架空の虹

笹森賢二

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#08 失われた夜

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   ──誰かの。


 人がイブだ聖夜だと騒ぐ夜が面倒で屋根に登った。何も無い。夕方から風向きが変わっていた。何か降るかな。降らないかも知れない。如何でも良かった。理由も意味も無い。結果が残るだけだ。
「何が愉しいのか。っけ、莫迦どもめ。」
 小さな瓶に入ったウィスキーを呷る。何時も水割りで呑んでいる所為か身体に上手く染み込まない。良いさ。明日の朝には消えてなくなる感情だ。
「あ、ミーちゃんやっぱりここにいたー。」
 向日坂望。幼馴染だ。予定はなく家で過ごすと言っていた筈だ。
「おい、転がって落ちるなよ。」
「わーってるよ。ったく、ミーちゃんは心配性だね。」
 神内克己。僕の名前だ。かつみ、のみを取ってミーちゃんだそうだ。
「うっさい。僕は何処まで行っても僕だ。」
「だろうね。」
 ごろり、寝転ぶついでに瓶を奪って三分の一ぐらい呑み干した。酒は強いのだった。豊かな髪を後ろで二つに結んで居て、その一方が鬱陶しい位跳ね寄って来る。当人に似たな。
「んひひ、とーぜんだろ?」
「うっさい。黙って呑んでろ。」
 未だもう一瓶ある。いなしてやって、また口を付けた。
「むぅ、ミーちゃんってさぁ。」
 中々次の言葉を吐き出さなかった。何か測って居るのだろう。
「何だよ。」
「んー? そうねぇ? よくよく考えたら、私も愉しいから、これで良いや。」
 そいつは一気に残りを飲み干した。心配はしない。もう見慣れている。
「で? もう一瓶あるでしょ?」
「はいはい。」
 渡してやると、今度はちびちび呑み始めた。仕方なく頭を撫でてやる。空には嫌って程の星。西の空には機会を窺って居るらしい雪雲。まぁ、悪くはないか。
「んね、ミーちゃん? 私じゃ、ダメかしら?」
「ったく、折角美人なんだから、僕なんかに引っかかるんじゃありまーせん。」
 頭をくしゃくしゃにしてやる。髪を結わえていたゴムが飛んだから、掴んだ。望は何かバタバタしていた。また頭を掴んで黙らせる。
 何時だったかな。買ってやった物だった。
「お前さんね。」
「だってー、どしても。すてらんないんだもん。」
 言われてしまえば仕様もないか。それ位の甲斐性はある。心算だ。
「ほら、戻ろう。風邪ひく。」
「はいよ。ミーちゃんがエスコートしてね。」
 白く濁る溜め息を吐く。これからも、とか、来年も、とか、そんな言葉は後で良いか。お姫様を暖かい所へ案内しよう。
 
 
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