8 / 17
#08 失われた夜
しおりを挟む──誰かの。
人がイブだ聖夜だと騒ぐ夜が面倒で屋根に登った。何も無い。夕方から風向きが変わっていた。何か降るかな。降らないかも知れない。如何でも良かった。理由も意味も無い。結果が残るだけだ。
「何が愉しいのか。っけ、莫迦どもめ。」
小さな瓶に入ったウィスキーを呷る。何時も水割りで呑んでいる所為か身体に上手く染み込まない。良いさ。明日の朝には消えてなくなる感情だ。
「あ、ミーちゃんやっぱりここにいたー。」
向日坂望。幼馴染だ。予定はなく家で過ごすと言っていた筈だ。
「おい、転がって落ちるなよ。」
「わーってるよ。ったく、ミーちゃんは心配性だね。」
神内克己。僕の名前だ。かつみ、のみを取ってミーちゃんだそうだ。
「うっさい。僕は何処まで行っても僕だ。」
「だろうね。」
ごろり、寝転ぶついでに瓶を奪って三分の一ぐらい呑み干した。酒は強いのだった。豊かな髪を後ろで二つに結んで居て、その一方が鬱陶しい位跳ね寄って来る。当人に似たな。
「んひひ、とーぜんだろ?」
「うっさい。黙って呑んでろ。」
未だもう一瓶ある。いなしてやって、また口を付けた。
「むぅ、ミーちゃんってさぁ。」
中々次の言葉を吐き出さなかった。何か測って居るのだろう。
「何だよ。」
「んー? そうねぇ? よくよく考えたら、私も愉しいから、これで良いや。」
そいつは一気に残りを飲み干した。心配はしない。もう見慣れている。
「で? もう一瓶あるでしょ?」
「はいはい。」
渡してやると、今度はちびちび呑み始めた。仕方なく頭を撫でてやる。空には嫌って程の星。西の空には機会を窺って居るらしい雪雲。まぁ、悪くはないか。
「んね、ミーちゃん? 私じゃ、ダメかしら?」
「ったく、折角美人なんだから、僕なんかに引っかかるんじゃありまーせん。」
頭をくしゃくしゃにしてやる。髪を結わえていたゴムが飛んだから、掴んだ。望は何かバタバタしていた。また頭を掴んで黙らせる。
何時だったかな。買ってやった物だった。
「お前さんね。」
「だってー、どしても。すてらんないんだもん。」
言われてしまえば仕様もないか。それ位の甲斐性はある。心算だ。
「ほら、戻ろう。風邪ひく。」
「はいよ。ミーちゃんがエスコートしてね。」
白く濁る溜め息を吐く。これからも、とか、来年も、とか、そんな言葉は後で良いか。お姫様を暖かい所へ案内しよう。
0
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる