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三章 愛する者への誓い
二話 再始動 勇者パーティー
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激闘が終わったら、暫くはゆっくりするものだと思うだろう?……俺はそう思うんだ。
ザンドラとの戦いの翌日、蓮君たち勇者一行はフガロ辺境伯の元へと訪問していた。勇者パーティーに魔物が紛れ込んでいたことを報告する為だ。付き添いに俺とマリーが付いてきた。いつもの応接室で今後の事を話し合う。
「魔物使いに魔王ディートリヒ……聞いたことがありませんな。それで魔物使いはこの街へ攻めてくると言い残したと?」
「はい……申し訳ありません。僕達の所為でこの街に魔物の軍勢が来るかもしれません……勿論その時は僕達も先頭で戦います」
「いや勇者殿を責めるつもりなどありませんぞ。事前に攻めてくるのが分かっているなら対策も取れるというもの。ふむ……国王へ報告を上げておきましょう。勇者一行に魔物が紛れていたなど、王家にとって大変な失態となりましょう。王都からも多数の兵を救援に向かわせなければ王家としても面目が立たないでしょう」
「ありがとうございます。ですが軍勢が来るのがいつになるかわからないのに、すぐに救援は来るのでしょうか?」
「すぐにでも派遣されるでしょう。王家は勇者を失うわけにはいかんですからな。私の方でも、事前に向かってくる魔物の軍勢を捕捉する為に、周辺の街に兵を派遣しましょう」
「よろしくお願いします。僕達は来たる戦いに備えて、準備に努めたいと思います」
「よろしく頼みますぞ勇者殿」
お義父さんと蓮君の話も上手く纏まって良かった。二人が固く握手を交わし、辺境伯の屋敷を後にする。さて、これからどうしようかと思い、俺は蓮君に声を掛けた。
「蓮君これからどうする?何か用事はあるかな?」
「えっと、冒険者ギルドに行って回復魔法が使える人を雇えないか探してみるつもりです。龍の尾の方々は契約期間が過ぎてしまいましたし」
「それなら俺達も一緒に行こうか、俺とマリーもギルドに行くつもりだったし」
「はい、ぜひご一緒しましょう!」
◇
ギルドに入ると受付で何やら騒がしい。どうやら何か揉めているようだった。何事かと近づいてみると受付嬢に詰め寄る小柄な少年と、その後ろで慌てふためく少女がいた。
「だーかーらー!俺を勇者のパーティーに入れてくれって!話を伝えてくれるだけでいいって言ってるだろう!?」
「ですから、来栖様のパーティーからはメンバー募集の話を受けていません。なのでお伝えできませんと何度も……」
「テオ君やめようよ……皆に見られてるよぉ……恥ずかしいよぉ……」
なんだあれ。ていうか蓮君達が目的なのか、うん解析を掛けておこう。
「御指名みたいだぞ、蓮君」
「やめてくださいよ、あれ絶対面倒事じゃないですか……」
「そうよ、あんなにうるさい奴パーティーにいらないわよ!」
どうやら蓮君だけでなく久遠さんもお気に召さないようだ。しかし久遠さんの声が大きかったのか、それを聞きつけたテオ君とやらが振り返った。
「あっ!黒髪!あんたが勇者か!?」
小柄な体躯に引き締まった体、金髪で短めの髪の少年がズンズンと大股で近づいてきた。後ろに付き従うように、少年と同じくらいの身長の女の子が続く。少女は同じく金髪のセミロングだな。おどおどと後ろを付いてくる姿は、どうやら人見知りするタイプのようだ。
「なぁなぁ!俺達を仲間に入れてくれよ!!絶対役に立つからさ!!」
「えっと……急に言われても……どうしましょうカルマさん」
「なんで俺に聞くんだよ……試験でもしてやればいいんじゃないか?」
俺の提案に蓮君は首を傾げる。頭の上には『?』が浮かんでいそうだ。ちょっと可愛いと思ってしまった。なんかザンドラとの一件から随分懐かれてしまった気がする。そこへ藤堂さんが続きを伺ってくれる。
