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この部屋で迎えるクリスマスイブも最後になるだろう。そう思うと名残惜しくなってきたが、新しく進むためには手放さなければならない、一つずつ。
蒼士と理沙がたんまり食べ物を持ってきて、クラッカーを鳴らしてから始めた。
「そういやさぁ……一回生の時、蒼士がクローゼットに入ってて僕のことビビらせたよな」
「あの時の美月は傑作やった」
「次やったら殴るで」
理沙は手作りの型抜きクッキーを持ってきてくれていた。赤や緑の飾りつきでいかにもクリスマスらしかった。
「お菓子作りはええストレス発散になるわぁ。理沙、ほんまに真面目に勉強やっとうんやで?」
「兄ちゃんは信じてるよ、理沙なら大丈夫」
さらに理沙はアロマキャンドルまで持ってきていたのだが、二人してタバコを吸うので台無しだった。
「お兄ちゃんたち春から一緒に住むんやろ。ええなぁ」
「場所は大体目処つけた。理沙も兄ちゃんらの新居遊びに来てや」
「あー! 理沙も一人暮らししたいー!」
理沙が帰った後、僕はぐびぐびビールを飲んだ。
「美月ぃ、飲み過ぎちゃう?」
「今日くらいええやんかぁ。あ、そうや……」
僕は蒼士にプレゼントを渡した。
「まあ……春からは使うやろうし」
「おおっ! ネクタイかぁ! ありがとうなぁ」
蒼士の瞳と同じような清々しい青色だ。蒼士は胸にあててくぅっと声を漏らした。
「あー、頑張れそう。俺、身元は隠して普通の新卒として入るからさぁ。これお守りにするわ」
「それにしてよかった」
酒が止まらなかった僕は蒼士を付き合わせた。蒼士はワインに突入していて顔色一つ変えずに飲んでいた。
「そろそろやめぇや、美月」
「ん……」
僕は這っていって蒼士の胸に飛び込んだ。
「酔ったぁ……」
「まあ、このくらいなら可愛いか……」
喉をさすられて僕は力が抜けてしまった。蒼士はもぞもぞと服の上から触ってきた。
「勃っとうし」
「えへへー」
対面に座って自分たちのものを近付けた。蒼士は二本まとめてしごきだした。
「あっ、あっ」
酒のせいで浮わついていた。僕はやかましい悲鳴をあげた。蒼士はニヤニヤ笑いながら僕の敏感なところばかり触れてきた。
「俺も無理ぃ……挿れるで……」
「んんーっ!」
それからはやっぱり記憶が飛んでしまって、気付けば朝。蒼士は床でイビキをかいており、ベッドの上の僕には毛布がかけられていた。
サンタも来ていた。茶色い革の財布だった。コンパクトで使いやすそうだった。ズキズキと痛む頭を押さえつつタバコを吸って、新しい財布に中身を入れた。
「痛ぁ……」
蒼士が顔をしかめて起き上がった。
「やっぱり美月酒飲んだらあかん」
「なぁなぁ、また記憶飛んでもた。何してた?」
「ええ……」
しつこく聞いてみると、蒼士がバテた後もねだってきて腰を振りまくっていたらしく、その記憶がないのはやっぱり惜しいと思った。
蒼士はタバコを吸った後ベッドに横になった。僕もすかさず隣に滑り込んだ。
「蒼士、またサンタ来てくれた」
「ほんまは良い子のところにしか来ないんやけどな。美月は特別なんやろ」
年末は恒例となったコンビニでの年越しをして、蒼士と神社に繰り出した。理沙の合格を一番に願った。まあ、彼女ならそんなことしなくても通りそうだが。
おみくじは僕が末吉で蒼士が小吉。転居はあまりよろしくないと書いてあったが気にしないことにした。
りんご飴だわた飴だベビーカステラだと甘いものばかり口にして、それだとやっぱり物足りなかったのでラーメン屋に行った。
「いよいよ卒業かぁ」
「せやなぁ美月」
学生生活も残りわずか。結局蒼士まみれの四年間だった気がした。僕は替え玉を頼んで蒼士を呆れさせた。
「それだけ食うてよう太らんわ……」
「この体質は得やな」
「オッサンなって腹出んようにしてやぁ。そんな美月見たくない」
卒論はラストスパート。蒼士と確認しあって何とか体裁は整えた。諮問では教授からヒヤリとさせられる言葉も飛んだが白鳥くんよく頑張ったねと最後は褒めてもらった。
卒業式には伯父が来てくれた。蒼士と並んで写真も撮ってもらった。新居への引っ越しは翌日一気にまとめてすることになっていた。
空っぽになったヤニカスボロアパートで一人、缶コーヒーを飲みながら最後の喫煙をした。ここで初めて取った客が蒼士だった。まさかあの時はここまで強い縁で結ばれるだなんて思ってもみなかった。
「ありがとうなぁ……」
色々あった大学生活だったが、僕は大切な人と巡り会えた。もうこわくない。僕は蒼士を信じている。
空いた缶の中に吸い殻を放り込み、新居に向かった。蒼士は既にあちらに着いていて家電の搬入に立ち会ったり家具を組み立てたりしているとのことだった。
無事に合格した理沙も引っ越しを手伝ってくれており、蒼士のガラクタを梱包するのが大変だと嘆いていた。
