄った。
コンクリートが立てた靴音に気づかれるより早く、力は相手を背負い投げていた。
何が起こったのか理解出来ていない相手に背を向けて、同じようにポカンと口を開けている残り2人もまた同様に、軽く往なすと、立ち竦んでいたダッフルコートの人間の手を取ると、全速力でその場から駆け出した。
こういう時は下手に騒ぎ立てるよりも、相手の虚をつくことが一番効果的であることを力は知っていた。
まだ、現状が飲み込めない3人を尻目に、2人は脱兎の如く逃げ出したのであった。
半ば力が相手を引きずるようではあったが・・・。
後ろを振り返りもせず、ただひたすら走った。
3人が我に返る時間はそう長くないだろう。
単純な彼らのことだ。烈火の如く怒り、力達を探し回るだろう。
少しでも現場から遠く離れる必要があった。
連れの、息を弾ませ、苦しそうにしている様子が気にならないでもなかったが、奴らに捕まるよりはマシだろうと、構わず走り続けた。
さすがにこれだけ離れたなら安全だろうという地点まできて、力はやっと足取りを緩やかにした。
いつの間にかビル群から抜け出、今は閑静な住宅街へとやって来ていた。
それは平和そのものの風景だ。
運よく見つけた公園のベンチに寄り掛かり、荒い息を吐く。
呼吸を整えて初めて、力は相手の顔を凝視した。途端にアッと驚いた。
目の前にいた小柄な人間は力の見知った人間だったからだ。
未だ息苦しそうにしている人物は力のクラスメート、石川秋人だったのである。
赤いダッフルコートと、小柄な背丈からてっきり女の子だと思っていた力はまず「男」であった事に驚き、次にその「男」が自分の知っている人間だった事に驚いた。
と同時に、絡まれていたのが秋人であったことに妙に納得してしまった。
身長160cm弱。髪は女の子のようにツヤツヤ光る坊ちゃん刈り。
線が細く、見るからにひ弱そうである。
色白で日に当たると溶けてしまうのではないかという印象を受ける。
顔の大部分を覆い隠すような大きな黒縁メガネをかけている。
今どきどこで売ってるんだろうか。
同じクラスではあったが力は秋人とは一度も話した事はない。
というか、秋人は誰とも話した事がないのではないだろうか。
いつも一人でポツンとしている。
その理由は秋人自身にあった。
秋人は無類の吃り性なのであった。
春先に行われた自己紹介さえ満足に出来なく、担任教師が代わりに紹介してやったぐらいである。
そんな秋人が不良共に絡まれ、路地裏に連れ込まれる事は何だか当然のような気になってしまう。
「大丈夫か?ケガとかないか?」
とにかく知っている人間だったので、そのまま置き去りにする訳にもいかず、力は秋人に声を掛けた。
助けてくれた人間が力であった事に驚いたのか、秋人は目を大きく見開いた。
「なぁ、大丈夫かって聞いてんだけど」
余計ないざこざに巻き込まれた苛立ちから、ついキツイ口調になる。
ビクッと体を縮こませて、秋人は何度も頷く。
鞄を胸元でギュッと抱きしめ立っている。
鞄はまるで命綱のようだった。
「そうか。奴らも多分もう追ってこないだろう。見つかんないように帰れよ。」
と背を向けようとした瞬間。秋人の細い声が聞こえた。
「あのっ・・・あり・・・が・・・とう。僕・・・・・・本当に・・・・こまっ・・困っ・・・てて・・・」
一言一言搾り出されるように発せられた言葉ではあったが、力は秋人が話した事に驚いた。
赤くなって俯いている秋人の前までやってくると、
「別にいいさ。それよりお前話せない訳じゃないんだな。俺ずっとお前がしゃべる事が出来ないんだと思ってたぜ。」
声を掛けられてますます緊張したのか、秋人は更に頬を染め、ジッと地面を見つめている。
暫くして秋人がやっと口を開けた。
「僕・・・緊張・・・と・・・かしちゃ・・・うと、途端・・・・・に話せ・・・な・・・・・・く・・・なっちゃ・・・う」
一生懸命話そうとする秋人の姿に、今まで感じた事のない感情が力の中に湧き上がる。
親が子どもを見守るような、そんな感じだ。
「そっか。だから学校でも話せないのか。でもお前、俺と今話してるんだぜ。きっと慣れれば平気になるって。そうだ、学校に来たら俺に話掛けろよ。ちゃんと聞いてやるから。」
ビックリしたように顔を上げた秋人は、真意を図るように力の顔を凝視した。
力が秋人に笑い掛けてやると、秋人の瞳に涙が滲んだ。
そして、秋人は泣き笑いの笑顔を向け、嬉しそうに頷いた。
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