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#10 金色の姫
しおりを挟む──夜。
「もう梅雨ねぇ。」
金髪に黒いゴシックドレス。凡そ夏が似合うとは思えない。
「貴方、また失礼だけれど失礼じゃない失礼な事を考えて居るわね?」
「俺の所為じゃない。」
メリーさんは今日も割箸でポテトチップスを食べて居た。何時もの夜だ。何も変わらない。
「今夜はアルコールにしようかしら。」
「ああ、軽いビールかワインか。好きに呑んで良いぞ。」
メリーさんが来てから白ワインと赤ワインが棚に並ぶようになった。軽い麦酒もそうか。以前はウイスキーと焼酎があるぐらいだった。
「そうね、白ワインにしようかしら。」
「グラスが無いな。洗って来る。」
「ふふっ、良いのよ? 私に命令しても。」
そう云う契約だったか。余り意味が無い。
「良いよ。其れ位なら俺にもできる。」
「貴方ってそう云うトコあるわよね。好きよ。」
「そりゃどうも。」
洗い物をさっさと済ませてワインを注いだ。立ったついでだ。ジャガイモと玉葱をスライスした。衣は要らないか。油を煮立てて、さっと揚げた。
「あら、此れも好いわね。」
「ちゃんと作ればもっと旨いだろうが。」
「十分じゃないかしら? そうね、衣に塩味ならもっと美味しいし、ブロッコリーとか、キャベツなんかも良いのかしら」
「どうかな。今度試してみよう。」
熱が寄り添って来る。この前止めると言って居た筈だが。
「また女史に怒られるわね。」
「だな。俺はどっちでも、」
人差し指で口を止められた。
「そう云う事は言わないの。」
「へいへい。」
金色の髪が揺れた。あどけない口元は笑って居る。其れなら、良いか。軽い麦酒で口を流す。
「はぁ、居心地が良過ぎて気分が悪いわ。」
「難しいな。」
「ええ。女ですもの。男から見れば難しいわ。」
金髪が揚げ物を食べながら白ワインを呑んで居る。其れだけ。其れだけだろう。
「ええ。他に何か必要かしら?」
「いや?」
今夜も平穏に過ぎて行く。
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