呪われ公爵様は偏執的に花嫁を溺愛する

香月文香

文字の大きさ
23 / 28

愛しているから

しおりを挟む
「離縁、ですか……」

 自分が呆けたような声を出したことに気づいて、ルファスはパッと口を片手で押さえた。それくらい、ユージンの答えは衝撃だった。

 ユージンは気だるげに脚を組み替え、長椅子の背にもたれかかった。ひらひらと手を振り、

「そうだ。俺はイルに離縁を言いつけた。結婚契約書も破棄されている。もはや彼女とは他人なのでね、どれほど権力を振りかざして引き渡せと言われても不可能だ」
「イリーシャさまは、どこへ……?」
「さあ? 俺の知ったことではない。ただ先の舞踏会ではマリアンヌ嬢と仲良くなっていたようだからな。頼るとしたら彼女じゃないか」

 その名を耳にして、ルファスは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。第一王子の婚約者。すなわち未来の王妃候補だ。そこに身柄を預けたとしたら、おそらく第一王子の息もかかっているのだろう。ユージンがイリーシャと離縁した以上、神殿の正当性は削がれている。これ以上、何の策もなしに揉め事を起こすには、分の悪い相手だった。

 ルファスはぎり、と歯噛みした。ユージンを険しく睨みつける。

 彼はまったく堪えていないようだった。涼しい顔をしてグラスを取り上げ、鮮やかな赤色のワインを飲んでいる。どこから見ても平穏な、くつろいだ気色だった。

「……あれほど執着していたのに、なぜそのような真似ができるのです」

 ルファスは狼狽を押し隠し、吐き捨てるように言葉をぶつけた。

 ユージンには微塵も動揺したところが見られない。逆にそれが恐ろしかった。嵐が来る前の、妙に凪いだ海のようで。

 ルファスはいくらかでもこの男の余裕に罅を入れたくて、懸命に言い募った。

「手放したのなら、きっともうイリーシャさまはあなたの手元に戻ってこない。あなたの目の届かないところで新しい人と出会い、別の人生を歩むでしょう。そのうちにあなたは死に、イリーシャさまはほんの少しだけ感傷的になり、時間が経てば忘れ去る。それに耐えられるのですか? また無理やり彼女を娶っても、神殿はあなたの婚姻を受理しませんよ」

 彼の描いた悲惨な未来予想図にも、ユージンは肩をすくめるだけだった。ちら、と唇の端に笑みがかすめる。

 ユージンは全てを理解した様子で落ち着き払い、当たり前のように言い切った。

「そんなの決まっているだろう? イルを愛しているからだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。 そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。 お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。 愛の花シリーズ第3弾です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...