これから新しい生活が始まる。蒼士との生活が。
蒼士と理沙がたんまり食べ物を持ってきて、クラッカーを鳴らしてから始めた。
「そういやさぁ……一回生の時、蒼士がクローゼットに入ってて僕のことビビらせたよな」
「あの時の美月は傑作やった」
「次やったら殴るで」
理沙は手作りの型抜きクッキーを持ってきてくれていた。赤や緑の飾りつきでいかにもクリスマスらしかった。
「お菓子作りはええストレス発散になるわぁ。理沙、ほんまに真面目に勉強やっとうんやで?」
「兄ちゃんは信じてるよ、理沙なら大丈夫」
さらに理沙はアロマキャンドルまで持ってきていたのだが、二人してタバコを吸うので台無しだった。
「お兄ちゃんたち春から一緒に住むんやろ。ええなぁ」
「場所は大体目処つけた。理沙も兄ちゃんらの新居遊びに来てや」
「あー! 理沙も一人暮らししたいー!」
理沙が帰った後、僕はぐびぐびビールを飲んだ。
「美月ぃ、飲み過ぎちゃう?」
「今日くらいええやんかぁ。あ、そうや……」
僕は蒼士にプレゼントを渡した。
「まあ……春からは使うやろうし」
「おおっ! ネクタイかぁ! ありがとうなぁ」
蒼士の瞳と同じような清々しい青色だ。蒼士は胸にあててくぅっと声を漏らした。
「あー、頑張れそう。俺、身元は隠して普通の新卒として入るからさぁ。これお守りにするわ」
「それにしてよかった」
酒が止まらなかった僕は蒼士を付き合わせた。蒼士はワインに突入していて顔色一つ変えずに飲んでいた。
「そろそろやめぇや、美月」
「ん……」
僕は這っていって蒼士の胸に飛び込んだ。
「酔ったぁ……」
「まあ、このくらいなら可愛いか……」
喉をさすられて僕は力が抜けてしまった。蒼士はもぞもぞと服の上から触ってきた。
「勃っとうし」
「えへへー」
対面に座って自分たちのものを近付けた。蒼士は二本まとめてしごきだした。
「あっ、あっ」
酒のせいで浮わついていた。僕はやかましい悲鳴をあげた。蒼士はニヤニヤ笑いながら僕の敏感なところばかり触れてきた。
「俺も無理ぃ……挿れるで……」
「んんーっ!」
それからはやっぱり記憶が飛んでしまって、気付けば朝。蒼士は床でイビキをかいており、ベッドの上の僕には毛布がかけられていた。
サンタも来ていた。茶色い革の財布だった。コンパクトで使いやすそうだった。ズキズキと痛む頭を押さえつつタバコを吸って、新しい財布に中身を入れた。
「痛ぁ……」
蒼士が顔をしかめて起き上がった。
「やっぱり美月酒飲んだらあかん」
「なぁなぁ、また記憶飛んでもた。何してた?」
「ええ……」
しつこく聞いてみると、蒼士がバテた後もねだってきて腰を振りまくっていたらしく、その記憶がないのはやっぱり惜しいと思った。
蒼士はタバコを吸った後ベッドに横になった。僕もすかさず隣に滑り込んだ。
「蒼士、またサンタ来てくれた」
「ほんまは良い子のところにしか来ないんやけどな。美月は特別なんやろ」
年末は恒例となったコンビニでの年越しをして、蒼士と神社に繰り出した。理沙の合格を一番に願った。まあ、彼女ならそんなことしなくても通りそうだが。
おみくじは僕が末吉で蒼士が小吉。転居はあまりよろしくないと書いてあったが気にしないことにした。
りんご飴だわた飴だベビーカステラだと甘いものばかり口にして、それだとやっぱり物足りなかったのでラーメン屋に行った。
「いよいよ卒業かぁ」
「せやなぁ美月」
学生生活も残りわずか。結局蒼士まみれの四年間だった気がした。僕は替え玉を頼んで蒼士を呆れさせた。
「それだけ食うてよう太らんわ……」
「この体質は得やな」
「オッサンなって腹出んようにしてやぁ。そんな美月見たくない」
卒論はラストスパート。蒼士と確認しあって何とか体裁は整えた。諮問では教授からヒヤリとさせられる言葉も飛んだが白鳥くんよく頑張ったねと最後は褒めてもらった。
卒業式には伯父が来てくれた。蒼士と並んで写真も撮ってもらった。新居への引っ越しは翌日一気にまとめてすることになっていた。
空っぽになったヤニカスボロアパートで一人、缶コーヒーを飲みながら最後の喫煙をした。ここで初めて取った客が蒼士だった。まさかあの時はここまで強い縁で結ばれるだなんて思ってもみなかった。
「ありがとうなぁ……」
色々あった大学生活だったが、僕は大切な人と巡り会えた。もうこわくない。僕は蒼士を信じている。
空いた缶の中に吸い殻を放り込み、新居に向かった。蒼士は既にあちらに着いていて家電の搬入に立ち会ったり家具を組み立てたりしているとのことだった。
無事に合格した理沙も引っ越しを手伝ってくれており、蒼士のガラクタを梱包するのが大変だと嘆いていた。
これから新しい生活が始まる。蒼士との生活が。
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