「試験とは……なにをするつもりですか?」
「ギルドの裏に訓練所があるだろう?そこで模擬戦でもしてやればいい」
「模擬戦!?やろうぜ!あんた良い事言うなぁ!!……ん?あんた誰だ?勇者パーティーは男が一人と女二人って聞いてたんだけど」
「気にするな勇者達のただの友人だ。そうだな、蓮君の攻撃を三分耐えたら合格ってことでどうだ?耐えられなくても素質次第ではパーティーに入れてやればいいじゃないか」
「やろうぜ!実力を見てもらえるなら願ってもない!!」
蓮君の返事も聞かずにテオ君は訓練所に向かって移動し始める。
「あいつ、名乗りもしてないな……」
「カルマさん……なんで模擬戦なんてさせようと?」
「彼は才能はあるよ、自分の目でしっかり確かめるといい。性格は別だけど」
そういうと蓮君の隣で久遠さんが大きく溜息を吐いた。
「それだけで断りたい理由なんですけど……」
久遠さんも藤堂さんもザンドラの説明をする際に美桜に解毒魔法を掛けて貰い、既に嫉妬心や劣等感は正常に戻っている。まだ俺のことを多少怖がっているのだろうけど、表立って拒絶はされなくなったので一安心だ。
「まぁ本当に才能だけはあるよ。蓮君油断はしないようにな」
「はい!頑張ります!」
訓練所に移動すると、そこには大量の人。どうやら勇者が模擬戦をすると聞いた冒険者が集まってしまったようだ。観客席なんてないから、みんな壁際に寄っている。中には受付嬢らしき人も混じっているな、お祭り騒ぎかよ。というか昼前の時間に、こいつらギルドで何してんだよ、仕事しろよ。
「ちょっと蓮、装填魔陣は見せびらかさない方がいいんじゃない?」
「そうだね……出来るだけ使わないようにするよ」
「審判は私がするわ。蓮君、頑張ってね」
身内にスパイがいたんだ、観客にスパイがいる可能性もあるからな。警戒心も少しは成長したようで何よりだ。
訓練所に置かれている刃引きの剣を持ち進み出る蓮君。藤堂さんが審判として付いていった。訓練所の中央で待つテオ君は既に刃引きの剣を持っている。相方の女の子が空間魔法で大きな渦を出し、そこへ手を入れた。取り出したのは体を覆い隠すほどの大盾。やはり彼は盾がメイン装備のようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
テオドール Lv36 16歳 人間族
HP 4960/4960
MP 320/ 320
筋力 96
魔力 59
耐久 142
俊敏 77
運 23
スキル 剣術・盾術・鉄壁
称号 英雄の素質
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イルナ Lv35 17歳 人間族
HP 2840/2840
MP 770/770
筋力 46
魔力 144
耐久 63
俊敏 72
運 28
スキル 水魔法・回復魔法・解毒魔法・空間魔法
称号 聖職者 女神官
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これが二人のステータスなんだが……確かにいい人材だ。盾職と回復役が入れば勇者パーティーはバランスよく強化されるだろう。もう一度言おう、いい人材なんだ、性格を除けば。
イルナちゃんが俺達の傍まで寄るのを待ってから、二人は剣を構える。
「それでは模擬戦を始めます。ルールは死亡や後遺症の残る負傷をさせないこと。時間は三分間です。二人ともいいですね?」
「うん。僕の名前は蓮だよ、よろしくね」
「俺はラクス村のテオドール!!よろしくな!!」
テオ君は藤堂さんの確認に返事をしてないが、不満はなさそうだ。
「それでは……始め!!」
開始の合図と共に蓮君はまっすぐテオ君に向かって飛び込む。5m程の距離を一歩で詰める鋭い踏み込みだ。模擬剣を振りかぶる蓮君に迎え撃つように大盾を振りかぶるテオ君。ガギンッ!!!とお腹に響く程大きな音を立て蓮君が吹き飛ぶ。
