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三章 愛する者への誓い
十一話 三人目の魔王
しおりを挟む「ようこそおいでなさった。お客人方。儂がこの集落の長をしておるヤーナじゃ」
レイナに連れられ、集落の家々とここに住む人達を見ながら歩くことおよそ十分。俺達は集落の中央辺りの一軒の家へと案内された。
とりあえずここまで歩いて感じたことは、この集落には美女しかいないこと。そしてその悉くが、肉食動物が獲物を見つけた様な目で見てきたことだな。
蓮君のみならず、威風堂々という言葉がぴったりのテオ君まで怖がらせる程の熱い視線だった。久遠さんが蓮君を守ろうと威嚇していたのが、面白くて笑いを堪えるのに苦労した。
ごく普通の家のリビングには、集落の長のヤーナと名乗った老婆と、銀髪ショートヘアーの少女が座って待っていた。俺は二人に解析を掛けるが……これはまずいか?罠だったかもしれない。
俺は先頭にいた蓮君とテオ君の肩に手を置き、二人が動けないように強めに掴んだ。
「みんな止まって、動かないように」
「ほう、お主……いい目を持っているのじゃな。初めましてじゃ、我は……」
「魔王マグラ……魔王がわざわざ何の御用で?」
そう、イヴと最初に会った時に言っていた『イヴの他に三人いる魔王』の内の一人が待ち構えていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
マグラ=フォン=ノスフェラトゥ Lv287 98歳 吸血鬼族
B78 W57 H77 経験人数0人
HP 92200/92200
MP 74300/74300
スキル 不老・予知・千里眼・血操魔法・血液生成・転移魔法・火魔法・風魔法
称号 魔王 真祖の一族 賢者
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺以外のメンバーがすぐさま戦闘体勢になろうとするのを宥めるため、俺は無造作に前へ進み出る。後ろから俺を止める声が聞こえるが無視する。
マグラからは少なくとも、今のところ敵意は感じない。おそらくイヴと同じで俺に用があるのだろう。名乗りを邪魔されたからか、若干不機嫌な視線を向けてくるが無視だ無視……
……いや悪かったよ。
「……ふんっ……我はマグラ=フォン=ノスフェラトゥ。魔王の称号を持つ真祖の吸血鬼じゃ。我の話を聞く気があるなら座るがよい、勇者一行よ」
そういってにやりと笑う少女……この人、九十八歳なのに身長が140cm程しかないから、見た目は完全に子供なんだよなぁ……実力は別にして。
「座ろうか……ほらみんな、多分大丈夫だから座ろう」
「カルマさん……魔王なんですよね?……大丈夫なんですか?」
不安そうな蓮君を宥めて席に着く。几帳面にも全員分の椅子が用意されていた。
「さて、騙す様な手紙を出したこと、まずは謝罪しようかの。すまんかったのじゃ」
「それは手紙の内容は嘘で、俺達を騙して呼び出したということですか?」
こちらのメンバーの誰もが場の空気……というかマグラの存在感に呑まれているようだ。なので俺が率先して話を進めることにした。確かに大した存在感だが、イヴに比べればまだ可愛いものだ。
「手紙に書いたことは事実じゃよ。裏のルートで男性奴隷を買い取り、この集落にも五人がいるが、それだけでは我々の渇きは満たせておらなんだ……」
俺の問いかけに答えたのは魔王の横に座るヤーナさんだった。その後をマグラが引き継ぎ説明を続ける。
「我とヤーナは利害の一致ということで一時的に手を組んでおる。本題に入るのじゃ……我の目的は世界が滅亡する未来を変えることじゃ」
世界の滅亡とは、随分スケールがでかい。しかしその目的で俺達に接触したということは……
「……まさか魔物使いの所為で世界が滅亡すると?」
「発端ではあるがな、我の持つ予知スキルは、『一番起こりえる可能性の高い未来を夢で視る』というものじゃ。そしておよそ四十日程前から、我は毎晩のように世界が滅亡する未来を視ておるのじゃ……」
マグラは苦いものを噛んだような顔で目を伏せ話す。世界が滅亡する夢か、そりゃ悪夢だ……四十日も悪夢を見続けるなんて、きついに決まってる。
同情を誘うような内容だが、俺はマグラの声色や表情を見逃さないように集中している。初対面の他人を信用しないのは、俺の良い癖でもあり、悪い癖でもあるのだろうな。少なくとも今のところ嘘はないと判断し話の続きを諭す。
「夢の内容を教えてくれ。一番起こりえるということは、何もしなければ夢の内容が現実になるということなんだろう?」
「そのとおりじゃ……予知夢では、魔物使いが黒い竜を筆頭に千の魔物と共にエスタ領を攻める。勇者は竜に殺され、エスタの街は魔物に呑み込まれ廃墟と化す。そこへ最古にして最強の魔王が現れ……世界を呪うのじゃ。生きとし生けるものすべてが、魔王の放った闇に呑まれ死に絶える。世界から生物がいなくなる未来じゃ……」
あかん。イヴさんなにしてくれちゃってんの……?いや、多分俺が死んだんだろうな。
それで世界を呪ったと――
――愛が重いよ!!
「はぁ……で?その未来を回避するにはどうすればいい?それが目的なんだろう?」
「その通りじゃ。我の眷属の偵察によれば、魔物使いは既に竜を使役してしまったようじゃ。今はその竜を育成して強化している段階じゃな。それに今はまだ周囲には二十体程の魔物しかおらんようじゃ。しかし夢では千の魔物を連れておった……いずれはエスタ領に向かい進行し、道中で魔物の軍勢を増やすと我は見ておるのじゃ」
成程、敵の動きがわかっているのは有り難いな。つまり俺をここに呼んだ理由は……
「そうか……利害の一致とはそういうことか。でもその間、蓮君達はどうするつもりだ?」
「ちょ、ちょっと待ってください……!カルマさん一人で納得しないで、僕らにもわかるように説明してください……!」
話についていけない蓮君に止められてしまった。そういえば俺のスキルとか経験値の稼ぎ方とか説明してなかったわ。そりゃわからないよな。
「あー。俺は君達やこの世界の人とは違って、魔物から経験値を入手できなくてな。俺の経験値は女性を絶頂させたときに吸収しているみたいなんだ」
「はぁ?……なっ……この変態……っ!!」
そうなるだろうとは思っていたが、案の定、頬を赤く染めた久遠さんに変態のレッテルを貼られた……やかましいわ!俺も同感だよ!!
「……つまりヤーナさんは集落の女性を抱いて欲しい。マグラは俺にレベルを上げて欲しい。ついでに勇者にもレベルを上げて強くなって欲しい。な?利害は一致しているわけだ」
「勇者殿には近場の魔物だまりを修行の場にしてもらおうと思っておるのじゃ、魔の森の入り口近くで狩るより、強い魔物が多くいるからの。街からそこへ日帰りで行くのは難しいじゃろうからな。ここに滞在し、朝から日が傾くまで狩り続けることを薦めるぞ」
「魔物だまり……カルマさんは魔王の言うことを信じているんですか……?」
「そうだな、言ってなかったけど……俺をこの世界に召喚したのも魔王だよ。君達の勇者の称号も、マグラの魔王の称号も、神から与えられたもので、この世界は勇者と魔王が敵対するように神に操作されている。魔王だから倒さなきゃいけないなんて、神に踊らされてるだけだぞ」
ついでに魔物や魔人族などのイヴから聞いた情報を伝えておく。いつ言おうか迷ってたからちょうどよかった。いくらザンドラから助けたと言っても、俺が急に魔王は敵じゃないとか言い出したら、最悪の場合俺が敵認定されかねないからな。
「……というのが俺の知ってる情報だ。信じるかどうかは任せるよ」
「信じますよ……それに僕らも魔族、言葉を話すブラックフェンリルに会ったことがあります。そこで『魔王や魔人族が全て敵だと思うな、お前たちの敵は別にもいるぞ』と言われました。それに『答えは存分に悩み自分で見つけよ。勇者の称号を持つ者よ』とも……」
「ふむ、ならこれは知っているかの?魔物は魔物を食らい成長することで進化し、より強力な個体になる。さらに進化を重ねると知性を宿し、魔物から魔族へと種族が変わるのじゃ。魔族になった魔物は言葉を話すことが出来るようになるのじゃ」
やっと情報を交換できた俺達にマグラが追加情報を寄越してきた。
「それって……さっきの話と合わせると、魔物使いは魔物である竜を使役して、魔物を喰わせて強化している、あわよくば進化させているということか……?」
「そうじゃの。おそらく辺境に攻めてくるのは進化した竜種か……もしくは魔族化した存在じゃろうな」
「そんな……もしあのブラックフェンリル並みの竜が来るとしたら……」
「やるしかない……強くなるんだ。エスタ領も、僕達の命も、何一つとして失わないために……!」
藤堂さんが青い顔で絶望を零しそうになっているところへ、蓮君の声がそれを遮った。決意の宿った蓮君の顔と言葉に、周りの人達の目にも火が付いたようだ。
「話は纏まったかの?……ではカルマ殿は期限ギリギリまで、この家で夢魔族を抱き続けてもらうのじゃ。少しでもレベルを上げる為じゃ、頑張るのじゃぞ」
「ああ、元々それが依頼だからな」
「他の者は好きにしていいが、魔物使いの軍勢と戦うつもりの者は、勇者殿と一緒に修行したほうが身のためじゃろうな。寝室、食事、風呂は全てこの集落の夢魔族が世話してくれるのじゃ」
「わかりました。生き残るためにも、エスタ領を守るためにも頑張ります」
力強い眼差しの勇者パーティーを余所に、龍の尾のリーダーのエリシュアが俺にそっと近づいてきた。
「カルマさん、護衛の任務中ですが……ワタシ達も魔物だまりへ行ってもよろしいでしょうか?」
エリシュアの後ろにはオリビアとシュゼットの姿もあった。三人とも決意の込められた視線を送ってくる。彼女達もあの街には思い入れがあるのだろう。
「勿論だ。俺はこの家から出ないだろうから、自由にしていてくれていいよ」
さらにはマリーまでもがレベル上げに行きたいと言い出した。グレースだけは俺のお世話で残るということで、俺とグレース以外の皆は、夢魔族と一緒に日暮れまで狩りに向かった。
「みんな行ったか……これで邪魔者は居なくなったわけだが、何か俺に言うことは?」
「やれやれ……疑り深い奴じゃな……今の勇者でも竜には勝てるじゃろう……じゃが……もし魔族化して言葉を介するようになっていたとすれば……それは竜ではなく龍となる。もしも龍が相手だとすれば……」
竜と龍……少しだけ気になっていた。魔物使いは竜を使役したと言っていた。しかしエリシュア達のパーティー名は龍の尾だ。上位組織として『龍の爪』や『龍の牙』があるとも言っていた。
「もし龍になっていたとしたら……どうなるんだ?」
「正攻法では勇者でも勝てぬじゃろうな」
「そんなのどうすりゃいいんだよ……」
「正攻法が駄目なら取れる手段は決まっておる……お主が倒すのじゃよ、正攻法ではない方法での」
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