「蓮!!」
久遠さんが心配気に叫ぶが、蓮君は吹き飛ばされながらも綺麗に着地を決める。だが模擬剣は、ぐにゃりと折れ曲がってしまっていた。使い物にならないくらい曲がった剣が、今の衝突の強さを物語っていた。
「剣を換えていいぜ、勇者様……!!」
「蓮君、受け取れ!」
俺は新しい模擬剣を蓮君に投げる。蓮君は曲がった剣を捨て、回転しながら飛来する剣をキャッチする。
再度踏み込み振りかぶる蓮君と迎え撃つテオ君。先程と同じ構図だが……
「何度やっても同じ……」
「――同じじゃない!!」
剣と盾が触れる瞬間、剣を引きながら横回転し大盾を躱す。テオ君の側面から小さく剣を振り素早い一撃を放つ。だがギリギリ蓮君の剣と自分の体の間に剣を差し込んだ。剣と剣を打ち合いそこで両者の動きが止まる。
膠着状態になったのを見計らい、俺は傍にいるイルナちゃんに声を掛けることにしよう。
「やぁ、俺はカルマっていうんだ。君と彼は幼馴染なのかな?」
「え、あ、あの……イルナです……そうです、テオ君とは同じ村で育って……」
「そうか、君も勇者の仲間になりたいと思っているのかな?」
まるで面接のような雰囲気になってしまった。イルナちゃんがガチガチに緊張しているのも、余計に面接のように感じてしまう原因ではあるが。
「あの、えっと……私なんかが勇者様の仲間だなんて……」
「なりたくない?」
「あのあの……仲間になりたくない訳ではないです……」
それならいいか。頭を撫でそうになったけど、流石に堪えた。そんな話をしている間にどうやら膠着状態にも変化があるようだ。剣が届かないくらいの距離を取り向かい合う二人が言葉を交わしていた。
「強いねテオドール君。ちょっと見直したよ」
「マジで!?俺勇者の仲間になれる!?」
「そうだね、頼れる盾役が居てくれるのは助かるけど、勇者が情けない姿を見せ続けるのも良くないから、最後にちょっと本気でいくよ」
「……へっ!上等だぁああ!!こいやぁああ!!!」
テオ君が吼えると同時に蓮君の姿が消えた。俺の目では追えない速さだが、どれだけの観客が視認できているのだろうか。蓮君は一瞬で背後に回り、剣の柄でテオ君の頭を横殴りに振りぬいた。その速さに「おおっ」っと観客が騒めく。蓮君は大きく転がるテオ君を追いかけた。
剣の部分で頭を打たなかったのは蓮君の優しさだろうか。テオ君は転がりながら飛び起き、蓮君の追撃をしっかりと目で追う。さっきのは奇襲だったから手を抜いたのか、次は刃引きされた剣の部分でテオ君の額に向けて剣を振るう。
「鉄壁ッ!!」
――ガギンッ!!!
剣と額が激突したとは思えない音と共に、蓮君の手から剣が落ちる。剣を握っていた右手は痺れたように震えていた。
「隙ありだぁあ!!」
「そこまで!!時間です!」
反撃に繰り出そうとしたテオ君と避けようと身を引いた蓮君に終了が告げられる。
「終わりかぁー!なあなあ、どうだった勇者様!?」
「……あ、ああ。仲間に聞いてみないと返事できないけど、凄く良かったと思うよ」
全員で蓮君とテオ君に近寄ると、イルナちゃんは二人に小回復をかける。久遠さんが驚きの声を上げた。
「回復魔法……」
「そうだな、盾役と回復役。蓮君達にとっていい仲間になれるんじゃないか?」
そして蓮君達の話し合いが行われ……
「テオドールだ!よろしくお願いします!!」
「イルナです、えっと、あの……回復と解毒と、少しだけ水魔法が使えます。空間魔法も使えるので荷物持ちもできます……」
こうして勇者パーティーに盾役と回復役が加入することになった。知らせていないけど俺の目でも確認しているから裏切りなどはないだろう。喧嘩しないといいけどな。
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